GAND症候群(GATAD2B関連神経発達障害)

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このテーマの総合ガイド新型出生前診断(NIPT検査)とは(総合ガイド)

GAND症候群は、GATAD2B遺伝子の新生突然変異によって起こる神経発達症候群です。知的障害や言葉の発達の遅れ、自閉スペクトラム症に似た行動を特徴とし、2013年に初めて症例がまとまって報告された比較的新しい疾患概念です。医師からGAND症候群、あるいはGATAD2B関連神経発達障害という聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページに辿り着かれたご家族の方も多いのではないでしょうか。

驚きとともに、これからどのような成長をたどるのか、どう支えていけばよいのかという不安の中にいらっしゃることと思います。世界での報告例はまだ100例に届かない希少疾患で、日本語で読める詳しい情報も限られています。検索しても英語の論文ばかりが出てきてしまい、心細さを感じている方もいるでしょう。

この記事では、海外の医学データベースや論文、当事者支援団体の情報をもとに、原因・症状・診断・治療の現状を整理します。あわせて、出生前に行う新型出生前診断NIPT)とこの病気の関係も、正確にお伝えします。

💡 この記事でわかること

  • GAND症候群がどのような病気で、なぜ知的障害や言葉の遅れが起こるのか
  • 原因遺伝子GATAD2BとNuRD複合体の働き
  • ほとんどの場合、親から遺伝するのではなく新生突然変異で起こる理由
  • CHD3・CHD4関連疾患など、似た疾患群との違い
  • この病気が標準的なNIPT(新型出生前診断)の対象に含まれない理由
  • よくある質問と、公的な相談先・情報源

概要:どのような病気か

GAND症候群は、GATAD2B遺伝子の変化によって、乳幼児期から知的発達や言葉の獲得にゆっくりとしたペースが見られる神経発達症候群です。正式名称はGATAD2B関連神経発達障害(GATAD2B-associated neurodevelopmental disorder)といい、頭文字をとってGAND(ガンドまたはギャンド)症候群と呼ばれています。

2013年、オランダの研究グループが知的障害のある患者の遺伝子解析からGATAD2B遺伝子の変異を報告し、独立した疾患として認識されるようになりました(Willemsen らの報告・PubMed)。

その後、次世代シーケンサーによる網羅的な遺伝子検査が普及するにつれて診断例が増えました。2020年に発表された50名規模の国際的な症例研究では、症状の全体像がより詳しく明らかになっています(Genetics in Medicine誌・PubMed)。

世界での報告例はまだ100例に満たない希少疾患ですが、決して未知の病気ではありません。海外では当事者支援団体も設立され、情報交換や研究支援の輪が広がっています。

主な症状

GAND症候群の症状は一人ひとり異なりますが、多くの患者さんに共通して見られる特徴的な傾向があります。ここでは代表的な症状を部位・領域ごとに解説します。

知的発達とことばの特徴

ほとんどの患者さんに、軽度から重度までの知的障害が見られます。特に言葉の面での課題が目立ち、話し始める時期が遅れたり、話せる単語の数が少なかったりすることが多いです。

背景には、小児期発語失行と呼ばれる状態が関わっていることがあります。頭の中では言いたいことがあっても、口や舌を動かして音にするための指令がうまく伝わらない状態です。話す力の乏しさは、理解する力の乏しさとは違います。多くのお子さんは、自分が話せる以上に周囲の言葉をよく理解しています。

自閉スペクトラム症に似た行動

GAND症候群のお子さんの一部には、自閉スペクトラム症(ASD)に似た行動が見られます。特定の物事への強いこだわり、感覚刺激への過敏さ、視線を合わせにくいといった特徴です。自閉症(ASD)の顔つきと特徴で扱う内容と重なる部分もありますが、GAND症候群では知的障害と発語の遅れが前面に出やすい点が異なります。

一方で、明るく人懐っこい性格のお子さんも多く、行動特性の現れ方には個人差が大きいことも知られています。

顔つきと頭部の特徴

報告された症例では、いくつか共通した顔つきの特徴が挙げられています。広い前額部(おでこ)、目と目の間がやや離れている眼間開離、細長い鼻筋、短い人中(鼻と口の間の溝)などです。頭囲が平均よりやや大きい大頭症を伴うこともあります(Helping Hands for GAND)。

