お子様が「致死性骨異形成症(ちしせい・こついけいせいしょう)」、そしてその中でも「2型(Type II)」という診断を受けたとき、ご家族は深い悲しみと混乱の中にいらっしゃることと思います。
病名につけられた「致死性」という言葉、そして「クローバー葉頭蓋」という聞き慣れない特徴の説明に、お子様の未来が見えないような不安を感じているかもしれません。
まず最初にお伝えしたいのは、1型と同様に、この「致死性」という言葉は過去の医学的限界に基づいた分類であり、現代の医療においては必ずしも「すぐに亡くなる」ことを意味しないということです。
確かに、呼吸や脳の管理において非常に高度な医療ケアが必要となる重篤な疾患です。しかし、適切な呼吸管理や脳神経外科的な手術を行うことで、ご家族と共に自宅で生活し、成長しているお子様たちがいます。
概要:どのような病気か
致死性骨異形成症(Thanatophoric Dysplasia: TD)は、生まれつき骨の成長に著しい障害が起こる「骨系統疾患(こつけいとうしっかん)」の一つです。
軟骨無形成症などと同じ「FGFR3異常症」というグループに属し、その中で最も症状が重いタイプとされています。
主な特徴は、手足が短いこと(短肢)、胸が狭いこと(胸郭低形成)、そして頭蓋骨の縫合不全による特徴的な頭の形です。
肋骨が短いために胸が広がらず、肺が十分に膨らまないことで「呼吸不全」を起こしやすい点が、生命予後(寿命)に大きく関わります。
2型(Type II)の特徴
致死性骨異形成症には1型と2型があり、2型は1型に比べて頻度は少ないですが、外見上の特徴がはっきりしています。
直状大腿骨(ちょくじょう・だいたいこつ)
これが1型との最大の違いです。
1型の大腿骨(太ももの骨)は「受話器」のように湾曲していますが、2型の大腿骨は「まっすぐ」です。
クローバー葉頭蓋(ようとうがい)
2型の最大の特徴です。頭蓋骨の継ぎ目(縫合)が非常に早い段階でくっついてしまう(早期癒合)ため、脳が成長するにつれて頭の形が三つ葉のクローバーのように盛り上がった形になります。
これにより、脳への圧迫や水頭症のリスクが1型よりも高くなります。
頻度について
非常に希少な疾患で、致死性骨異形成症全体(約2万〜5万出生に1人)の中でも、2型は少数派です。性別による差はなく、男の子にも女の子にも見られます。
主な症状
致死性骨異形成症2型の症状は、骨格、呼吸器、そして特に中枢神経系(脳)に強く現れます。
1. 頭部と顔貌の特徴(クローバー葉頭蓋)
2型で最も顕著な症状です。
クローバー葉頭蓋(Kleeblattschädel)
頭蓋骨にはいくつかの骨の継ぎ目(縫合)がありますが、それらが一度に癒合してしまうことで起こります。
おでこと両側のこめかみ部分が膨らみ、正面から見ると三つ葉のクローバーのような形に見えます。
この形状のため、眼球が前に押し出される「眼球突出」が見られることが多いです。
顔貌
おでこが前に出ており、鼻の付け根が低い(鼻根部陥凹)のが特徴です。顔の中央部分の発達が未熟なため、平坦な顔つきになります。
2. 骨格の特徴(四肢・胸郭)
著しい四肢短縮
腕や足が体の中心に近い部分から非常に短くなっています。
皮膚が余ってしまい、手足に深いしわ(皮膚のひだ)が見られます。
直状大腿骨
レントゲンを撮ると、太ももの骨が短く太いものの、曲がらずにまっすぐであることが確認できます。これは2型を診断する決定的な証拠になります。
狭い胸郭
肋骨が非常に短いため、胸囲が小さく、お腹がぽっこりと出た体型になります。
胸が狭いことで肺が圧迫され、十分に成長できません(肺低形成)。これが呼吸障害の主な原因です。
3. 神経系の症状
2型では、頭蓋骨の形の問題により、脳への影響がより強く出る傾向があります。
水頭症
脳の中の水分(髄液)が溜まりすぎてしまう状態です。クローバー葉頭蓋に伴って発症するリスクが高いです。
大後頭孔狭窄(だいこうとうこうきょうさく)
頭と首のつなぎ目にある、脊髄が通る穴(大後頭孔)が狭くなっています。
ここには呼吸をコントロールする「延髄」という重要な神経があります。ここが圧迫されると、中枢性の呼吸不全(脳からの呼吸指令が止まる)や、手足の麻痺が起こります。
キアリ奇形
小脳の一部が脊髄の方へ落ち込んでしまう状態が見られることがあります。
4. その他の合併症
筋緊張低下
全身の筋肉の張りが弱く、体が柔らかい状態です。
発達の遅れ
呼吸障害や脳の合併症の影響により、運動や知能の発達には遅れが見られます。
原因:なぜ起きたのか
ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。
FGFR3遺伝子の変異
致死性骨異形成症2型の原因は、4番染色体にある「FGFR3(エフ・ジー・エフ・アール・スリー)」という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、骨の成長にブレーキをかける役割を持っています。
2型特有の変異(K650E)
2型の患者さんのほぼ全員に、FGFR3遺伝子の中の全く同じ場所の変異(p.Lys650Glu / K650E)が見つかります。
