医師から進行性骨化性線維異形成症、あるいはアルファベットでFOP(エフ・オー・ピー)という非常に稀な診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
生まれたばかりの赤ちゃんの足の指の特徴を指摘されたり、頭や首のしこりが気になって受診した結果この診断を受けたりして、今まさに大きな驚きと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は200万人に1人という極めて稀な頻度で発生する希少疾患であり、専門医の数も限られています。インターネットで検索しても、古い情報や不安を煽るような画像ばかりが目に入り、孤独を感じてしまっている方もいるかもしれません。
進行性骨化性線維異形成症(FOP)は、筋肉や腱、靭帯といった本来はやわらかい組織が、徐々に硬い骨に変わってしまう病気です。これを異所性骨化といいます。生まれつき足の親指が内側に曲がっていることが特徴で、怪我やウイルス感染などをきっかけに腫れや痛みを伴うフレアと呼ばれる炎症が起き、その後、その部分が骨になっていきます。
かつては治療法が全くないと言われていましたが、近年の医学の進歩、特に日本におけるiPS細胞などを用いた研究の進展により、病気の原因が解明され、進行を抑えるための新しい薬の開発が世界中で精力的に進められています。今は、決して絶望だけの病気ではありません。
概要:どのような病気か
進行性骨化性線維異形成症は、英語でFibrodysplasia Ossificans Progressivaと表記され、その頭文字をとってFOPと呼ばれます。
日本語の病名を分解して解説します。
進行性とは、時間とともに症状が進んでいくこと。
骨化性とは、骨ができること。
線維異形成症とは、線維組織(筋肉や腱など)が異常な形に変化すること。
つまり、筋肉などの組織が異常を起こし、時間とともに骨になっていく病気という意味です。
通常、人間の体において骨は決まった場所にしかありません。しかし、FOPの患者さんの体では、筋肉、筋膜、腱、靭帯といった軟部組織の中に、本来そこにはないはずの骨が新しく作られてしまいます。これを異所性骨化と呼びます。
新しくできた骨は、正常な骨と同じくらい硬く丈夫です。この骨が関節をまたいで作られてしまうと、関節が動かなくなり、体の動きが制限されるようになります。
日本では指定難病の一つに認定されており、医療費助成の対象となっています。国内の患者数は数十人から百人程度と推定されています。
主な症状
FOPの症状には、生まれつき見られる特徴と、成長とともに現れる症状の二つがあります。
1. 足の親指の変形(母趾の先天的異常)
FOPの最も特徴的で、診断の重要な手がかりとなるのが、足の親指の形です。
ほぼ全ての患者さんに、生まれた時から足の親指が短く、内側(人差し指の方)に曲がっている外反母趾のような特徴が見られます。
これは、足の親指の骨の形が生まれつき変化しているために起こります。赤ちゃんの手足の指に奇形がある場合、他の病気も考えられますが、この特徴的な足の親指に加えて、次に説明する腫れなどの症状がある場合、FOPが強く疑われます。
また、手の親指が短かったり、手の小指が曲がっていたりすることもあります。
2. フレア(炎症性の発作)
生後間もなくから学童期にかけて、体のあちこちにフレアと呼ばれる症状が現れ始めます。
これは、筋肉や周りの組織に起こる強い炎症のことです。
ある日突然、首や背中、頭、肩などの筋肉が、こぶのように腫れ上がり、赤くなり、熱を持ち、触ると痛がります。お子さんが小さいうちは、痛みのために不機嫌になったり、泣いたりすることがあります。
この腫れは、触ると硬いゴムのような感触がします。
フレアは、数日から数週間続くことが多く、その後、炎症は徐々に治まりますが、その過程で腫れていた部分が骨に置き換わっていくことがあります。
ただし、全てのフレアが必ず骨になるわけではありません。腫れが引いて、骨にならずに元に戻ることもあります。
3. 異所性骨化と可動域制限