ただし、これらの特徴は非常にマイルドで、パッと見ただけでは気づかれないことも珍しくありません。知的障害と顔つきの関係でも触れているとおり、外見だけで診断することはできず、確定には遺伝子検査が必要です。

筋緊張・摂食・運動の特徴

赤ちゃんの頃から筋肉の張りが弱い筋緊張低下がよく見られます。抱っこした時に体がふにゃふにゃと柔らかく感じたり、首すわり・お座り・歩行といった運動発達の節目が遅れたりする一因です。

新生児期には、おっぱいやミルクを飲む力が弱く、哺乳に時間がかかることもあります。妊娠中に羊水量が多くなる羊水過多を指摘されていたケースも報告されています。まれに、心臓の弁に生まれつきの違い(大動脈二尖弁)やてんかん発作を伴うこともあり、定期的な医療管理が欠かせません。

原因:GATAD2B遺伝子とNuRD複合体

GAND症候群の原因は、第1番染色体の1q21.3領域にあるGATAD2B遺伝子の変異です。この遺伝子がどのような働きをしているのか、少し詳しく見ていきます。

GATAD2B遺伝子とNuRD複合体の役割

GATAD2B遺伝子は、NuRD複合体(ヌクレオソーム・リモデリング・脱アセチル化酵素複合体)という、脳の発達に欠かせないタンパク質の集合体を構成する一員です。NuRD複合体は、他の多くの遺伝子のスイッチをオンとオフに切り替える調整役を果たしています。

GATAD2Bは、この複合体の中でCHD3・CHD4・CHD5という酵素部分を土台につなぎとめる役割を担っています。GATAD2Bが正しく働かなければ、複合体全体の機能が損なわれます。脳が発達する時期に、どの遺伝子をいつ・どのくらい働かせるかという指令がうまく伝わらなくなり、神経細胞の形成やつながりに影響が及ぶと考えられています。

似た疾患群との違い:CHD3・CHD4関連疾患

NuRD複合体を構成する遺伝子は、GATAD2Bのほかにも複数あります。CHD3遺伝子の変異はスナイダース・ブロック・キャンポー症候群、CHD4遺伝子の変異はシフリム・ヒッツ・ワイス症候群という、それぞれ別の疾患を引き起こします。

研究者の間では、これらをまとめて「NuRDopathy(ニュルドパチー)」と呼ぶことがあります。GAND症候群は、これらCHD関連疾患の特徴を併せ持つような幅広い症状を示す点が特徴です。専門医による遺伝学的検査で原因遺伝子を特定することが、正確な鑑別と見通しの把握につながります。

遺伝について:新生突然変異とは

多くのご家族が「親から遺伝したのか」「妊娠中の生活に問題があったのか」とご自身を責めてしまわれます。しかし、GAND症候群のほとんどのケースは新生突然変異(de novo変異)によるものです。

ご両親の遺伝子には変化がなく、精子や卵子が作られる過程や受精直後の細胞分裂の段階で、偶然GATAD2B遺伝子に変化が生じたことを意味します。妊娠中の食べ物や薬、ストレス、環境が原因になることはありません。遺伝形式としては顕性遺伝に分類され、対になる遺伝子の片方に変化があれば発症しますが、そのほとんどは新生突然変異によるものです。

ごく稀に、親御さんが症状のないまま遺伝子の変化を体の一部の細胞だけに持つモザイクのケースもあり、この場合はきょうだいへの伝達リスクを考慮した遺伝カウンセリングが勧められます。私自身、遺伝カウンセリングの場で「なぜうちの子に」と涙を流されるご家族に出会うことがあります。新生突然変異は誰の行動が原因でもないという事実を、その都度丁寧にお伝えするようにしています。

医療

診断と検査

GAND症候群は、症状や顔つきだけでは他の発達障害と区別がつきにくいため、確定診断には遺伝子検査が欠かせません。

臨床診断の難しさ

発達の遅れや筋緊張低下は、多くの病気に共通して見られる症状です。そのため小児科での診察だけでは「発達遅滞」「知的障害」という診断名にとどまり、原因の特定まで至らないことが長く続いていました。

