医師からCortical Dysplasia, Complex, with Other Brain Malformations 5という非常に長く、難解な診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
生まれたばかりの赤ちゃん、あるいは乳幼児期のお子様に、日本語の定まった呼び方もまだ浸透していないような難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても報告数が少なく、希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、小児神経や遺伝の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない疾患概念です。
この長い診断名を日本語に訳すと、脳皮質異形成と他の脳奇形を伴う複合体5型となります。医療現場や医学論文では、頭文字をとってCDCBM5(シー・ディー・シー・ビー・エム・ファイブ)と呼ばれることが一般的です。
この病気は、お母さんのお腹の中で脳が作られる過程において、神経細胞の並び方や脳の構造の形成に何らかの変化が生じた状態です。その原因として、TUBB2Aという特定の遺伝子に変化が起きていることが分かっています。
脳奇形という言葉や5型という数字に圧倒されてしまうかもしれませんが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、単に重症度を表す数字ではありません。
また、原因が遺伝子にあることが分かったということは、これから起こりうることへの対策が立てやすくなり、お子さんに合った療育やケアのプランを考えるための地図を手に入れたということでもあります。
概要:どのような病気か
脳皮質異形成と他の脳奇形を伴う複合体5型(CDCBM5)は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳の形成、特に大脳皮質と呼ばれる脳の表面部分や、大脳基底核と呼ばれる脳の深部の形成に影響が出る疾患です。
まず、この長い病名の意味を分解して理解していきましょう。
脳皮質異形成とは
脳の表面には、神経細胞が整然と層をなして並んでいます。これを大脳皮質といいます。脳が発達する過程で、神経細胞は脳の深部で生まれ、表面に向かって移動し、正しい場所に整列します。このプロセスを神経細胞移動といいます。
この移動や整列がうまくいかず、層構造が乱れたり、脳のしわが厚くなったり、あるいはしわがなくなってつるつるになったりする状態を、脳皮質異形成といいます。
他の脳奇形を伴うとは
CDCBM5では、大脳皮質だけでなく、他の部分にも構造的な特徴が見られます。特によく見られるのが、大脳基底核と呼ばれる運動の調整に関わる部分の形成異常や、右脳と左脳をつなぐ脳梁の形成不全、小脳の低形成などです。
複合体とは
これらの症状が組み合わさって現れる症候群であることを意味しています。
5型とは
CDCBMには原因となる遺伝子によっていくつかのタイプがあり、TUBB2Aという遺伝子の変異によるものが5型と分類されています。
このTUBB2A遺伝子の変異による病気は、チューブリン症(Tubulinopathy)という大きなグループにも属しています。これは、細胞の骨組みを作るチューブリンというタンパク質に関連する遺伝子の病気の総称です。
つまり、CDCBM5はTUBB2A遺伝子の変化により、大脳の形や構造がうまく作られず、それによって発達の遅れやてんかんなどの症状が現れる病気です。
主な症状
CDCBM5の症状は、脳の構造的な特徴、神経学的な症状、そして発達の特徴に大きく分けられます。お子さんによって症状の重さや出方は異なりますが、これまでに報告されている代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。
1. 脳の構造的な特徴(画像検査で見つかるもの)
MRI検査などで分かる脳の形の特徴は、この病気の診断の決め手となる重要な要素です。
単純化された脳回(しわ)
脳の表面のしわが少なく、幅が広くなっている状態が見られます。これを厚脳回(こうのうかい)や、部分的な滑脳症(かつのうしょう)と呼ぶことがあります。
また、逆に非常に細かいたくさんの小さなしわができる多小脳回(たしょうのうかい)が見られることもあります。これらは、神経細胞が正しい場所にたどり着けなかったことを示しています。
大脳基底核の異形成
脳の奥深くにある大脳基底核という部分(尾状核、被殻、淡蒼球など)が融合していたり、形がいびつだったりすることがあります。これはチューブリン症に特有の所見の一つとされています。
脳梁の低形成
右脳と左脳をつなぐ脳梁が薄い、あるいは短いといった特徴が見られることがあります。
小脳や脳幹の低形成
