SADDANは、軟骨無形成症と同じFGFR3遺伝子の変化によって起こる、極めて稀な骨系統疾患です。骨の成長、脳の発達、皮膚の状態に特徴が現れますが、以前考えられていたよりも長期の生存とお子様なりの成長が可能であることが、近年わかってきています。
お子様が「SADDAN(サダン)」、あるいは「SADDAN異形成症」という診断を受けたとき、聞き慣れない病名に戸惑い、大きな不安を感じられたことでしょう。
「骨の病気なの?」「発達に遅れが出るの?」「皮膚の症状って何?」
インターネットで検索しても、非常に稀な疾患であるため日本語の詳しい情報はほとんど見つかりません。専門的な英語の論文ばかりが出てきて、途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。私自身、これまでの診療のなかで、極めて稀な骨系統疾患の診断を受けたご家族から、同じような戸惑いや不安のお声を伺ってきました。
名前が少し怖い響きを持っているかもしれませんが、これは英語の症状の頭文字をとったものです。この病気は、軟骨無形成症(アコンドロプラジア)と同じ「FGFR3」という遺伝子の変化で起きます。ただし、軟骨無形成症よりも骨や発達への影響が強いという特徴があります。
しかし、かつて「致死性」と呼ばれた疾患群とは異なります。適切な医療ケアを受けることで、長期の生存が可能であり、成長していくお子様たちがいます。
この記事でわかること
- SADDANの原因となるFGFR3遺伝子の変異(K650M)と、軟骨無形成症・致死性骨異形成症との関係
- 骨格・神経発達・皮膚・呼吸器にあらわれる主な症状
- 診断の進め方と、呼吸管理を中心とした治療・療育のロードマップ
- 長期生存の見通しと、日常生活で大切にしたい視点
- 一般的なNIPT(新型出生前診断)でわかる範囲の限界
概要:どのような病気か
SADDANは、生まれつき骨の成長に障害が起こる「骨系統疾患(こつけいとうしっかん)」の一つです。非常に長い正式名称の頭文字をとって「SADDAN(サダン)」と呼ばれています。
名前の由来と意味
この病名は、主な4つの特徴を表しています。
S:Severe Achondroplasia(重度軟骨無形成症)。非常に背が低く、手足が短いという、骨の成長障害が重度であることを意味します。
DD:Developmental Delay(発達遅滞)。首すわりや歩行などの運動発達、および言葉や理解などの知的発達に遅れが見られることを意味します。
AN:Acanthosis Nigricans(黒色表皮腫:こくしょくひょうひしゅ)。首や脇の下などのしわの部分が、黒く厚くなる皮膚の特徴を意味します。
FGFR3異常症グループの一つ
SADDANは、4番染色体にある「FGFR3(エフ・ジー・エフ・アール・スリー)」という遺伝子の変化によって起こります。同じ遺伝子の変化でも、変異の種類によって重症度が大きく異なるグループの一つです。この遺伝子の変化は、他にもいくつかの病気を引き起こすことが知られています。
軟骨無形成症(Achondroplasia)は、最も一般的な骨系統疾患です。知能は正常なことが多いタイプです。致死性骨異形成症(Thanatophoric Dysplasia)は、骨の症状が最も重く、呼吸障害が強いタイプです。
SADDANは、骨の症状が上記2つの中間からより重度です。かつ「発達の遅れ」と「皮膚症状」を合併するのが最大の特徴です。
つまり、SADDANは「骨の症状が強く、かつ発達のサポートが必要なタイプ」と理解することができます。
それぞれの特徴は軟骨無形成症の解説記事や、致死性骨異形成症1型(TD1)・致死性骨異形成症2型(TD2)の解説でも詳しく紹介しています。あわせて読むと、FGFR3関連疾患の全体像がつかみやすくなります。
| 疾患 | 骨症状の重さ | 知的発達 | 皮膚症状 |
|---|---|---|---|
| 軟骨無形成症 | 軽度〜中等度 | 多くは正常 | なし |
| SADDAN | 中等度〜重度 | 重度の遅れが多い | 黒色表皮腫あり |
| 致死性骨異形成症 | 最重度 | 周産期の生命予後が最も厳しい | なし |
主な症状
SADDANの症状は、骨格・神経発達・皮膚・呼吸器など全身に現れ、生まれてすぐの時期から気づかれることが一般的です。
1. 骨格の特徴(重度軟骨無形成症)
生まれた時から、あるいは胎児期のエコー検査で気づかれることが多い特徴です。
