医師からクルーゾン症候群という診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
生まれたばかりの赤ちゃん、あるいは幼少期のお子様に、聞き慣れない病気の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。インターネットで検索をしても、難しい医学用語ばかりが並んでいたり、不安を煽るような画像が出てきたりして、さらに心を痛めているかもしれません。
クルーゾン症候群は、頭の骨や顔の骨の成長の仕方に特徴が現れる先天性の疾患です。医学的には頭蓋縫合早期癒合症というグループに含まれる代表的な病気の一つです。
この病気は、適切な時期に適切な治療を受けることで、機能的な問題を改善し、その子らしい生活を送ることができる病気です。形成外科、脳神経外科、矯正歯科、眼科など、多くの専門家がチームとなってお子さんの成長を支える体制が、現在の医療では整っています。
概要:どのような病気か
クルーゾン症候群は、生まれつきの遺伝子の変化によって、骨の成長、特に頭蓋骨と顔面の骨の成長に影響が出る疾患です。
フランスの医師であるクルーゾン博士によって最初に報告されたことから、この名前がついています。
この病気の最大の特徴は、赤ちゃんの頭の骨のつなぎ目である縫合線が、通常よりも早い時期に閉じてくっついてしまうことです。
私たちの頭蓋骨は、いくつかのプレート状の骨がパズルのように組み合わさってできています。赤ちゃんの頃は、この骨と骨のつなぎ目が開いていて、脳の急激な成長に合わせて骨が広がり、頭が大きくなれるようになっています。
しかし、この病気では、そのつなぎ目が早くに閉じて骨になってしまいます。これを頭蓋縫合早期癒合症といいます。
骨がくっついてしまうと、その方向には頭が大きくなれないため、頭の形がいびつになったり、行き場を失った脳の圧力が高まったりすることがあります。また、頭だけでなく、顔の真ん中の骨(上あごや鼻の周辺)の成長もゆっくりになるため、相対的に目が大きく見えたり、噛み合わせが合わなくなったりするという特徴があります。
アペール症候群やファイファー症候群など、似たような症状を持つ他の病気もありますが、クルーゾン症候群の大きな特徴は、手足の指には異常が見られないことです。手足の形や動きは通常通りであることがほとんどです。
また、知的な発達については、正常範囲内であるお子さんが多いのも特徴の一つです。ただし、脳への圧力が長く続いたり、水頭症などを合併したりした場合には影響が出ることもあるため、適切な時期に治療を行うことが大切です。
主な症状
この病気の症状は、頭や顔の形、目や耳の機能、呼吸や噛み合わせなど多岐にわたります。お子さんによって症状の重さや出る時期は異なりますが、代表的なものを見ていきましょう。
1. 頭蓋骨の特徴
多くの患者さんにおいて、生まれた時、あるいは生後数ヶ月のうちに頭の形の特徴に気づかれます。
頭の形の変化
頭の骨のつなぎ目が早く閉じてしまうため、閉じた場所によって頭の形が変わります。
例えば、頭のてっぺんが尖ったようになったり、前後が短く横幅が広くなったり、おでこが前に出っ張ったりします。複数のつなぎ目が同時に閉じてしまうと、クローバー葉頭蓋と呼ばれる特徴的な形になることもあります。
頭蓋内圧亢進
脳が成長しようとしているのに頭蓋骨が広がらないと、頭の中の圧力(頭蓋内圧)が高くなってしまいます。これにより、不機嫌になったり、嘔吐したり、頭痛を訴えたりすることがあります。乳児の場合は、大泉門(おでこの上の柔らかい部分)が盛り上がっていることで気づかれることもあります。
2. 顔面の特徴
顔面低形成
顔の真ん中あたり(中顔面)の骨の成長が、頭の後ろや下あごに比べてゆっくりです。そのため、顔の中央が少しへこんだように見えたり、鼻が低くなったりします。
受け口(反対咬合)
上あごの骨の成長が悪いのに対し、下あごは通常通り成長するため、下の歯が上の歯よりも前に出る受け口の状態になりやすくなります。
3. 目の症状
眼球突出