フレアが起きた後、あるいはフレアのようなはっきりした腫れがないまま静かに進行する場合もありますが、筋肉の中に骨が作られます。
この異所性骨化は、一般的に体の上から下へ、中心から末端へと進む傾向があります。
つまり、首、肩、背中といった部分から始まり、腰、股関節、肘、膝といった関節へと広がっていくことが多いです。
背中や首に骨ができると、背骨が固まって曲がらなくなったり、姿勢が固定されたりします。
肩や腕に骨ができると、腕が上がらなくなります。
あごの周りの筋肉が骨化すると、口が開きにくくなり、食事や歯磨きが難しくなる開口障害が起こることがあります。
胸郭(肋骨の周り)の筋肉が骨化すると、胸を大きく広げることが難しくなり、呼吸機能に影響が出ることがあります。
4. その他の症状
聴覚障害
伝音性難聴といって、耳の骨の動きが悪くなることによる難聴が見られることがあります。
脱毛
フレアが起きた部分の皮膚の毛が抜けることがありますが、炎症が治まるとまた生えてくることもあります。
原因
なぜ、筋肉が骨に変わってしまうのでしょうか。その原因は、遺伝子の突然変異にあることが分かっています。
ACVR1遺伝子の変異
FOPの原因は、第2番染色体にあるACVR1(エーシーブイアールワン)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、骨形成因子(BMP)受容体というタンパク質の設計図になっています。
少し難しい話になりますが、簡単に説明します。
私たちの体には、骨を作るように命令するBMP(ビーエムピー)という物質があります。
細胞の表面には、このBMPを受け取るためのアンテナ(受容体)があります。
通常、このアンテナは、BMPがくっついた時だけスイッチがオンになり、骨を作れという指令を細胞の中に伝えます。
しかし、FOPの患者さんの場合、遺伝子の変異によってこのアンテナの形が少し変わっており、BMPがくっついていない時でもスイッチが入りやすくなっていたり、本来は骨を作る指令を出さないはずの別の物質(アクチビンAなど)に反応してスイッチが入ってしまったりします。
つまり、骨を作るスイッチが壊れて、常にオンになりやすい状態、あるいは誤作動を起こしやすい状態になっているのです。
そのため、筋肉に怪我や炎症が起きると、体はそれを修復しようとしますが、その過程で誤って強力に骨を作れという指令が出てしまい、筋肉が骨に変わってしまうのです。
遺伝のしくみ
FOPは常染色体顕性遺伝(以前の優性遺伝)という形式をとります。
これは、親から子へ50パーセントの確率で伝わる形式です。
しかし、FOPの患者さんのほとんどは、ご両親は健康で遺伝子にも異常がなく、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起きた新生突然変異(de novo変異)によるものです。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。

診断と検査
診断において最も重要なのは、絶対に生検(患部の一部を切り取って調べる検査)をしてはいけないということです。
1. 臨床診断(見た目と症状)
医師は、以下の2つの特徴を確認します。
足の親指が生まれつき短く曲がっていること。
筋肉や軟部組織に腫れ(フレア)や硬いしこり、あるいは骨化が見られること。
この2点が揃っていれば、FOPの可能性が非常に高いと判断されます。
2. 画像検査
レントゲンやCT検査を行い、本来骨がない場所に骨ができているかを確認します。
ただし、フレアが起きたばかりの時期はまだ骨になっていないため、レントゲンには写りません。MRIや超音波検査で炎症の様子を見ることもあります。
3. 遺伝学的検査
確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。
ACVR1遺伝子に変異があるかどうかを調べます。
採血などの針を刺す行為自体もフレアのきっかけになる可能性があるため、熟練したスタッフが慎重に行います。
禁忌事項(やってはいけない検査)
繰り返しになりますが、腫れている部分が何なのか調べるために、組織の一部を切り取る生検(バイオプシー)を行うことは禁忌です。