この特定の変異が起きると、FGFR3というブレーキが強力にかかりっぱなしになり、骨が伸びなくなります。
また、この特定の変異は、頭蓋骨の縫合を早期に閉じてしまう作用が強いため、2型特有のクローバー葉頭蓋を引き起こすと考えられています。
ほとんどが「突然変異」
この病気は遺伝子の変化によって起きますが、親から遺伝したものではありません。
患者さんのほぼ100%が、「de novo(デ・ノボ)」と呼ばれる突然変異で発症します。
精子や卵子が作られる過程で、偶然FGFR3遺伝子のこの場所に変化が起きたものです。
ご両親の遺伝子には異常がないため、次のお子様が同じ病気になる確率は、一般の確率とほぼ変わりません。

診断と検査
診断は、特徴的な頭の形とレントゲン所見でほぼ確定しますが、遺伝子検査で最終確認を行います。
1. 出生前診断(胎児エコー・MRI・3D-CT)
妊娠中の超音波検査(エコー)で、以下の特徴が見られた場合に疑われます。
クローバー葉状の頭の形(妊娠中期以降)。
手足が極端に短い。
胸が狭い。
羊水過多。
2型は頭の形が特徴的であるため、1型よりも出生前にクローバー葉頭蓋として指摘されることが多いです。
2. 出生後の画像検査(レントゲン・CT)
生まれた後、全身のレントゲンと頭部のCTを撮ります。
直状大腿骨(太ももの骨がまっすぐ):これが2型の診断の決め手です。
クローバー葉頭蓋:頭蓋縫合早期癒合の状態を確認します。
扁平椎:背骨が薄い。
肋骨の短縮。
3. 遺伝学的検査
血液検査でDNAを調べ、FGFR3遺伝子の「Lys650Glu(K650E)」という特定の変異があるかを確認します。これにより確定診断となります。
治療と管理:これからのロードマップ
FGFR3遺伝子の働きを抑える薬(軟骨無形成症治療薬など)の研究は進んでいますが、致死性骨異形成症2型に対する根本治療はまだ確立されていません。
治療の目的は、呼吸を確保し、脳を守り、お子様が快適に過ごせるようにサポートすることです。
1. 呼吸管理(最優先事項)
生まれた直後から、命をつなぐための呼吸サポートが必要です。
人工呼吸器
自力での呼吸が難しいため、気管挿管をして人工呼吸器を使います。
気管切開
長期間の呼吸管理が必要になるため、喉に穴を開けてカニューレを入れる「気管切開」を行うことが一般的です。これにより、確実な気道確保ができ、在宅でのケアもしやすくなります。
2. 脳神経外科的治療(2型で特に重要)
2型では、頭蓋骨の問題に対する手術が生命予後や発達に大きく関わります。
水頭症の手術(シャント術)
脳に水が溜まって圧が高くなっている場合、チューブを入れてお腹などに水を逃がす手術を行います。
大後頭孔減圧術(だいこうとうこう・げんあつじゅつ)
頭と首のつなぎ目が狭く、延髄(呼吸の中枢)を圧迫している場合、後頭部の骨を一部削って広げる手術を行います。これにより、呼吸状態が安定したり、突然死のリスクを減らしたりします。
頭蓋形成術
クローバー葉頭蓋による脳への圧迫が強い場合、あるいは眼球突出が強く目が閉じられない場合などに、頭蓋骨を広げて形を整える手術を検討することがあります。手術の時期や方法は、脳神経外科医や形成外科医と慎重に相談して決定します。
3. 栄養管理
呼吸状態が安定するまでは、口から飲むのが難しいことがあります。
経管栄養(鼻チューブ)や、長期的には胃ろう(お腹から直接栄養を入れる)を選択することで、お子様の負担を減らし、安定した栄養摂取が可能になります。
4. 緩和ケアと意思決定
どのような治療を選択するか(手術をするか、どこまで呼吸管理をするか)は、ご家族の価値観やお子様の状態によって異なります。
医療チーム(新生児科、脳外科、緩和ケアチームなど)と何度も話し合い、ご家族が納得できる選択をしていくプロセスが大切です。正解は一つではありません。
予後と長期生存について
かつては「生まれてすぐ亡くなる」と考えられていた病気ですが、医療の進歩により状況は変わっています。
積極的な呼吸管理(気管切開・人工呼吸器)と、適切な脳神経外科手術(減圧術やシャント術)を行うことで、長期生存するお子様が増えています。
NICUを卒業し、在宅医療を受けながら、家族と過ごしている2型のお子様たちがいます。
彼らは、身体的な制約や知的な発達の遅れはありますが、豊かな感情を持っています。
嬉しいときは笑い、嫌なときは怒り、家族の声を認識します。
視線入力装置やおもちゃのスイッチを使って、自分の意思を伝える練習をしているお子様もいます。
もちろん、感染症への弱さや、てんかんなどの合併症管理など、乗り越えるべき課題は多くあります。しかし、その「生」には確かな意味と輝きがあります。
まとめ
ここまでの重要ポイントを振り返ります。
- 致死性骨異形成症2型(TD2)は、FGFR3遺伝子の変異による骨系統疾患です。
- 1型との違いは、まっすぐな大腿骨と、顕著なクローバー葉頭蓋です。
- 原因は特定の突然変異(K650E)であり、親からの遺伝ではありません。
- 呼吸障害に加え、脳への圧迫(水頭症・大後頭孔狭窄)のリスクが高く、脳外科的な管理が重要です。
- 適切な医療的ケアにより、長期生存と在宅生活が可能になってきています。
