高IgE症候群(Hyper-IgE recurrent infection syndrome)

医者

高IgE症候群という聞きなれない病名を医師から告げられ、このページにたどり着いた方の多くは、大きな不安や戸惑いを感じていらっしゃることと思います。インターネットで検索しても難しい医学用語ばかりが並び、結局どのような病気なのか、これからどのような生活になるのかがイメージしづらいことも少なくありません。

この病気は、免疫の働きの一部に生まれつきの変化があるために起こる疾患ですが、適切な治療と管理を行うことで、症状をコントロールしながら生活を送ることができます。

概要:どのような病気か

高IgE症候群は、細菌やカビなどの病原体から体を守る免疫システムの一部がうまく働かないために、皮膚炎や肺炎などの感染症を繰り返してしまう病気です。生まれつき免疫の働きに弱点がある病気のグループである原発性免疫不全症の一つに分類されます。

この病気の最も大きな特徴は、血液検査をした際にIgE(アイジーイー)という数値が異常に高くなることです。IgEは、通常であればアレルギー反応に関わるタンパク質ですが、この病気ではその値が数千から数万という、一般的なアレルギー疾患とは桁違いに高い数値を示します。しかし、IgEが高いこと自体が直接体に悪さをするというよりは、免疫のバランスが大きく崩れていることを示す一つのサインと考えられています。

また、この病気は別名としてヨブ症候群と呼ばれることもあります。これは旧約聖書に登場するヨブという人物が、頭のてっぺんから足の裏までひどいおできに悩まされたという記述に由来しています。この病気の患者さんが、皮膚の感染症やおできに悩まされやすいという特徴をよく表しているため、このように呼ばれるようになりました。

患者さんの数は非常に少なく、稀な病気であるため、一般的な小児科や内科では診断がつくまでに時間がかかることもあります。しかし、近年では遺伝子研究が進み、病気の原因やメカニズムが詳しく分かってきており、それに基づいた適切な管理法が確立されつつあります。

主な症状

高IgE症候群の症状は、免疫に関することだけでなく、皮膚、骨、歯、顔つきなど、全身のさまざまな場所に現れます。すべての症状が全員に必ず現れるわけではありませんが、年齢とともに特徴的な変化が出てくることが多いです。ここでは代表的な症状を詳しく見ていきましょう。

皮膚の症状

生後間もない時期、多くは新生児期や乳児期から、アトピー性皮膚炎のような湿疹が顔や頭、全身に見られます。一般的なアトピー性皮膚炎と区別がつきにくいこともありますが、通常の治療ではなかなか治りにくく、かゆみが非常に強いのが特徴です。

また、この病気に非常に特徴的な症状として、冷たい膿瘍あるいは寒冷膿瘍と呼ばれるものがあります。

通常、皮膚が細菌に感染して膿がたまると、体は細菌と戦うために炎症を起こすので、その部分は赤くなり、熱を持ってズキズキと激しく痛みます。これを熱い膿瘍と呼びます。

しかし、高IgE症候群の患者さんの場合、炎症を起こす指令がうまくいかないため、赤みや熱感が少なく、痛みもあまり感じないまま、ぶよぶよとした膿の塊ができてしまうのです。痛くないからといって放置してよいわけではなく、中の膿を出して治療する必要があります。この膿瘍の原因となるのは、私たちの皮膚に普段から住み着いている黄色ブドウ球菌というありふれた菌であることがほとんどです。

呼吸器の症状

肺炎を繰り返すことも、この病気の大きな特徴であり、注意が必要な点です。

一度肺炎が治っても、すぐにまた別の細菌やカビに感染して肺炎になってしまったり、重症化したりすることがあります。

肺炎を繰り返した結果、肺の組織が壊れてしまい、肺嚢胞(はいのうほう)と呼ばれる空気のたまり場のような空洞ができることがあります。この空洞は一度できると自然には治らず、その中にカビ(アスペルギルスなどの真菌)が住み着いてしまうことがあります。カビが定着すると治療が難しくなることもあるため、日頃から肺の状態をきれいに保つことが、長く健康に過ごすための鍵となります。

顔つきの特徴

この病気特有の顔つきが見られることがあります。これを特異的顔貌と表現します。

具体的には、おでこが広くて少し前に出ていたり、鼻筋が太く鼻の穴が少し横に広がっていたり、目と目の間が離れていたりといった特徴です。また、皮膚の毛穴が目立つこともあります。

これらの特徴は、生まれたばかりの頃にはあまりはっきりしませんが、幼児期から学童期へと成長するにつれて、顔の骨格や皮膚の質感が変化し、徐々に明らかになることが多いです。これは皮膚や結合組織の弾力が関係しているとも言われています。

