この記事の概要
MiniSeqでSTR(Short Tandem Repeat、短鎖反復配列)を読むことが難しい理由はいくつかあります。STRは、特に法医学や親子鑑定などで用いられる反復配列で、通常2〜6塩基対の繰り返しで構成されており、ゲノムの特定の位置に存在します。これを正確に解析するためには、いくつかの要因が影響します。MiSeqではリード調が最大600bpsとれます。だからSTRの解析に最適です。次世代シークエンサーでも種類があるのです。
MiniSeqは小型で扱いやすい次世代シーケンサーですが、親子鑑定で使うSTR(Short Tandem Repeat、短鎖反復配列)解析には不向きです。「読めない」というより、リード長とデータ出力の設計上、STR解析に必要な精度を安定して確保しにくいというのが実態です。
この記事では、MiniSeqがSTR解析に向かない技術的な理由と、ヒロクリニックがMiSeq FGxを採用している背景を解説します。検査機関選びで機器の違いが気になっている方は、判断材料としてご覧ください。
検査機関のホームページでは、使用機器の型番だけが紹介され、なぜその機器を選んだのかまで説明されているケースは多くありません。次世代シーケンサーの選定は、価格や普及度だけでなく、検査の目的に対する性能面の適合性で判断すべき事項です。
この記事でわかること
- MiniSeqとMiSeqのリード長・データ出力の違い
- STR解析に長いリード長が必要な理由
- SNP法とSTR法で識別力が変わる仕組み
- ヒロクリニックがMiSeq FGxを採用している理由
MiniSeqとMiSeqではリード長が異なります
STR解析に影響する最大の違いは、一度に読み取れるDNA配列の長さ(リード長)です。Illumina社の公表スペックによると、MiniSeqは最長150塩基対×2(ペアエンド)、MiSeqは最長300塩基対×2まで対応しています。
リード長とは、シーケンサーが1回の読み取りで解読できるDNA配列の長さのことです。ペアエンドとは、1つのDNA断片を両端から読み取る方式で、片側だけを読むよりも配列の精度を高めやすい一般的な手法です。リード長に余裕がある機器ほど、長さのばらつきが大きいSTRの型を最後まで読み切りやすくなります。
| 項目 | MiniSeq | MiSeq |
|---|---|---|
| 最大リード長 | 150bp×2(ペアエンド) | 300bp×2(ペアエンド) |
| 最大データ出力 | 7.5Gb | 15Gb |
| フォレンジック用検証キット | 公表された検証実績なし | MiSeq FGx+ForenSeqキットで検証済み |
| 主な用途 | 小規模ターゲットシーケンス | STR解析・臨床/法医学領域 |
STRの型(アレル)は繰り返し配列の回数によって長さが変わり、座位によっては300塩基対を超えるものもあります。リード長が短いMiniSeqでは、長いアレルの端まで正確に読み切れないケースが出てきます。MiSeqのようにリード長に余裕があるほうが、幅広い座位を安定して解析できます。
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反復配列であるSTRは読み取りエラーが起きやすい領域です
STRは同じ配列が繰り返される構造のため、次世代シーケンサーが苦手とする「反復配列」に当たります。反復領域では、実際の配列とは異なる長さで読み取ってしまうエラー(インデルエラー)が起こりやすくなります。
- 反復回数の誤読:繰り返し配列の途中でエラーが生じると、実際より1〜2回多い・少ないと誤認識することがあります。
- カバレッジ不足:出力データ量が少ないと、同じ領域を繰り返し読んでエラーを相殺する「深く読む」対応が難しくなります。
反復配列の読み取りでは「スタッター」と呼ばれるノイズも起こります。DNAを増幅する過程で、繰り返し配列の一部が本来より1回多く、あるいは少なく複製されてしまう現象です。読み取り本数(カバレッジ)が十分にあれば、正しい配列が多数派として統計的に浮かび上がり、ノイズと本来の型を判別できます。出力データ量が少ない機器では、この判別に使える読み取り本数そのものが不足しやすくなります。こうした反復配列の読み取りにくさは、STR解析に限らず次世代シーケンサー全般で知られている技術的な課題であり、装置やソフトウェアの改良が進んだ今でも、慎重な検証が求められる領域とされています。
MiniSeqの最大出力7.5GbはMiSeqの15Gbの半分程度です。親子鑑定で複数の座位を高いカバレッジで読み切るには、出力データ量にも余裕が必要です。用途に対してスペックがぎりぎりの機器では、判定の再現性を安定させるのが難しくなります。

フォレンジック用途に検証された解析キットがあるかどうかも重要です
STR解析の信頼性は、機器のスペックだけでなく、法医学用途で検証された専用キットの有無にも左右されます。Qiagen(Verogen)社のMiSeq FGx Forensic Genomics Systemは、ForenSeq DNA Signature Prep Kitと組み合わせて開発・検証された、フォレンジック専用のシステムです。
公表されている検証データでは、STR型判定についてキャピラリー電気泳動法(CE法)との一致率100%(1,260検体)、SNP判定についてビーズアレイ法との一致率99.1%超という結果が示されています。私はCAPラボディレクターとして日々の精度管理データを確認していますが、専用に検証された機器とキットの組み合わせだからこそ、この水準の再現性が保てていると実感しています。
一方でMiniSeqについては、フォレンジック用途に特化した検証キットや公表された検証実績が見当たりません。技術的に配列を読むこと自体はできても、親子鑑定のように高い再現性が求められる用途では、検証実績のある組み合わせを選ぶことが欠かせません。
フォレンジック用途の検証では、単発の一致率だけでなく、同じ検体を複数回測定したときの再現性や、微量な検体でも安定して型判定できるかという頑健性まで確認されます。MiSeq FGxとForenSeqキットの組み合わせは、こうした複数の観点から法医学領域での実績が積み重ねられてきたシステムです。
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SNP法だけでは識別力に限界があります
