軟骨低形成症(Hypochondroplasia)

医療

お子様が「軟骨低形成症」という診断を受けた、あるいはその疑いがあると言われたご家族の皆様へ。

聞き慣れない病名に、まずは驚き、そしてこれからどうなっていくのかという大きな不安を感じていらっしゃることと思います。特に、インターネットで検索すると似た名前の「軟骨無形成症」の情報がたくさん出てきて、その情報の多さや症状の重さに圧倒されてしまっている方もいるかもしれません。

軟骨低形成症は、その名前の通り、軟骨の形成が少し低下することによって身長の伸びが緩やかになる体質です。軟骨無形成症と兄弟のような関係にある病気ですが、その症状はずっとマイルドで、顔つきの特徴も目立ちにくく、合併症も少ないという特徴があります。

診断される時期も、生まれた時ではなく、保育園や小学校に入って「周りの子より少し背が低いかな?」と気になってから見つかることも多いです。

概要:どのような病気か

軟骨低形成症は、骨の成長に関わる遺伝子の変化によって、手足や身長の伸びが緩やかになる病気です。医学的には「骨系統疾患」という骨の病気のグループに分類されます。

病名の意味を分解してみましょう。「軟骨(chondro)」の形成が「低い(Hypo)」状態である「形成症(plasia)」という意味です。非常によく似た病気に「軟骨無形成症(Achondroplasia)」がありますが、こちらは「無(A)」がついている通り、軟骨への影響がより強いタイプです。軟骨低形成症は、この「無形成症」に比べて症状が軽度(Hypo)であることから名付けられました。

この病気の最大の特徴は、低身長です。胴体の長さに比べて、腕や脚、特に二の腕や太ももといった体の中心に近い部分がやや短くなる傾向がありますが、パッと見ただけではバランスの違いに気づかないこともよくあります。

日本では指定難病の一つに含まれていますが、これは「治らない怖い病気」という意味だけではなく、「国がしっかりと調査研究を行い、治療費の助成などのサポート体制を整えている病気」という意味でもあります。

知的な発達に関しては、全く問題ありません。勉強も運動も、他のお子さんと同じように取り組み、社会で活躍されている方がたくさんいらっしゃいます。

主な症状

軟骨低形成症の症状は、個人差が非常に大きいのが特徴です。ごく軽度で大人になるまで気づかない方もいれば、早期に診断がつく方もいます。ここでは代表的な特徴について、体の部位ごとに詳しく見ていきましょう。

成長と体格の特徴

最も主要な症状は、身長の伸びがゆっくりであることです。

生まれた時の身長や体重は、標準範囲内であることがほとんどです。そのため、出産直後に診断がつくことは稀です。

生後数ヶ月から幼児期にかけて、少しずつ成長曲線が緩やかになっていき、同年代のお子さんと比べて背が低いことが目立ち始めます。

最終的な身長は、治療を行わない場合、男性で145センチメートル前後、女性で135センチメートル前後になると言われていますが、これも個人差があります。現在は成長ホルモン治療などの選択肢があるため、この数値はあくまで自然経過の場合の目安です。

体つきの特徴として、四肢短縮型低身長と呼ばれるバランスが見られます。これは、胴体の長さは比較的保たれているのに対し、手足が少し短いという特徴です。特に、肩から肘までの上腕や、股関節から膝までの大腿部が短い傾向がありますが、軟骨無形成症ほど顕著ではありません。

顔つきと頭部の特徴

お顔立ちの特徴は、軟骨無形成症と比べると非常にマイルドで、ご家族に似た顔立ちであることも多いです。

よく観察すると、おでこが少し広くて丸みを帯びていたり、頭囲(頭の大きさ)が身長の割にやや大きめであったりすることがあります。これを大頭症と呼びますが、健康上の問題になることは少なく、成長とともに目立たなくなっていくことも多いです。

骨格と関節の特徴

骨や関節にもいくつかの特徴が見られます。

  • 肘の伸びにくさ: 肘の関節が完全には真っ直ぐに伸びないことがあります。これを肘関節伸展制限と呼びます。日常生活に大きな支障はありませんが、高いところの物を取るときなどに少し届きにくいと感じることがあるかもしれません。
  • 脚の形: 幼児期から学童期にかけて、O脚(内反膝)が見られることがあります。
  • 背骨のカーブ: 腰の部分の背骨が少し前弯(反り腰)になる傾向があります。
  • 手の形: 手の指が少し短めで、太く見えることがあります。

