お子様が「スウィーニー・コックス症候群(Sweeney-Cox syndrome)」という診断を受けたとき、あるいはその疑いがあると言われたとき、聞き慣れない病名に戸惑い、大きな不安を感じられたことでしょう。
「頭の形の手術が必要なの?」「遺伝子の病気ってどういうこと?」
インターネットで検索しても、日本語の詳しい情報は非常に少なく、専門的な英語の論文や、似たような病名の情報が混在していて、正確な情報を得ることが難しいのが現状です。
この症候群は、頭の骨や顔の形成に関わる生まれつきの疾患です。
非常に稀な病気ですが、原因となる遺伝子は分かっており、治療法(特に頭の形に対する手術)や管理方法は確立されています。適切な時期に適切な治療を受けることで、お子様は健やかに成長していくことができます。
概要:どのような病気か
スウィーニー・コックス症候群は、生まれつき頭の骨や顔、手足の骨格に特徴が現れる遺伝性の疾患です。
医学的には、「頭蓋骨縫合早期癒合症(ずがいこつほうごうそうきゆごうしょう)」を伴う症候群の一つとして分類されます。
頭蓋骨縫合早期癒合症とは
この病気を理解するための最も重要なキーワードです。
赤ちゃんの頭の骨は、生まれた時はいくつかのピースに分かれています。ピースとピースのつなぎ目を「縫合(ほうごう)」と呼びます。
通常、この縫合部分は柔らかく開いていて、脳が急速に大きくなるのに合わせて頭の骨も広がっていきます。そして、成長が終わる頃に縫合が閉じて、一つの硬い頭蓋骨になります。
しかし、この病気では、脳がまだ成長している途中で、縫合の一部が早く閉じて(くっついて)しまいます。
すると、頭の骨が広がることができず、頭の形がいびつになったり、脳への圧力がかかってしまったりすることがあります。
セーレ・シェーゼン症候群との深い関係
スウィーニー・コックス症候群は、遺伝学的には「セーレ・シェーゼン症候群(Saethre-Chotzen syndrome)」と非常に深い関係があります。
どちらも「TWIST1(ツイスト・ワン)」という同じ遺伝子の変化が原因です。
一般的には、TWIST1遺伝子の変化によって起きる症状全体をセーレ・シェーゼン症候群と呼びますが、その中でも特定のタイプの遺伝子変化(特定の場所のアミノ酸が変わるなど)によって、より特徴的な症状を示すケースを特に「スウィーニー・コックス症候群」と呼んで区別することがあります。
医師によっては、これらを厳密に分けず、「TWIST1関連頭蓋骨縫合早期癒合症」と呼ぶこともあります。
主な症状
スウィーニー・コックス症候群の症状は、患者さん一人ひとりによって程度が異なります。生まれた直後から分かる特徴もあれば、成長とともに気づく特徴もあります。
1. 頭の形の特徴(頭蓋骨縫合早期癒合症)
最も治療が必要となる症状です。どの縫合が早く閉じてしまうかによって、頭の形が変わります。
冠状縫合の癒合
耳から耳へ、頭のてっぺんを通る「冠状縫合(かんじょうほうごう)」が早く閉じることが多いです。
両側が閉じると:おでこが平らになり、頭が上に伸びたような形(短頭・塔状頭)になります。
片側だけ閉じると:おでこの左右差が出て、顔が非対称になります(斜頭)。
脳への影響
頭の骨が広がらないことで、脳の中の圧力(頭蓋内圧)が高くなることがあります。これを放置すると、頭痛や嘔吐、発達への影響が出る可能性があるため、定期的なチェックや手術が必要になります。
2. お顔立ちの特徴
お顔の骨格の形成にも影響が出ます。これらは「その子らしさ」として愛すべき個性でもありますが、機能的な問題がある場合は治療の対象となります。
目の特徴
左右の目が離れている(眼間開離)。
まぶたが下がっている(眼瞼下垂)。これにより、視界が遮られる場合は手術を検討します。
斜視(視線がずれる)が見られることもあります。
鼻と口の特徴
鼻筋が少し幅広かったり、鼻が少し曲がっていたりすることがあります。
口の天井(口蓋)が高くアーチ状になっていることがあります。
顔の非対称
頭の骨の癒合の左右差により、お顔の左右のバランスが異なって見えることがあります。
3. 手足の特徴
手や足の指にも特徴が出ることがあります。
合指症(ごうししょう)
指と指の間の水かき部分が広かったり、皮膚がつながっていたりすることがあります。人差し指と中指の間によく見られますが、軽度なことが多いです。
親指の特徴
親指が幅広かったり、少し曲がっていたりすることがあります。
4. 発達と知能について
ご家族が一番心配される点かと思います。
スウィーニー・コックス症候群(およびTWIST1関連疾患)のお子様は、多くの場合、知的な発達は正常範囲か、軽度の遅れにとどまります。
ただし、以下の要因が発達に影響を与えることがあります。
頭蓋内圧が高い状態が長く続いた場合
難聴や視力の問題があり、情報が入りにくい場合
そのため、早期に体の問題を解決してあげることが、発達を守ることにつながります。
一部のお子様では、学習障害や発達の凸凹が見られることもありますので、成長に合わせたサポートが大切です。
5. その他の症状
難聴
耳の構造の問題で、難聴(伝音性難聴)を合併することがあります。言葉の発達に影響するため、聴力検査が重要です。
低身長
同年代の子に比べて、背が少し低いことがあります。
原因:なぜ起きたのか
ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。
