モザイクとは?起こりうることとNIPTにおける注意点【医師監修】

モザイク

「新型出生前診断(NIPT)」は胎児の染色体の異常を明らかにする検査です。しかし、NIPTの検査も100%正しい結果が得られるとは限りません。この記事では、NIPTで偽陽性の原因となるモザイクについて、論文や症例報告を参考にしながらわかりやすく解説をします。

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はじめに

母体の血液には、胎盤から流れ出た胎児由来のDNAが約10%混在していることが知られています。NIPT(新型出生前診断)は母体の血液に含まれている胎児のDNAの量から染色体の異常がないかを調べる検査です。NIPT(新型出生前診断)は母体の血液から検査ができるので、胎児への影響がなく、流産のリスクがないことでとても有用な検査です。

NIPT(新型出生前診断)の検査では、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)の3つの染色体異常や性染色体の異常を胎児が持っているのかどうかをとても高い精度で調べることができます。

しかしながら、NIPT(新型出生前診断)にも限界があります。本来ならば、検査が陽性である人が陰性と結果が出てしまうことを偽陰性、逆に、本来ならば、検査が陰性になるはずの人が、陽性と判断されてしまうことを偽陽性と言います。NIPT(新型出生前診断)でもこのような偽陽性や偽陰性が生じることがあります。NIPT(新型出生前診断)の偽陰性や偽陽性が出てしまう原因として、母体の染色体異常や胎児のモザイク、胎盤のモザイクがあると言われています。胎盤由来のモザイクによって、胎児の染色体は正常であるのに、検査では染色体異常があるとされてしまうことなどがNIPT(新型出生前診断)の検査の今後の課題と言われています。

モザイクとは

モザイクとは

それではモザイクとは何なのかということについて説明していきましょう。身体の細胞の中でも染色体の数がそれぞれ異なっている状況を意味しています。例えば、ダウン症のモザイク症であれば、21番トリソミーを持つ細胞と21番トリソミーを持たない細胞が一定の割合で混在しているというような状態です。

モザイクをさらに理解するために染色体についても簡単に説明します。一般に私たちの細胞は全て同じ染色体の数を持っています。染色体異常がなければ、常染色体22種類が2本ずつと、男性ならX染色体とY染色体が1本ずつ、女性ならX染色体を2本が私たちの細胞の中に存在しています。X染色体とY染色体を性染色体といい、常染色体44本と性染色体2本の合計46本が通常私たちの細胞が持っている染色体の数です。

NIPT(新型出生前診断)で検査できる3つの染色体異常の細胞では、染色体の数が46本ではありません。例えば、ダウン症では21番染色体の数が2本から3本に増えて、トリソミーと言う染色体異常により合計47本となります。

通常の2本の染色体の状態をダイソミー、染色体の1本数が足りない時にはモノソミー、4本ならばテトラソミーなどのように呼ばれています。

染色体の数に異常がある場合にも、細胞分裂が起こるときには、1つの細胞から、同じ2つの細胞が分裂します。分裂の前後で細胞の中の染色体の数は変化しません。なので、染色体の数に異常がある人も体の細胞の染色体の数は同じであることが一般的です。

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モザイクとなるメカニズム

モザイクは胎児性のモザイクと胎盤性のモザイクの二種類に大きく分けることができます。モザイクが発生する仕組みは、以下の図のように大きく3つに分けられます。

細胞分裂の時の常染色体不分離

1つ目は細胞分裂の時に、常染色体の分裂がうまくいかない場合です。下の図に示しているAの仕組みは、もともと正常な精子と卵子が受精して、受精卵が体細胞分裂の時に常染色体の不分離の時に異常が生じることでトリソミーの細胞とモノソミーの細胞が生じます。モノソミーの細胞は選択性により淘汰されることが多いので、46本の染色体を持つ細胞と47本の染色体を持つ細胞が混在するようになります。不分離によりトリソミーになる染色体が21であれば、モザイクダウン症になります。

細胞分裂の時の性染色体不分離

細胞分裂の時に性染色体の分離に異常が生じる仕組みをBに示しています。女性の二本のX染色体が分裂の時にうまく二つの細胞に別れることができない時には、X染色体を2本持つ正常の細胞と、X染色体を1本しかないモノソミーの細胞、X染色体を3本持っているトリソミーの細胞が混在するモザイクになります。クラインフェルター症候群はX染色体を多く持つXXYとなる男性の疾患でX染色体の数が異なるモザイクを持っていることもあると言われています。

親由来の染色体の異常

Cの例では、母体が卵子を作る時の減数分裂の時に、染色体が二つの細胞に別れることができず、性細胞のなかに、二本の染色体を持っているまま受精することを表しています。受精すると父親由来の染色体と合計して3本の染色体になります。3本の染色体は細胞分裂を繰り返す中で、細胞の余剰の染色体を排除するトリソミーレスキューという現象が起こります。