目の周りの骨(眼窩)が浅くなるため、眼球が前に出っ張っているように見えます。目がクリッとして大きく見えるのが特徴的ですが、まぶたが完全に閉じにくくなることがあります。
眼間開離
両目の間隔が離れて見えることがあります。
視力への影響
頭蓋内圧が高くなると、視神経が圧迫されて視力が低下することがあります。また、目の位置の関係で斜視になったり、乱視が強くなったりすることもあります。
4. 呼吸の症状
上気道閉塞
鼻の奥の通り道や、空気の通り道である気道が狭くなることがあり、鼻づまりやいびきが見られることがあります。
特に睡眠時に呼吸が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群を合併することが多く、良質な睡眠が妨げられる原因になります。
5. 耳と聞こえの症状
伝音性難聴
耳の穴が狭かったり、中耳の骨の動きが悪かったりして、音が伝わりにくい難聴になることがあります。滲出性中耳炎になりやすい傾向もあります。
6. その他の症状
水頭症
脳の中にある脳室という部屋に、脳脊髄液という液体が過剰にたまってしまう状態で、さらに脳圧を上げる原因になります。
キアリ奇形
小脳の一部が脊髄の方へ落ち込んでしまう状態で、頭痛やめまいなどの神経症状の原因になることがあります。
原因
なぜ、骨が早くくっついてしまうのでしょうか。その原因は、細胞の成長をコントロールする指令の誤作動にあります。
FGFR2遺伝子の変異
クルーゾン症候群の患者さんの多くで、第10番染色体にあるFGFR2(エフ・ジー・エフ・アール・ツー)という遺伝子の変異が見つかります。
ごく一部の患者さんでは、FGFR3遺伝子の変異が原因となることもあります(この場合、黒色表皮腫という皮膚症状を伴うことがあります)。
FGFR2遺伝子は、線維芽細胞増殖因子受容体2というタンパク質を作る設計図です。
この受容体は、骨を作る細胞の表面にあって、外からの「骨になりなさい」「増えなさい」という命令を受け取るアンテナのような役割をしています。
変異による影響
遺伝子に変異があると、このアンテナの感度が良くなりすぎたり、命令が来ていないのに勝手にスイッチオンの状態になったりしてしまいます。
すると、骨の継ぎ目にある細胞に対して、本来よりも早く「骨になってくっつきなさい」という指令が出続けてしまいます。その結果、まだ成長が必要な時期に継ぎ目が骨に変わってしまい、早期癒合が起こるのです。
遺伝について
この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。
これは、両親のどちらかがこの病気である場合、50パーセントの確率でお子さんに遺伝することを意味します。
しかし、実際にはご両親は健康で遺伝子にも異常がなく、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起きた新生突然変異(de novo変異)によるケースも半数以上見られます。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。
診断と検査

診断は、特徴的な見た目の症状、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 身体所見の確認
医師は、頭の形、顔立ち、手足の指の状態などを詳しく観察します。
手足の指にくっつきがない(合指症がない)ことは、アペール症候群など他の病気と区別する上で重要なポイントになります。
2. 画像検査
レントゲン検査
頭蓋骨の縫合線が閉じているかどうかを確認します。また、指圧痕といって、脳圧が高いために頭蓋骨の内側が脳の形に合わせてボコボコと薄くなっている所見が見られることがあります。
CT検査(3D-CT)
頭蓋骨や顔面の骨の形を立体的に詳しく調べます。どの縫合線が閉じているか、眼窩の形はどうなっているか、手術の計画を立てるために不可欠な検査です。被曝量を抑えた撮影方法が選択されます。
MRI検査
