スティックラー症候群 1型

赤ちゃん

お子様やご自身が「スティックラー症候群(Stickler syndrome)」、あるいはその中でも最も頻度の高い「1型(type I)」という診断を受けたとき、聞き慣れない病名に戸惑い、不安を感じられたことでしょう。

「網膜剥離に気をつけてと言われたけれど、どういうこと?」

「関節が痛くなるの?」

「遺伝する病気なの?」

スティックラー症候群は、眼、耳、口、関節など、体のさまざまな部分に特徴が現れる病気です。一見するとバラバラに見えるこれらの症状ですが、実は体の土台を作る「コラーゲン」という物質の異常という一つの原因でつながっています。

この病気で最も大切なことは、特に「眼」の状態を正しく知り、守ることです。適切な管理を行うことで、重篤な視力障害を防ぎ、健康な人と変わらない生活を送ることが十分に可能です。

概要:どのような病気か

スティックラー症候群は、全身の結合組織(体の組織と組織をつなぐ部分)に影響が出る遺伝性の疾患です。1965年にガナー・スティックラー博士によって報告されました。

主な特徴は以下の4つです。

  1. 眼の症状(強度近視、網膜剥離など)
  2. 顔貌の特徴(平坦な顔つき、小顎)
  3. 口蓋裂(口の中の天井が割れている)
  4. 骨・関節の症状(関節痛、変形性関節症)
  5. 聴覚障害(難聴)

なぜ「1型」なのか

スティックラー症候群には、原因となる遺伝子の違いによっていくつかのタイプがあります。

その中で最も患者数が多く、典型的な症状を示すのが「1型」です。

1型は、「2型コラーゲン」という物質を作る遺伝子(COL2A1)に変化があることが原因です。

他のタイプ(2型など)とは、特に「眼の中のゼリー状の物質(硝子体)」の見え方が違うことで区別されます。

結合組織の病気とは

私たちの体は、細胞と細胞の間を埋める物質によって形作られています。これを結合組織と呼びます。その主成分が「コラーゲン」です。

コラーゲンは、建物の鉄筋やコンクリートのような役割をしています。スティックラー症候群1型では、この鉄筋の一部(2型コラーゲン)が少し弱かったり、足りなかったりするため、眼や関節といった特定の場所にトラブルが起きやすくなるのです。

主な症状

スティックラー症候群1型の症状は、患者さん一人ひとりによって程度が大きく異なります。同じ家族内でも、症状が重い人もいれば、ほとんど気づかないほど軽い人もいます。

1. 眼の症状(最重要)

スティックラー症候群において、最も注意深く管理しなければならないのが眼の症状です。

強度近視

生まれつき、強い近視(近くは見えるが遠くが見えにくい)があることが多いです。赤ちゃんの場合、眼鏡をかけることで視力の発達を助ける必要があります。

硝子体(しょうしたい)の異常

眼球の中は、硝子体という透明なゼリー状の物質で満たされています。

1型の場合、眼底検査をすると、この硝子体の後ろ側に膜のようなものが見えたり、空洞があったりする「膜様(メンブライナス)な変化」が見られます。これは1型を診断する上で非常に重要な特徴です。

網膜剥離(もうまくはくり)のリスク

これが最も警戒すべき症状です。硝子体の異常により、眼の奥にあるカメラのフィルムにあたる「網膜」が引っ張られ、裂けたり剥がれたりしやすくなります。

網膜剥離は、放置すると失明につながる緊急事態です。10代〜20代の若い時期に発症することも珍しくありません。

白内障・緑内障

一般的な加齢によるものよりも早い時期(若年性)に、白内障(レンズが濁る)や緑内障を発症することがあります。

2. 顔貌と口の症状

お顔立ちにも特徴が出ることがあります。

平坦な顔貌

鼻の付け根(鼻根部)が低く、顔の中央部分が平たい印象になることがあります。

ピエール・ロバン連鎖(シークエンス)

あごが小さい(小顎症)、舌が喉の奥に落ち込む(舌根沈下)、口蓋裂(口の天井が割れている)の3つのセットが見られることがあります。

これにより、生まれた直後に呼吸がしにくかったり、ミルクが飲みにくかったりすることがあります。

口蓋裂は、粘膜の下だけが割れている「粘膜下口蓋裂」の場合もあり、外見からは分かりにくいこともあります(言葉の発音に影響が出たり、中耳炎になりやすかったりします)。

3. 骨・関節の症状

成長とともに現れることが多い症状です。

関節の過伸展(関節が柔らかい)

子供の頃は、関節が柔らかく、可動域が広いことがあります。

関節痛・変形性関節症

年齢を重ねると、逆に関節が硬くなったり、痛みが出たりすることがあります。通常は高齢者に多い「変形性関節症」が、比較的若い年齢(30代など)で発症することがあります。

背骨の側弯(曲がり)や、椎体(背骨のブロック)の変形が見られることもあります。

4. 聴覚の症状

難聴

高い音が聞こえにくい「感音難聴」が見られることがあります。程度は軽度から中等度が多く、年齢とともに少しずつ進行することもあります。

また、口蓋裂がある場合は、中耳炎を繰り返すことによる「伝音難聴」を合併することもあります。

原因:なぜ起きたのか

ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。

COL2A1遺伝子の変化

スティックラー症候群1型の原因は、12番染色体にある「COL2A1(シーオーエル・ツー・エー・ワン)」という遺伝子の変化(変異)です。

この遺伝子は、「2型コラーゲン」を作るための設計図です。

2型コラーゲンはどこにある?