モザイク

引用:Chromosomal Mosaicism in Human Feto-Placental Development: Implications for Prenatal Diagnosis

モザイクが原因でNIPTが偽陽性になった例

日本で報告された、モザイクが原因でNIPT(新型出生前診断)の結果が偽陽性となってしまった症例を1つ紹介しましょう。

39歳の初産婦の女性の症例です。この方は高齢出産ということもあって、妊娠15週目と妊娠17週目に二回NIPT(新型出生前診断)の検査を受けました。検査の結果はトリソミー18が陽性だったのですが、19週目以降に超音波検査や羊水検査を行うと、胎児の染色体異常は見つからなかったのです。この検査結果は最終的にNIPT(新型出生前診断)のトリソミー18の偽陽性であり、胎児の染色体には異常がないということが妊娠21週目にわかりました。出産後に偽陽性の原因が胎盤性のモザイクであったことが判明しました。

胎盤性モザイクというのは、胎児には染色体異常がないけれど、胎盤だけにモザイクが発生してしまうモザイクの一種です。NIPT(新型出生前診断)の検査で扱うDNAは胎児由来のものと、胎盤の絨毛という細胞由来のものがあるので、胎盤に染色体の異常があると、このように偽陽性の結果が現れてしまうのです。

この症例では、最終的に39週目で健康な新生児を出産しました。しかしながら、再検査やモザイクによる偽陽性が確定診断を遅らせてしまい、妊婦に心理的なストレスを与えてしまった症例として報告されたのです。

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モザイクになるとどうなるの?

それでは、モザイクを持っているとどのようなことが起こるのでしょうか?

モザイクがあるということは、染色体異常を持った細胞と正常の染色体の数の細胞が混在しているということです。モザイクは完全型、つまり、全ての染色体異常の細胞である場合と比較して、症状が軽度な傾向があると言われています。

しかしながら、モザイクであれば必ずしも症状が軽い、もしくは、重いと判断することはできません。モザイクのある染色体異常の症状は特定の組織における異常細胞の分布に応じて変化するからです。

モザイクダウン症

ダウン症は21番染色体が1本多い21トリソミーの染色体異常です。ダウン症は染色体異常の中でも頻度が最も高く、600人から800人に1人の割合で生まれてくると言われてます。その中でモザイクダウン症となる割合は2%ほどと言われています。

症状は、心臓の疾患や消化管の先天的な異常がみられ、筋肉の緊張度は低下しています。また、小さい頭や扁平な顔、つり上がった目や低い鼻などの特徴的な顔の形をしていることもダウン症の特徴の1つです。

ダウン症の小児は知的な発達に遅れが生じる場合がほとんどです。知能指数(IQ)には幅がありますが、正常な小児に比べて低いです。一方で、モザイクダウン症は完全なダウン症よりもIQが高いという報告もあります。モザイクダウン症とIQについて調べた研究があるのでご紹介しましょう。

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モザイクダウン症のIQに関する研究

ご紹介するのは1991年にAmerican Journal on Mental Retardation という雑誌で発表されたダウン症の子ども30人とダウン症モザイクありの子ども30人を対象にしてそれぞれのIQを調べたという研究です。

2歳から18歳までのダウン症を持っている子ども達を対象にして各グループのIQを測定しました。結果はモザイクなしのグループのIQの平均値が52に対して、モザイクありのグループの平均は64でした。平均するとモザイクのあるグループの方のIQが高かったと報告されています。

モザイクありのグループでは、言語能力や絵を描いて表現する能力がモザイクなしのグループよりも高いという結果が得られました。一方で、数値概念を扱う能力はモザイクダウン症の子どもにとっての課題ということもわかりました。このように、モザイクダウン症の子どもの知能の発達は完全型のダウン症と比較して特異的なパターンを辿っていると研究者たちは結論づけています。

モザイクパトウ症候群

パトウ症候群は13番目の染色体の全長または一部が重複することによって、13番染色体トリソミーとなった染色体異常です。

10000から20000人に一人の割合で発症すると言われていて、胎児期からの成長や発達の遅れや様々な身体的特徴や心臓の疾患などの合併症が多くみられます。また、パトウ症候群では自然流産が普通の出生児の100倍高くおよそ1%にのぼるとも言われています。

パトウ症候群のモザイクである確率は5%ほどであるという研究報告があります。モザイクありのパトウ症候群の病態はあまりはっきりとはしていませんが、完全なパトウ症候群よりも重症度が低い傾向にあると考えられています。

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モザイクエドワーズ症候群

18番染色体が一本多い染色体異常症をエドワーズ症候群と言います。エドワーズ症候群は、ダウン症に次いで多い染色体異常で、女児の割合が男児よりも高いことが知られています。