バランスを司る小脳や、生命維持に関わる脳幹が小さいことがあります。
2. 神経学的な症状
脳の構造の変化に伴って、様々な神経症状が現れます。
てんかん発作
多くの患者さんでてんかん発作が見られます。発症時期は乳児期から幼児期と幅広いです。発作のタイプも様々で、体の一部がピクつく発作、全身が硬直する発作、てんかん性スパズム(お辞儀をするような発作)などがあります。
薬でコントロールできる場合もありますが、中には複数の薬を使っても発作が止まりにくい難治性てんかんとなることもあります。
筋緊張の異常
赤ちゃんの頃は、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることが非常に多いです。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、首のすわりが遅れたりします。
成長とともに、逆に手足の筋肉が突っ張って硬くなる痙縮(けいしゅく)が見られるようになり、手足の自由が利きにくくなることもあります。
小頭症
生まれた時の頭の大きさは正常範囲内でも、成長とともに頭囲(頭の大きさ)の増え方が緩やかになり、相対的に頭が小さくなる小頭症が見られることがよくあります。これは脳の成長がゆっくりであることを反映しています。
3. 発達と知能の症状
脳全体の形成に関わる病気であるため、発達への影響は避けられません。
重度の発達遅滞
首がすわる、お座りをする、ハイハイをする、歩くといった運動面の発達が、一般的なペースよりもかなりゆっくりになります。
多くの場合、歩行の獲得には長い時間がかかるか、あるいは車椅子などの補助具が必要になることがあります。
知的障害
言葉の理解や発語など、知的な発達にも遅れが見られます。重度の知的障害を伴うことが一般的です。言葉によるコミュニケーションが難しい場合もありますが、表情や声のトーン、身振りなどで感情を伝えることは可能です。
4. その他の身体症状
視覚的な問題
斜視(目の位置がずれる)や眼振(黒目が揺れる)が見られることがあります。また、目そのものの構造には問題がなくても、脳が映像を処理することが苦手なために、ものを見ることが難しい皮質視覚障害が見られることもあります。
顔つきの特徴
おでこが傾斜している、あごが小さいなど、いくつかのお顔立ちの特徴が報告されていますが、これらは個人差が大きく、ご両親に似た可愛らしいお顔をしているお子さんがほとんどです。
原因
なぜ、脳の形が変わったり、発達が遅れたりするのでしょうか。その原因は、脳を作るための細胞の「レール」のトラブルにあります。
TUBB2A遺伝子の役割
CDCBM5の原因は、第6番染色体にあるTUBB2A(タブ・ビー・ツー・エー)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、ベータ・チューブリンというタンパク質を作るための設計図です。
チューブリンは、細胞の中に微小管という非常に細い管を作る成分です。
この微小管は、細胞の骨組みとなって形を保つ役割だけでなく、細胞の中で物質を運んだり、細胞自体が動いたりするためのレールのような役割を果たしています。
脳が作られる時期には、神経細胞が脳の深部で生まれ、表面に向かって長い旅をします。この時、神経細胞はこの微小管というレールを使って移動するのです。
遺伝子の変化による影響
TUBB2A遺伝子に変異が起きると、このレールの成分であるチューブリンがうまく作られなかったり、形がおかしくなったりします。
すると、レールが途中で曲がったり、不安定になったりしてしまいます。
その結果、神経細胞が正しい場所まで移動できずに途中で止まってしまったり、間違った場所に配置されたりします。
これにより、脳の表面のしわが異常になったり(厚脳回や多小脳回)、脳の奥の構造(基底核)がうまく形作られなかったりするのです。
これを神経細胞移動障害と呼びます。
遺伝について
多くのご家族が、親から遺伝したのか、妊娠中の生活に問題があったのかとご自身を責めてしまわれます。
しかし、CDCBM5のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。
これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にTUBB2A遺伝子に変化が起きたことを意味します。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。
診断と検査
診断は、症状の観察、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 画像検査(MRI)
CDCBM5を疑う上で、MRI検査は最も重要な検査です。
脳の断層写真を撮ることで、以下のような特徴がないかを詳しく調べます。
脳のしわの異常(厚脳回、多小脳回、滑脳症など)
