常染色体顕性・下肢優位型脊髄性筋萎縮症2B型(SMALED2B)

医療

お子様やご自身が「下肢優位型脊髄性筋萎縮症2B型(SMALED2B)」、あるいは「DYNC1H1(ダイン・シー・ワン・エイチ・ワン)関連の脊髄性筋萎縮症」という診断を受けたとき、あまりにも長く複雑な病名に、言いようのない不安と戸惑いを感じられたことでしょう。

「脊髄性筋萎縮症(SMA)って、難病の?命に関わるの?」

「下肢優位ってどういうこと?」

「遺伝するの?」

まず最初にお伝えしたい最も重要なことは、この「SMALED2B」という病気は、テレビやニュースでよく耳にする、呼吸器が必要になったり命に関わったりする一般的な「脊髄性筋萎縮症(5q-SMA)」とは、原因も経過も異なる別のタイプの病気であるということです。

この病気は非常に希少であり、インターネットで検索しても、専門的な英語の論文や、非常に難しい医学用語ばかりが出てきて、具体的な生活のイメージが湧きにくいのが現状です。

しかし、この病気は原因となる遺伝子が特定されており、体の中で何が起きているのかが分かっています。原因が分かるということは、適切な対策や管理方法があるということです。

概要:どのような病気か

Spinal muscular atrophy, lower extremity-predominant, 2B(以下、SMALED2B)は、生まれつき、あるいは幼少期から、主に太ももを中心とした「足の筋肉」の力が弱くなる神経の病気です。

病名の分解と意味

この長く複雑な病名には、病気の特徴がすべて詰め込まれています。一つずつ紐解いていきましょう。

脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy: SMA)

筋肉そのものの病気ではなく、筋肉に「動け」と命令を出す神経(脊髄の運動ニューロン)の働きが弱いために、結果として筋肉が痩せて(萎縮して)力が弱くなる病気の総称です。

下肢優位型(Lower Extremity-Predominant)

全身の筋肉が均等に弱くなるのではなく、特に「足(下肢)」、それも太ももの筋肉に症状が強く出るのが特徴です。手の力や飲み込む力などは比較的保たれることが多いです。

2B型

下肢優位型のSMAにはいくつかのタイプがあり、原因となる遺伝子によって番号が振られています。2B型は「DYNC1H1」という遺伝子が原因のタイプを指します(ちなみに2A型はBICD2という別の遺伝子が原因です)。

常染色体顕性(優性)遺伝

親から子へと伝わる遺伝の形式の一つです。後ほど詳しく解説しますが、親御さんのどちらかが同じ体質を持っているか、あるいは突然変異で発生したことを意味します。

一般的なSMA(5q-SMA)との違い

ここが一番の誤解ポイントであり、安心材料でもあります。

よく知られているSMA(SMN1遺伝子の異常によるもの)は、重症の場合、赤ちゃんの頃から呼吸ができなくなることがありますが、このSMALED2Bは、一般的に進行が非常にゆっくりか、あるいはほとんど進行しません。

多くの患者さんが、ゆっくりながらも運動機能の発達を見せ、通常の寿命を全うし、社会生活を送っています。同じ「SMA」という名前がついていますが、経過は大きく異なります。

体の中で何が起きているのか?

この病気の原因は、「DYNC1H1」という遺伝子に変化があることです。

私たちの神経細胞は、とても長い突起を持っています。特に、腰のあたりから足の先まで伸びる神経は、体の中で最も長い細胞の一つです。

この長い神経の中を、栄養や不要になった物質を運ぶ「トラック」のようなタンパク質が走っています。このトラックの名前が「ダイニン(Dynein)」です。DYNC1H1遺伝子は、このトラックのエンジン部分を作る設計図です。

SMALED2Bでは、設計図のミスにより、トラックのエンジンの性能が少し落ちてしまっています。

そのため、長い神経の中での物質輸送が滞り、神経の元気がなくなってしまいます。その結果、筋肉への指令が弱くなり、足の筋肉が痩せてしまうのです。

主な症状

SMALED2Bの症状は、患者さん一人ひとりによって程度や現れ方が異なります。一般的に見られる症状について解説します。

1. 筋力低下と筋萎縮(特に太もも)

最も中核となる症状です。

近位筋(きんいきん)の弱さ

「近位筋」とは、体の中心に近い筋肉のことです。足で言えば「太もも(大腿四頭筋など)」にあたります。

太ももの力が弱いため、以下のような動作が苦手になります。

床から立ち上がるのが大変(手を使って体を支える)