遺伝学的検査

近年普及してきた次世代シーケンサーを用いた検査によって、診断が可能になりました。

全エクソーム解析(WES)は、遺伝子のうちタンパク質を作る重要な部分をまとめて解読する検査です。GATAD2B遺伝子内のたった1文字の変化(点変異)のような、微細な変化も見つけることができます。原因不明の発達遅滞があるお子さんに対してこの検査が行われる機会が増え、GAND症候群と診断されるケースの増加につながっています。

染色体マイクロアレイ検査(CMA)は、染色体の微細な欠失や重複を調べる検査です。GATAD2B遺伝子を含む1q21.3領域がまとまって欠けているタイプの変異であれば、この検査でも見つかることがあります。国内での患者数はまだ正確に把握されていない状況です(東京女子医科大学ゲノム診療科)。この検査で得られるのは、原因確定への手がかり。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して根本から治す治療法は確立されていません。それぞれの症状に対する対症療法と、発達を促す療育を組み合わせることで、お子さんの持っている力を引き出すことは十分に可能です。

早期療育とリハビリテーション

理学療法(PT)では、筋肉の弱さを補いながら、寝返り・お座り・歩行といった粗大運動の発達を促します。作業療法(OT)では、手先の細かい動作や日常生活の動作を練習し、感覚過敏がある場合は感覚統合療法を取り入れることもあります。

コミュニケーション支援

言葉の表出が苦手なお子さんにとって、コミュニケーション手段を確保することは心の安定につながります。言語聴覚士(ST)による指導に加え、サイン言語や絵カード、タブレット端末のアプリなど、代替コミュニケーション(AAC)の活用が広がっています。

「話せないから道具を使う」のではなく、道具を使ってコミュニケーションの楽しさを知ることが言葉の発達を後押しする、という考え方が主流です。iPadなどを使って自分の意思を上手に伝えているお子さんの様子も、海外の家族会サイトで多く紹介されています。

医療的な管理と教育環境

定期的な健康チェックも欠かせません。斜視や屈折異常がないか眼科で確認し、けいれん発作が疑われる場合は脳波検査を行います。心臓の構造に生まれつきの違いがないか、念のため心エコー検査を行うこともあります。睡眠のリズムが乱れやすい場合は、生活リズムの調整や薬による対応を試してください。

就学に際しては、お子さんの特性に合わせた環境選びが大切です。地域の特別支援学級や特別支援学校など、少人数で手厚いサポートが受けられる環境が選ばれることが多いです。視覚的な情報処理が得意なお子さんも多く、言葉だけでなく絵や写真でスケジュールを示す視覚支援を取り入れると、見通しを持って落ち着いて過ごせるようになります。

お子さんの診断をきっかけに、次の妊娠に向けた遺伝カウンセリングを考えるご家族もいらっしゃいます。染色体や遺伝子の変化について相談したい場合は、以下から無料相談を利用できます。

NIPT(新型出生前診断)との関係

GAND症候群はGATAD2B遺伝子の新生突然変異による単一遺伝子疾患であり、標準的なNIPTの対象には含まれません。私も遺伝カウンセリングの場で「この病気もNIPTで分かりますか」というご質問を受けることがあるため、この点を整理しておきます。

標準的なNIPTは、妊婦さんの血液中に含まれる胎児由来のDNA断片(cfDNA)を解析する検査です。21トリソミー・18トリソミー13トリソミーなど、染色体の「数」の変化を調べる非侵襲的なスクリーニング検査になります。染色体異常とNIPT診断で扱っているのも、この染色体異数性です。

一方でGAND症候群は、染色体の数ではなく、GATAD2Bという1つの遺伝子内の点変異や微細な欠失が原因です。染色体異数性を調べる仕組みでは、1文字単位の変化までは検出できません。NIPTで知的障害は分かる?検査範囲と限界の真実でも、染色体異常と単一遺伝子疾患は仕組みが異なると解説しています。

比較項目標準的なNIPTGAND症候群
原因の種類染色体の数的異常(21/18/13トリソミーなど)GATAD2B遺伝子内の点変異・微細欠失
調べる方法母体血中の胎児cfDNA解析遺伝子検査(WES・CMAなど)
標準NIPTの対象対象対象外