大脳基底核の形の異常(特に尾状核や被殻の融合や欠損)
脳梁の低形成
小脳や脳幹の低形成
特に、大脳基底核の異常と皮質の異常がセットで見られる場合、TUBB2Aを含むチューブリン遺伝子の異常が強く疑われます。
2. 脳波検査
てんかん発作がある場合や、発作が疑われるような動作が見られる場合に行われます。
脳の電気活動を記録し、てんかん性の波(スパイク)が出ていないかを確認します。発作のタイプを特定し、治療薬を決めるために不可欠な検査です。
3. 遺伝学的検査
確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。
MRIで特徴的な脳の形が見つかっても、それだけでCDCBM5と断定することはできません。他のチューブリン遺伝子(TUBA1A, TUBB2B, TUBB3など)でも似たような脳の形になることがあるからです。
近年急速に普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた全エクソーム解析(WES)や、脳奇形に関連する遺伝子パネル検査が行われることが一般的です。
これにより、TUBB2A遺伝子に変異があることが確認されれば、CDCBM5という確定診断に至ります。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して脳の形を元に戻すような根本的な治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。
1. てんかんの治療
てんかん発作をコントロールすることは、脳の発達を守るためにも非常に重要です。
抗てんかん薬による治療が中心となります。発作のタイプに合わせて、バルプロ酸、レベチラセタム、クロバザム、ラモトリギン、トピラマートなど、様々なお薬が試されます。
一つのお薬で止まらない場合は、複数を組み合わせたりします。難治性の場合は、ケトン食療法などの食事療法が検討されることもあります。
2. 発達支援と療育(リハビリテーション)
早期からの療育が、お子さんの成長と生活の安定にとって非常に重要です。
理学療法(PT)
体の柔らかさ(筋緊張低下)や、逆に筋肉の突っ張り(痙縮)に対してアプローチします。
首すわりやお座りの練習、関節が硬くならないようなマッサージやストレッチを行います。
歩行が難しい場合は、座位保持装置(座るための椅子)や車椅子、バギー、立位台など、お子さんの体に合った福祉用具を作る際にも専門的なアドバイスを受けます。適切な姿勢を保つことは、呼吸や食事をスムーズにするためにも大切です。
作業療法(OT)
手先の感覚を養ったり、遊びを通じて外界への興味を引き出したりします。また、食事や着替えの介助方法など、日常生活をスムーズにするための工夫を学びます。
言語聴覚療法(ST)
言葉の理解を促すだけでなく、コミュニケーションの方法を探ります。言葉が出にくい場合でも、絵カードやスイッチ、視線入力装置などを使うことで意思疎通ができるようになることがあります。
また、食べる機能(摂食嚥下)の訓練も行います。飲み込みが難しい場合は、食事の形態(とろみの調整など)や介助の姿勢について指導を受けます。

3. 栄養と呼吸の管理
摂食・嚥下管理
飲み込む力が弱く、口から十分に栄養が摂れない場合は、鼻からチューブを入れたり、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる胃ろうを作ったりして、十分な栄養を確保します。胃ろうは、誤嚥のリスクを減らし、お子さんとご家族の食事時間のストレスを軽減するための有効な手段です。
呼吸管理
筋緊張が弱いと呼吸をする力も弱くなることがあります。風邪を引いたときに痰が出しにくかったり、睡眠中に呼吸が浅くなったりすることがあります。必要に応じて吸引器を使用したり、在宅酸素療法を行ったりします。
4. 整形外科的ケア
成長とともに、背骨が曲がる側弯症や、股関節の脱臼などが起きることがあります。定期的に整形外科を受診し、必要に応じて装具の使用や手術などを検討します。
まとめ
脳皮質異形成と他の脳奇形を伴う複合体5型(CDCBM5)についての重要なポイントを振り返ります。
病気の本質
TUBB2A遺伝子の変異により、脳の形成段階で神経細胞の移動がうまくいかず、大脳皮質や基底核の構造に変化が生じる先天性の疾患です。
主な特徴
MRIでの脳のしわの異常(厚脳回、多小脳回など)や基底核の異常、重度の発達遅滞、てんかん、小頭症などが特徴です。
治療の方針
てんかん発作のコントロールと、リハビリテーションによる発達支援が治療の中心となります。
原因
多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
ケアの要点
医療的なケアだけでなく、お子さんの「できること」や「好きなこと」に目を向け、心地よい生活環境を整えることが大切です。
