コステロ症候群(Costello Syndrome)

医師からコステロ症候群という診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。

生まれたばかりの赤ちゃん、あるいは幼少期のお子様に、聞き慣れない難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は非常に希少な疾患であるため、身近に同じ病気の方がおらず、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報が少なかったり、専門的すぎて理解が難しかったりすることが多いのが現状です。

コステロ症候群は、体の成長、顔立ち、心臓、皮膚など、全身に様々な特徴が現れる先天性の疾患です。

「腫瘍ができやすい」「心臓に病気があるかもしれない」といった説明を受け、恐怖を感じている親御さんもいらっしゃるかもしれません。しかし、この病気は医療管理を行うことで、多くの合併症をコントロールしたり、早期に発見して治療したりすることが可能です。また、コステロ症候群のお子さんたちは、とても人懐っこく、明るく社交的な性格をしていることが多く、周囲の人々を笑顔にする力を持っています。

概要:どのような病気か

コステロ症候群は、生まれつきの遺伝子の変化によって、細胞の増殖や成長を調節するシステムに影響が出る疾患です。

1971年にニュージーランドの医師、ジャック・コステロ先生によって初めて報告されました。

この病気は、RAS病(ラスパチー)と呼ばれる大きなグループの一つに含まれます。

私たちの体の中には、細胞に「増えなさい」「成長しなさい」という指令を伝えるための情報の通り道(シグナル伝達経路)があります。これをRAS/MAPK(ラス・マップケー)経路と呼びます。

コステロ症候群は、この経路に関わる遺伝子に変化が起きることで、スイッチが過剰に入りやすくなってしまう病気です。

同じRAS病のグループには、ヌーナン症候群や心臓顔面皮膚症候群(CFC症候群)などがあり、これらの病気とは顔立ちや症状に共通点が見られます。

発症頻度は非常に稀で、世界中で数百人から千人程度と推定されていますが、診断技術の向上により、報告数は増えつつあります。日本でも難病指定を受けており、医療費助成の対象となることがあります。

主な症状

コステロ症候群の症状は、全身に及びます。また、年齢によって目立つ症状が変化していくのも特徴です。ここでは、体の部位や機能ごとに詳しく見ていきましょう。

1. 成長と栄養の問題

多くのご家族が最初に直面するのが、この問題です。

重度の哺乳障害

生まれた直後から、おっぱいやミルクを飲む力が弱かったり、すぐに疲れてしまったりすることがよくあります。また、吸う力はあるのに飲み込むタイミングが合わないこともあります。

成長障害

たくさん飲めていないことに加え、代謝(エネルギーの消費)が活発であるため、体重がなかなか増えません。これを成長障害(Failure to Thrive)といいます。

身長も伸び悩み、低身長となることが多いです。成長ホルモンの分泌は正常なことが多いですが、骨の成熟がゆっくり進む傾向があります。

2. 特徴的なお顔立ちと頭の形

コステロ症候群のお子さんには、共通する愛らしいお顔の特徴があります。成長とともに変化していきますが、一般的には以下のような特徴が見られます。

おでこが広い

鼻が低く、上向きである

唇が厚く、口が大きい

耳の位置が少し低く、耳たぶに厚みがある

頭が大きい(相対的大頭症):体は小さいのに比べて、頭囲は標準的か少し大きめであるため、相対的に頭が大きく見えます。

3. 皮膚と髪の特徴

皮膚科医だったコステロ先生が報告した病気だけあって、皮膚には多くの特徴が現れます。

皮膚の質感

手や足の裏の皮膚が、余っているように柔らかく、深いシワが刻まれているのが大きな特徴です。特に生まれたばかりの頃によく目立ちます。首や手足の皮膚もダブついて見えることがあります。

乳頭腫(にゅうとうしゅ)

イボのような小さなできものが、鼻の周りや口周り、肛門の周りなどにできることがあります。これは幼児期以降、特に学童期から思春期にかけて増えてくることが多いです。ウイルス性のイボとは異なり、良性のものです。

