ルビンシュタイン・テイビ症候群(Rubinstein-Taybi Syndrome: RSTS)という診断名を聞き、インターネットで情報を検索されているご家族の方へ。
まだ聞き慣れない病名に戸惑い、将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。
この病気は、1963年にルビンシュタイン医師とテイビ医師によって報告された、生まれつきの遺伝子の変化による疾患です。特徴的なお顔立ちや、幅の広い親指、発達のゆっくりさなどを特徴とします。
ここでは、その中でも原因遺伝子が「EP300」である「ルビンシュタイン・テイビ症候群2型(RSTS2)」に焦点を当てて解説します。1型との違いや、生活の中で気をつけるべきポイント、そしてこの体質を持つ方々の魅力的な側面についても詳しくお伝えします。
概要:どのような病気か
ルビンシュタイン・テイビ症候群(RSTS)は、先天異常症候群のひとつです。大きく分けて、CREBBP遺伝子に変異がある「1型」と、EP300遺伝子に変異がある「2型」の2種類があります。
全体としては、およそ10万人に1人から12万5000人に1人の割合で生まれると言われています。決して多い病気ではありませんが、世界中に同じ診断を受けた仲間がいます。
2型(RSTS2)は、RSTS全体の患者さんのうち、約3%から8%程度を占めると考えられています。1型に比べると報告例が少ないため、情報が見つけにくい傾向にありますが、基本的な症状やケアの方法は1型と多くの共通点があります。
一般的に、2型は1型に比べて、身体的な特徴や知的発達の遅れが「比較的軽度」である傾向があると報告されていますが、個人差が非常に大きいため、一人ひとりの個性や症状に合わせたサポートが必要になります。
主な症状
症状の現れ方はお子さんによって千差万別ですが、RSTS2においてよく見られる特徴を体の部位や機能ごとに詳しく見ていきましょう。
お顔立ちの特徴
多くのお子さんに共通する、愛らしい特徴があります。成長とともに少しずつ変化していくこともあります。
- 眉毛:太く、孤を描くような形(弓状眉)をしていることが多いです。
- まつ毛:長く、濃いまつ毛が特徴的です。
- 目:目が少し離れている(眼間開離)ことや、目尻が下がっている(眼裂斜下)傾向があります。
- 鼻:鼻筋が通っており、鼻柱(鼻の穴の間の壁)が長いことがあります。
- 口元:笑ったときに特徴的な形になることがあり、非常に愛嬌のある表情を見せます。上あごが狭く高い(高口蓋)こともあります。
- 小頭症:頭囲(頭の大きさ)が平均よりも小さいことがあります。
手足の特徴
この症候群の診断のきっかけとなる最も大きな特徴です。
- 幅広の親指・足の親指:手足の親指が、他の指に比べて幅広く、平たい形をしています。
- 偏位:親指が外側に向かって曲がっていることがあります。
- 多指症:稀にですが、指の数が生まれたときに多い場合があります。
成長と発達
- 低身長:生まれた時の身長や体重は標準範囲内であることが多いですが、生後数ヶ月から伸びがゆっくりになり、小柄な体格になる傾向があります。
- 知的発達症(知的障害):軽度から重度まで幅広いです。ただし、RSTS2(EP300変異)の方は、RSTS1の方に比べて、知的障害の程度が軽い傾向にあるという研究報告があります。言葉の理解力は比較的良好なことが多いです。
- 運動発達:首のすわり、お座り、歩行などの運動面の発達も、ゆっくりとしたペースで進みます。筋肉の緊張が弱い(低緊張)ことが影響しています。
その他の身体的特徴・合併症
すべての症状が出るわけではありませんが、注意深く観察する必要があります。
- 皮膚:ケロイド(傷跡が赤く盛り上がりやすい体質)になりやすい傾向があります。手術や予防接種の跡などが盛り上がることがあるため、外科的な処置をする際は注意が必要です。また、多毛(体毛が濃い)が見られることもあります。
- 眼:斜視(視線がずれる)、屈折異常(遠視や乱視など)、涙管閉塞(涙目になりやすい)などが起こることがあります。
- 歯:歯並びが悪かったり(叢生)、過剰歯(余分な歯)や先天欠損(歯が足りない)、爪状歯(前歯の裏側に突起がある)などの特徴が見られることがあります。
- 心臓:先天的な心疾患(動脈管開存症や心房中隔欠損症など)を合併することがあります。
- 泌尿生殖器:男児では停留精巣(精巣が陰嚢に降りてきていない状態)が高い頻度で見られます。腎臓の形や位置に特徴があることもあります。
- 摂食障害:乳児期には、飲み込む力が弱かったり、胃食道逆流(ミルクを吐き戻しやすい)があったりして、体重が増えにくいことがあります。
原因
ルビンシュタイン・テイビ症候群2型の原因は、1990年代後半から2000年代にかけて解明されました。
遺伝子の変化
RSTS2は、22番染色体(22q13.2)に位置する「EP300」という遺伝子の変異によって引き起こされます。
私たちの体を作る設計図であるDNAには、多くの遺伝子が含まれています。EP300遺伝子は、「ヒストンアセチル基転移酵素」というタンパク質を作る役割を持っています。
少し難しい言葉ですが、簡単に言うと、この酵素は「他のたくさんの遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする調整役」を担っています。
EP300遺伝子に変異が起きると、この調整役のタンパク質がうまく作られなくなったり、機能しなくなったりします。その結果、体の形成や脳の発達に関わる他の多くの遺伝子の働きに影響が及び、RSTS特有の症状が現れると考えられています。
