ダウン症患者の健康と生活実態・NIPT(新型出生前診断)について【医師監修】

ダウン症の生活実態

現在、国内においてダウン症患者数は約8万人といわれています。小児科医療や合併症などの術後管理の向上にともない平均寿命は約60歳とされ、今後は小児期から成人期の移行医療とダウン症患者の教育、生活の支援や就職等の受け皿が課題といえるでしょう。

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染色体異常で最も多くを占めるダウン症

ダウン症(ダウン症候群)とは、最も多く見られる染色体疾患です。ヒトの染色体は常染色体1〜22番各2本ずつと、性染色体2本の計46本あります。ダウン症は21トリソミーとも呼ばれるように、21番目の染色体が正常であれば2本であるところ、何らかの原因で1本過剰となり知的障害や身体的発達の遅れなどを引き起こします。

ダウン症は染色体の構造によって「標準型」「転座型」「モザイク型」の3つに分けられます。このうち約95%が標準型を占め、父親由来の染色体と母親由来の染色体分離が正常におこなわれず、21番目の染色体が1本過剰になることが原因です。

転座型は標準型と異なり、両親のどちらかの21番目の染色体の一部が他の染色体にくっついてしまっている(転座)状態です。両親のどちらかが、この転座染色体をもつことで引き起こりますが、転座型は全体の約3%とされています。

モザイク型とは非常に珍しい染色体異常とされ、発症率は全体の約2%です。染色体異常がある細胞と、正常な細胞が入り混じった状態を指します。

これらのことからダウン症の遺伝的要素の確率は低く、原因も治療法も現在まで解明されていません。しかし小児医療と合併症の医療管理の向上により、1960年代のダウン症の平均寿命10歳前後から現在は約60歳となり、ダウン症患者の平均寿命は今後も延び続けるといえるでしょう。

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ダウン症の身体的特徴と知的障害

ダウン症は染色体数の異常によって起こる先天性の病気です。染色体は23対あり、ダウン症は21番目の染色体が1本過剰で3本あります。

ダウン症自体には「重度」「軽度」といった明確な区分はありません。しかし一般的な区分としては、合併症リスクと知的障害の程度によって判断されます。

また、身体的特徴や知的障害には個人差があります。学業や仕事をこなし、非常にまれではありますが、ダウン症患者同士の結婚といった事例も見られます。

ダウン症の身体的特徴

ダウン症の共通の身体的特徴として、つり上がった目と低い鼻、頭が小さく扁平な顔立ちが挙げられます。これらのダウン症顔貌は顔の中心部の成長が遅く、顔の外側が先に成長するために生じることから、出生時において顔貌だけでの診断はつきにくいでしょう。

また、ダウン症は筋肉が低緊張であるため、口が開いたままの状態も多く見られます。全体的に小柄、肥満傾向であることもダウン症の身体的特徴です。

ダウン症の知的障害とIQ

知的障害とは一般的に18歳未満に生じ、概念的領域(読み書き・論理的思考)、社会的領域(対人関係・自己抑制)、実用的領域(行動・金銭管理)といった3つの領域における「IQおよび適応機能の両方に明らかな制約」が見られることで特徴づけられる障害を指します。

ダウン症に見られる知的障害、IQの程度には個人差があります。IQが60以下になると自立した生活は困難といわれています。

ダウン症のない小児のIQを100とした場合、ダウン症児の平均IQは約50とされています。

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ダウン症児の成長にともなう健康リスク

ダウン症児は身体的・IQ的な問題だけでなく、さまざまな合併症による健康リスクが指摘されます。以前と比較しダウン症患者の平均寿命は延びたものの、ダウン症児の約半数が心疾患(心臓に起こる病気)をもつとされています。これには弁膜症、血管の異常などがかかわっており、ほとんどのケースで心臓結果外科の手術が必要になります。

ダウン症は消化器疾患も多く、症状によっては生後すぐの手術が必要なケースも少なくありません。また筋力低下により腹圧が弱いことから、慢性的な便秘も多く見られます。

いずれの健康リスクも、乳幼児期からの定期検診による早期発見で重症化を防ぎ、小児期から成人期の移行医療をしっかりとおこなうことが重要といえるでしょう。

乳幼児期

内臓

ダウン症に見られる合併症で、最も多いのが先天性心疾患(房室中隔欠損など)とされ、約40〜50%の割合で発症します。その他には肺高血圧症や十二指腸閉鎖、鎖肛(直腸肛門奇形)などが挙げられます。

聴覚

ダウン症児は外耳道が狭いため中耳炎になりやすく、約40〜80%に片耳または両耳の難聴が見られます。難聴は言語発達や精神発達にも大きく影響し、成長とともに音の聞き分けが困難となる感音性難聴が増加するため、早期から適切な処置や検診が必要です。