歯と骨の症状

歯の生え変わりにも、晩期残存乳歯と呼ばれる特徴的なトラブルが起こります。

通常、永久歯が生えてくる時期になると、乳歯の根っこが溶けて自然に抜けます。しかし、この病気では乳歯の根っこを溶かす細胞がうまく働かないため、乳歯が抜けないまま、その裏側や横から永久歯が生えてきてしまうのです。結果として、サメの歯のように歯が二列に並んでしまう二重歯列になることがあります。

骨に関しては、骨粗鬆症のように骨の密度が低くなり、骨折をしやすくなります。ちょっと転んだだけ、あるいはぶつけただけで骨折をしてしまうことがあり、特に背骨の圧迫骨折や、手足の長い骨の骨折に注意が必要です。

また、背骨が左右に曲がってしまう側弯症が見られることもあります。これも年齢とともに進行する場合があるため、定期的なチェックが必要です。

その他の症状

関節が非常に柔らかく、親指が手首につくほど曲がったり、肘や膝が逆方向に反ってしまったりする過伸展という症状が見られることもあります。

また、原因となる遺伝子のタイプによっては、血管の異常や、ウイルス性のイボができやすい、重い食物アレルギーがあるなど、異なる症状が出ることもあります。

原因

なぜ、このような多様な症状が現れるのでしょうか。その原因は、遺伝子の変異にあることが分かっています。私たちの体には、細菌やウイルスなどの敵が侵入してきたときに、敵が来たぞ、攻撃しろ、あるいは抗体を作れという命令を出す仕組みがあります。この命令を細胞から細胞へと伝える役割を果たしている遺伝子に傷がついているため、免疫細胞が正しく働けなくなってしまうのです。

STAT3遺伝子の変異

高IgE症候群の中で最も代表的な原因は、STAT3(スタッツスリー)という遺伝子の変異です。

STAT3は、免疫細胞に対して、炎症を起こして敵と戦えとか、抗体を作れといった指令を伝えるメッセンジャーの役割をしているタンパク質です。また、骨を作ったり吸収したりする細胞の働きにも関わっています。

STAT3に変異があると、特に黄色ブドウ球菌やカンジダというカビに対する防御力が弱くなり、皮膚や肺の感染症を繰り返すようになります。また、炎症を起こす指令(IL-6やIL-17などのサイトカインという物質の信号)がうまく伝わらないため、感染しても熱が出にくかったり、膿瘍が赤くならなかったりします。さらに、骨や歯の代謝にも関わっているため、骨折や歯の生え変わりの異常なども引き起こされます。

このタイプは常染色体顕性遺伝(以前の優性遺伝)という形式をとります。これは、両親のどちらかが同じ病気であれば50パーセントの確率で遺伝するというものですが、実際には両親は健康で、お子さんの代で精子や卵子が作られる過程で偶然遺伝子の変化が起きる突然変異として発症するケースが多く見られます。

DOCK8遺伝子の変異

STAT3以外にも、DOCK8(ドックエイト)という遺伝子の変異によって高IgE症候群に似た症状が出ることがあります。

こちらは常染色体潜性遺伝(以前の劣性遺伝)という形式をとります。ご両親は保因者といって病気の遺伝子を一つずつ持っていますが発症はせず、お子さんがその両方を受け継いだ場合に発症します。

STAT3のタイプと比べて、ウイルス感染症(重いイボやヘルペス、伝染性軟属腫など)が治りにくかったり、食物アレルギーが強く出やすかったりという特徴があります。また、悪性腫瘍を合併するリスクなども異なるため、区別することが重要です。

これら以外にも、TYK2やPGM3といった遺伝子の変異が見つかることもありますが、いずれも免疫システムの司令塔の一部がうまく機能していない状態と言えます。

ハート

診断と検査

診断を確定するためには、症状の観察、血液検査、そして遺伝子検査の3つのステップが重要になります。

臨床症状の評価(スコア化)

医師は、これまでの病歴や現在の症状を詳しく聞き取ります。

肺炎を何回繰り返したか、乳歯は自然に抜けたか、皮膚に冷たい膿瘍はあったか、新生児期に湿疹があったか、骨折の経験はあるかなどの項目を点数化して評価するスコアシステムが使われます。代表的なものにNIHスコアというものがあり、この点数が高い場合、高IgE症候群の疑いが強いと判断されます。

血液検査

血液検査でIgEの値を調べます。基準値は年齢によって異なりますが、この病気では数千から数万単位という、測定限界を超えるような高い値を示すことがよくあります。

また、好酸球という白血球の一種が増えていることもよくあります。

一方で、一般的な感染症の時に上昇するCRPなどの炎症反応の数値が、重い感染症にかかっているにもかかわらず、あまり上がらないことがあるのもこの病気の特徴であり、診断の手がかりになります。