著しい低身長と四肢短縮。手足、特に腕の付け根(上腕)や太ももの付け根(大腿)が非常に短く、胴体の長さに比べて手足が短いため、全体的に小柄になります。
大腿骨の湾曲(受話器様変形)。太ももの骨(大腿骨)が強く曲がっており、レントゲンでは昔の電話の受話器のように見えることがあります。これは致死性骨異形成症1型にも見られる特徴ですが、SADDANでも見られます。脛(すね)の骨も曲がっていることがあります。
肋骨の短縮と胸郭。肋骨が短いため、胸が狭く、お腹がぽっこりと出た体型になります。胸が狭いことは、後述する呼吸の問題にも関係します。
頭と手の特徴。頭が大きく(大頭症)、おでこが前に出て、鼻の付け根が低い(鞍鼻:あんび)のも特徴です。指が短く、中指と薬指の間が開いている「三叉手(さんさしゅ)」と呼ばれる特徴が見られることもあります。
2. 神経・発達の特徴
神経・発達の症状は、SADDANを他のFGFR3異常症と区別するうえで重要なポイントです。
重度の発達の遅れが見られることが多く、首のすわり、お座り、歩行などの運動発達は、骨格の問題と神経の問題の両方により、ゆっくり進みます。言葉の理解や発語などの知的発達にも遅れが見られ、生涯にわたって療育や生活支援が必要になることが一般的です。
筋緊張低下。赤ちゃんの頃、全身の筋肉の張りが弱く、体が柔らかい(フロッピーインファント)ことがあります。てんかん発作を合併することもあり、水頭症により脳の中の水分(髄液)が溜まりすぎて頭が大きくなる、脳室拡大が見られることも多いです。
3. 皮膚の特徴(黒色表皮腫)
病名の一部にもなっている特徴的な症状です。首の周り、脇の下、足の付け根(鼠径部)などの皮膚が、黒っぽく色素沈着し、ビロードのように厚くざらざらとした感触になります。生まれた時からあることは少なく、乳児期以降、あるいは幼児期になってから徐々に現れてくることが多いです。
4. 呼吸器の症状
胸郭低形成による呼吸障害。胸が狭いために肺が十分に広がらず、呼吸が浅くなることがあります。
閉塞性無呼吸。顔の中央部の骨が小さいため気道が狭くなりやすく、寝ている時にいびきをかいたり、呼吸が止まったりする睡眠時無呼吸症候群を起こしやすいです。
中枢性無呼吸。脳と首のつなぎ目(大後頭孔)が狭くなることで呼吸の指令を出す神経が圧迫され、呼吸が止まってしまうことがあります。
原因:なぜ起きたのか
SADDANの原因は、FGFR3遺伝子の中の「Lys650Met(K650M)」という特定の変異です。ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではありません。ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてですが、声を大にしてお伝えしたい点です。
FGFR3遺伝子の特定の変異
遺伝子はタンパク質の設計図です。FGFR3遺伝子は、骨の成長に対して「ブレーキ」をかける役割を持つタンパク質を作っています。通常は、骨が必要以上に伸びすぎないよう適度にブレーキをかけています。
K650Mという変異が起きると、このブレーキ機能が非常に強く、常にかかりっぱなしの状態になります。強力なブレーキのせいで軟骨細胞が増えず、骨が伸びなくなってしまいます。
さらに、この特定の変異は骨だけでなく、脳の発達や皮膚の細胞にも強い影響を与える性質を持っています。そのためSADDAN特有の症状(発達遅滞や黒色表皮腫)が現れると考えられています。
FGFR3遺伝子の変化による病気は、遺伝する場合は常染色体顕性の形式をとります。ただし次の項目で説明する通り、SADDANのほとんどは親から受け継いだものではありません。
分子メカニズムの詳細は、国際的な遺伝性疾患データベースである米国国立医学図書館MedlinePlus GeneticsのSADDAN解説でも整理されています。近縁疾患の遺伝学的な位置づけはGeneReviews「Achondroplasia」が参考になります。
突然変異(de novo変異)
SADDANの患者さんのほとんどは、「de novo(デ・ノボ)」と呼ばれる突然変異で発症し、ご両親の遺伝子には異常がないケースがほとんどです。
これは、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精後の細胞分裂の非常に早い段階で、偶然FGFR3遺伝子にこの変化が起きたものです。誰にでも起こりうる自然の確率的な現象であり、防ぐことは現代の医学では不可能です。