髪の毛

髪の毛は細く、縮れていて、巻き毛(カーリーヘア)であることが多いです。

4. 心臓の症状

約80パーセントから90パーセントの患者さんに、何らかの心臓の病気が見られます。これは命に関わることもあるため、非常に重要なポイントです。

肥大型心筋症

心臓の筋肉が分厚くなってしまう病気です。RAS病に特徴的な合併症です。筋肉が厚くなると、心臓の中が狭くなり、血液を送り出す機能に影響が出ることがあります。乳児期から発症することもありますが、徐々に進行することもあります。Shutterstock

肺動脈弁狭窄症

心臓から肺へ血液を送る血管の入り口にある弁が狭くなる病気です。

不整脈

心房頻拍などの脈の乱れが起きることがあります。特に肥大型心筋症がある場合は注意が必要です。

5. 発達と知能

全体的な発達の遅れ

首のすわり、お座り、歩行といった運動発達はゆっくりです。関節が柔らかいことや、筋肉の緊張が弱いこと(筋緊張低下)も影響しています。

多くの患者さんは、2歳から3歳頃に歩けるようになります。

知的障害

軽度から中等度の知的障害を伴うことが一般的です。しかし、個人差が大きく、ゆっくりながらも言葉を話し、読み書きを習得し、社会生活を送ることができる方もいます。

性格

非常に人懐っこく、明るく、社交的な性格をしているお子さんが多いと言われています。笑顔が多く、人と関わることが大好きです。一方で、不安を感じやすかったり、音に敏感だったりすることもあります。

6. 腫瘍のリスク

これはご家族にとって最も心配な点の一つでしょう。

コステロ症候群の患者さんは、一般の人に比べて、良性および悪性の腫瘍ができるリスクが高いことが知られています。

生涯の発症率は約15パーセント程度と言われています。

横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ)

筋肉などにできる腫瘍で、乳幼児期に発生しやすいです。

神経芽腫(しんけいがしゅ)

神経の細胞にできる腫瘍で、これも乳幼児期に見られることがあります。

膀胱癌(ぼうこうがん)

思春期以降、若い成人期に発生するリスクがあります。

「がんになりやすい」と聞くと怖いですが、リスクがあることが分かっているからこそ、定期的な検査で早期発見・早期治療を目指すことができます。

原因

なぜ、このような様々な症状が出るのでしょうか。その原因は、たった一つの遺伝子の小さな変化にあります。

HRAS遺伝子の変異

コステロ症候群のほとんどの患者さんにおいて、第11番染色体にあるHRAS(エイチ・ラス)という遺伝子に変異が見つかります。

このHRAS遺伝子は、細胞の増殖や分化(細胞が特定の役割を持つように変化すること)をコントロールするスイッチの役割を担っているタンパク質を作ります。

通常、このスイッチは必要な時だけオンになり、不要な時はオフになっています。

しかし、遺伝子に変異があると、このスイッチが常にオンに近い状態、あるいは非常にオンになりやすい状態になってしまいます。

細胞に対し「増えろ」「成長しろ」という指令が過剰に出続けることで、心臓の筋肉が厚くなりすぎたり、皮膚にイボができたり、腫瘍ができやすくなったりすると考えられています。

遺伝について

コステロ症候群は、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。

しかし、患者さんのほとんど(90パーセント以上)は、ご両親から遺伝したのではなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にHRAS遺伝子に変化が起きた新生突然変異(de novo変異)によるものです。

つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝子検査によって行われます。

1. 臨床診断

医師は、以下のような特徴があるかどうかを詳しく診察します。

特徴的な顔貌や皮膚の所見(深いシワ、イボなど)

低身長や体重増加不良

心疾患の有無

発達の遅れ

特に、新生児期にはヌーナン症候群やCFC症候群との区別が難しいことがありますが、手足のシワの特徴や、成長に伴う顔つきの変化などが診断の手がかりになります。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために、血液を採取してDNAを調べる検査が行われます。

HRAS遺伝子に変異があるかどうかを確認します。

日本の医療制度では、指定難病の申請や小児慢性特定疾病の申請において、この遺伝子検査の結果が重要になることがあります。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対する治療(対症療法)と、合併症の早期発見・管理を行うことで、お子さんの健康を守り、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。