遺伝子検査

最終的な確定診断には、遺伝子解析が行われます。

血液からDNAを取り出し、STAT3やDOCK8などの遺伝子に特有の変異があるかどうかを調べます。これにより、病気のタイプを特定し、より適切な治療方針を立てることができます。また、将来的な見通しや、次のお子さんへの遺伝の可能性などを考える上でも重要な情報となります。

治療と管理

現在の医療では、遺伝子の変異そのものを薬で治すことはまだ一般的ではありませんが、症状を予防し、起きてしまったトラブルに素早く対処する治療法が確立されています。また、一部の重症例では造血幹細胞移植が行われることもあります。

感染症の予防と治療

最も大切なのは、肺炎や皮膚の感染症を防ぐことです。

細菌感染、特に黄色ブドウ球菌による感染を防ぐために、ST合剤(バクタなど)という抗菌薬を毎日、あるいは週に数回、予防的に内服することが一般的です。これにより、肺炎や皮膚の膿瘍のリスクを大幅に下げることができます。

また、肺に空洞がある場合などは、カビによる感染を防ぐために、抗真菌薬を予防投与することもあります。

もし熱が出たり、咳が続いたりして感染症が疑われる場合は、たとえ本人が元気そうに見えても、早急に医療機関を受診することが大切です。炎症反応が出にくいため、気づかないうちに重症化していることがあるからです。適切な抗生物質や点滴による治療を早めに開始することが、肺を守る鍵となります。

スキンケア

皮膚のバリア機能が弱いため、毎日のスキンケアが欠かせません。

基本は、皮膚を清潔に保つことと、保湿をすることです。

黄色ブドウ球菌が皮膚で増えるのを抑えるために、殺菌効果のある石鹸を使ったり、イソジン消毒液や次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンやハイターなどの成分)を非常に薄く希釈したお風呂に入ったりするブリーチバス療法が推奨されることがあります。これはプールの消毒と同じ原理で皮膚の菌を減らす方法ですが、必ず医師の指導のもとで、正しい濃度で行ってください。自己判断で行うと皮膚を傷める原因になります。

また、保湿剤をこまめに塗って乾燥を防ぎ、湿疹がある場合はステロイド外用薬を使って炎症をしっかり抑えます。

呼吸器のケア

肺の状態を定期的にチェックすることが重要です。

レントゲンやCT検査を行い、肺に空洞(肺嚢胞)ができていないか、新しい影がないかを確認します。もし空洞ができてしまった場合は、そこにカビが感染しないように特に注意深く管理します。

痰を出しやすくする薬を使ったり、呼吸理学療法を行ったりして、肺の中に汚れがたまらないようにすることも有効です。

ひどい場合には、手術で肺の一部を切除することもありますが、手術後の合併症のリスクもあるため、慎重な判断が必要です。

歯科治療と骨のケア

乳歯が自然に抜けない場合は、歯科医院で抜歯を行う必要があります。

定期的に歯科検診を受け、レントゲンで永久歯の状況を確認しながら、適切なタイミングで乳歯を抜いてもらいます。これにより、歯並びが悪くなるのを防ぐことができます。

また、虫歯になるとそこから菌が入って重症化しやすいため、虫歯予防も非常に大切です。

骨折を防ぐため、激しいコンタクトスポーツなどは避けたほうがよい場合がありますが、骨を強くするためには適度な運動は推奨されます。カルシウムやビタミンDを意識した食事も大切です。側弯症がある場合は、整形外科での定期的なフォローと、必要に応じた装具療法などが行われます。

造血幹細胞移植

DOCK8欠損症などの一部のタイプでは、健康なドナーから造血幹細胞(血液の元となる細胞)を移植することで、免疫の機能を正常に戻す治療が積極的に行われています。

STAT3変異の場合、以前は移植の効果やリスクについて議論がありましたが、近年では重症度や生活の質を考慮し、移植が検討されるケースが増えてきています。これは病気の根治を目指せる唯一の方法ですが、移植に伴うリスクも当然あるため、免疫不全症の専門医とよく相談して決定します。

まとめ

高IgE症候群についての重要なポイントを振り返ります。

  • 免疫のアンバランス: 生まれつきの遺伝子の変化により、IgEが非常に高くなる一方で、特定の細菌やカビに対する防御力が弱くなっている病気です。
  • 主な症状: 治りにくい湿疹、痛みの少ない寒冷膿瘍、繰り返す肺炎、特徴的な顔つき、乳歯が抜けない、骨折しやすいなどが挙げられます。
  • 原因: STAT3遺伝子やDOCK8遺伝子などの変異が原因で、信号伝達がうまくいかないことによります。
  • 治療の基本: 感染症の予防内服(ST合剤など)、徹底したスキンケア(ブリーチバスなど)、呼吸器の定期チェックが柱となります。早期発見と適切な管理で、重症化を防ぐことができます。

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