私は外来でこの点を繰り返しお伝えしていますが、「自分たちのせいだ」と考え込んでしまうご両親を、これまで何度も見てきました。原因を正しく知ることが、ご家族の気持ちを少しでも軽くする一歩になると感じています。
診断と検査
診断は、特徴的な症状の組み合わせと、レントゲン検査、そして遺伝学的検査によって行われます。
1. 身体診察
極端な低身長、手足の短さ、大きな頭、皮膚の黒ずみ(年齢による)などを確認します。
2. 画像検査(レントゲン・MRI)
骨のレントゲンでは、SADDANに特徴的な骨の形を確認します。大腿骨の湾曲(受話器様変形)、椎体(背骨のブロック)が薄いこと、骨盤の形が四角いこと、肋骨が短いことなどが手がかりです。頭部MRIでは、脳の構造、水頭症の有無、大後頭孔(頭と首のつなぎ目の穴)が狭くなっていないかを確認します。
3. 遺伝学的検査(確定診断)
血液検査でDNAを調べ、FGFR3遺伝子に「Lys650Met(K650M)」という変異があるかを確認します。この変異を確認することで、軟骨無形成症や致死性骨異形成症と明確に区別し、確定診断とすることができます。

治療と管理:これからのロードマップ
現時点でSADDANに対して確立された根本治療薬はありません。治療の目的は、合併症を予防・管理し、お子様の発達を最大限に支援して生活の質を高めることです。FGFR3遺伝子の働きを抑える薬(軟骨無形成症治療薬など)の研究は進んでいますが、SADDANへの適応は今後の研究課題です。
1. 呼吸管理(生命を守るために)
最も注意が必要なのが呼吸で、状態に応じて複数の対応を組み合わせます。
睡眠時無呼吸の管理も欠かせません。アデノイドや扁桃腺が大きい場合は切除手術を行ったり、寝ている間にマスクで空気を送るCPAP(シーパップ)療法を行ったりします。
大後頭孔狭窄への対応も重要です。頭と首のつなぎ目の骨が狭く、呼吸の中枢(延髄)を圧迫している場合は、骨を削って広げる「大後頭孔減圧術」という手術が必要になることがあります。この手術によって突然死のリスクを減らし、呼吸状態の改善が期待できます。
重度の呼吸障害がある場合は、喉に穴を開けてカニューレを入れる気管切開を行い、安定した呼吸を確保することもあります。
2. 神経・脳外科的管理
脳室拡大が進行し、脳を圧迫する水頭症がある場合は、余分な髄液をお腹などに流す「シャント手術」を行います。てんかんについては、脳波検査を行い、発作がある場合は抗てんかん薬を服用してコントロールします。
3. 整形外科的管理
骨の変形や背骨の曲がりに対しては、長期的なフォローが必要です。O脚や骨の曲がりが強く歩行に支障が出る場合は、骨を切ってまっすぐにする手術(骨切り術)を行うことがあります。脊柱管狭窄症については、背骨の神経の通り道が狭くなりやすいため、手足のしびれや麻痺が出ないか定期的にチェックします。
4. 発達・療育サポート(ハビリテーション)
SADDANのお子様にとって、早期からの療育は非常に重要です。理学療法(PT)では、首のすわりや歩行などの運動発達を促します。体の柔らかさや骨の変形に配慮しながら、体の使い方を練習します。
作業療法(OT)では手先の動きや、食事・着替えなどの日常生活動作の練習を行います。言語聴覚療法(ST)では、言葉の遅れや飲み込み(嚥下)の問題にアプローチします。コミュニケーション手段として、サインや絵カード、タブレット端末などを活用することもあります。
5. 皮膚のケア
黒色表皮腫自体は、健康に悪影響を及ぼすものではありません。皮膚が厚くなっている部分は汚れがたまりやすいため、清潔を保ち、保湿ケアを行います。
予後と生活について
SADDANは重篤な疾患ですが、致死性骨異形成症とは異なり、以前考えられていたよりも長期生存が可能であることが分かってきています。適切な呼吸管理や合併症の治療を行うことで、多くのお子様が乳幼児期を乗り越え、成長していきます。
実際に、著しい低身長に対して成長ホルモン治療を行いながら長期生存に至った症例が、海外の学術論文(PMC掲載の症例報告)でも報告されています。治療方針は症例ごとに異なるため、詳細は主治医と相談してください。
発達のペースは非常にゆっくりで、生涯にわたって介助や見守りが必要になることが多いですが、お子様なりにできることは増えていきます。笑顔を見せ、家族を認識し、好きな遊びを見つけ、意思表示をするようになります。特別支援学校に通い、地域の中で生活している患者さんもいらっしゃいます。
