医師からGAND症候群、あるいはGATAD2B関連神経発達障害という聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
お子様の診断を受け、驚きとともに、これからどのような成長をたどるのか、どう支えていけばいいのかという大きな不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は比較的新しく定義された疾患であり、日本語で書かれた詳しい情報はまだ多くありません。インターネットで検索しても英語の論文ばかりが出てきてしまい、孤独を感じている方もいるかもしれません。
GAND症候群は、生まれつきの遺伝子の変化によって、言葉の発達や体の動き、知的な発達にゆっくりとしたペースが見られる体質です。
この病気は、2013年に初めて報告されたばかりの新しい疾患概念ですが、世界中に同じ診断を受けた患者さんとご家族がおり、互いに支え合うコミュニティも生まれています。
概要:どのような病気か
GAND症候群は、正式名称をGATAD2B関連神経発達障害といいます。英語ではGATAD2B-associated neurodevelopmental disorderと表記され、この頭文字をとってGAND(ギャンドまたはガンド)症候群と呼ばれています。
この病気は、私たちの体の設計図であるDNAの中に存在するGATAD2Bという遺伝子に変化が起きることで発症します。この遺伝子は、脳や体の発達において非常に重要な役割を担っているため、ここに変化が生じると、神経の発達や身体の機能にさまざまな影響が現れます。
主な特徴としては、知的な発達の遅れ、言葉を話すことの難しさ、筋肉の張りが弱いことなどが挙げられます。しかし、症状の程度には個人差が非常に大きく、重度の障害を持つ方もいれば、比較的軽度で自立した生活に近いことができる方もいます。
世界的に見ても患者数はまだ数百人規模とされる希少疾患(レアディジーズ)ですが、遺伝子検査技術の進歩により診断されるケースが増えてきており、決して未知の病気ではなくなりつつあります。
主な症状
GAND症候群の症状は、お子さんによって一人ひとり異なりますが、多くの患者さんに共通して見られるいくつかの特徴的な傾向があります。ここでは、代表的な症状について詳しく解説します。
1. 知的な発達と学習の特徴
ほとんどの患者さんに、知的な発達の遅れが見られます。その程度は軽度から重度まで幅広く、一人ひとりの個性によって異なります。
新しいことを覚えるのに時間がかかったり、複雑な指示を理解するのが難しかったりすることがあります。しかし、ゆっくりではあっても、子供たちは着実に学び、成長し続けます。
多くのご家族が、子供たちの記憶力の良さや、特定の物事に対する豊かな好奇心について報告しています。
2. 言葉とコミュニケーションの特徴
GAND症候群の最も大きな特徴の一つが、言葉の発達に関する課題です。
多くの患者さんにおいて、言葉を話し始める時期が遅かったり、話せる単語の数が少なかったりします。中には、発語(声に出して話すこと)がほとんど見られないお子さんもいます。
これは、小児期発語失行と呼ばれる状態が関係していることがあります。
発語失行とは、言いたいことは頭の中にあるのに、口や舌を動かして音にするための脳からの指令がうまく伝わらない状態のことです。
そのため、話せないからといって理解していないわけではありません。多くのGAND症候群のお子さんは、自分が話せる以上に、周りの人が言っていることをよく理解しています。
3. 筋肉と運動の特徴
赤ちゃんの頃から、筋肉の張りが弱い筋緊張低下という症状が見られることがよくあります。
抱っこした時に体がふにゃふにゃと柔らかく感じたり、首がすわる、お座りをする、歩き始めるといった運動のマイルストーンが、一般的な月齢よりも遅くなったりする原因となります。
成長とともに筋力はついていきますが、疲れやすかったり、姿勢を保つのが苦手だったりすることがあります。また、手先の細かい動き(微細運動)が不器用なこともあります。
4. 摂食と消化器の症状
生まれてすぐの時期に、おっぱいやミルクを飲む力が弱く、哺乳に時間がかかることがあります。これも口周りの筋肉の弱さが関係しています。
また、胃の中のものが食道に戻ってしまう胃食道逆流症や、便秘などの消化器系のトラブルを抱えることも少なくありません。
5. 顔つきと頭部の特徴
GAND症候群のお子さんには、いくつか共通したお顔の特徴が見られることがあります。
おでこが広くて高い、目と目の間が少し離れている、頭のサイズが平均よりも大きい大頭症などの特徴が報告されています。
ただし、これらの特徴は非常にマイルドなことが多く、パッと見ただけでは分からないこともよくあります。ご両親に似た可愛らしいお顔をしているお子さんがほとんどです。
6. 行動と精神面の特徴
明るく人懐っこい性格のお子さんが多い一方で、いくつかの行動面での課題が見られることもあります。
多動や衝動性、注意力の散漫といったADHD(注意欠如・多動症)のような特徴や、こだわりが強い、感覚過敏があるといった自閉スペクトラム症のような特徴を持つことがあります。
また、不安を感じやすかったり、睡眠のリズムが整いにくかったりすることもあります。
原因
なぜ、言葉が出にくかったり、筋肉が柔らかかったりするのでしょうか。その原因は、細胞の中にある遺伝子の働きを詳しく見ることで理解できます。
GATAD2B遺伝子の役割
この病気の原因は、第1番染色体にあるGATAD2B(ギャタド・ツー・ビー)という遺伝子の変異です。
私たちの体は、約37兆個の細胞でできており、その一つひとつの核の中にDNAという設計図が入っています。GATAD2B遺伝子は、その設計図の一部です。
この遺伝子は、NuRD複合体(ヌクレオソーム・リモデリング・脱アセチル化酵素複合体)という、非常に重要なタンパク質のグループを作るための一員として働いています。
少し難しい話になりますが、NuRD複合体は、他のたくさんの遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする調整役、いわば遺伝子の司令塔あるいは図書館の司書さんのような役割をしています。