視覚

ダウン症児の約60%に先天性白内障・屈折異常(乱視・近視・遠視)・眼振・内皮(まつげが眼球にあたる)・外皮(まぶたが外側に反転してめくれあがる)などが見られます。視力の低下は視覚から脳への情報刺激にも大きく影響するため、早期から適切な処置や検診が必要です。

学童期

循環器

ダウン症患者は肥満傾向にあることも特徴です。筋力低下により運動量が少なく、基礎代謝が低い、舌の突出により咀嚼が不十分、食に対する嗜好の偏りなどが原因とされています。そのためダウン症児は、糖尿病や高尿酸血症などの発症リスクが高く注意が必要です。

発達障害

発達障害とは、発達障害支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。

上記のことから発達障害には多くの種類があり、症状もそれぞれ異なります。なお、ダウン症は染色体異常による発達障害に分類されます。

成人期

内科

ダウン症患者は口唇や舌運動といった口腔機能の低下が見られます。そのため健常者とくらべ摂取水分量が少なく、また小児期から尿酸値が高いため成人期に通風を発症することも少なくありません。その他、甲状腺機能の異常や徐脈または頻脈、便秘、むくみ、体重増加などさまざまな症状が現われます。

急激退行症(退行様症状)・早期老化症

急激退行症および早期老化症とは、今までできていたことが急にできなくなる・表情が乏しくなる・運動機能の著しい低下など、成人期を迎えたダウン症患者に多く見られる症状です。アルツハイマー病と似た症状といわれ、根本的な治療法はなくコミュニケーションが取れなくなってしまう、または寝たきりとなるケースも少なくありません。

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ダウン症児の性格や環境について

一般的にダウン症児の性格は「穏やか」「優しい」「頑固」といったイメージが多くもたれています。しかし、ダウン症児のIQに個人差があるように、性格もさまざまです。ダウン症児の性格形成は健常児と変わらず、母親(保護者)の教育や育児観や生活環境が大きく関わります。しかしながら、稀にダウン症児の中には思わぬ才能を開花することもあり、芸術家や音楽家として活躍する方もいらっしゃいます。

ダウン症の人のための社会的サポート

ダウン症の子どもの多くは療育のためのクラスを利用しながら、地元の学校の支援学級・普通学級・支援学校へ通います。

またダウン症の人は、知的障がいのある人に与えられる「療育手帳」や身体障がい者手帳を取得することが可能です。これらの福祉手帳を取得することで、公共交通機関やタクシーの運賃が割引になったり、税金の控除を受けられます。その他にも携帯電話の利用料、レジャー施設の入場料も割引になります。

ダウン症児への教育支援制度

ダウン症児が教育を受けるにあたって、学童期には「特別支援学校」と「特別支援学級」の選択肢があります。

特別支援学校

これまでの聾(ろう)学校・盲学校・養護学校が統合された学校です。視覚・聴覚・知的障害または肢体不自由者に対して学習上、または生活上の困難を克服するために必要な教育をおこない、自立して社会に参加できるための生きる力を培うことを目的としています。

学習面では普通学校の小学校から高等学校と同じように算数や国語、音楽や美術などの教科を学びます。障害を克服したり能力を伸ばしたりできるよう、それぞれの特性にあった工夫がされた教育を受けることができるでしょう。

高等学校では農業や理学療法・ビルクリーニング技能士など特性にあった専門の教科が受けられます。また生活面では言語表現力や行動のコントロール・対人関係や状況対応力などを学ぶことができます。

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特別支援学級

小学校から中学校に、知的障害や肢体不自由者など教育上特別な支援を必要とする児童・生徒のために置かれた学級のことです。これまでは障害が重い場合、原則として特別支援学校に通っていましたが2013年に制度が改正され、通学先を決めることができるようになりました。

ダウン症すべてが知的障害というわけではなく、幼いころから性格や特性に合った学習に取り組むことで学力を向上させるケースも多く見られます。普通学校に入学し、高校卒業後に大学や短大、専門学校への進学または大学院を目指す人も少なくありません。

また少数ではありますが、障害のある人たちのためのオープンカレッジを設立する大学も出始めました。制度上は大学ではありませんが、障害のある方のためのカレッジを設立する動きは活発化しているといえるでしょう。

ダウン症の人とかかわるイベント

ダウン症を持つ人の就職

厚生労働省の基準により、重度の知的障害がある場合でも働くことができます。

ダウン症児を育てるうえで、子どもの将来について心配する保護者の方は多いことでしょう。しかし企業の中には、一定の枠を設けてダウン症を抱えている人を雇用するケースも見られます。