私自身、外来でご家族とお話しする中で、診断を受けた直後の張り詰めた表情を見ることがあります。お子様の小さな成長を一つひとつ重ねるうちに、その表情が少しずつやわらいでいく姿を何度も見てきました。
SADDANという診断名だけを見て将来を決めつけず、目の前のお子様の歩みに目を向けていただきたいと考えています。
SADDANと出生前診断(NIPT)でわかる範囲
SADDANのような一つの遺伝子の変異による骨系統疾患は、一般的なNIPT(新型出生前診断)の対象には含まれていません。
NIPTは母体の血液から胎児由来のDNA断片を調べ、主に21・18・13トリソミーなど、限られた染色体の「数」の変化を調べる非確定的な検査です。
SADDANはFGFR3遺伝子という一つの遺伝子内の特定の変異(K650M)が原因のため、通常の染色体数を対象とするNIPTでは検出できません。NIPTの仕組みと原理の解説もあわせてご確認ください。
妊娠後期の超音波検査で、四肢の短縮や大腿骨の湾曲など骨格の特徴から疑われることはありますが、それだけで確定することはできません。確定診断には、出生後の遺伝学的検査(血液検査でのFGFR3遺伝子解析)が必要です。
不確かな情報のまま思い悩まず、疑わしい所見があれば臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングの場で確認してください。
くわしく調べるときは、公的な情報源にあたると安心です。国内の希少・難病情報は難病情報センターの軟骨無形成症の解説(指定難病276)が参考になります。海外の遺伝学的な整理はGeneReviews「Thanatophoric Dysplasia」にまとまっています。
よくある質問(FAQ)
Q. 寿命はどのくらいですか?
SADDANは非常に稀な疾患のため、正確な統計データはありません。呼吸管理(特に大後頭孔狭窄の解除や無呼吸の管理)が適切に行われれば、長期生存が可能であり、成人まで成長する例も報告されています。幼少期の呼吸管理が鍵となります。
Q. 歩けるようになりますか?
骨の変形や筋緊張低下、知的発達の影響により、歩行開始はかなり遅れることが一般的です。歩行器や車椅子などの補助具が必要になることもありますが、リハビリを通じてつかまり立ちや歩行を獲得するお子様もいます。
Q. 次の子に遺伝しますか?
お子様が「突然変異」で発症した場合、ご両親の遺伝子に異常はないため、次のお子様が同じ病気になる確率は一般の確率とほぼ変わりません。詳しくは臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けてください。
Q. SADDANは出生前診断(NIPT)でわかりますか?
一般的なNIPTの対象には含まれていません。NIPTは主に染色体の数の変化を調べる非確定的な検査であり、SADDANのような一つの遺伝子の変異は通常対象外です。妊娠後期の超音波で骨格の特徴から疑われることはありますが、確定には出生後の遺伝学的検査が必要です。
Q. 軟骨無形成症や致死性骨異形成症とはどう違いますか?
いずれも同じFGFR3遺伝子の変異で起こりますが、変異の種類が異なります。軟骨無形成症は骨の症状が中心で知能は正常なことが多く、致死性骨異形成症は骨の症状が最重度で呼吸障害が強いタイプです。SADDANはその中間から重度の骨症状に、発達遅滞と黒色表皮腫が合併する点で区別されます。
まとめ
ここまでの重要ポイントを振り返ります。
- SADDANは、FGFR3遺伝子の特定の変異(K650M)による骨系統疾患です。
- 重度の低身長、発達遅滞、黒色表皮腫が主な特徴です。
- 原因は突然変異であり、親の責任ではありません。
- 呼吸管理(大後頭孔狭窄や無呼吸)と、てんかんなどの神経管理が重要です。
- 長期生存が可能であり、早期からの療育によって生活の質を高めることができます。
- 一般的なNIPTの対象外であり、確定診断には出生後の遺伝学的検査が必要です。
この記事は病気を中立にお伝えするためのものであり、どなたかを不安にさせたり、優劣をつけたりする意図はありません。正しい理解が、あたたかい支援の土台になると信じています。
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