1. 栄養管理と成長のサポート

乳児期の最大の課題は栄養です。

口から十分に飲めない場合は、鼻からチューブを入れてミルクを注入する経管栄養を行うことがあります。

長期的に飲み込みが難しい場合や、誤嚥(気管に入ってしまうこと)のリスクが高い場合は、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる胃ろうの造設が検討されます。胃ろうは、「口から食べることを諦める」ことではなく、「体力をつけて成長し、食べる練習をするための土台作り」と捉えることが大切です。

成長するにつれて、多くの患者さんが口から食べられるようになります。

2. 心臓の治療と管理

定期的な心臓超音波検査(エコー検査)や心電図検査が欠かせません。

肥大型心筋症がある場合は、心臓の負担を減らすお薬(ベータ遮断薬など)を使うことがあります。

弁の狭窄が重度な場合は、カテーテル治療や手術が必要になることもあります。

不整脈に対しても、お薬や治療が必要になる場合があります。

3. 発達支援と療育(リハビリテーション)

早期からの療育が、お子さんの可能性を広げます。

理学療法(PT)

筋肉の緊張が弱く、関節が柔らかいため、体の中心(体幹)を支える力をつけたり、歩行の練習をしたりします。足首を支える装具(インソールや靴型装具)を使うことで、安定して歩けるようになることもあります。

作業療法(OT)

手先の細かい動きを練習したり、日常生活の動作を工夫したりします。

言語聴覚療法(ST)

言葉の遅れに対してコミュニケーションの練習をしたり、食べる機能(摂食嚥下)の訓練を行ったりします。

4. 腫瘍のスクリーニング(定期検診)

がんのリスクに対応するために、定期的な検査が必要です。ガイドライン等で推奨されている一般的なスケジュールは以下の通りです(主治医の指示に従ってください)。

腹部・骨盤部の超音波検査

横紋筋肉腫や神経芽腫を早期に見つけるため、乳幼児期は3〜6ヶ月に1回程度行います。

尿検査

血尿がないかなどをチェックし、膀胱癌の兆候を調べます。幼児期以降、特に10歳を過ぎてからは定期的に行うことが推奨されます。

「検査ばかりで可哀想」と思われるかもしれませんが、早期に見つかれば治療の選択肢も広がり、治る確率も高くなります。これらは「安心を得るための検査」です。

5. 皮膚と整形外科的なケア

乳頭腫(イボ)

気になる場所にある場合や、こすれて痛い場合などは、液体窒素による凍結療法や切除術などで治療します。

アキレス腱の緊張

アキレス腱が硬くなりやすいため、ストレッチを行ったり、場合によっては手術(腱延長術)を行ったりすることがあります。

ライフステージ別のポイント

乳児期(0歳〜1歳頃)

最も医療的ケアが必要な時期です。哺乳障害への対応、体重増加の管理、心臓の評価が中心になります。入院が長引くこともありますが、焦らずお子さんのペースを見守りましょう。

幼児期(1歳〜就学前)

少しずつ歩けるようになり、言葉も出てきます。療育に通い始め、社会性が育つ時期です。とても人懐っこい性格が発揮され、周囲に愛される存在になります。腫瘍のスクリーニング検査を習慣にしましょう。

学童期・思春期

学校生活が始まります。知的な遅れや低身長に対して、特別支援教育や配慮が必要になることがあります。イボが増えたり、思春期早発症(早めに体が大人になること)が見られたりすることもあります。

成人期

多くの患者さんが成人し、社会生活を送っています。心臓の状態や腫瘍のリスク管理は生涯続きますが、就労支援などを活用しながら、自分らしい生活を送ることができます。

まとめ

コステロ症候群についての重要なポイントを振り返ります。

病気の本質

HRAS遺伝子の変異により、細胞の成長スイッチが入りやすくなっている病気です。

主な特徴

哺乳障害、低身長、特徴的な顔立ち、柔らかい皮膚、心疾患、知的障害などがあります。

心臓

肥大型心筋症などのリスクが高いため、定期的なチェックが重要です。

腫瘍

一般よりリスクが高いため、超音波検査や尿検査などのスクリーニングを継続します。

性格

明るく、人懐っこく、社交的なお子さんが多いです。

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