このように、同じ「出生前の遺伝情報」でも調べる仕組みが異なります。近年は、より広い遺伝子領域を調べる拡張的な出生前遺伝学的検査も研究・提供され始めていますが、単一遺伝子の新生突然変異をどこまで正確に検出できるかは検査手法や対象疾患によって差があります。個々の検査でどこまで分かるかは、実施機関へ確認してください。

似た症状を持つ疾患に、シュールズ・ホエイマカーズ症候群(PACS1関連症候群)など、他の単一遺伝子疾患があります。いずれも標準NIPTの対象範囲外である点は共通しています。妊娠中の検査で染色体以外の情報が気になる場合は、遺伝カウンセリングでの相談も選択肢の一つです。

よくある質問

ここでは、ご家族から寄せられることが多い6つの質問にお答えします。

GAND症候群はどのくらいまれな病気ですか。

非常にまれな疾患です。2020年に発表された国際的な症例研究では50名の患者が報告され、これまでに医学文献で報告された症例数は世界全体でも100例に届いていません。国内での患者数は正確に把握されていないと報告されています。

親から子へ遺伝しますか。次の子も発症しますか。

ほとんどの場合、親からの遺伝ではなく新生突然変異によって起こります。次のお子さんが同じ病気になる確率は、ごく稀なモザイクのケースを除き、一般の妊娠とほとんど変わらないと考えられています。

妊娠中のNIPTでGAND症候群は分かりますか。

標準的なNIPTは染色体の数的異常を調べる検査のため、GATAD2B遺伝子の変異が原因のGAND症候群は対象に含まれません。単一遺伝子疾患まで調べたい場合は、検査項目を事前に確認してください。

自閉スペクトラム症とは違う病気ですか。

自閉スペクトラム症に似た行動を伴うことはありますが、GAND症候群は原因遺伝子が特定された神経発達症候群であり、行動面の診断名である自閉スペクトラム症そのものとは区別されます。両方の特性を併せ持つお子さんも報告されています。

治療法はありますか。

遺伝子の変化そのものを修復する根本的な治療法は、現時点では確立されていません。理学療法や作業療法、言語療法などの療育を組み合わせて、発達を後押しすることが中心になります。

どこに相談すればよいですか。

海外の詳しい情報は、米国国立衛生研究所(NIH)のGARD(Genetic and Rare Diseases Information Center)や、当事者支援団体Helping Hands for GANDのウェブサイトで確認できます。国内では、専門的な遺伝子診療を行う医療機関や、かかりつけ医、遺伝カウンセリングの窓口へ相談してください。

まとめ

GAND症候群は、GATAD2B遺伝子の新生突然変異によって知的障害や言葉の発達に影響が出る、報告例100例に満たない希少な神経発達症候群です。ここからは、要点整理です。

  • 病気の本質: GATAD2B遺伝子の変化によりNuRD複合体の働きが乱れ、脳の発達に影響が出る生まれつきの体質です。
  • 主な症状: 知的障害、言葉の遅れ(発語失行)、自閉スペクトラム症に似た行動、筋緊張低下などが特徴です。
  • 原因: ほとんどが新生突然変異によるもので、親のせいではありません。
  • 鑑別: CHD3・CHD4関連疾患など他のNuRD関連疾患と症状が重なるため、遺伝子検査での確認が重要です。
  • NIPTとの関係: 染色体異数性を調べる標準的なNIPTの対象には含まれない単一遺伝子疾患です。

お子さんの診断や日々のケアで悩まれることは多いと思います。療育と医療的な管理を組み合わせながら、着実な成長を支えていくことができます。妊娠を控えている方で、染色体の変化について早めに情報を得たいと考える場合は、NIPTという選択肢も試してみてください。ご自身に合うプランが分からない場合は、プラン診断をご利用ください。お電話でのご相談は0120-169-629まで承ります。

監修:岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有しています。本記事は医療広告ガイドラインに配慮しています。米国国立衛生研究所(NIH)のGARD、海外医学論文、当事者支援団体、東京女子医科大学ゲノム診療科の情報を参照して作成しました。診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。

医師監修 監修日:2026年1月16日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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