ジェニトパテラ症候群(Genitopatellar syndrome)

医療

医師から「ジェニトパテラ症候群」という聞き慣れない病名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。

生まれたばかりの赤ちゃん、あるいは検査を続けてきたお子様に診断が下り、驚きとともに、これからどのような未来が待っているのかという大きな不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても報告数が少ない希少疾患(レアディジーズ)の一つであり、日本語で書かれた詳しい情報は限られています。そのため、インターネットで検索しても専門的な医学論文ばかりが出てきてしまい、余計に孤独を感じてしまっている方もいるかもしれません。

ジェニトパテラ症候群は、生まれつき膝のお皿(膝蓋骨)がなかったり小さかったりする特徴と、生殖器の発達に関する特徴などを併せ持つ疾患です。原因となる遺伝子も分かってきており、近年では「KAT6B関連疾患」というより大きなグループの一つとして捉えられることもあります。

概要:どのような病気か

ジェニトパテラ症候群は、英語でGenitopatellar syndromeと表記され、医療現場では頭文字をとってGPS(ジーピーエス)と呼ばれることもあります。

この病名は、二つの大きな特徴を組み合わせて名付けられました。

Genito(ジェニト)は「生殖器」を意味します。

Patellar(パテラ)は「膝蓋骨」、つまり膝のお皿を意味します。

その名の通り、生まれつき膝のお皿が欠損している、あるいは非常に小さいという骨格の特徴と、外性器(性器)や内性器の発達に特徴があることが、この病気のサインとなります。

また、骨盤や股関節、足の関節が硬くなって曲がってしまう拘縮(こうしゅく)が見られたり、知的な発達の遅れを伴ったりすることもあります。

この病気は、KAT6Bという特定の遺伝子の変異によって引き起こされることが分かっています。この遺伝子の変異は、他にも「Say-Barber-Biesecker-Young-Simpson症候群(SBBYSS)」という別の病気の原因にもなりますが、ジェニトパテラ症候群の方が症状が重く出る傾向があり、より複雑な全身の症状を伴うことが多いとされています。

非常に稀な病気であるため、一般的な小児科医でも出会ったことがないケースがほとんどです。しかし、遺伝子解析技術の進歩により診断技術は向上しており、世界中で少しずつ知見が蓄積されてきています。

主な症状

ジェニトパテラ症候群の症状は、骨格、生殖器、脳神経、内臓など、全身のさまざまな場所に現れます。お子さんによって症状の出方や重さは異なりますが、代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。

1. 骨と関節の特徴(下半身を中心に)

この病気で最も目立ち、診断のきっかけとなりやすいのが下半身の特徴です。

膝蓋骨(膝のお皿)の欠損または低形成

膝蓋骨は、太ももの筋肉の力をすねの骨に伝え、膝を伸ばすのを助ける滑車のような役割をしています。

ジェニトパテラ症候群のお子さんは、この膝蓋骨が生まれつきなかったり、あっても非常に小さかったりします。そのため、膝を真っ直ぐに伸ばすことが難しくなることがあります。Shutterstock

関節の拘縮(こうしゅく)

関節が硬くなり、曲がったまま伸びにくくなる、あるいは伸びたまま曲がりにくくなる状態を拘縮と言います。

特に、股関節(足の付け根)と膝関節に強い拘縮が見られることがよくあります。股関節が屈曲(曲がった状態)し、外転(外側に開いた状態)した姿勢をとることが多く、おむつ替えの時などに足が開きにくい、あるいは伸ばしにくいと感じることがあるかもしれません。

足の変形

足首から先が内側を向いて固まってしまう内反足(ないはんそく)が見られることが多くあります。これには矯正のためのギプス治療や手術が必要になることがあります。

2. 生殖器と泌尿器の特徴

病名の一部にもなっている通り、性器や尿路系に特徴が現れます。

男児の場合

精巣(睾丸)が陰嚢(袋)の中に降りてこない停留精巣(ていりゅうせいそう)や、陰嚢の発達が未熟な陰嚢低形成が見られることが非常に多いです。

女児の場合

陰核(クリトリス)が大きく見える陰核肥大や、小陰唇の低形成などが見られることがあります。

腎臓の問題

腎臓で作られた尿が流れる道が狭くなったりして、腎臓の中に尿がたまり、腎臓が腫れてしまう水腎症(すいじんしょう)を合併することが多くあります。腎臓の機能に関わるため、超音波検査などで定期的にチェックします。