頻度としては、6000から8000人に一人の割合とされていますが、中絶や流産により生まれてくる数が少なく見積もられているので、実際には2500-2600人に一人の割合で生まれてくるのではないかと報告されています。

エドワーズ症候群の胎児は出生前から成長に障害があり、顔や手に異常があります。心臓や腎臓の奇形が多いことから寿命が短いとも言われています。

モザイクとの関連については、全体の5%未満が18番染色体のモザイクを持つということを示したという報告もあります。モザイクを持った患者は新生児のうちに生後間もなく死亡してしまうケースや、普通の大人にまで成長するケースまで、様々な症例が報告されています。知的能力に関しても、重大な精神遅滞から平均以上の知能まで様々です。さらに、小頭症、遅発性骨年齢、多指症、先天性心欠損、発達遅延、低身長、早発性卵巣不全などの異常も、ほとんどが完全型エドワーズ症候群と比較して、低頻度であると言われています。

しかしながら、モザイクの正常な細胞とトリソミーのある細胞の比率と臨床症状や精神発達との間に関係性は明らかになっていません。なので、モザイク型トリソミー18を有する個体の生殖能力、長期生存率、再発リスクなど、様々なカウンセリングの問題についても現在研究が続けられているようです。

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モザイクターナー症候群

性染色体のモザイクの例として、ターナー症候群について説明をします。ターナー症候群はX染色体のうちの一つが欠失している染色体異常です。女性の2500人に一人の割合にみられます。症状は低身長や無月経が特徴的です。また、リンパ管がうまく成長しないために、翼状頸という特徴的な首、手や足の甲の浮腫などの身体的な特徴もあります。

ターナー症候群のモザイク型は診断がされていない状態でいることが多いということも研究によって明らかになっています。イギリスのバイオバンクが40歳以上の女性244,848人の集団を対象にした研究では、非モザイク型45,X(12/10万人)および47,XXX(45/10万人)の有病率は予想より低かったが、モザイク型45,X/46,XX(76/10万人)の有病率は高かったと報告されました。この結果からモザイクターナー症候群の女性は症状に気づかずに普段の生活を送っている人が一定数いるということが示唆されています。

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NIPTでモザイクが疑われたら

NIPT(新型出生前診断)で染色体異常があると指摘された場合には、超音波検査や羊水検査、絨毛検査によって詳しく調べる必要があります。検査で染色体異常があると結果が出た場合には、検査の通り、本当に染色体異常がある場合や胎盤だけにモザイクがある場合、胎児にモザイクがある場合などの可能性があります。

NIPT(新型出生前診断)の検査は現在日本では非侵襲性遺伝子検査として使われています。NIPT(新型出生前診断)で異常が見つかった場合には、さらに、おなかの中の胎児の情報を知るために、超音波検査の実施や確定診断のための羊水検査などをしなくてはいけません。

超音波検査は侵襲性のない検査ですが、羊水検査や絨毛検査はお母さんや胎児に負担のかかるリスクのある検査であることを理解しましょう。また、モザイクが疑われる場合にも、どのようなリスクがあるのかなどをしっかりと担当のお医者さんと相談してみてください。

まとめ

モザイク型は一般的に発達の遅れが軽度であることが多いとされています。それでも、生まれてきたお子さんに無理に理想を押し付けや、周囲と同じことをするように矯正をしてしまうと、本来の能力を発揮することができません。

モザイク型とはいえ、その症状は様々です。身体のどの組織にモザイクの割合が多いかなどによって、一概にどのような症状が出てくるのかを現在の医療で明らかにすることはまだできません。NIPT(新型出生前診断)をきっかけに出生前からモザイクを疑われるケースもあれば、大人になるまで明らかにならないケースもあります。生まれてくる本人にあった生活の環境を整えてあげられるようにしましょう。

「新型出生前診断(NIPT)」は胎児の染色体の異常を明らかにする検査です。しかし、NIPTの検査も100%正しい結果が得られるとは限りません。この記事では、NIPTで偽陽性の原因となるモザイクについて、論文や症例報告を参考にしながらわかりやすく解説をします。

NIPT(新型出生前診断)について詳しく見る

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記事の監修者


水田 俊先生

水田 俊先生

ヒロクリニック岡山駅前院 院長
日本小児科学会専門医

小児科医として30年近く岡山県の地域医療に従事。
現在は小児科医としての経験を活かしてヒロクリニック岡山駅前院の院長として地域のNIPTの啓蒙に努めている。

略歴

1988年 川崎医科大学卒業
1990年 川崎医科大学 小児科学 臨床助手
1992年 岡山大学附属病院 小児神経科
1993年 井原市立井原市民病院 第一小児科医長
1996年 水田小児科医院

資格

小児科専門医

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