ロビノウ・ソラウフ症候群という診断名を聞き、あるいは医師からその疑いがあると言われ、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
聞き慣れない病名に、戸惑いや不安を感じていらっしゃるかもしれません。この病気は非常に稀な疾患であり、日本語での詳しい情報はまだ少ないのが現状です。
インターネットで検索しても専門的な論文ばかりが出てきて、具体的な生活のイメージが湧きにくいことも、不安を大きくさせている要因かもしれません。
まず最初にお伝えしたいのは、この病気を持つお子さんの多くは、適切な治療とサポートを受けることで、元気に成長し、学校生活や社会生活を送ることができるということです。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
ロビノウ・ソラウフ症候群は、生まれつき頭の形や顔立ち、手足の指などに特徴が現れる「先天異常症候群」のひとつです。
歴史と分類
この症候群は、アメリカの遺伝学者であるMeinhard Robinow(マインハルト・ロビノウ)博士と、Sorauf(ソラウフ)博士らによって報告されました。
医学的には、「頭蓋骨縫合早期癒合症(ずがいこつほうごうそうきゆごうしょう)」を伴う疾患グループに含まれます。
非常に重要な点として、現代の遺伝医学では、この「ロビノウ・ソラウフ症候群」は、「セーレ・ショルツェン症候群(Saethre-Chotzen Syndrome)」と極めて近い関係にある、あるいはそのバリエーションの一つであると考えられています。
原因となる遺伝子が共通していることが多いため、医師によっては「セーレ・ショルツェン症候群」と診断名を告げることもありますし、特徴的な足の指の症状を見て「ロビノウ・ソラウフ症候群」と区別することもあります。
どちらの診断名であっても、基本的な治療方針やケアの内容は大きく変わりません。
病気の特徴を一言で言うと
「頭の骨の継ぎ目が早く閉じてしまうことによる頭の形の変化」と、「手足の指、特に親指の幅が広くなること」を主な特徴とする体質です。
主な症状
症状の現れ方はお子さんによって個人差がありますが、典型的な症状について、体の部位ごとに詳しく見ていきましょう。
1. 頭と顔の特徴(頭蓋顔面)
この症候群の最も中心的な症状です。
頭蓋骨縫合早期癒合症
赤ちゃんの頭の骨は、生まれた時はいくつかのピースに分かれていて、成長とともに脳が大きくなるのに合わせて広がっていきます。骨と骨の継ぎ目のことを「縫合(ほうごう)」と呼びます。
この継ぎ目の一部が、生まれる前や生まれた直後にくっついて(癒合して)しまう状態です。
その結果、頭の形がいびつになったり、おでこが高くなったりします。脳が成長するためのスペースが狭くなる可能性があるため、注意深く観察し、必要に応じて手術を行います。
お顔立ちの特徴
顔の骨格の成長にも影響が出るため、以下のような特徴が見られることがあります。
おでこが広く、平らである。
生え際が低い(髪の生え際がM字型など)。
まぶたが下がっている(眼瞼下垂:がんけんかすい)。
左右の顔のバランスが少し違う(顔面非対称)。
鼻筋が少し曲がっている、または鼻の根元が低い。
耳の位置が低い、または耳の形が特徴的である。
これらはあくまで「特徴」であり、すべてのお子さんに当てはまるわけではありません。また、成長とともに目立たなくなることもあります。
2. 手足の特徴
ロビノウ・ソラウフ症候群を他の似た病気と区別する際の、大きなポイントとなるのが手足の特徴です。
幅広の足の親指
足の親指(母趾)が、他の指に比べて幅広く、大きくなっていることがよく見られます。
指の重複(多指症・重複趾)
特に足の親指の先が2つに分かれていたり、爪が2つあったりする場合があります。レントゲンを撮ると、骨の先端が分かれていることが確認できることがあります。
ロビノウ・ソラウフ症候群では、この「足の親指の重複や幅広」がセーレ・ショルツェン症候群よりも顕著に出ると言われています。
手の指
手の指が短かったり、指と指の間に水かきのような膜があったり(合指症)、親指が太かったりすることもあります。
3. その他の症状
発達について
多くの場合、知的な発達は正常範囲内です。言葉の遅れや学習の遅れが見られる場合もありますが、それは軽度であることが多いとされています。
ただし、頭蓋骨の癒合によって脳への圧力がかかっている場合、それが発達に影響を与える可能性があるため、定期的な検査が重要です。
眼の症状
斜視(視線がずれる)や、涙の通り道が狭い(鼻涙管閉塞)などの症状が見られることがあります。
身長
低身長が見られることもありますが、極端に低いことは稀です。
原因
なぜ、このような症状が現れるのでしょうか。その原因は、特定の遺伝子の変化(変異)にあります。
TWIST1遺伝子の関与
ロビノウ・ソラウフ症候群(およびセーレ・ショルツェン症候群)の主な原因は、第7番染色体にある「TWIST1(ツイストワン)」という遺伝子の変異であることが分かっています。
このTWIST1遺伝子は、赤ちゃんがお腹の中で成長する時に、骨や筋肉などの組織が作られる指令を出す役割を担っています。特に、頭蓋骨の継ぎ目(縫合)がいつ閉じるか、手足の指がどのように分かれるかといったプロセスに深く関わっています。
この遺伝子の働きが変化することで、頭の骨が予定より早くくっついたり、指の形が変わったりすると考えられています。
遺伝の仕組み
この病気は「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとります。
親から子への遺伝
ご両親のどちらかがこの病気(または遺伝子の変異)を持っている場合、お子さんに遺伝する確率は50%です。性別による違いはありません。