骨ではなく脳そのものの状態を見るために行います。水頭症の有無や、キアリ奇形の有無、脳の構造に異常がないかなどを調べます。
3. 遺伝学的検査
確定診断のために、血液を採取してDNAを調べる検査が行われます。
FGFR2遺伝子に変異があるかどうかを確認します。診断が確定することで、将来の見通しを立てやすくなったり、公的な医療費助成の申請に役立ったりします。
4. その他の検査
眼科検査
視力、眼底検査(視神経のむくみがないか)、斜視の検査などを行います。
聴力検査
難聴がないか、鼓膜の動きはどうかなどを調べます。
睡眠検査
睡眠時無呼吸がないかを調べるために、入院して睡眠中の呼吸状態をモニターする検査を行うことがあります。
治療と管理
クルーゾン症候群の治療は、長期間にわたる計画的なアプローチが必要です。一度の手術で終わりではなく、お子さんの成長に合わせて、適切な時期に適切な治療を行っていきます。
1. 頭蓋骨の手術(乳幼児期)
脳が成長するためのスペースを確保し、頭蓋内圧を下げること、そして頭の形を整えることが目的です。
生後数ヶ月から1歳頃に行われることが多いです。
頭蓋形成術
癒合してしまった骨のつなぎ目を切り離し、骨を広げて固定する手術です。
最近では、骨延長法(ディストラクション)という方法が多く採用されています。これは、骨を切った後に延長器という装置を取り付け、毎日少しずつネジを回して骨の間を広げていく方法です。
皮膚を伸ばしながらゆっくり骨を広げられるため、体への負担が少なく、大きな容積を確保できるメリットがあります。
2. 顔面の手術(学童期〜思春期)
顔の中央部を前に出すことで、呼吸を楽にし、眼球を保護し、噛み合わせを改善することが目的です。
骨の成長がある程度進んだ時期(小学校高学年以降など)に行われることが多いですが、呼吸障害や眼球突出が重度の場合は、もっと早い時期に行うこともあります。
ル・フォーIII型骨切り術・顔面骨延長術
顔の骨を頭蓋骨から切り離し、ハロー装置という頭につける枠を使って、数週間かけてゆっくりと顔の骨全体を前に引き出します。
これにより、へこんでいた顔の中央が前に出て、立体的な顔立ちになり、気道が広がって呼吸がしやすくなります。
モン・ブロック骨切り術
おでこの骨と顔の骨を一体として前に出す手術です。状況に応じて選択されます。
3. 呼吸の管理
睡眠時無呼吸がある場合は、CPAP(シーパップ)という鼻マスクをつけて寝る治療を行ったり、アデノイドや扁桃腺を切除する手術を行ったりします。
重度の呼吸障害がある場合は、一時的に気管切開を行うこともありますが、顔面の手術によって気道が広がれば、気管切開を閉じられる可能性が高まります。
4. 眼科的ケア
眼球突出がある場合、まぶたが閉じにくく、角膜(黒目)が乾燥して傷つきやすくなります。点眼薬や軟膏で保湿ケアを行います。寝ている間に目が開いてしまう場合は、眼帯やテープで保護することもあります。
また、視力の発達を促すために、眼鏡の装用やアイパッチによる訓練を行うこともあります。
5. 歯科・矯正治療
上あごが小さく歯並びが悪くなりやすいため、長期的な矯正治療が必要です。
子供の頃は、上あごを広げる装置を使ったり、成長に合わせて歯並びを整えたりします。最終的には、顔面の手術と合わせて噛み合わせを完成させます。
6. 耳鼻科的ケア
中耳炎になりやすいため、定期的なチェックが必要です。滲出性中耳炎が続く場合は、鼓膜にチューブを入れる処置を行うことで、聞こえを改善し、言葉の発達を助けます。
まとめ
クルーゾン症候群についての重要なポイントを振り返ります。
病気の本質
FGFR2遺伝子などの変異により、頭蓋骨の継ぎ目が早く閉じてしまう先天性疾患です。
主な特徴
頭の形の変化、顔面中央部の形成不全、眼球突出、受け口などが特徴です。手足の指は正常です。
知能
多くの場合、知的な発達は正常範囲内です。
治療の鍵
脳神経外科や形成外科による頭蓋骨・顔面の手術が中心となります。骨延長術などの技術により、予後は大きく改善しています。
チーム医療
眼科、歯科、耳鼻科など、多くの専門科が連携して、お子さんの成長をサポートします。