TWIST1遺伝子の変化
スウィーニー・コックス症候群の原因は、7番染色体にある「TWIST1(ツイスト・ワン)」という遺伝子の変化(変異)です。
この遺伝子は、赤ちゃんがお腹の中で成長する時に、骨や筋肉などの組織が正しく作られるように指令を出す「司令塔」のような役割をしています。
特に、頭の骨の継ぎ目(縫合)が適切な時期まで開いているように保つ指令を出しています。
この遺伝子に変化が起きると、指令がうまく伝わらず、本来まだ開いていなければならない骨の継ぎ目が、早く閉じてしまうのです。
スウィーニー・コックス症候群では、TWIST1遺伝子の中の特定のアミノ酸が変化する(例:Glu117Val変異など)ことが知られています。
遺伝の仕組み(常染色体顕性遺伝)
この病気は「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとります。
- 突然変異(de novo変異)
ご両親の遺伝子には全く異常がなく、受精卵ができる過程で偶然TWIST1遺伝子に変化が起きたケース。
スウィーニー・コックス症候群では、この「突然変異」のケースも多いです。この場合、誰のせいでもありません。自然の確率的な現象です。 - 親からの遺伝
ご両親のどちらかが同じ遺伝子の変化を持っており、それがお子様に受け継がれたケース。
親御さんの症状が非常に軽く(少し目が離れているだけ、など)、お子様が診断されて初めて「実は親もそうだった」と判明することもあります。
親御さんがこの遺伝子変化を持っている場合、50%の確率でお子様に遺伝します。

診断と検査
診断は、見た目の特徴、画像検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
1. 身体診察
頭の形、顔立ち、手足の指の特徴などを医師が詳しく観察します。
2. 画像検査(3D-CT)
頭の骨の状態を詳しく見るために、CT検査を行います。
特に「3D-CT」という画像処理を行うと、頭蓋骨のどの縫合が閉じているかが手にとるように分かります。これは手術の計画を立てる上でも非常に重要な検査です。
3. 遺伝学的検査(確定診断)
血液検査でDNAを調べ、TWIST1遺伝子に変異があるかを確認します。
これにより、診断が確定します。また、他の似たような頭蓋骨縫合早期癒合症(クルーゾン症候群やアペール症候群など)と区別するためにも役立ちます。
4. 眼科・耳鼻科検査
眼底検査:目の奥を見て、脳の圧力が高くなっていないか(うっ血乳頭がないか)を調べます。
聴力検査:難聴がないか確認します。
治療と管理:これからのロードマップ
遺伝子の変化そのものを治す治療法(根本治療)は、現時点では確立されていません。
しかし、主な症状である「頭蓋骨縫合早期癒合症」や「眼瞼下垂」などに対しては、手術による治療法が確立されています。
適切な時期に治療を行うことで、機能的な問題を解決し、見た目を整えることができます。
1. 頭蓋形成手術(脳外科・形成外科)
最も重要な治療です。目的は2つあります。
脳を守る:頭の骨を広げて、脳が成長できるスペースを作ること。
見た目を整える:頭の形やお顔のバランスをきれいにすること。
手術の時期
症状の重さや、どこの縫合が閉じているかによりますが、一般的には生後数ヶ月〜1歳前後に行われることが多いです。
早期であれば、内視鏡を使った負担の少ない手術ができる場合もあります。
1歳以降では、骨を切って形を整える手術(頭蓋形成術)や、延長器を使って徐々に骨を広げる手術(骨延長術)が行われます。
チーム医療
脳神経外科医と形成外科医がチームを組んで手術を行います。専門的な技術が必要なため、こども病院や大学病院などの専門施設で受けることが推奨されます。
2. 顔面・眼の形成手術
眼瞼下垂の手術
まぶたが下がっていて見えにくい場合や、視力の発達を妨げる(弱視になる)リスクがある場合は、まぶたを引き上げる手術を行います。
顔面の形成
成長に伴って顔のバランスが気になる場合、骨切り術などの形成手術を行うことがあります。
3. 発達・療育サポート
言葉の遅れや体の使い方の不器用さがある場合は、療育(ハビリテーション)を受けます。
言語聴覚療法(ST):言葉の発達や発音の練習。
作業療法(OT):手先の細かい動きの練習。
理学療法(PT):運動発達のサポート。
4. 定期的な経過観察
手術が終わった後も、成長終了(成人)まで定期的な通院が必要です。
脳圧のチェック:再び骨がくっついて脳圧が上がっていないか確認します。
眼と耳のチェック:視力や聴力の変化がないか確認します。
歯科矯正:あごの発達に合わせて、歯並びの矯正が必要になることがあります。
まとめ
ここまでの重要ポイントを振り返ります。
- スウィーニー・コックス症候群は、TWIST1遺伝子の変化による疾患です。
- セーレ・シェーゼン症候群と非常に近い関係にあり、頭蓋骨縫合早期癒合症が主な特徴です。
- 早期に頭の骨の癒合が見つかるため、脳の成長スペースを確保する手術が必要になることが多いです。
- 手足の指(合指症)や、まぶた(眼瞼下垂)にも特徴が出ることがあります。
- 知的な発達は正常または軽度の遅れであることが多く、適切な医療ケアで社会生活を送ることができます。
- 親からの遺伝の場合と、突然変異の場合があります。