脳が発達する時期に、どの遺伝子をいつ、どのくらい働かせるかをコントロールしているのです。
遺伝子の変化(変異)
GAND症候群の患者さんでは、このGATAD2B遺伝子の一部が欠けていたり、文字の並びが変わっていたりします。
すると、司令塔であるNuRD複合体がうまく機能しなくなります。その結果、脳の神経細胞が作られたり、つながったりするプロセスにおいて、適切なタイミングで適切な指令が出せなくなり、発達全体に影響が出てしまうのです。
遺伝について
多くのご家族が「親から遺伝したのか?」「妊娠中の生活に問題があったのか?」とご自身を責めてしまわれます。
しかし、GAND症候群のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。
これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にGATAD2B遺伝子に変化が起きたことを意味します。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中の食べ物、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。
ごく稀に、親御さんが症状のないまま遺伝子の変化を持っていて遺伝するケース(モザイクなど)もありますが、基本的には突発的に発生する疾患と考えられています。
診断と検査
GAND症候群は、顔つきや症状だけでは他の発達障害や遺伝性疾患と区別がつかないことが多いため、確定診断には遺伝子検査が不可欠です。
臨床診断の難しさ
発達の遅れや筋緊張低下は、多くの病気で見られる一般的な症状です。そのため、小児科医の診察だけでは「発達遅滞」や「知的障害」という診断名にとどまり、原因までたどり着けないことが長くありました。
遺伝学的検査
近年、急速に普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた遺伝子検査によって、診断が可能になりました。
全エクソーム解析(WES)
遺伝子のうち、タンパク質を作る重要な部分(エクソン)を網羅的にすべて解読する検査です。GATAD2B遺伝子の中のたった1文字の変化(点変異)など、微細な変化も見つけることができます。
現在、原因不明の発達遅滞があるお子さんに対して、この検査が行われることが増えており、それによってGAND症候群と診断されるケースが増加しています。
染色体マイクロアレイ検査(CMA)
染色体の微細な欠失などを調べる検査です。GATAD2B遺伝子を含む領域がごっそりと欠けているタイプの変異であれば、この検査で見つかることもあります。
これらの検査でGATAD2B遺伝子に変異が見つかり、それが病気の原因であると判断された場合に、診断が確定します。

治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)と、発達を促すサポート(療育)を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。
1. 療育(リハビリテーション)
GAND症候群のお子さんにとって、早期からの療育は非常に重要です。
理学療法(PT)
筋肉の弱さをカバーし、体のバランス感覚を養います。寝返り、お座り、歩行などの粗大運動の発達を促します。足首を支える装具(インソールや靴型装具)を使うこともあります。
作業療法(OT)
手先の器用さ(微細運動)や、食事・着替えなどの日常生活動作の練習をします。また、感覚過敏がある場合は、感覚統合療法などを通じて、感覚の受け取り方を調整する練習も行います。
2. 言語とコミュニケーションの支援
言葉の表出が苦手なお子さんにとって、コミュニケーション手段を確保することは、心の安定と成長のために最も大切です。
言語聴覚士(ST)による指導を受けます。
代替コミュニケーション(AAC)の活用
言葉だけで伝えるのが難しい場合、サイン言語(手話のようなジェスチャー)、絵カード、タブレット端末のアプリ(VOCA)などを使います。
「話せないから道具を使う」のではなく、「道具を使ってコミュニケーションの楽しさを知ることで、言葉の発達も促される」という考え方が主流です。iPadなどのタブレットを使って、自分の意思を上手に伝えているGAND症候群のお子さんはたくさんいます。
3. 医療的な管理
定期的な健康チェックが必要です。
視力の問題:斜視や屈折異常(近視・遠視)がないか、眼科で定期的にチェックします。
てんかんの管理:けいれん発作が疑われる場合は、脳波検査を行い、必要に応じてお薬でコントロールします。
心臓の検査:心臓の構造に問題がないか、念のため超音波検査を行うことがあります。
睡眠の管理:睡眠のリズムが乱れやすい場合は、生活リズムを整えたり、メラトニンなどのお薬を使ったりして、良質な睡眠を確保します。
4. 教育と生活環境
就学に際しては、お子さんの特性に合わせた環境を選びます。
地域の小学校の特別支援学級や、特別支援学校など、少人数で手厚いサポートが受けられる環境が選ばれることが多いです。
視覚的な情報処理が得意なお子さんが多いため、学校や家庭では、言葉だけでなく絵や写真を使ってスケジュールを示す視覚支援を行うと、見通しが持てて安心して過ごせるようになります。
まとめ
GAND症候群(GATAD2B関連神経発達障害)についての重要なポイントを振り返ります。
- 病気の本質: GATAD2B遺伝子の変化により、脳の働きを調整するシステムに影響が出る生まれつきの体質です。
- 主な症状: 知的な発達の遅れ、言葉を話すことの難しさ(発語失行)、筋緊張低下などが特徴です。
- コミュニケーション: 話すことは苦手でも、理解する力は豊かです。絵カードやタブレットなどのツールが大きな助けになります。
- 原因: 多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
- 希望: 根本治療はありませんが、療育や環境調整によって、着実な成長と豊かな生活を送ることができます。
