ジストニア・難聴症候群1型(Dystonia-Deafness Syndrome 1)

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医師からジストニア・難聴症候群1型、あるいはモール・トラーネビャーグ症候群(Mohr-Tranebjærg syndrome)という非常に稀な診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。

お子様の耳の聞こえが悪くなってきたことや、手足の動きに違和感があることに気づいて受診され、検査の結果この診断にたどり着かれたことと思います。初めて聞く病名に戸惑い、これからどうなっていくのかという大きな不安の中にいらっしゃることでしょう。特にこの病気は世界的に見ても患者数が少ない希少疾患であるため、日本語で書かれた詳しい情報は限られており、インターネットで検索しても専門的な医学論文ばかりが出てきてしまい、孤独を感じてしまっている方もいるかもしれません。

ジストニア・難聴症候群1型は、その名の通り、耳の聞こえにくさである難聴と、自分の意思とは関係なく筋肉に力が入ってしまうジストニアという二つの症状が組み合わさって現れる病気です。この病気は遺伝子の変化によって細胞の中にあるミトコンドリアという器官の働きに影響が出ることで起こります。

かつては原因不明とされていましたが、医学の進歩により原因となる遺伝子が特定され、病気のメカニズムが少しずつ解明されてきました。それに伴い、人工内耳による聴力の回復や、脳深部刺激療法による運動症状の改善など、生活の質を高めるための治療の選択肢も増えてきています。

概要:どのような病気か

ジストニア・難聴症候群1型は、医学的にはMohr-Tranebjærg syndrome(モール・トラーネビャーグ症候群)と呼ばれることが一般的です。DDS1という略称で呼ばれることもあります。

この病気は、進行性の感音難聴(内耳や神経の問題による難聴)と、ジストニア(筋肉の緊張異常)を主な特徴とする、X連鎖性劣性遺伝という形式をとる遺伝性の疾患です。

X連鎖性劣性遺伝とは、性染色体であるX染色体にある遺伝子の変化によって起こるもので、基本的には男性に発症します。女性は保因者といって遺伝子の変化を持っていても発症しないか、ごく軽度の症状で済むことがほとんどです。

病気の経過としては、まず幼少期に耳の聞こえが悪くなることから始まります。その後、しばらく時間が経ってから、思春期あるいは青年期になって筋肉の動きの症状が現れ始めるというパターンをたどることが多いです。

また、視力の低下や、精神的な変化などが現れることもあります。

非常に稀な病気であるため、最初は単なる難聴だと思われていたり、原因不明の運動障害だと思われていたりすることがあります。遺伝子検査技術の進歩によって、これらが一つの原因によるものであることが判明し、診断に至るケースが増えています。

主な症状

この病気の症状は、年齢とともに段階的に現れてくることが大きな特徴です。すべての症状が生まれた時からあるわけではありません。それぞれの時期にどのような変化が起きるのかを詳しく見ていきましょう。

1. 聴覚の症状(進行性感音難聴)

最も早く現れる、この病気の最初のサインです。

多くの患者さんでは、言葉を覚え始める前の乳幼児期、あるいは小学校に上がる前くらいの幼児期に、耳の聞こえが悪くなっていることに気づかれます。

最初は高い音が聞こえにくくなり、徐々に低い音も聞こえにくくなっていきます。最終的には高度の難聴になることが多いですが、補聴器や人工内耳といった機器を使用することで、音を聞き取る力を補うことが可能です。特にこの病気の難聴に対しては、人工内耳が非常に良い効果を発揮することが知られています。

2. 運動の症状(ジストニア)

難聴の発症から数年、時には数十年経ってから現れる症状です。多くは10代から20代にかけて発症します。

ジストニアとは、脳からの指令の調節がうまくいかず、自分の意思とは無関係に筋肉に力が入ってしまったり、体がねじれたり、震えたりする症状のことです。

最初は、字を書くときに手がこわばる、歩くときに足がつっぱる、首が勝手に傾くといった症状から始まることが多いです。

進行すると、全身の筋肉に影響が及び、歩行が難しくなったり、飲み込みがしにくくなったりすることがあります。また、運動失調といって、バランスが取りにくくふらついてしまう症状が見られることもあります。

3. 視覚の症状

成人してから、視力が低下したり、視野(見える範囲)が狭くなったりすることがあります。これは視神経の萎縮によるもので、眼鏡で矯正できる近視や乱視とは異なるものです。色が見分けにくくなることもあります。

4. 精神・神経面の症状

個人差が大きい部分ですが、性格の変化や、気分の落ち込み、不安感といった精神的な症状が見られることがあります。また、長い経過の中で、記憶力や判断力といった認知機能に変化が現れることもあります。

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原因

なぜ、耳が聞こえなくなったり、筋肉が勝手に動いたりするのでしょうか。その原因は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの働きに関係しています。

TIMM8A遺伝子の変異

ジストニア・難聴症候群1型の原因は、X染色体にあるTIMM8A(ティム・エイト・エー)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、デフネス・ジストニア・ペプチド1(DDP1)というタンパク質を作るための設計図になっています。

ミトコンドリアの機能不全

DDP1タンパク質は、細胞の中にあるミトコンドリアという小さな器官の中で働いています。

ミトコンドリアは、酸素を使って私たちが生きていくために必要なエネルギーを作り出す、いわば細胞内の発電所のような場所です。

DDP1は、このミトコンドリアの中に、特定の物質を運び込む輸送トラックのような役割をしています。

TIMM8A遺伝子に変異があると、この輸送トラックがうまく作られなかったり、壊れやすくなったりします。すると、ミトコンドリアの中に必要な物質が届かず、エネルギーをうまく作り出せなくなってしまいます。

