常染色体顕性遺伝性痙性対麻痺30a型(SPG30a)

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お子様やご自身が「痙性対麻痺30a型(SPG30a)」、あるいは「KIF1A関連の痙性対麻痺」という診断を受けたとき、聞き慣れない病名に、言いようのない不安と戸惑いを感じられたことでしょう。

「痙性(けいせい)って何?」

「遺伝するの?」

「将来歩けなくなるの?」

この病気は、遺伝性痙性対麻痺(HSP)という大きなグループの中に含まれる、比較的稀なタイプの一つです。インターネットで検索しても、専門的な英語の論文や、非常に難しい医学用語ばかりが出てきて、具体的な生活のイメージが湧きにくいのが現状です。

しかし、この病気は原因となる遺伝子(KIF1A)が特定されており、体の中で何が起きているのかがかなり詳しく分かってきています。原因がわかるということは、対策も立てやすいということです。

概要:どのような病気か

痙性対麻痺30a型(以下、SPG30a)は、脳から脊髄を通って足へとつながる長い神経の働きが、徐々に弱くなってしまう進行性の神経疾患です。

主に、足の筋肉が硬く突っ張ってしまうこと(痙縮:けいしゅく)により、歩きにくさが生じます。

病名の分解と意味

この長く複雑な病名には、病気の特徴がすべて詰め込まれています。一つずつ紐解いていきましょう。

痙性(Spastic)

筋肉が自分の意思とは関係なく、勝手に緊張して硬くなってしまう状態を指します。足がピーンと伸びてしまったり、つま先立ちのようになったりするのはこのためです。

対麻痺(Paraplegia)

両足(下半身)に麻痺や筋力低下が出ることを指します。手の動きは保たれることが多いのが特徴です。

30a型

遺伝性痙性対麻痺には、原因となる遺伝子の違いによって1型、2型、3型…とたくさんの番号がついています。30番目に見つかったタイプという意味です。

常染色体顕性(優性)遺伝

親から子へと伝わる遺伝の形式の一つです。後ほど詳しく解説しますが、親御さんのどちらかが同じ体質を持っているか、あるいは突然変異で発生したことを意味します。

体の中で何が起きているのか?

この病気の原因は、「KIF1A(キフ・ワン・エー)」という遺伝子に変化があることです。

私たちの神経細胞は、とても長い突起(軸索)を持っています。特に、脳から足の先まで伸びる神経は、体の中で最も長い細胞の一つです。

この長い神経の中を、栄養や物質を運ぶ「トラック」のようなタンパク質が走っています。KIF1A遺伝子は、このトラックを作る設計図です。

SPG30aでは、設計図のミスにより、トラックの性能が少し落ちてしまっています。

そのため、長い神経の端っこ(足先)まで十分な物資が届かず、神経が徐々に元気わなくなってしまいます。その結果、脳からの「動け」という指令や、ブレーキの指令がうまく足に伝わらなくなり、足が突っ張ってしまうのです。

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主な症状

SPG30aの症状は、患者さん一人ひとりによって程度や現れ方が異なります。また、発症する年齢も、乳幼児期から成人期まで様々です。

1. 歩行障害と脚の症状

最も中核となる症状です。

痙縮(けいしゅく)

太ももの裏やふくらはぎの筋肉が硬く突っ張ります。これにより、膝が曲がりにくくなったり、足首が硬くなったりします。

尖足(せんそく)

ふくらはぎの緊張が強いため、かかとが浮いてしまい、つま先歩きになることがあります。

はさみ脚歩行

内ももの筋肉(内転筋)が突っ張ることで、歩くときに両膝が内側に入り、足が交差するような歩き方になることがあります。

易転倒性(転びやすい)

つま先が上がりにくいため、何もないところでつまずいたり、転んだりしやすくなります。

2. 感覚の障害

足の感覚が少し鈍くなることがあります。

振動覚の低下

音叉などの振動を感じにくくなることがあります。

深部感覚の低下

目をつぶっていると、足がどの位置にあるのか分かりにくくなることがあります。

3. 排尿のトラブル(神経因性膀胱)

病気が進行すると、膀胱の神経にも影響が出ることがあります。

頻尿(トイレが近い)

尿意切迫感(急にトイレに行きたくなり、我慢できない)

尿失禁(漏らしてしまう)

4. 純粋型と複合型

SPG30aは、一般的に「純粋型(Pure type)」に近い経過をたどることが多いとされています。

純粋型:症状が足の突っ張りや筋力低下に限局しており、知能や手先の機能は保たれるタイプ。

複合型:てんかん、知的障害、視覚障害などを合併するタイプ。

KIF1A遺伝子の変異の場所によっては、より重い症状が出る「KAND(KIF1A関連神経疾患)」と呼ばれる状態になることもありますが、SPG30aと診断された場合は、比較的足の症状がメインであることが多いです。ただし、個人差があるため主治医の診断が最も重要です。

原因と遺伝の仕組み

ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。

KIF1A遺伝子の機能変化

前述の通り、2番染色体にあるKIF1A遺伝子の変化が原因です。この遺伝子は、神経細胞内での物質輸送(キネシンモーター)にとって極めて重要な役割を果たしています。

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)とは

SPG30aは「顕性遺伝(以前は優性遺伝と呼ばれました)」という形式をとります。

人間は遺伝子を2つセット(父から1つ、母から1つ)持っています。顕性遺伝とは、2つのうち片方のKIF1A遺伝子に変異があれば、症状が出るタイプです。

この場合、以下の2つのパターンが考えられます。

  1. 親からの遺伝
    ご両親のどちらかが同じ病気(あるいは軽い症状)を持っており、その遺伝子が50%の確率でお子様に受け継がれたケース。
    この場合、家系図を見ると、祖父母やおじ・おばにも歩きにくい方がいることが多いです。
  2. 突然変異(de novo変異)
    ご両親の遺伝子には全く異常がなく、受精卵ができる過程で偶然KIF1A遺伝子に変化が起きたケース。
    実は、KIF1A関連疾患ではこの「突然変異」のケースも非常に多いです。この場合、ご両親は健康であり、誰のせいでもありません。自然の確率的な現象です。