3. 顔つきと頭部の特徴

ジェニトパテラ症候群のお子さんには、いくつか共通したお顔の特徴が見られることがあります。これらは成長とともに変化することもあります。

おでこが広かったり、目が離れていたり、まぶたの裂け目(眼瞼裂)が細かったりする傾向があります。

また、鼻筋が太く、鼻先が大きい特徴的な鼻の形をしていることが多いです。

あごが小さい小顎症(しょうがくしょう)が見られることもあり、これが呼吸や哺乳に影響することもあります。

4. 知的発達と神経系の特徴

脳の発達にも影響が出ることが多いです。

知的障害と発達遅滞

重度の知的障害を伴うことが多く、首のすわり、お座り、歩行などの運動発達や、言葉の発達が全体的にゆっくりになります。

しかし、ゆっくりながらもお子さんなりのペースで成長し、表情で感情を伝えたり、周囲とのコミュニケーションを楽しんだりすることは十分に可能です。

脳の構造的な変化

MRI検査をすると、脳の右半球と左半球をつなぐ神経の束である脳梁(のうりょう)が欠損していたり、薄くなっていたりすることがあります。これを脳梁欠損症または脳梁低形成と呼びます。

筋緊張の異常

赤ちゃんの頃は体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られる一方で、手足の関節は硬いという特徴があります。

5. その他の症状

呼吸器や消化器にも注意が必要です。

あごが小さいことや、気道が柔らかいことによって、呼吸が苦しくなることがあります。

また、ミルクを飲む力が弱かったり、飲み込みがうまくいかなかったりする摂食嚥下障害が見られることもあります。

原因

なぜ、膝のお皿が作られなかったり、全身にさまざまな症状が出たりするのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きにあります。

KAT6B遺伝子の変異

ジェニトパテラ症候群の主な原因は、第10番染色体にあるKAT6B(キャット・シックス・ビー)という遺伝子の変異です。

人間の体は、遺伝子という設計図をもとに作られています。KAT6B遺伝子は、ヒストンアセチル化酵素という特別なタンパク質を作る役割を持っています。

少し難しい話になりますが、私たちのDNAはヒストンという糸巻きのようなタンパク質に巻き付いてコンパクトに収納されています。KAT6B遺伝子が作る酵素は、このヒストンの状態を調整することで、他のたくさんの遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする、いわば「遺伝子の司令塔」のような働きをしています。

特に、骨や神経、生殖器が作られる時期に、この司令塔が正しく働かないと、本来作られるべき膝のお皿が作られなかったり、脳の発達の手順が変わってしまったりするのです。

なぜ変異が起きるのか

多くのご家族が「親から遺伝したのか?」「妊娠中の生活が悪かったのか?」とご自身を責めてしまわれます。

しかし、ジェニトパテラ症候群のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。

これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にKAT6B遺伝子に変化が起きたことを意味します。

つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、お母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の神秘における偶然の現象なのです。

ごく稀に、親御さんが非常に軽微な症状を持っていて遺伝するケースも報告されていますが、基本的には突発的に発生する疾患と考えられています。

医者

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。

1. 臨床診断(見た目と触診)

医師は、赤ちゃんの全身を詳しく診察します。

特に、膝を触って膝蓋骨があるかどうか、股関節や膝関節が硬くないか、足の変形がないかを確認します。

また、性器の形や、特徴的な顔つきなども診断の手がかりになります。膝蓋骨の欠損と生殖器の異常が揃っている場合、この病気が強く疑われます。

2. 画像検査

レントゲン検査

膝や骨盤のレントゲンを撮ります。膝蓋骨が写らないことや、骨盤の形の特徴(腸骨の変形など)を確認します。赤ちゃんの膝蓋骨はもともと軟骨成分が多くレントゲンに写りにくいのですが、この病気特有の骨格のサインを探します。