人間の体の中でも、特に脳や神経の細胞は大量のエネルギーを必要とします。そのため、ミトコンドリアの機能が低下すると、エネルギー不足になった神経細胞が徐々に弱ってしまい、耳の神経や運動を司る神経に症状が現れるのです。

遺伝のしくみ(X連鎖性劣性遺伝)

この病気は、性染色体の一つであるX染色体に乗っている遺伝子の病気です。

男性はX染色体を1本しか持っていません(XY)。そのため、その1本のX染色体にあるTIMM8A遺伝子に変異があると、必ず発症します。

女性はX染色体を2本持っています(XX)。片方の遺伝子に変異があっても、もう片方の健康な遺伝子がカバーしてくれるため、通常は発症しません(保因者となります)。

母親が保因者の場合、男の子が生まれると50パーセントの確率でこの病気を受け継ぎます。女の子が生まれた場合は50パーセントの確率で保因者となります。

ただし、家系内に誰もこの病気の方がいなくても、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起きる突然変異のケースもあります。遺伝子の変化は誰にでも起こりうることであり、ご両親のせいで起きたわけではありません。

診断と検査

診断は、症状の経過の確認、聴力や脳の検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。

1. 問診と臨床症状の確認

医師は、難聴がいつ頃から始まったか、家族に同じような症状の人がいないか(特に母方の男性親族)を詳しく聞き取ります。

「幼少期からの難聴」があり、その後に「ジストニアなどの運動障害」が現れた男性の場合、この病気を強く疑います。

2. 聴覚検査

オージオメトリー(聴力検査)を行い、どのくらいの音の大きさ、高さが聞こえているかを調べます。

また、聴性脳幹反応(ABR)という検査を行い、音が電気信号として脳に正しく伝わっているかを確認します。この病気では、内耳から脳への伝達経路に障害がある感音難聴のパターンを示します。

3. 画像検査(MRI)

頭部のMRI検査を行います。脳の形や萎縮の有無などを調べます。この病気では、脳の深い部分にある基底核(きていかく)という場所に変化が見られることがあります。また、視神経の萎縮がないかも確認します。

4. 遺伝学的検査

確定診断のために最も重要な検査です。血液を採取してDNAを取り出し、TIMM8A遺伝子に変異があるかどうかを調べます。

この検査で変異が見つかれば、診断は確定します。診断が確定することで、今後の見通しを立てたり、適切な治療法を選択したりすることが可能になります。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)を行うことで、機能を補い、生活の質(QOL)を高く保つことは十分に可能です。

1. 聴覚に対する治療

難聴に対しては、補聴器や人工内耳を使用します。

特にこの病気では、音を感じ取る内耳の細胞や神経が弱っているものの、人工内耳による電気刺激にはよく反応することが分かっています。そのため、補聴器での効果が不十分な場合は、人工内耳埋め込み術が積極的に検討されます。人工内耳を使うことで、言葉の聞き取りが改善し、コミュニケーションがスムーズになることが期待できます。

2. ジストニアに対する治療

筋肉の緊張を和らげ、動きをスムーズにするための治療が行われます。

内服薬による治療

筋肉の緊張をほぐす薬(抗コリン薬、筋弛緩薬など)や、ドーパミン製剤などが試されます。効果には個人差があるため、医師と相談しながらその人に合った薬と量を見つけていきます。

ボツリヌス療法

筋肉が過剰に緊張している部分に、ボツリヌス毒素という薬を注射します。これにより筋肉の緊張を局所的に緩めることができます。首や手足など、特定の場所の症状が強い場合に有効です。

脳深部刺激療法(DBS)

お薬や注射でのコントロールが難しい重症の場合には、外科的な手術が検討されることがあります。

脳の深い部分に電極を埋め込み、微弱な電気刺激を送ることで、異常な神経の活動を調整し、ジストニアの症状を改善させる治療法です。この病気のジストニアに対してDBSが有効であったという報告も多くなされています。

3. リハビリテーション

理学療法(PT)

体のバランスを保つ練習や、関節が硬くならないようにするストレッチ、歩行訓練などを行います。

作業療法(OT)

手の使いにくさがある場合、日常生活の動作(食事、着替え、書字など)をしやすくするための工夫や、補助具の活用などを練習します。

言語聴覚療法(ST)

難聴による言葉の聞き取りの練習や、飲み込みにくさがある場合の嚥下訓練を行います。

4. その他のケア

視力の低下に対しては、眼鏡による矯正や、拡大鏡の使用などの環境調整を行います。

精神的な症状がある場合は、カウンセリングや、必要に応じて安定剤などの薬を使用し、心のケアを行います。

まとめ

ジストニア・難聴症候群1型(DDS1)についての重要なポイントを振り返ります。

病気の本質

TIMM8A遺伝子の変異により、細胞内のミトコンドリアの働きが低下し、神経細胞がエネルギー不足になることで起こる病気です。

主な症状

幼少期からの進行性難聴と、思春期以降に現れるジストニア(筋肉の緊張異常)が二大特徴です。視力や精神面に変化が出ることもあります。

原因

X連鎖性劣性遺伝という形式をとり、主に男性に発症します。母親が保因者である場合と、突然変異の場合があります。

治療の希望

人工内耳による聴力の改善や、DBS手術による運動症状の改善など、生活を支える有効な手段があります。

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