軟骨無形成症との違い

ここがご家族にとって一番気になる点かもしれません。軟骨無形成症との違いを整理します。

  • 顔立ち: 軟骨無形成症に見られる「鼻の根元が低い」「顔の中央部が奥まっている」といった特徴は、軟骨低形成症ではほとんど見られません。
  • 低身長の程度: 軟骨低形成症の方が、身長の伸び悩みは軽度です。
  • 合併症のリスク: 軟骨無形成症で問題となることがある「脊柱管狭窄症(神経の通り道が狭くなる)」や「水頭症(脳に水がたまる)」などの合併症のリスクは、軟骨低形成症ではかなり低いです。全くないわけではありませんが、重症化することは稀です。

原因

なぜ、骨の成長がゆっくりになるのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きにあります。

FGFR3遺伝子の変異

軟骨低形成症の原因は、第4番染色体にある「FGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)」という遺伝子の変異です。

少し難しい話になりますが、骨が伸びる仕組みを車に例えて説明しましょう。

私たちの骨、特に手足の骨は、端っこにある軟骨細胞が増えることで伸びていきます。これを車のアクセルだとします。

一方で、骨が伸びすぎないように調節するブレーキの役割を持っているのが、このFGFR3という遺伝子です。

軟骨低形成症のお子さんの体の中では、遺伝子のほんのわずかな変化によって、このFGFR3というブレーキが常に「少しかかったまま」の状態になっています。

アクセルは踏んでいるのに、ブレーキも一緒にかかっているため、骨の伸びるスピードがゆっくりになってしまうのです。

軟骨無形成症も同じFGFR3遺伝子の変異が原因ですが、あちらはブレーキが「強くかかっている」状態、軟骨低形成症は「弱くかかっている」状態とイメージしてください。

遺伝について

この病気は「常染色体顕性遺伝(以前の優性遺伝)」という形式をとります。

これは、ご両親のどちらかが軟骨低形成症であれば、50パーセントの確率でお子さんに遺伝するというものです。

しかし、実際にはご両親は平均的な身長で、この病気の遺伝子を持っていないケースが非常に多いです。この場合、お子さんが受精卵から成長し始めるごく初期の段階で、偶然に遺伝子の変化が起きたと考えられます。これを「突然変異」と呼びます。

突然変異は、誰のせいでもありません。お母さんの妊娠中の過ごし方や、食べたもの、ストレスなどが原因で起こるものでは決してありません。人間の体の中で常に起きている自然な現象の一つが、たまたま骨の成長に関わる場所で起きただけなのです。

ハート

診断と検査

診断は、身体的な特徴の観察、レントゲン検査、そして必要に応じて遺伝子検査を組み合わせて行われます。

身体計測と診察

身長、体重、頭囲、座高、手足の長さなどを詳しく測ります。

成長曲線を描いてみて、平均的な線からどのくらい離れているか、年齢とともに離れていっているかを確認します。

また、ご両親の身長も重要な情報です。ご両親の身長から予測されるお子さんの身長と比べて、著しく低い場合にこの病気を疑います。

レントゲン検査(X線検査)

診断の決め手となる重要な検査です。特に腰の骨(腰椎)と骨盤の形に注目します。

  • 腰椎の椎弓根間距離: 背骨を正面から見たとき、神経の通り道の幅を確認します。通常、背骨は上から下(お尻の方)にいくにつれて幅が広くなっていきます。しかし、軟骨低形成症では、この幅が下に行っても変わらないか、あるいは狭くなっているという特徴的な所見が見られます。
  • 骨盤の形: 腸骨という骨盤の骨が、四角っぽく見えることがあります。
  • 腓骨の長さ: すねの骨(脛骨)に比べて、外側の細い骨(腓骨)が長くなっていることがあります。