2型コラーゲンは、主に以下の場所に多く存在します。

眼の硝子体(ゼリー状の部分)

関節の軟骨

背骨の椎間板

内耳の組織

設計図(遺伝子)に書き換わりがあるため、正常な2型コラーゲンがうまく作られなかったり、作られる量が少なかったりします。その結果、これらの組織が弱くなり、症状が現れます。

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)

この病気は「顕性遺伝(以前は優性遺伝と呼ばれました)」という形式をとります。

人間は遺伝子を2つセット(父から1つ、母から1つ)持っています。顕性遺伝とは、2つのうち片方のCOL2A1遺伝子に変異があれば、症状が出るタイプです。

この場合、以下の2つのパターンが考えられます。

  1. 親からの遺伝
    ご両親のどちらかが同じ病気を持っており、その遺伝子が50%の確率でお子様に受け継がれたケース。
    親御さんの症状が非常に軽く(少し目が悪い程度)、お子様が診断されて初めて「実は親もそうだった」と判明することも珍しくありません。
  2. 突然変異(de novo変異)
    ご両親の遺伝子には全く異常がなく、受精卵ができる過程で偶然COL2A1遺伝子に変化が起きたケース。
    誰にでも起こりうる、自然の確率的な現象であり、防ぐことはできません。
医療

診断と検査

診断は、症状の組み合わせと、精密検査によって行われます。

1. 臨床診断基準

医師は、以下のようなポイント(ローズの診断基準など)を点数化して診断します。

眼:強度近視、網膜剥離の既往、特徴的な硝子体の変化

顔:平坦な顔貌、口蓋裂、小顎症

耳:難聴

骨:関節症、脊椎の変化

家族歴:家族に同じ病気の人がいるか

2. 眼底検査(スリットランプ検査)

眼科医が、眼の中の「硝子体」の状態を詳しく観察します。

1型の場合、硝子体の後ろ側に「膜のような異常」が見られるのが特徴です。これは、他のタイプと見分けるためにも非常に重要な検査です。

3. 聴力検査

高い音が聞こえているか、中耳炎の影響はないかなどを調べます。

4. レントゲン検査

背骨や関節の状態を確認します。

5. 遺伝学的検査(確定診断)

血液検査でDNAを調べ、COL2A1遺伝子に変異があるかを確認します。

診断を確定させるため、あるいは将来のリスク予測のために行われることが増えています。

治療と管理:これからのロードマップ

遺伝子の変化そのものを治す治療法(根本治療)は、現時点ではありません。

しかし、それぞれの症状に対する適切な「管理」と「予防的な治療」を行うことで、深刻な事態を防ぐことができます。

1. 眼科的管理(視力を守るために)

最も重要なのが、定期的な眼科検診です。

定期検診

少なくとも年に1〜2回(状況によってはもっと頻繁に)、眼底検査を受ける必要があります。網膜に穴が開いていないか(網膜裂孔)、剥がれかけていないかをチェックします。

予防的レーザー治療

網膜に弱い部分や小さな穴が見つかった場合、レーザーでその周りを焼き固める治療を行うことがあります。これにより、本格的な網膜剥離への進行を防ぎます。

海外の研究では、予防的な治療を行うことで網膜剥離のリスクを大幅に減らせたという報告もあります。

眼鏡・コンタクトレンズ

強度近視に対しては、適切な眼鏡やコンタクトレンズを使用して、視力を矯正します。お子様の場合、視覚の発達を促すために早期からの装用が大切です。

生活上の注意

眼に強い衝撃が加わるスポーツ(ボクシング、ラグビー、柔道など)は、網膜剥離のリスクを高めるため避けるべきです。水泳やジョギングなどは問題ありません。

2. 口蓋裂・ピエール・ロバン連鎖への対応

呼吸・哺乳管理

生まれた直後に呼吸や哺乳が難しい場合、うつ伏せ寝(腹臥位)の指導や、鼻からのチューブによる栄養補給を行うことがあります。

手術

口蓋裂がある場合、形成外科で閉じる手術を行います(通常1歳〜1歳半頃)。あごが小さい場合も、成長とともに目立たなくなることが多いですが、必要に応じて治療を行います。

言葉の訓練

口蓋裂の影響で発音が不明瞭になることがあるため、言語聴覚士(ST)による訓練を受けることがあります。

3. 耳鼻科的管理

中耳炎の治療

口蓋裂があると中耳炎になりやすいため、こまめな受診が必要です。必要に応じて鼓膜にチューブを入れる処置を行います。

補聴器

難聴があり、生活や学習に支障がある場合は、補聴器を使用します。

4. 整形外科的管理

関節痛への対応

関節の痛みがある場合、過度な負担をかけないようにしつつ、適度な運動(プールなど)で筋力を維持します。鎮痛剤や湿布などで痛みを和らげます。

側弯症のチェック

定期的に背骨の曲がりがないかを確認します。

まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  1. スティックラー症候群1型は、COL2A1遺伝子の変化によるコラーゲンの病気です。
  2. 主な症状は、強度近視、網膜剥離リスク、口蓋裂、関節痛、難聴です。
  3. 最も大切なのは「眼を守ること」です。定期的な眼底検査を欠かさないでください。
  4. 網膜剥離の兆候(急に視力が落ちる、視野が欠ける、黒い点が見えるなど)があれば、すぐに眼科を受診してください。
  5. 親からの遺伝の場合と、突然変異の場合があります。

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