医師から頭蓋骨縫合早期癒合症2型という診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
生まれたばかりの赤ちゃんや、幼少期のお子様に、聞き慣れない難しい病名が告げられ、大きな不安と戸惑いの中にいらっしゃることと思います。特に、この頭蓋骨縫合早期癒合症にはいくつかのタイプがあり、その中でも2型というのは非常に稀なタイプであるため、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報はほとんど見当たらないのが現状です。
この病気は、別名ボストン型頭蓋骨縫合早期癒合症とも呼ばれます。これは、最初にこの病気が報告されたのがボストンの家系だったことに由来しています。
病名にある頭蓋骨縫合早期癒合症とは、赤ちゃんの頭の骨のつなぎ目が、通常よりも早い時期に閉じてくっついてしまう病気のことです。これに加え、2型では頭の骨の一部に穴が開いているような状態(頭頂孔)が見られることが大きな特徴です。
頭の手術が必要になるかもしれないと聞き、恐怖を感じているご家族も多いことでしょう。しかし、決して絶望的な病気ではありません。現在は、形成外科や脳神経外科を中心としたチーム医療によって、適切な時期に治療を行うことで、脳の成長を守り、頭の形を整える治療法が確立されています。
この記事では、診断を受けたばかりの患者様のご家族や、情報を探している一般の方に向けて、この病気がどのようなものなのか、なぜ起きるのか、そしてこれからの治療や生活で何に気をつければよいのかを、専門用語をできるだけ噛み砕いて丁寧に解説します。
文字数は多くなりますが、お子様のこれからの成長を守るためのガイドブックとして、一つひとつ確認しながら読み進めていただければ幸いです。
概要:どのような病気か
頭蓋骨縫合早期癒合症2型は、生まれつきの遺伝子の変化によって、頭蓋骨の成長と形成に特徴的な影響が出る先天性の疾患です。
まず、病気の基本となる頭蓋骨縫合早期癒合症について理解しましょう。
私たちの頭蓋骨は、ヘルメットのようなひとつの大きな骨でできているわけではありません。数枚のプレート状の骨がパズルのように組み合わさってできています。赤ちゃんの頃は、この骨と骨のつなぎ目である縫合線が開いていて、隙間があります。この隙間があるおかげで、急速に成長する脳に合わせて頭蓋骨も広がることができるのです。
しかし、この縫合線が成長の途中で、本来の時期よりも早く閉じて骨になってしまうことがあります。これを早期癒合といいます。骨がくっついてしまうと、その方向には頭が大きくなれないため、頭の形がいびつになったり、脳の逃げ場がなくなって頭の中の圧力である頭蓋内圧が高まったりします。
では、2型の特徴は何でしょうか。
頭蓋骨縫合早期癒合症には、クルーゾン症候群やアペール症候群など、原因となる遺伝子によっていくつかのタイプに分けられます。2型は、MSX2という特定の遺伝子の変異によって引き起こされるタイプです。
最大の特徴は、骨が早くくっつく早期癒合という現象と、逆に骨が作られずに穴が開いたままになる頭頂孔という現象が同時に見られることです。これは他のタイプにはあまり見られない、2型特有の症状です。
主な症状
頭蓋骨縫合早期癒合症2型の症状は、頭の形、頭蓋骨の構造的な特徴、顔立ち、そして神経学的な症状に分けられます。お子さんによって症状の重さや出方は異なりますが、代表的なものを見ていきましょう。
1. 頭の形の変化
頭の骨のどのつなぎ目が閉じてしまったかによって、頭の形が変わります。2型では、複数の縫合線が閉じてしまうことがよくあります。
短頭(たんとう)
後頭部が平らになり、頭の前後が短く、横幅が広くなる形です。
塔状頭(とうじょうとう)
頭が上に向かって長く伸びたような形になることがあります。
クローバー葉頭蓋
複数の縫合線が同時に強く閉じてしまうと、頭が三つ葉のクローバーのように膨らんだ独特の形になることがあります。これは重症の場合に見られる形です。
2. 頭頂孔(とうちょうこう)
これが2型の非常に重要な特徴です。
