全前脳胞症2型(Holoprosencephaly Type 2: HPE2)

医療

医師から全前脳胞症2型(HPE2)という、あまり聞き馴染みのない病名を告げられ、このページにたどり着いたご家族の皆様へ。

妊娠中の検査や、生まれたばかりの赤ちゃんの診断を受け、驚きとともに、これからどのような生活が待っているのかという大きな不安の中にいらっしゃることと思います。特に、脳という生命の中枢に関わる病気であり、さらに「2型」という細かい分類まで示されたことで、情報の専門性が高く、理解するのが難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。

全前脳胞症は、お母さんのお腹の中で赤ちゃんの脳が作られるごく初期の段階で、脳が左右にうまく分かれないことによって起こる疾患です。その中でも「2型」は、特定の遺伝子の変化が関わっているタイプを指します。

この病気は、症状の現れ方に非常に大きな幅があることが特徴です。重い障害を持つお子さんもいれば、元気に社会生活を送っている軽症の方もいます。同じ診断名であっても、一人ひとり全く違う個性と症状を持っています。

概要:どのような病気か

全前脳胞症(ぜんぜんのうほうしょう)は、英語ではHoloprosencephalyと言い、医療現場では略してHPE(エイチピーイー)と呼ばれることが一般的です。

人間の脳は、発生の初期段階では一つの塊ですが、成長とともに左右二つの半球(右脳と左脳)に分かれていきます。この病気は、何らかの原因でその「左右への分離」が途中で止まってしまったり、不完全になったりする状態です。

脳の分かれ方によって、重症度が大きく3つに分類されます。

全く分かれていない無分葉(アロバー)

部分的に分かれている半分葉(セミロバー)

ほぼ完全に分かれているが一部がつながっている分葉(ロバー)

さらに軽度な、真ん中の融合変異型(MIH)などもあります。

全前脳胞症2型(HPE2)という診断名は、この脳の形の分類ではなく、原因となっている遺伝子による分類です。第2番染色体にあるSIX3(シックススリー)という遺伝子に変異がある場合を、特に「2型」と呼びます。

この2型の特徴として、症状の個人差が極めて大きいことが挙げられます。脳の分離不全が重度である場合もあれば、脳の機能にはほとんど問題がなく、顔立ちに少し特徴があるだけという場合もあります。これは同じ家系内、例えば親子や兄弟であっても症状の重さが異なることがあり、これを表現度の差異と呼びます。

主な症状

全前脳胞症2型では、脳の形成不全に伴う神経症状と、脳の発生と密接に関係している顔面の形成異常、そしてホルモンバランスの問題などが現れます。

1. 顔つきの特徴(顔貌)

脳と顔は、妊娠初期に密接に関係しながら作られます。そのため、脳が左右に分かれない程度が強いほど、顔の真ん中の部分の形成にも影響が出やすくなります。これを「顔は脳を語る」と表現することもあります。

目と目の間隔

目が通常よりも中央に寄っている眼間狭小が見られることがあります。

鼻の形

鼻が低かったり、鼻の穴が一つだったりすることがあります。軽度な場合は、鼻筋がすっと通っているような特徴が見られることもあります。

口元の特徴

唇や上あごが割れている口唇口蓋裂が見られることがあります。

また、2型(SIX3遺伝子変異)に特徴的な非常に軽微なサインとして、上の前歯が1本だけ真ん中に生えている単一中切歯という症状があります。これは、ご両親のどちらかにこの特徴があり、そこからお子さんの病気が見つかるきっかけになることもあります。

2. 神経・運動発達の症状

脳の形成状態に応じて、発達への影響が現れます。

知的発達と運動発達

重度の場合は、重い知的障害や運動発達の遅れを伴います。首のすわりや言葉の発達がゆっくりで、長期的なリハビリテーションやケアが必要になります。一方で、軽度の場合は、学習障害がごく軽度であったり、知的には正常範囲であったりすることもあります。

てんかん発作

脳の神経回路のつながり方に変化があるため、けいれん発作(てんかん)を起こしやすい傾向があります。発作のタイプは様々で、体が一瞬ビクッとするものから、意識を失うものまであります。

筋緊張の異常

赤ちゃんの頃は体が柔らかい筋緊張低下が見られることが多く、成長とともに手足が突っ張る痙縮が現れることもあります。

水頭症

脳の中にある髄液という水の通り道が狭くなったり、吸収が悪くなったりして、頭の中に水がたまる水頭症を合併することがあります。頭囲(頭の大きさ)が急に大きくなったり、不機嫌になったりする場合は注意が必要です。

3. 内分泌(ホルモン)の症状

脳の中心部には、視床下部や下垂体といった、体中のホルモンをコントロールする司令塔があります。脳の左右の分離が不完全だと、この司令塔の働きも弱くなることがあります。

尿崩症(にょうほうしょう)

おしっこの量を調節する抗利尿ホルモンが出にくくなり、大量の薄いおしっこが出て、喉が非常に渇く病気です。水分補給が追いつかないと脱水症状になりやすいため、適切な管理が必要です。

成長ホルモンの不足

身長の伸びが悪くなったり、血糖値が維持しにくかったりすることがあります。

甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンの不足

元気がない、寒がり、ストレスに弱いなどの症状が出ることがあります。

体温調節障害

体温を一定に保つ機能が弱く、気温の変化で体温が大きく変動することがあります。高熱が出やすかったり、逆に低体温になりやすかったりします。

4. 摂食・嚥下の問題

口唇口蓋裂がある場合や、筋肉の緊張が弱い場合、おっぱいやミルクを飲むのが苦手なことがあります。飲み込む力が弱いと、誤嚥(気管にミルクが入ること)による肺炎のリスクもあります。