階段を上るのが苦手

走るのが遅い、転びやすい

しゃがんだ姿勢から立ち上がれない

筋肉の萎縮

太ももの前の筋肉が痩せて細くなるため、膝から下が相対的に太く見えることがあります。

2. 足の変形と拘縮(こうしゅく)

生まれつき、あるいは成長に伴って、足の関節が硬くなることがあります。

先天性内反足(ないはんそく)

生まれた時に、足の裏が内側を向いている状態です。SMALED2Bの赤ちゃんによく見られる特徴の一つです。

関節拘縮

関節が固まって伸びにくくなることです。股関節や膝関節、足首に見られることがあります。

かかとが浮いてしまう(尖足)こともあり、これらが歩行の不安定さにつながります。

3. 運動発達の遅れ

首のすわりやお座りは順調でも、「つかまり立ち」や「独り歩き」の開始が平均よりも遅れることがあります。

しかし、多くの患者さんは遅れながらも独り歩きを獲得できます。中には、大人になるまで病気に気づかず、「運動が苦手な子だと思っていた」というケースもあります。

4. 歩行の特徴

筋力低下や足の変形により、特徴的な歩き方になることがあります。

動揺性歩行(アヒル歩き):お尻を左右に振って歩く。

つま先歩き:かかとがつかないため。

5. その他の症状

上半身への影響

一般的には足の症状がメインですが、稀に手の指先の力が弱くなることや、背骨が曲がる(側弯症)ことがあります。

知的な発達

SMALED2B(脊髄性筋萎縮症としての側面)では、知的な発達は正常であることが多いです。

ただし、DYNC1H1遺伝子は脳の発達にも関わっているため、遺伝子の変異の場所によっては、脳の構造的な変化や、学習の遅れ、てんかんなどを合併するケースも報告されています(これはDYNC1H1関連神経疾患として包括的に捉えられることもあります)。

原因と遺伝の仕組み

ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。

DYNC1H1遺伝子の機能変化

前述の通り、14番染色体にあるDYNC1H1遺伝子の変化が原因です。この遺伝子は、細胞質ダイニン重鎖1というタンパク質を作ります。これは神経細胞内での「逆行性輸送(神経の末端から細胞体へ物を運ぶこと)」や、脳ができる時の神経細胞の移動に不可欠な役割を果たしています。

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)とは

SMALED2Bは「顕性遺伝(以前は優性遺伝と呼ばれました)」という形式をとります。

人間は遺伝子を2つセット(父から1つ、母から1つ)持っています。顕性遺伝とは、2つのうち片方のDYNC1H1遺伝子に変異があれば、症状が出るタイプです。

この場合、以下の2つのパターンが考えられます。

  1. 親からの遺伝
    ご両親のどちらかが同じ病気(あるいは軽い症状)を持っており、その遺伝子が50%の確率でお子様に受け継がれたケース。
    この場合、家系図を見ると、祖父母やおじ・おばにも「足が弱くて歩き方が特徴的な人」がいることがあります。
  2. 突然変異(de novo変異)
    ご両親の遺伝子には全く異常がなく、受精卵ができる過程で偶然DYNC1H1遺伝子に変化が起きたケース。
    実は、SMALED2Bではこの「突然変異」のケースも非常に多いです。この場合、ご両親は健康であり、誰のせいでもありません。自然の確率的な現象です。
医者

診断と検査

診断は、小児神経科医や神経内科医によって、慎重に行われます。

1. 身体診察

筋肉の痩せ方や力の入り具合を見ます。

太ももの筋肉(大腿四頭筋)が特に痩せているか?

腱反射(膝を叩く検査)が弱くなっているか、あるいは逆に強くなっているか?(SMALED2Bでは、脊髄の病気ですが、反射が強くなることもあります)

2. 血液検査(CK値)

筋肉が壊れる病気(筋ジストロフィーなど)ではないかを確認します。SMALED2Bでは、CK値は正常か、わずかに高い程度であることが多いです。

3. 筋電図検査

筋肉に細い針を刺して、電気の波形を見ます。

筋肉自体の病気なのか、神経の病気なのかを区別する重要な検査です。SMALED2Bでは「神経原性変化(神経が原因であるサイン)」が見られます。

4. 画像検査(MRI)

下肢の筋肉MRI:太ももの筋肉が脂肪に置き換わっているパターンを見ることで、診断の手がかりになります。SMALED2Bでは大腿四頭筋に特徴的な変化が出やすいとされています。

