ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)

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ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群、あるいは単にプロジェリアという診断名を医師から告げられ、情報を求めてこのページに辿り着かれたご家族の方へ。

聞き慣れない病名、そして老化が急速に進むという説明を受け、信じられない思いや、言葉にできない不安を感じていらっしゃるかもしれません。インターネット上には古い情報や、過度に不安を煽るような画像も存在し、それらを目にして胸を痛めている方もいるでしょう。

この病気は、遺伝子のわずかな変化によって引き起こされる、非常に稀な疾患です。世界中で見ても、数百万人に一人から数千万人に一人という確率で発生すると言われています。

まず最初にお伝えしたいのは、この病気を持つお子さんたちは、身体的な特徴こそありますが、内面は他のお子さんと全く変わらないということです。知的な発達には影響がなく、好奇心旺盛で、おしゃべりが大好きで、笑顔が素敵な子供たちです。

現在、世界中の研究者たちの尽力により、この病気の原因は解明されており、病気の進行を遅らせるための治療薬も承認され始めています。以前は「治療法がない」と言われていた時代とは異なり、医療は確実に進歩しています。

概要:どのような病気か

ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群は、遺伝子の突然変異によって、通常の数倍から10倍近い速さで全身の老化現象が進行してしまう病気です。1886年にハッチンソン博士、1897年にギルフォード博士によって報告されたことから、二人の名前をとって名付けられました。一般的にはプロジェリア、あるいは早老症と呼ばれることもあります。

この病気の子供たちは、生まれた時は正常な身長や体重で、外見上の特徴もほとんどありません。しかし、生後半年から1年を過ぎる頃から、成長のスピードが緩やかになり、独特の皮膚の変化や脱毛などの症状が現れ始めます。

身体の中で起きていることは、高齢者に見られる変化と非常によく似ています。皮膚が薄くなったり、関節が硬くなったり、血管が硬くなったりします。特に注意が必要なのは心臓や血管の病気で、動脈硬化が小児期から進行することが、この病気の予後(将来の見通し)を左右する大きな要因となります。

しかし、全ての老化現象が現れるわけではありません。例えば、アルツハイマー病のような認知症や、特定の癌のリスクが増えるといったことはなく、知能や精神面は年齢相応に、あるいはそれ以上に聡明に育つことが多いのが特徴です。

主な症状

プロジェリアの症状は、年齢とともに少しずつ変化しながら全身に現れます。ここでは、成長の過程で見られる代表的な特徴について詳しく解説します。

成長と発育の特徴

最も早期に気づかれるサインの一つが、重度の成長障害です。

生まれた時の体重や身長は標準範囲内であることが多いですが、生後数ヶ月を過ぎると体重の増えが悪くなり、身長の伸びもストップしがちになります。

食欲はあり、元気にミルクを飲んだり食事をしたりしていても、なかなか体が大きくならないのが特徴です。皮下脂肪がつきにくいため、非常に華奢な体つきになります。

顔つきと頭部の特徴

成長とともに、プロジェリア特有の愛らしい、特徴的なお顔立ちになっていきます。

頭の大きさに比べて顔の骨格(特にあご)が小さいため、頭が大きく見えることがあります。

目は大きくぱっちりとしており、少し飛び出しているように見えることもあります。

鼻は細く、くちばしのようにすっと通っています。

あごが小さく(小顎症)、歯が生えるスペースが狭いため、歯並びが不揃いになったり、歯の生え変わりが遅れたりすることがあります。

また、生後10ヶ月から2歳くらいの間に、髪の毛やまゆ毛、まつ毛が抜け落ちることがあります。これは全身脱毛症と呼ばれる状態で、頭皮の血管が透けて見えるようになります。

皮膚の特徴

皮膚にも高齢者のような変化が現れます。

皮膚が薄く、透明感があり、手足の静脈が透けて見えるようになります。

また、強皮症といって、皮膚が硬く突っ張ったような状態になることもあります。特にお腹や太ももなどで見られ、皮膚の弾力が失われるため、乾燥しやすくなります。

爪にも変化が現れやすく、割れやすくなったり、形がいびつになったりすることがあります。

骨と関節の症状

骨や関節にも影響が出ます。

関節が硬くなる関節拘縮が見られ、膝や肘、指などが完全に伸びきらなくなることがあります。そのため、歩き方が少しガニ股のようになったり、独特の姿勢になったりすることがあります。

骨自体も弱くなりやすく、骨粗鬆症のような状態になることがあります。また、大腿骨の付け根の骨が変形したり、脱臼しやすくなったりすることもあります。

指先が細くなることも特徴の一つです。

心臓と血管の症状(最も重要)

プロジェリアにおいて最も注意深く管理しなければならないのが、心臓と血管の状態です。

通常であれば中高年になってから見られる動脈硬化が、幼少期から進行します。血管の壁が硬く厚くなり、血液の通り道が狭くなってしまいます。

これにより、高血圧になったり、心臓に負担がかかって心不全を起こしたり、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まったりします。

ご家族にとって最も心配な点かと思いますが、現在は定期的な検査と新しいお薬によって、以前よりも長く安定した状態を保てるようになってきています。

知的発達について

体の老化は進みますが、脳の機能は守られています。

知的な遅れは見られず、むしろ年齢以上に賢く、感受性が豊かで、明るい性格のお子さんが多いと言われています。

学校に通い、勉強し、友達と遊び、趣味を楽しむことができます。体の小ささをカバーする工夫は必要ですが、学びや精神的な成長に関しては、他の子供たちと同じように可能性に満ちています。