超音波検査(エコー)

腎臓の形や、水腎症がないかを確認します。また、停留精巣の位置を確認することもあります。

MRI検査

脳の構造を詳しく見るために行います。脳梁欠損や脳のしわの状態などを確認し、神経症状の原因を探ります。

3. 遺伝学的検査

確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。

KAT6B遺伝子の特定の場所(多くは遺伝子の終わりの方であるエクソン18など)に変異があるかどうかを調べます。

この検査で変異が見つかれば、診断は確定します。診断が確定することで、将来起こりうる合併症の予測や、適切な治療計画を立てることが可能になります。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。

ジェニトパテラ症候群の管理には、小児科、整形外科、泌尿器科、リハビリテーション科など、多くの専門家のチームワークが必要です。

1. 整形外科的な治療とケア

この病気の治療において、整形外科医の役割は非常に大きいです。

関節拘縮への対応

股関節や膝関節の硬さを和らげるために、理学療法士によるリハビリテーション(ストレッチやマッサージ)を行います。無理に動かすと骨折のリスクがあるため、専門家の指導のもとで慎重に行います。

内反足の治療

足の変形に対しては、生まれて早い段階からギプスを巻いて矯正を行ったり、アキレス腱を少し切る手術などを行ったりします。足の裏を地面につけて立てるようにすることを目指します。

膝蓋骨欠損への対応

膝蓋骨がないこと自体に対する手術は難しいことが多いですが、膝が曲がったまま伸びない屈曲拘縮に対して、筋肉や腱を延長する手術を検討することがあります。これにより、移動や着替えなどの日常生活動作がしやすくなることを目指します。

2. 泌尿器・生殖器の治療

水腎症の管理

軽度であれば経過観察ですが、腎臓の機能に影響が出るほど尿の流れが悪い場合は、手術で通り道を治すことがあります。尿路感染症(おしっこの感染症)にかかりやすいため、発熱時などは尿の検査をすることが大切です。

停留精巣の手術

精巣がお腹の中にあるままだと、将来的に精巣の機能が悪くなったり、悪性腫瘍のリスクが高まったりするため、幼児期に精巣を陰嚢の中に固定する手術を行うことが一般的です。

3. 発達支援と療育

お子さんの発達段階に合わせた療育(リハビリ)が重要です。

理学療法(PT)

体の硬さをとり、寝返りやお座りなどの運動機能を促します。車椅子や座位保持装置(座るための椅子)などの福祉用具を作る際にも相談に乗ってくれます。

作業療法(OT)

手先の動きや、遊びを通じた発達支援を行います。感覚遊びなどを通じて、外界への興味を引き出します。

言語聴覚療法(ST)

言葉の理解や表出を促すだけでなく、食べる機能(摂食嚥下)の訓練も行います。安全に楽しく食事ができるように、食事の形態や介助方法をアドバイスします。

4. 呼吸と栄養の管理

呼吸が不安定な場合や、唾液をうまく飲み込めない場合は、吸引器を使ったり、呼吸を助ける機器を使ったりすることがあります。

また、口から十分に栄養が摂れない場合は、鼻からチューブを入れたり、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる胃ろうを作ったりして、十分な栄養を確保し、体を大きく育てます。胃ろうは、誤嚥性肺炎を防ぎ、お子さんとご家族の食事時間のストレスを減らすための有効な手段の一つです。

まとめ

ジェニトパテラ症候群(GPS)についての重要なポイントを振り返ります。

  • 病気の本質: KAT6B遺伝子の変異により、膝のお皿の形成や生殖器の発達、脳の発達に影響が出る先天性の体質です。
  • 主な特徴: 膝蓋骨の欠損・低形成、股関節や膝の拘縮、生殖器の異常、水腎症、重度の知的障害などが挙げられます。
  • 原因: 多くは突然変異によるもので、ご両親のせいで起きたものではありません。
  • 治療の柱: 整形外科的な関節ケア、泌尿器科的な手術、そしてそれぞれの発達段階に合わせた丁寧な療育が中心となります。
  • 生活の質: 根本治療はありませんが、適切なケアによって快適に過ごし、その子らしい成長を遂げることができます。

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