頭のてっぺんの両サイド(頭頂骨)に、骨が作られていない部分があり、まるで穴が開いているかのように見えます。
赤ちゃんには元々、大泉門という骨のない柔らかい部分がおでこの上にありますが、頭頂孔はそれとは別の場所に現れます。触るとプヨプヨと柔らかく感じることがあります。
レントゲンやCT検査で見ると、頭蓋骨に円形や楕円形の穴が開いているのがはっきりと分かります。
3. 顔立ちの特徴
頭の変形に伴って、顔立ちにも特徴が現れることがあります。
中顔面低形成
顔の真ん中あたり(鼻や上あごの周辺)の骨の成長がゆっくりなため、顔の中央が少しへこんだように見えたり、相対的に下あごが出ているような受け口になったりすることがあります。
眼球突出
目の周りの骨が浅いため、目が少し前に出ているように見えることがあります。クルーゾン症候群ほど顕著ではないことが多いですが、目が大きくクリッとして見えます。
4. 頭蓋内圧亢進症状
脳が大きくなろうとする力に対して頭蓋骨が広がらないと、脳への圧力が強くなります。これを頭蓋内圧亢進といいます。
頭痛を訴える(言葉が話せない赤ちゃんの場合は、機嫌が悪い、頭を叩く、ミルクを吐くなど)
視力の低下(視神経が圧迫されるため)
発達の遅れ
2型の場合、骨に穴(頭頂孔)があるため、そこから多少圧力が逃げることがあり、他のタイプに比べて頭蓋内圧の上昇が緩やかな場合もありますが、油断はできません。
5. その他の症状
てんかん発作
稀ですが、てんかん発作を伴うことがあります。
大泉門の開存
通常は1歳半頃までに閉じる大泉門が、なかなか閉じずに大きく開いたままになることがあります。
原因
なぜ、骨が早くくっついたり、逆に穴が開いたりするのでしょうか。その原因は、骨の成長をコントロールする遺伝子の働きにあります。
MSX2遺伝子の変異
頭蓋骨縫合早期癒合症2型の原因は、第5番染色体にあるMSX2(エム・エス・エックス・ツー)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、骨や歯が作られる過程を調節するタンパク質を作る設計図です。
このMSX2という遺伝子は、骨を作る細胞(骨芽細胞)の増殖や分化をコントロールしています。
2型で見られる特定の変異(Pro148His変異など)が起きると、この遺伝子の働きが過剰になります。これを機能獲得型変異といいます。
遺伝子が過剰に働くことで、骨を作る指令が強く出すぎてしまい、縫合線で骨が早く作られて癒合してしまいます。
一方で、不思議なことに、この遺伝子の変異は頭頂孔という骨の欠損も引き起こします。
これは、骨の成長のバランスが崩れ、ある場所では骨ができすぎ、ある場所(頭頂部)では骨がうまく作られないという複雑な現象が起きているためと考えられています。

遺伝のしくみ
この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。
これは、両親のどちらかがこの病気(MSX2遺伝子の変異)を持っている場合、50パーセントの確率でお子さんに遺伝することを意味します。
しかし、ご両親は全くこの病気を持っておらず、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起きた突然変異(新生変異)であるケースも多くあります。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。妊娠中の生活習慣やストレスなどが原因で起きるものでもありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。
診断と検査
診断は、頭の形や特徴的な所見の観察、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 身体診察
医師が頭の形を触って確認します。癒合している縫合線の上には、骨の盛り上がり(峰状隆起)が触れることがあります。
また、頭頂部に骨のない柔らかい部分(頭頂孔)があるかどうかも重要なチェックポイントです。大泉門とは違う位置に柔らかい部分があれば、この病気を疑うきっかけになります。