突然変異
ご両親ともにこの遺伝子の変異を持っていない場合でも、お子さんにおいて初めて変異が起こる「突然変異(de novo変異)」のケースも多く報告されています。
この場合、ご両親のどちらかに原因があるわけではありません。「妊娠中の生活が悪かったから」「何かをしてしまったから」といった自分を責めるような理由は全く関係ありません。誰にでも起こりうる、生命の神秘的なプロセスの中での偶然の変化です。
診断と検査
診断は、身体的な特徴の観察と、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 身体所見の確認
専門医(小児科医、形成外科医、脳神経外科医、臨床遺伝専門医など)が、お子さんの頭の形、顔立ち、手足の指の形などを詳しく診察します。
特に「頭蓋骨縫合早期癒合」と「幅広または重複した足の親指」の組み合わせは、この症候群を疑う強いサインとなります。
2. 画像検査
レントゲン検査
頭の骨の継ぎ目の状態や、手足の指の骨の形を確認します。
CT検査(3D-CT)
頭の骨の形を立体的に詳しく調べます。どの縫合が閉じているのか、脳の形に影響が出ているか、手術が必要かどうかを判断するために非常に重要な検査です。最近は被曝量の少ない撮影方法も普及しています。
MRI検査
脳そのものの構造に異常がないかを確認するために行われることがあります。
3. 遺伝学的検査
血液を採取し、TWIST1遺伝子などを詳しく調べます。
遺伝子に変異が見つかれば診断が確定します。ただし、現在の検査技術ですべての変異が見つかるわけではないため、遺伝子検査で異常が見つからなくても、臨床的な特徴から診断されることもあります。

治療と管理
ロビノウ・ソラウフ症候群を根本的に治す(遺伝子を修復する)治療法はまだありませんが、症状に応じた治療を行うことで、機能や見た目を改善し、健やかな生活を送ることができます。
治療は、脳神経外科、形成外科、小児科、眼科、歯科、リハビリテーション科などのチーム医療で行われます。
1. 頭蓋骨の手術(頭蓋形成術)
これが治療の中で最も大きなイベントになることが多いです。
目的
早く閉じてしまった頭の骨を広げ、脳が十分に成長できるスペースを確保すること(頭蓋内圧亢進の予防・改善)。
頭の形を整え、見た目のバランスを良くすること。
時期と方法
手術の時期は、症状の程度や頭蓋内圧(脳にかかる圧力)の状態によって異なりますが、一般的には生後数ヶ月から1歳前後に行われることが多いです。
「骨延長法(ディストラクション)」といって、少しずつ骨を広げる器具を使う方法や、骨を切って組み直す方法などがあります。お子さんの状態に合わせて最適な方法が選ばれます。
親御さんにとっては、小さなお子さんが手術を受けることは非常に大きな決断と勇気が必要ですが、脳の発達を守るために推奨される重要な治療です。
2. 眼の治療
眼瞼下垂(まぶたが下がっている)
まぶたが下がっていて視界を遮る場合は、視力の発達(弱視の予防)のために、まぶたを引き上げる手術を行うことがあります。視界に問題がなければ、成長を待ってから見た目を整える手術を検討することもあります。
斜視・屈折異常
眼鏡による矯正や、アイパッチによる訓練、手術などを行います。定期的な眼科検診が大切です。
3. 手足の治療
多指症・合指症
余分な指がある場合や、指がくっついている場合は、手の使いやすさや靴の履きやすさを考慮して、形成外科で手術を行います。
通常は1歳前後や、歩き始める前などに行われることが多いですが、緊急性はないため、医師と相談して時期を決めます。
4. 発達のサポート
言葉や運動の発達に遅れが見られる場合は、療育(理学療法、作業療法、言語聴覚療法)を行います。
早期から専門的な刺激を与えることで、お子さんの持っている能力を最大限に引き出すことができます。
地域の保健センターや児童発達支援事業所などが相談窓口になります。
生活上の注意点と予後
日常生活について
手術の直後などを除けば、基本的には一般的なお子さんと同じように生活できます。
保育園や幼稚園、学校への通学も問題ありません。運動についても、激しいコンタクトスポーツなどは主治医への確認が必要ですが、体育の授業や遊びは通常通り参加できることが多いです。
定期検診の重要性
脳の成長は学童期まで続くため、手術後も定期的に病院を受診し、頭の形や脳圧のチェックを受ける必要があります。
また、歯並びやかみ合わせの問題が出ることがあるため、歯科での定期検診も大切です。
将来の見通し
適切な時期に治療を受ければ、予後は良好であるとされています。
多くの方が通常通りの学校生活を送り、就職し、社会人として活躍されています。成人して家庭を持つ方もいらっしゃいます。
見た目の特徴や手術の傷跡などで悩む時期があるかもしれませんが、家族や医療者のサポート、そして同じ悩みを持つ患者会などとの交流が心の支えになります。
まとめ
ロビノウ・ソラウフ症候群(Robinow-Sorauf Syndrome)について解説しました。
病気の本質
TWIST1遺伝子の変化により、頭蓋骨の縫合が早く閉じたり、手足の指の形に特徴が出たりする先天性の体質です。現在はセーレ・ショルツェン症候群の一部または類縁疾患と考えられています。
主な症状
頭の形の変化、おでこの突出、まぶたの下がり、幅広の足の親指などが特徴です。知的な発達は正常範囲であることが多いです。
治療
頭蓋骨を広げる手術や、まぶた、指の手術など、症状に合わせた形成外科・脳神経外科的な治療が中心です。
大切にしたいこと
定期的な受診で成長を見守ること。そして、「病気」を見るのではなく、「その子自身」を見て、日々の成長を喜ぶことです。