出力データ量やリード長の制約から、MiniSeqを使う検査機関の中にはSTR法ではなくSNP法(一塩基多型)を採用しているところもあります。SNP法は1つの座位あたりの情報量がSTR法より少ないため、同等の精度を出すにはより多くの座位数が必要になります。
ヒロクリニックの自社ラボ「東京衛生検査所」では、個人識別力と多型性(型のバリエーションの多さ)に優れるSTR法を採用しています。法医学分野で標準的に用いられる手法で、FBIのCODISでも採用されています。STRを用いた尤度比の計算方法もあわせてご覧いただくと、判定の仕組みがより具体的にわかります。
参考までに、FBIのCODIS(米国で標準的に使われるSTR型のデータベース)では13〜20座位程度が標準として使われています。これは法医学分野で広く使われる一般的な規格であり、当院独自の検査座位数とは異なります。ヒロクリニックの出生前・出生後親子鑑定では、これより多い52座位のSTR分析を採用しており、99.99%以上の精度を実現しています。
ヒロクリニックがMiSeq FGxを採用している理由
ヒロクリニックでは、日本で初めて導入したQiagen社のMiSeq FGx Systemを使用し、東京衛生検査所でSTR解析を行っています。世界で10万件以上の実績を持つ機器で、CAP・ISO9001の認証を受けた検査体制のもとで運用しています。
検体はバーコードで管理し、医療機関からの直接配送によって取り違えのリスクを抑えています。STR法による52座位規模の分析で、99.99%以上の精度を実現しています。機器選びから検体管理まで一貫した体制を整えることが、結果の信頼性につながると考えています。
MiSeqそのものの特徴についてはMiSeqによる次世代シーケンス解析の魅力で、MiSeqとMiniSeqの違いはMiSeqとMiniSeqの違いで比較表つきで解説しています。検査機関の認証制度についてはCAPとはもご参照ください。
検査を支えるラボ体制も精度を左右します
機器の性能だけでなく、検体を扱うラボ全体の管理体制も、結果の再現性を左右する重要な要素です。どれほど優れたシーケンサーを使っていても、検体の管理や解析の運用が不安定であれば、安定した結果は得られません。
ヒロクリニックの自社ラボである東京衛生検査所は、CAPおよびISO9001の認証を取得し、専属の医師の管理下で運用される遺伝子専門の検査所です。次世代シーケンサーを5台保有しており、検体ごとにバーコードで管理することで、他の検体との取り違えを防いでいます。医療機関から検査所への検体搬送も直接配送で行っており、輸送中の紛失や遅延のリスクを抑えています。
私はCAPラボディレクターとして日々の精度管理データを確認する立場にありますが、機器の性能を実際の検査精度につなげるには、こうした運用面の管理体制が欠かせないと感じています。検体の入荷から解析、報告までの各工程を標準化し、記録を残すことで、担当者が変わっても同じ水準の結果を再現できる体制を維持しています。
検査機関を選ぶときに確認したい4つのポイント
使用しているシーケンサーの型番だけで検査機関を判断するのは難しいため、あわせて次の4点を確認すると安心です。いずれも公式サイトや問い合わせで確認できる内容です。
- 解析手法(STR法かSNP法か):手法によって必要な座位数や識別力が変わります。
- フォレンジック用途での検証実績:機器とキットの組み合わせが、法医学領域で検証されているかどうかです。
- ラボの第三者認証:CAPやISO9001など、精度管理の仕組みが外部機関に認められているかどうかです。
- 検体の管理体制:バーコード管理や医療機関からの直接配送など、取り違え・紛失を防ぐ仕組みが整っているかどうかです。
私は検査結果を確認する立場として、機器のスペック表だけでなく、こうした周辺の管理体制まで含めて総合的に判断することが、結果の信頼性につながると考えています。出生前DNA鑑定の正確性でも、精度に関わる要素を詳しく解説しています。
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よくある質問
まとめ
MiniSeqは小規模プロジェクト向けに設計された優れた機器ですが、リード長・データ出力・検証実績の面で、親子鑑定のSTR解析には適していません。ヒロクリニックでは、フォレンジック用途で検証されたMiSeq FGx Systemを採用し、STR法による高精度な解析を行っています。
使用している機器の型番だけでなく、検証実績やラボの管理体制まで含めて確認することが、検査結果を安心して受け取るための判断材料になります。使用機器や検査体制について気になる点があれば、お申し込み前でもご相談いただけます。
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略歴
- 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
- 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
- 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
- 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
- 2009年 医療法人社団福美会 理事長
- 2015年 医療法人社団福美会 理事
資格・所属
- CAPラボディレクター
- 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
- 日本医師会 産業医
- 東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
堤 修一 (つつみ しゅういち)
医師・医学博士 / ヒロクリニック博多駅前院 院長
略歴
- 1993年 東京大学医学部医学科 卒業
- 2016〜2019年 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
発信・関連リンク
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
参考文献
- Tao R, Zhang J, Zhang S, Zhang J, Yang Z, Yang Y, et al. Evaluation of the Illumina MiniSeq system for forensic STR typing. Forensic Sci Int Genet. 2019;43:102143.