海外ではダウン症の人の、コツコツと同じ作業を地道にこなすといった『特徴』を生かしたカフェレストランを運営している国もあります。 日本でも、作業所や飲食店などで多くのダウン症の人が働いています。

ダウン症の程度により、仕事内容はさまざまです。しかしダウン症に限らず、たとえ障害をもっていたとしても一般社会の中でコミュニケーションを取り、自立のために支えることが理想の社会といえるでしょう。

令和3年度 厚生労働省 障害者雇用実態状況

就職件数(件) 対前年度差(比) 就職率(%)(対前年度差)
身体障害者 20,829 804件増(4.0%増) 35.9(1.2ポイント増)
知的障害者 19,957 156件増(0.8%増) 57.6(0.1ポイント減)
精神障害者 45,885 5,261件増(13.0%増) 42.4(0.2ポイント減)
その他の障害者 9,509 119件増(1.3%増) 41.3(3.1ポイント増)
合 計 96,180 6,340件増(7.1%増) 42.9(0.5ポイント増)
参照:厚生労働省 – ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況などの取りまとめを公表します

障害者(ダウン症を含む)就職件数は増加傾向にあります。おもに医療や福祉、製造業、サービス業などの求人が多く挙げられます。

知的障害者の就労は「生産工程に関する職業」が最も多く、「サービス業」「運搬および清掃・包装等の職業」と続きます。

一般企業に勤めるだけではなく、努力と訓練から才能が開花し、芸術やスポーツなど様々な分野で活躍するダウン症の方も少なくありません。また働くことをサポートする制度には「就労移行支援」と「就労継続支援」があります。

就労移行支援

65歳未満の身体障害・知的障害・精神疾患・難病のある人が対象となる支援です。一般企業への就職を目指すために、必要なスキルなどを習得します。雇用契約がなく賃金は支払われませんが、職業スキルだけではなくコミュニケーションや働き続けるために必要な知識や研修を職場実習で原則2年間受けることができます。またハローワークや厚生労働省の許可を得た事業所の中から、特性に適した職場をみつけるといったサポートも充実しています。

就労継続支援

一般企業への就職が困難な方へ働く機会を提供するサービスです。就労移行支援はスキルを磨く場所、一般企業への就職が困難な人へ働く機会を提供するサービスです。就労移行支援はスキルを磨く学習の場、就労継続支援は働く場という違いがあり、A型・B型の2種類があります。

A型

雇用契約に基づいた勤務が可能である人が対象となります。給料をもらいながら同時に、一般企業へ就職するための知識や能力を身に付けていくことができます。

B型

A型の仕事の内容が困難な人が対象となります。作業訓練などで生産活動をおこない、成果物に対して賃金が支払われます。訓練を積んで就労継続支援A型、就労移行支援を目指します。

就労定着支援

2018年4月から始まった制度で、障害のある方が長く就労できるためにサポートしてくれる制度です。同僚・上司とのコミュニケーション・体調管理・金銭管理など今までの生活ではなかった悩みについて対面で話し、問題解決や働きやすい環境を目指すためのアドバイスを受けられます。

しかし就労定着支援は、始まったばかりのサービスのため普及していない事業所も多く、どの自治体・事業所で受けられるかを直接問い合わせる必要があります。

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まとめ

ダウン症は染色体異常の中で最も多く見られる先天性疾患です。未だダウン症の原因解明や治療法はありませんが、母体年齢の上昇にともない発症リスクがあがることが分かっています。またダウン症は小児期から成人期に至るまで、さまざまな合併症を引き起こします。これらのことから、妊娠中にダウン症と診断された際は、出産後の医療や生活環境を整える準備が重要といえるでしょう。

昨今ではNIPT(新型出生前診断)により、母体血液のみでダウン症のスクリーニング検査が可能となりました。NIPT(新型出生前診断)はエコー検査で妊娠が確認できたらすぐに可能となり、ダウン症に関しては感度・特異度ともに99.9%と高精度な診断法とされています。

ヒロクリニックNIPTでは少しでも早く胎児の健康状態を知り、健やかな妊娠期間と出産を迎えるために、ダウン症や染色体異常についてを丁寧に説明いたします。NIPT(新型出生前診断)についてのご相談はヒロクリニックNIPTにお任せください。

現在、国内においてダウン症患者数は約8万人といわれています。小児科医療や合併症などの術後管理の向上にともない平均寿命は約60歳とされ、今後は小児期から成人期の移行医療とダウン症患者の教育、生活の支援や就職等の受け皿が課題といえるでしょう。

NIPT(新型出生前診断)について詳しく見る

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記事の監修者


岡 博史先生

岡 博史先生

NIPT専門クリニック 医学博士

慶應義塾大学 医学部 卒業

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