2. 画像検査
レントゲン検査
スクリーニングとして行われることがあります。頭頂骨に穴が開いている像(頭頂孔)や、縫合線が見えなくなっている像を確認します。
3D-CT検査
頭蓋骨の形を立体的に映し出す検査です。これが最も重要な検査の一つです。
どの縫合線が閉じているか、頭頂孔の大きさや位置はどうか、頭蓋骨の内側に脳に押された跡(指圧痕)があるかなどを詳細に確認できます。手術の計画を立てるためにも必須の検査です。
MRI検査
骨ではなく脳の状態を調べます。キアリ奇形の有無や、脳室拡大(水頭症)がないかを確認します。
3. 眼科検査
眼底検査を行って、うっ血乳頭があるかどうかを調べます。うっ血乳頭とは、脳の圧力が高まったために目の奥の視神経がむくんでいる状態です。これは頭の手術が必要かどうかを判断する非常に重要なサインです。
4. 遺伝学的検査
確定診断のために、血液を採取してDNAを調べる検査が行われます。MSX2遺伝子に変異があるかどうかを確認します。
頭蓋骨縫合早期癒合症には多くの種類があるため、遺伝子検査によって2型(ボストン型)であることを確定することは、今後の治療方針や合併症の予測をする上で非常に重要です。
治療と管理
治療の主な目的は、脳が成長するためのスペースを確保して脳圧を下げること、そして頭の形を整えることです。また、大きな頭頂孔がある場合は、脳を保護するための処置も必要になります。基本的には手術による治療が行われます。
1. 頭蓋形成術
頭蓋骨を切って広げ、形を整える手術です。お子さんの年齢や症状に合わせて、いくつかの方法から選択されます。
後頭蓋拡大術
頭の後ろ側の骨を広げる手術です。主に1歳未満の乳児期に行われることが多く、脳のスペースを後ろ側に広げることで脳圧を下げます。
前頭蓋形成術
おでこや目の周りの骨を前に出して、おでこの形を整えるとともに、脳の前の部分のスペースを確保します。
骨延長法(ディストラクション)
骨を切った後に延長器という装置を取り付け、毎日少しずつネジを回して骨の間を広げていく方法です。皮膚や筋肉をゆっくり伸ばしながら骨を広げられるため、一度に大きなスペースを作ることができ、体への負担も分散されます。
2. 頭頂孔への対応
頭頂孔(骨の穴)が小さい場合は、成長とともに自然に小さくなったり、閉じてしまったりすることもあります。
しかし、穴が大きく、脳の保護に問題がある場合は、成長してから骨移植を行ったり、人工骨で穴を塞いだりする手術(頭蓋骨形成術)が行われることがあります。
手術を行うまでの間や、手術を行わない場合は、転倒などで頭をぶつけた際に脳を傷つけないよう、保護帽(ヘルメット)の着用が推奨されることがあります。
3. 手術の時期
手術の時期は、頭蓋内圧の状況や頭の変形の程度によって決められます。
脳圧が高いサイン(うっ血乳頭など)がある場合は、生後数ヶ月の早い段階で手術が必要です。
緊急性がない場合でも、脳の急激な成長期に合わせて、1歳前後までに手術を行うことが一般的です。
4. 長期的なフォローアップ
一度手術をしたら終わりではありません。お子さんの成長に合わせて、頭蓋骨が再び癒合していないか、脳圧が再び上がっていないかを定期的にチェックする必要があります。
また、顔面の骨の成長についても、矯正歯科などと連携しながら長期的に見ていく必要があります。
まとめ
頭蓋骨縫合早期癒合症2型(ボストン型)についての重要なポイントを振り返ります。
病気の本質
MSX2遺伝子の変異により、頭の骨の継ぎ目が早く閉じてしまう早期癒合と、骨に穴が開く頭頂孔が同時に見られる稀な病気です。
主な症状
短頭やクローバー葉頭蓋などの頭の変形、頭頂部の骨の欠損(穴)、眼球突出、頭蓋内圧亢進などがあります。
診断の鍵
3D-CT検査での頭蓋骨の形の確認と、遺伝子検査による確定診断が重要です。
治療の鍵
脳神経外科や形成外科による手術で、脳のスペースを確保し、頭の形を整えます。頭頂孔が大きい場合は保護も必要です。
家族のケア
専門チームによる長期的なサポートが必要です。