これらのレントゲンの特徴は、軟骨無形成症ほどはっきりとは出ないこともあり、専門医による読影が必要です。

遺伝子検査

血液を採取してDNAを調べ、FGFR3遺伝子に変異があるかどうかを確認します。

軟骨低形成症の約70パーセントから80パーセントの方に、特定の遺伝子変異(N540Kというタイプ)が見つかります。

この検査で変異が見つかれば診断は確定しますが、変異が見つからない場合でも、レントゲンや症状から総合的に診断されることもあります。

遺伝子検査は、他の病気との区別が難しい場合や、治療方針を決定するために行われます。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変異そのものを治すことはできませんが、身長を伸ばすための治療や、体のケアを行うことができます。

成長ホルモン治療

現在、軟骨低形成症に対して最も広く行われているのが、成長ホルモン療法です。

不足しているわけではないのですが、外から成長ホルモンを補ってあげることで、骨の成長板に働きかけ、ブレーキがかかっている状態でも骨を伸ばす力を後押しします。

  • 治療の方法: 自宅で毎日、寝る前に注射をします。ペン型の注射器を使い、お尻や太もも、お腹などに皮下注射をします。針はとても細く、痛みは最小限に抑えられています。最初は怖がるお子さんも多いですが、慣れてくると歯磨きのような毎日のルーチンになります。
  • 適応基準: 日本では、軟骨低形成症に対する成長ホルモン治療は公的な助成の対象となっていますが、開始するには「身長が同性同年齢の平均よりも著しく低い(標準偏差スコアでマイナス2.5SD以下など)」などの基準を満たす必要があります。
  • 効果: 治療効果には個人差がありますが、多くのケースで成長率(1年間に伸びる高さ)が改善し、最終身長を高くする効果が期待できます。治療は骨の成長が止まる(骨端線が閉じる)まで続けることができます。

骨延長術(仮骨延長法)

手術によって骨を人工的に伸ばす治療法です。

骨を意図的に切り、そこに創外固定器という器具を取り付けます。1日に約1ミリメートルずつ隙間を広げていくと、その隙間に新しい骨(仮骨)ができて骨が伸びていくという、人間の治癒力を利用した治療です。

脚(大腿骨や下腿骨)や腕(上腕骨)を伸ばすことができます。

  • メリット: 確実に身長を伸ばすことができ、腕の長さを伸ばして日常生活の不便さを解消することもできます。10センチメートル以上の大幅な延長も可能です。
  • デメリット: 長期間にわたる入院やリハビリが必要で、強い痛みを伴うこともあります。感染症や関節が硬くなるなどの合併症のリスクもあります。
  • 考え方: 決して必須の治療ではありません。ご本人が身長や腕の長さで強く悩んでいる場合や、日常生活に支障がある場合に、時期を見計らって(多くは小学校高学年以降)慎重に検討する選択肢です。

定期的な経過観察

合併症は少ないですが、定期的なチェックは大切です。

  • 背骨と神経のチェック: 脊柱管狭窄症の症状(足のしびれ、長く歩くと痛くなるなど)が出ていないかを確認します。症状がある場合はMRI検査などを行います。
  • 脚の変形: O脚が進行していないかを確認します。程度が強い場合は、矯正する手術などを検討することもあります。
  • 耳鼻科検診: 軟骨無形成症ほどではありませんが、中耳炎になりやすい傾向があるため、聞こえにくそうにしていないか注意します。

日常生活での工夫

基本的には、運動制限などはなく、体育の授業や部活動も他のお子さんと同じように参加できます。

ただ、身長が低いことや腕が短いことで、生活の中で不便を感じる場面はあるかもしれません。

トイレや洗面所には踏み台を置く、学校の机や椅子の高さを調整してもらう、洋服の袖や裾を直すといった、ちょっとした環境調整がお子さんの「自分でできた!」という自信につながります。

まとめ

軟骨低形成症についての要点を整理します。

  • 病気の本質: 骨の成長にブレーキをかけるFGFR3遺伝子の変化により、身長の伸びがゆっくりになる体質です。
  • 症状の程度: 軟骨無形成症に比べて症状はマイルドです。顔つきの特徴も少なく、知的な発達は正常です。
  • 診断の鍵: 幼児期以降の低身長で気づかれることが多く、レントゲンでの腰椎の特徴的な所見で診断されます。
  • 治療の選択肢: 成長ホルモン治療が保険適用となっており、身長の伸びをサポートすることができます。手術による骨延長という選択肢もあります。
  • 予後: 適切な管理とサポートがあれば、健康で充実した社会生活を送ることができます。

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