また、筋肉注射や、不要な手術も避けなければなりません。
これらは筋肉に傷をつけ、炎症を引き起こし、劇的な骨化を招く原因となるからです。診断がつかずに「謎の腫瘍」として手術をしてしまい、かえって症状が悪化してしまうケースが過去には多くありました。早期に正しい診断を受けることが、お子さんの体を守るために何より重要です。
治療と管理
現在、FOPを完全に治す、つまり遺伝子を修復したり、できてしまった骨を溶かして元に戻したりする治療法はまだ確立されていません。
しかし、進行を遅らせるための薬の研究は進んでおり、いくつかの薬が臨床試験の段階にあります。また、日々の生活での注意によって、新たな骨化を防ぐことができます。
1. 怪我や外傷の予防(最も重要)
FOPの管理で最も大切なのは、フレアのきっかけを作らないことです。
転倒や打撲
転んで筋肉を強く打つことが骨化の引き金になります。家具の角にクッション材を貼る、滑り止めのマットを敷くなど、家の中の環境を整えます。学校生活でも、激しい接触を伴うスポーツは避ける必要があります。
筋肉注射の回避
予防接種(ワクチン)を受ける際は、筋肉注射ではなく、皮下注射で行う必要があります。主治医とよく相談し、接種部位や方法を検討します。また、麻酔の注射なども慎重に行う必要があります。
手術の回避
骨化した部分を手術で取り除いても、手術の傷が刺激となって、さらに大きな骨ができてしまうため、基本的には手術で骨を取ることは行いません。
ウイルス感染の予防
インフルエンザなどのウイルス感染がフレアの引き金になることがあります。手洗い、うがいを徹底し、感染予防に努めます。
2. フレアが起きた時の治療
もし腫れや痛み(フレア)が出てしまった場合は、できるだけ早く(できれば24時間以内に)ステロイド薬(プレドニゾロンなど)を短期間服用することで、炎症を抑え、骨化を軽減できる可能性があります。
そのため、普段から主治医と相談し、フレアが起きた時にすぐに薬が飲めるように準備しておくことが推奨されます。
また、痛みが強い場合は、痛み止め(NSAIDsなど)を使用します。
3. 日常生活の工夫とリハビリテーション
できてしまった骨によって関節が動かなくなっても、生活の質を維持するための工夫はたくさんあります。
リハビリテーション
無理に動かそうとするストレッチやマッサージは、筋肉を傷つけて骨化を促進してしまうため、絶対に行ってはいけません。
FOPのリハビリは、動かなくなった状態でいかに生活するかを工夫すること、そしてまだ動く部分の機能を維持することに重点を置きます。
例えば、呼吸機能が低下しないように深呼吸の練習をしたり、口が開かなくても食事ができるように栄養指導を受けたりします。
自助具の活用
腕が上がらなくても髪をとかせる柄の長いブラシ、靴下を履くための道具、マジックハンドなど、便利な道具(自助具)を活用することで、自立した生活を送ることができます。
4. 薬物療法(進行抑制)
現在、骨化を抑えるための新しい薬の開発が世界中で進められています。
パロバロテン(Palovarotene)
日本を含むいくつかの国で、FOPに対する治療薬として承認、あるいは臨床試験が進められている薬です。レチノイドという成分の一種で、骨化の指令を抑える働きが期待されています。
その他にも、アクチビンAに対する抗体薬など、病気のメカニズムに基づいた様々な薬が開発されています。主治医の先生から最新の情報を得ることが大切です。
まとめ
進行性骨化性線維異形成症(FOP)についての重要なポイントを振り返ります。
- 病気の本質: ACVR1遺伝子の変異により、筋肉などが骨に変わってしまう病気です。
- サイン: 生まれつきの足の親指の変形(短く曲がっている)が最大の特徴です。
- 注意点: 筋肉に傷をつけること(打撲、筋肉注射、手術、生検)が骨化の引き金になります。これらを避けることが最大の防御です。
- リハビリ: 無理なストレッチは厳禁です。生活を工夫するためのリハビリを行います。
- 希望: 新薬の開発が急速に進んでおり、治験や承認薬のニュースが続いています。