脳のMRI:脳の形成に異常がないかを確認することもあります。

5. 遺伝学的検査(確定診断)

最終的な診断は、血液検査でDNAを調べ、DYNC1H1遺伝子に変異があるかを確認することで行われます。

最近では、指定難病の申請などのためにも、遺伝子検査が行われることが一般的です。

治療と管理:これからのロードマップ

残念ながら、DYNC1H1遺伝子の変化そのものを治す薬(根本治療薬)は、現時点では承認されていません。一般的なSMA(5q-SMA)で使われる遺伝子治療薬(ゾルゲンスマなど)は、原因遺伝子が違うため、この病気には効果がありません。

しかし、「治療法がない」=「何もできない」ではありません。

症状を和らげ、機能を維持し、生活の質を高めるための「対症療法」と「リハビリテーション」が非常に有効です。

1. リハビリテーション(最重要)

SMALED2Bの管理において、リハビリは要です。

ストレッチ(関節可動域訓練)

関節が固まる(拘縮)のを防ぐために、毎日ストレッチを行います。特にアキレス腱、膝の裏、股関節を伸ばすことが大切です。お風呂上がりなど、体が温まっている時に行うと効果的です。

筋力維持訓練

無理のない範囲で、遊びの中に運動を取り入れ、筋力を維持します。

起立・歩行訓練

平行棒や歩行器を使って、歩く感覚を養います。

2. 装具療法

足の変形や筋力低下をサポートするために、装具(オーソシス)を使用します。

短下肢装具(AFO)

足首を固定し、つま先が下がらないようにするプラスチック製の装具です。これをつけることで、転びにくくなり、歩行が安定します。

インソール(中敷き)

足のアーチを支え、バランスを取りやすくします。

3. 整形外科的治療

内反足や関節の拘縮が強く、リハビリや装具では対応できない場合、腱を延長したり骨の形を整えたりする手術が行われることがあります。

また、股関節脱臼や側弯症がある場合も、整形外科での定期的なチェックと治療が必要です。

4. 定期的な経過観察

病気の進行は非常にゆっくりですが、年に1回程度は専門医を受診し、背骨の曲がりがないか、関節が固くなっていないかなどをチェックすることが大切です。

日々の生活での工夫

SMALED2Bと付き合いながら生活するために、知っておいていただきたいポイントです。

転倒予防

足の力が弱いため、転びやすいです。家の中の段差をなくす、手すりをつける、滑りやすい靴下を避けるなどの環境調整が有効です。

体重管理

足への負担を減らすため、適切な体重を維持することが大切です。太りすぎると、歩行が難しくなることがあります。

寒さ対策

足の血行が悪くなりやすいことがあるため、冬場はレッグウォーマーなどで保温を心がけましょう。

「できること」に目を向ける

走るのは苦手でも、水泳なら得意かもしれません。足は弱くても、手先は器用かもしれません。お子様の「得意」を見つけて伸ばしてあげましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 将来、車椅子になりますか?

A. 個人差が大きいため一概には言えませんが、SMALED2Bは進行が非常にゆっくり、あるいは進行しないことも多い疾患です。多くの患者さんは、装具などを使用しながら自力歩行を維持しています。長い距離の移動や、加齢に伴って車椅子を使用することもありますが、完全に寝たきりになるような進行性の病気とは異なります。

Q. 知的障害はありますか?

A. 一般的に「下肢優位型SMA」としてのSMALED2Bでは、知能は正常であることが多いです。ただし、DYNC1H1遺伝子の変異のタイプによっては、学習障害や知的発達症を伴うこともあります。主治医にお子様のタイプについて詳しく聞くことをお勧めします。

Q. 次の子に遺伝しますか?

A. 患者さんが親御さんから遺伝した場合は、ご兄弟も50%の確率で同じ遺伝子を持っている可能性があります。突然変異の場合は、ご兄弟への影響は低いです。

患者さんご自身が将来お子様を持つ場合は、50%の確率で遺伝する可能性があります。詳しくは臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  1. SMALED2Bは、DYNC1H1遺伝子の変化による、下肢(太もも)中心の筋力低下を起こす病気です。
  2. 一般的なSMA(5q-SMA)とは異なる病気で、進行は非常に緩やかです。
  3. 主な症状は、歩行時のふらつき、階段昇降の難しさ、足の変形(内反足など)です。
  4. 根本治療薬はありませんが、リハビリと装具療法が生活の質を支えます。
  5. 多くの患者さんが、工夫しながら自立した生活を送っています。

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