3-ヒドロキシ-3-メチルグルタル酸血症

3-Hydroxy-3-Methylglutaryl- Coenzyme A Lyase Deficiency, HMGCL

概要 | Overview

3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAリアーゼ欠損症(HMGCLD)は、極めて稀な常染色体劣性遺伝性代謝異常症であり、ケトン体合成と分岐鎖アミノ酸ロイシンの代謝に関わるHMGCL遺伝子の機能喪失変異に起因します。HMGCL遺伝子は、ミトコンドリア内に存在する3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAリアーゼ(HMG-CoAリアーゼ)という酵素をコードしており、この酵素はHMG-CoAをアセト酢酸とアセチルCoAに分解する役割を担います。この代謝経路は、脂肪酸からのエネルギー産生(ケトン体合成)およびロイシンの分解において不可欠です。

本疾患では、ケトン体合成の障害により、飢餓状態や感染症などの代謝ストレス時に急性代謝失調を来し、低血糖、ケトン体の欠乏、代謝性アシドーシス、意識障害、痙攣、昏睡に至ることもあります。診断と管理の遅れは重篤な神経学的後遺症や死亡につながることがあるため、早期の診断と介入が極めて重要です。

疫学 | Epidemiology

HMGCLDは非常に稀で、出生10万人あたりの有病率は1未満と報告されています。ただし、近親婚の頻度が高い地域、特にサウジアラビアでは発症率が2倍以上に達することが知られています。全世界的には散発的に報告されており、特定集団に偏った流行傾向はありません。

病因 | Etiology

本疾患は、染色体1p36.11に位置するHMGCL遺伝子のホモ接合または複合ヘテロ接合変異によって生じます。HMG-CoAリアーゼは、脂肪酸のβ酸化によって産生されたアセチルCoAをHMG-CoA合成酵素でHMG-CoAに変換した後、このHMG-CoAをアセト酢酸とアセチルCoAに分解します。この最終段階の酵素が欠損すると、ケトン体(アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトン)の産生ができなくなり、飢餓時の代替エネルギー供給が遮断されます。また、ロイシン代謝の終末段階にも障害が生じ、特有の有機酸が体内に蓄積します。

症状 | Symptoms

臨床症状は乳児期早期、特に生後数か月以内に初めて出現することが多く、急性代謝失調の形で発症します。主な症状は以下の通りです:

  • 嘔吐、下痢、脱水
  • 低血糖(特にケトン体を伴わない低血糖)
  • 代謝性アシドーシス(血中pHの低下)
  • 傾眠、嗜眠、筋緊張低下(仮性麻痺)
  • 痙攣、昏睡、呼吸障害
  • 意識障害を伴う急激な神経症状

これらの発作は感染症、ワクチン接種、長時間の絶食、激しい運動、心理的・身体的ストレスなどによって誘発されやすく、治療されない場合は致死的となることもあります。また、長期的には精神運動発達遅滞、痙性麻痺、小脳失調、言語発達遅延、注意欠如・多動性といった神経学的後遺症がみられることがあります。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

診断は、新生児マススクリーニングや発作時の血液・尿検査により行われます:

  • 血液検査:低血糖、代謝性アシドーシス(高アニオンギャップ)、高アンモニア血症、肝酵素上昇
  • 尿中有機酸分析:3-ヒドロキシ-3-メチルグルタル酸、3-メチルグルタル酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸などの異常有機酸の増加
  • 新生児スクリーニング:タンデムマススペクトロメトリーによるC5-OH(3-ヒドロキシイソ吉草酸カルニチン)の上昇
  • 酵素活性測定:リンパ球、線維芽細胞、または不死化リンパ芽球を用いたHMGCL活性の低下
  • 遺伝子検査:HMGCL遺伝子における病的変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合)の同定(Sanger法や次世代シーケンシング)

また、非侵襲的出生前診断により、対象遺伝子の変異スクリーニングを行うことも可能です。

治療法と管理 | Treatment & Management

HMGCLDの管理には、代謝ストレスの回避と急性発作時の迅速な対応が求められます。主な治療方針は以下の通りです:

  • 食事療法:ロイシンおよび全体的なタンパク質制限食。低ロイシン食は、神経毒性を引き起こす有機酸の蓄積を抑制します。
  • 栄養補助:十分な炭水化物摂取による糖新生促進および代謝的安定化。カルニチン補充は、脂肪酸代謝を補助する目的で投与されることがあります。
  • 急性期対応:静脈内ブドウ糖輸液、重炭酸ナトリウムによるアシドーシスの補正、痙攣や意識障害への対症療法
  • 感染症の早期治療とワクチン接種後の代謝モニタリング

これらの治療戦略は、特に乳児期早期に診断され、適切に管理された場合に予後の改善に大きく寄与します。

予後 | Prognosis

HMGCLDの予後は、診断と治療のタイミングに大きく依存します。早期に診断され、栄養管理と代謝危機の予防が徹底された患者では、高い生存率と生活の質の維持が可能です。一方、代謝性アシドーシスや重度の低血糖が繰り返されると、不可逆的な中枢神経障害が残る可能性があります。発作を繰り返す未治療例では、死亡率も高く、初回発作での死亡例も報告されています。神経学的後遺症の程度は個人差があり、発症年齢、発作頻度、治療開始時期に依存するとされています。

引用文献 | References

キーワード | Keywords

HMGCLD, ケトン体, ケトン体合成, 低血糖, 代謝性アシドーシス, ミトコンドリア病, ロイシン代謝異常, HMGCL遺伝子, 先天性代謝異常症, 小児疾患, 遺伝性疾患, 有機酸尿症, 高校生向け医療記事, エネルギー代謝, ヒロクリニック