SPG30bとの違い

似た名前で「SPG30b」というものがありますが、これは「潜性遺伝(劣性遺伝)」のタイプです。両親は保因者で症状がなく、子供にだけ症状が出るタイプです。SPG30aとは遺伝の仕方が異なります。

診断と検査

診断は、神経内科医や小児神経科医によって行われます。

1. 神経学的診察

ハンマーで膝を叩いて反射を見ます(腱反射)。SPG30aでは、反射が亢進(ビクッと強く動く)し、病的反射(バビンスキー反射など)が見られるのが特徴です。また、筋肉の緊張度合いや歩き方を観察します。

2. 画像検査(MRI)

脳や脊髄のMRI検査を行います。

SPG30aの場合、MRIでは「明らかな異常がない」か、あるいは「小脳や脊髄の軽度な萎縮」が見られる程度であることが多いです。

これは、他の病気(脳腫瘍や炎症性の病気など)ではないことを確認(除外診断)するために非常に重要です。

3. 遺伝学的検査(確定診断)

最終的な診断は、血液検査でDNAを調べ、KMT1A遺伝子に変異があるかを確認することで行われます。

最近では、複数の遺伝子を一度に調べる「遺伝子パネル検査」や「全エクソーム解析」が行われることが増えています。これにより、他のタイプの痙性対麻痺と区別することができます。

治療と管理:これからのロードマップ

残念ながら、遺伝子の変化そのものを治したり、弱った神経を完全に元に戻したりする治療法(根本治療)は、現時点では確立されていません。

しかし、あきらめる必要はありません。

症状を和らげ、機能を維持し、生活の質を高めるための「対症療法」と「リハビリテーション」が非常に有効です。

1. リハビリテーション(最重要)

SPG30aの治療の柱は、リハビリです。薬よりも重要だと言っても過言ではありません。

ストレッチ

硬くなった筋肉(特にふくらはぎ、太ももの裏、内もも)を毎日ゆっくり伸ばすことで、関節が固まる(拘縮)のを防ぎます。お風呂上がりなどに行うと効果的です。

筋力トレーニング

弱くなりやすい筋肉(つま先を上げる筋肉やお尻の筋肉など)を鍛えることで、歩行の安定性を高めます。

バランス訓練

転倒を防ぐために、体幹やバランス感覚を養う運動を行います。

2. 装具療法

足首が硬くてつま先が上がらない場合、「短下肢装具(AFO)」や「プラスチック製のインソール」を使用します。

装具をつけることで、つま先が引っかかりにくくなり、転倒が減り、より長く安定して歩けるようになります。早期から装具を使うことは、変形の予防にもなります。

3. 薬物療法

筋肉の突っ張り(痙縮)が強い場合、それを和らげる薬が使われます。

内服薬:バクロフェン、チザニジンなど(筋弛緩薬)。

ボツリヌス療法(ボトックス注射):硬くなっている筋肉に直接注射をして、数ヶ月間筋肉を柔らかくする治療です。リハビリと組み合わせることで高い効果が得られます。

4. 手術療法

アキレス腱が縮んでしまって装具でも対応できない場合などには、腱を延長する整形外科的な手術が行われることもあります。

日々の生活での工夫

SPG30aと付き合いながら生活するために、知っておいていただきたいポイントです。

冷え対策

寒くなると筋肉の緊張が強くなり、足が動きにくくなることが多いです。レッグウォーマーやカイロなどで足を温かく保ちましょう。

適度な運動

「動かないと固まる」病気です。無理な運動は禁物ですが、水泳や自転車こぎなど、足への衝撃が少なくて筋肉を使える運動はとても推奨されます。

転倒予防

家の中の段差をなくす、手すりをつける、滑りやすいマットを敷かないなど、環境を整えることが大切です。

便秘の管理

腹筋や排便に関わる神経の影響で、便秘になりやすいことがあります。水分摂取や食事、必要なら薬を使ってコントロールしましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 完全に歩けなくなってしまいますか?

A. 進行のスピードや程度には個人差が非常に大きいです。杖や装具を使って生涯ご自身の足で歩かれる方もいれば、長い距離の移動には車椅子を使用する方もいます。SPG30aは一般的に進行が緩やかであることが多いですが、リハビリを継続することで、歩行機能を長く維持することが可能です。

Q. 寿命に影響はありますか?

A. SPG30a自体が直接命に関わることは稀です。基本的には健康な方と同じくらいの寿命を全うできると考えられています。ただし、転倒による怪我などには注意が必要です。

Q. 次の子に遺伝しますか?

A. 患者さんが親御さんから遺伝した場合は、ご兄弟も50%の確率で同じ遺伝子を持っている可能性があります。突然変異の場合は、ご兄弟への影響は低いです。

患者さんご自身が将来お子様を持つ場合は、50%の確率で遺伝する可能性があります。詳しくは臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  1. SPG30aは、KIF1A遺伝子の変化による神経の病気です。
  2. 主な症状は、足の筋肉の突っ張り(痙縮)による歩行障害です。
  3. 原因は、神経の中の物質輸送がうまくいかないことですが、進行は比較的緩やかです。
  4. 根本治療はありませんが、リハビリと装具、ボトックス注射などで生活の質を維持・向上できます。
  5. 「冷え」を防ぎ、毎日少しずつでも体を動かすことが大切です。

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