原因

なぜ、脳の分離がうまくいかなかったのでしょうか。全前脳胞症2型においては、遺伝子の働きが明確に関係しています。

SIX3遺伝子の変異

全前脳胞症2型の原因は、第2番染色体にあるSIX3(シックススリー)遺伝子の変異です。

SIX3遺伝子は、赤ちゃんの頭や脳、そして目の形成に関わる非常に重要な役割を持っています。この遺伝子が正しく働かないことで、脳を左右に分ける指令や、目を正しい位置に配置する指令がうまく伝わらなくなります。

遺伝のしくみと不完全浸透

ここが少し難しいけれど重要なポイントです。

全前脳胞症2型は、常染色体顕性遺伝(以前の優性遺伝)という形式をとることがあります。これは、遺伝子の変化が50パーセントの確率で親から子へ伝わる形式です。

しかし、この病気には不完全浸透という特徴があります。

これは、同じ遺伝子の変化を持っていても、症状が出る人と出ない人がいる、あるいは症状の程度が全く違うという現象です。

例えば、お父さんやお母さんがSIX3遺伝子の変化を持っているけれど、症状は「前歯が1本だけ」というごく軽いもので、健康上の問題は全くないという場合があります。しかし、その遺伝子を受け継いだお子さんには、脳の分離不全という重い症状が出ることがあるのです。

もちろん、ご両親には全く遺伝子の変化がなく、お子さんの代で初めて変化が起きた新生突然変異(de novo変異)のケースも多くあります。

原因が遺伝子にあるといっても、誰のせいでもありません。生命が誕生する複雑なプロセスの中で起きた、偶然の現象です。

医者

診断と検査

診断は、妊娠中の超音波検査、出生後のMRI検査、そして遺伝子検査などを組み合わせて行われます。

画像検査

出生前診断

妊婦健診の超音波検査(エコー)で、脳の形や顔の特徴(口唇裂など)から疑われることがあります。より詳しく調べるために、胎児MRIを行うこともあります。

頭部MRI検査

診断の決め手となる最も重要な検査です。脳がどの程度分かれているか、視床や基底核といった脳の深い部分が癒合していないかを確認し、無分葉、半分葉、分葉といった重症度を判定します。

遺伝学的検査

血液を採取し、DNAを解析してSIX3遺伝子に変異があるかどうかを調べます。

これにより、HPE2であるという確定診断がつきます。また、ご両親も検査を受けることで、次のお子さんへの遺伝の可能性などを詳しく知ることができます。

ただし、すべての全前脳胞症で遺伝子変異が見つかるわけではなく、環境要因などが複合的に関わっているケースもあります。

内分泌検査

血液検査や尿検査を行い、ホルモンが正常に出ているか、脱水を起こしていないかなどを調べます。特にナトリウムのバランスや尿の濃さは重要です。

治療と管理

現在の医学では、癒合してしまった脳を外科手術で分けたり、遺伝子を修復したりする根本的な治療法はありません。

しかし、それぞれの症状に対する治療(対症療法)と、合併症の予防・管理を行うことで、お子さんの生活の質(QOL)を高めることができます。

1. 脳神経外科的な治療

水頭症がある場合は、余分な髄液をお腹の中に流すためのチューブを入れるシャント手術を行うことがあります。これにより、脳への圧迫を防ぎ、頭痛や吐き気を和らげます。

2. てんかんの管理

脳波検査の結果に基づいて、その子に合った抗てんかん薬を調整します。発作をコントロールすることで、脳の発達を守り、日常生活を安全に送れるようにします。

3. 内分泌(ホルモン)の治療

不足しているホルモンをお薬で補充します。

尿崩症がある場合は、デスモプレシンという点鼻薬や内服薬を使って、おしっこの量を調節します。

甲状腺ホルモンや成長ホルモン、副腎皮質ホルモンなども、必要に応じて補充療法を行います。特にストレスがかかった時(発熱時など)には、ホルモンの量を調整するシックデイ・ルールという対応が必要になることがあります。

4. 形成外科的な治療

口唇口蓋裂がある場合は、生後数ヶ月から数歳にかけて、形成手術を行います。見た目を整えるだけでなく、哺乳や発音の機能を改善することが目的です。

5. 栄養と呼吸の管理

口から飲むのが難しい場合は、鼻からチューブを入れたり、お腹に小さな穴を開ける胃ろうを作ったりして、確実に栄養が摂れるようにします。誤嚥を防ぐために、トロミ剤を使ったり、食事の姿勢を工夫したりします。

呼吸が不安定な場合は、在宅酸素療法などを行うこともあります。

6. リハビリテーション(療育)

早期からのリハビリが非常に大切です。

理学療法(PT):体の動きを促し、関節が硬くなるのを防ぎます。

作業療法(OT):手先の動きや、遊びを通じた発達支援を行います。

言語聴覚療法(ST):飲み込みの練習や、コミュニケーションの方法を探します。

まとめ

全前脳胞症2型(HPE2)についての要点を整理します。

病気の本質

胎児期に脳が左右に分かれないことによる形成異常で、SIX3遺伝子の変異が関わっています。

症状の多様性

脳の障害の程度は人によって全く異なり、重度からごく軽度まで幅広いスペクトラム(連続体)があります。顔の中心部の特徴や、ホルモン異常を伴いやすいのが特徴です。

原因

SIX3遺伝子の機能不全によります。親から受け継ぐ場合もあれば、突然変異の場合もあります。

管理のポイント

てんかん、水頭症、ホルモン異常(特に尿崩症)、摂食嚥下障害に対するきめ細やかなケアが大切です。

関連記事

  1. NEW 赤ちゃん
  2. NEW 医者
  3. NEW ハート
  4. NEW 赤ちゃん
  5. NEW 医療
  6. NEW 医者