遺伝について
多くのご家族が気にされる点ですが、RSTS2のほとんど(99%以上)は「突然変異(de novo変異)」によるものです。
つまり、ご両親から遺伝したものではなく、受精卵が細胞分裂を始めるごく初期の段階で、偶然に遺伝子の変化が起きたと考えられます。
したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(1%以下)。
ただし、極めて稀ですが、症状が非常に軽度な親御さんからお子さんへ遺伝する(常染色体顕性遺伝:優性遺伝)ケースも報告されています。心配な場合は、遺伝カウンセリングで専門家に相談することをお勧めします。
診断と検査
診断は、特徴的な症状の確認と、遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
臨床診断
医師がお子さんの様子を診察し、診断の手がかりを探します。
- 特徴的な顔貌(眉毛、鼻、目など)
- 幅広の親指と足の親指
- 成長や発達の遅れ
これらが揃っている場合、臨床的にルビンシュタイン・テイビ症候群と診断されることがあります。
遺伝学的検査
確定診断や、1型か2型かを区別するために行われます。
血液を採取し、DNAを解析します。現在は「次世代シーケンサー」という技術を用いて、CREBBP遺伝子とEP300遺伝子を同時に調べることが一般的です。
EP300遺伝子に変異が見つかった場合、RSTS2という確定診断に至ります。
注意点として、臨床的にはRSTSの症状があっても、現在の検査技術では遺伝子の変異が見つからないケースも一定数(約10〜30%)存在します。その場合でも、症状に基づいた療育や管理を行っていくことに変わりはありません。

治療と管理
現在のところ、遺伝子の変異そのものを治す根本的な治療法はまだありません。しかし、症状に応じた「対症療法」と、発達を促す「療育」を行うことで、お子さんの可能性を最大限に引き出し、健やかな生活を送ることができます。
年齢に応じた健康管理(サーベイランス)
合併症を早期に発見し対処するために、定期的な検査が推奨されています。
- 心臓:診断時に心エコー検査を行い、心疾患の有無を確認します。問題がなければ頻繁な検査は不要なことが多いです。
- 眼科:斜視や屈折異常は視力の発達に影響するため、定期的な眼科検診が必要です。眼鏡による矯正や、必要に応じて手術を行います。
- 聴力:中耳炎になりやすかったり、難聴があったりする場合があるため、定期的に聴力検査を行います。
- 歯科:あごが小さく歯並びが悪くなりやすいため、虫歯のリスクが高くなります。小児歯科での定期的なフッ素塗布やクリーニング、将来的には矯正治療を検討します。
- 泌尿器:男児の停留精巣は、将来の生殖機能や悪性化のリスクを考慮して、手術が必要になることがあります。腎臓のエコー検査も行います。
- 整形外科:側弯症(背骨が曲がる)や関節の問題がないかチェックします。
療育(リハビリテーション)
発達をサポートするために、早期からの療育が非常に重要です。
- 理学療法(PT):筋肉の緊張が低いことによる運動発達の遅れに対し、体の使い方を練習します。
- 作業療法(OT):手先の不器用さがある場合、遊びを通じて微細運動(指先の動き)を促します。
- 言語聴覚療法(ST):言葉の遅れや、飲み込みの問題(嚥下障害)に対してアプローチします。手話や絵カードなど、言葉以外のコミュニケーション手段を取り入れることも有効です。
RSTS2特有の注意点
- ケロイド体質への配慮:手術が必要な場合(例えば停留精巣の手術や整形外科的な手術)、傷跡がケロイド状になりやすいことを医師にあらかじめ伝え、形成外科的な縫合などの配慮を相談することが大切です。
- 妊娠中の合併症との関連:近年の研究で、RSTS2のお子さんを妊娠していたお母さんは、妊娠高血圧腎症(かつての妊娠中毒症)や、羊水過多などの合併症を経験する頻度が高いことが分かってきています。これは胎盤にあるEP300遺伝子の働きが関係している可能性が指摘されています。診断がついた後、お母さんが「妊娠中の私の体調管理が悪かったから病気になったのでは」と責めてしまうことがありますが、これは逆で「赤ちゃんの遺伝子の特徴が、お母さんの体調に影響を与えていた」可能性が高いのです。ご自身を責める必要は全くありません。
日常生活でのサポート
- 食事:乳児期は吐き戻しや飲み込みにくさに対応し、とろみをつけるなどの工夫をします。成長してからは、逆に食欲が増して肥満になりやすい傾向があるため、栄養バランスとカロリー管理が大切になります。
- 睡眠:睡眠時無呼吸症候群が見られることがあります。いびきが大きい、呼吸が止まるなどの様子があれば医師に相談してください。
まとめ
ルビンシュタイン・テイビ症候群2型(RSTS2)は、EP300遺伝子の変異によって起こる疾患です。
幅広い親指や特徴的なお顔立ち、発達の遅れが見られますが、1型に比べると知的障害は軽度であることが多いとされています。
- 原因:EP300遺伝子の変異(多くは突然変異)。
- 主な症状:特徴的な顔貌、幅広の親指・母趾、成長障害、発達遅滞。
- 合併症管理:心臓、眼、歯、ケロイド体質などに注意し、定期検診を受ける。
- 予後:個人差は大きいですが、適切な医療ケアと療育により、学校生活や社会生活を楽しみながら送っている方がたくさんいます。
命に関わるような重篤な合併症は比較的少なく、寿命についても、重い心疾患などがなければ平均的な寿命に近いと考えられています。