原因

なぜ、これほど急速に老化が進んでしまうのでしょうか。その原因は、私たちの体の設計図であるDNAの中にあります。

LMNA遺伝子の変異

プロジェリアの原因は、第1番染色体にある「LMNA(ラミンエー)」という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、細胞の核(DNAが入っている重要な部屋)の形を保つための柱となる「ラミンA」というタンパク質を作る役割を持っています。

家の柱がしっかりしていれば家は丈夫ですが、柱が脆ければ家は歪んでしまいます。それと同じように、LMNA遺伝子に変異があると、正常なラミンAが作られず、代わりに異常なタンパク質が作られてしまいます。

異常タンパク質「プロジェリン」

この異常なタンパク質は「プロジェリン」と名付けられています。

プロジェリンは、細胞の核の膜に張り付いて離れなくなってしまい、核の形を歪ませてしまいます。

細胞の核が歪むと、細胞分裂がうまくいかなくなったり、DNAが傷つきやすくなったりして、細胞が早く死んでしまったり、機能が衰えたりします。

これが全身の細胞で起こることで、組織や臓器の老化が急速に進むと考えられています。

遺伝について

この病気は遺伝子の変異によって起こりますが、いわゆる遺伝病のように、親から子へと代々受け継がれるものではありません。

ほとんどのケースにおいて、ご両親の遺伝子は正常です。精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の非常に早い段階で、偶然にLMNA遺伝子にコピーミス(突然変異)が起こることで発症します。これを新生突然変異と呼びます。

そのため、もし次のお子さんを考えた場合、再び同じ病気のお子さんが生まれる確率は、一般のカップルとほとんど変わらないと言われています(ごく稀な例外を除く)。

お母さんの妊娠中の行動や、食べ物、環境などが原因で起きるものでは決してありません。

赤ちゃん

診断と検査

診断は、特徴的な症状の確認と、遺伝子検査によって行われます。

臨床診断

医師は、お子さんの成長記録や身体的な特徴を詳しく診察します。

生後すぐには症状が出ないため、最初は「発育不全」や「強皮症」などを疑われることもありますが、1歳から2歳にかけて特徴的な顔立ちや皮膚の変化がはっきりしてくることで、この病気が疑われます。

遺伝子検査

確定診断のために、遺伝子検査が行われます。

少量の血液を採取し、DNAを解析してLMNA遺伝子に変異があるかどうかを調べます。

プロジェリアの患者さんの約90パーセントは、LMNA遺伝子の特定の場所(コドン608という位置)に変異が見つかります。

この検査によって、確実に診断を下すことができます。

治療と管理

かつては「対症療法しかない」と言われていましたが、近年、病気の進行そのものに働きかける新しい薬が登場し、治療の選択肢が広がっています。

原因療法(ロナファルニブ)

2020年、アメリカのFDA(食品医薬品局)は、プロジェリアの治療薬として初めて「ロナファルニブ(商品名ゾキンヴィ)」を承認しました。日本でも使用に向けた動きや、治験としての使用などが進められています。

この薬は、もともとは癌の治療薬として開発されていたもので、異常なタンパク質であるプロジェリンが作られる過程を邪魔する働きがあります。

完全に病気を治すまでには至りませんが、血管の硬化を和らげたり、体重の増加を助けたり、生存期間を延ばしたりする効果が確認されています。

心血管系の管理

心臓と血管を守ることが、命を守る上で最も重要です。

定期的な心エコー検査、心電図検査、頸動脈エコー検査などを行い、血管の状態をチェックします。

血液をサラサラにして血栓(血の塊)ができるのを防ぐために、低用量のアスピリンを毎日服用することが一般的です。

また、コレステロールを下げるスタチンという薬や、血圧を調整する薬を使うこともあります。

水分をこまめに摂って脱水を防ぐことも、血栓予防のために大切です。

栄養管理

成長を助け、エネルギーを維持するために、十分な栄養が必要です。

少量でもカロリーが高い食事を心がけたり、回数を分けて食事をしたりします。

噛む力が弱かったり、歯の状態が悪かったりする場合は、柔らかい食事にするなどの工夫が必要です。

専門の栄養士と相談しながら、その子に合った食事プランを立てていきます。

リハビリテーション

関節が硬くなるのを防ぎ、動ける範囲を保つために、理学療法や作業療法を行います。

無理に伸ばすのではなく、遊びを取り入れながら楽しく体を動かすことが大切です。

また、股関節の脱臼に注意しながら、適度な運動を続けることは、骨を強くするためにも推奨されています。

足の形や関節の状態に合わせて、靴の中敷き(インソール)を作ったり、装具を使ったりすることもあります。

日常生活のケア

皮膚が薄く乾燥しやすいため、保湿剤をこまめに塗り、日焼け止めを使って紫外線から肌を守ります。

頭皮を保護するために帽子をかぶることも有効です。

歯磨きは重要ですが、口が開きにくい場合があるため、小さめの歯ブラシを使うなどの工夫をします。

まとめ

プロジェリアについての要点を整理します。

  • 病気の本質: LMNA遺伝子の突然変異により、プロジェリンという異常なタンパク質が作られ、細胞の老化が急速に進む病気です。
  • 主な症状: 重度の成長障害、脱毛、薄い皮膚、関節の拘縮、そして小児期からの動脈硬化が特徴です。
  • 知的能力: 知的発達に遅れはなく、精神的には年齢相応かそれ以上に成長します。
  • 遺伝性: ほとんどの場合、親からの遺伝ではなく、突然変異によって起こります。
  • 治療の希望: ロナファルニブという分子標的薬が登場し、予後の改善が期待されています。心血管の管理と栄養、リハビリが日々のケアの柱です。

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