医師からDevelopmental and epileptic encephalopathy 2という非常に長く、聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
生まれたばかりの赤ちゃん、あるいは生後数ヶ月のお子様に、日本語の定まった呼び方もまだ浸透していないような難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、てんかんや遺伝の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない疾患概念です。
この長い診断名を日本語に訳すと、発達性およびてんかん性脳症2型となります。医療現場では、頭文字をとってDEE2(ディー・イー・イー・ツー)と呼ばれることが一般的です。
また、この病気は原因となる遺伝子が特定されており、現在はCDKL5欠損症(シー・ディー・ケー・エル・ファイブ・けっそんしょう)、あるいはCDKL5関連てんかん性脳症と呼ばれることが世界的な主流になっています。以前は、レット症候群に似ていることから、非定型レット症候群やハナイド・ジェンセン症候群と呼ばれていたこともありました。
この病気は、生後間もない時期にてんかん発作が始まり、それとともに全体的な発達の遅れや、独特の視覚的な特徴が見られるという傾向があります。
脳症という言葉や2型という数字に圧倒されてしまうかもしれませんが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、単に重症度を表す数字ではありません。
また、原因が遺伝子にあることが分かったということは、これから起こりうることへの対策が立てやすくなり、お子さんに合った療育やケアのプランを考えるための地図を手に入れたということでもあります。
概要:どのような病気か
発達性およびてんかん性脳症2型(DEE2)は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳の神経細胞の働きや発達に影響が出る疾患です。一般的にはCDKL5欠損症として知られています。
まず、この発達性およびてんかん性脳症という病名グループの意味を理解することが大切です。
発達性とは、生まれ持った遺伝子の変化そのものが、脳の発達や成長に影響を与えていることを意味します。つまり、てんかん発作があるから発達が遅れるだけでなく、発作がなくても発達に課題が生じる体質であることを示しています。
てんかん性とは、頻繁なてんかん発作や、脳波の激しい乱れが、脳の機能や発達にさらなる悪影響を与えている状態を指します。
脳症とは、脳全体の働きに広範な影響が出ている状態を指す医学用語です。
つまり、DEE2は遺伝子の影響による発達の遅れと、てんかん発作による脳への負担の二つの要素が合わさって、発達や神経の症状が現れる病気です。
この病気は、X染色体にあるCDKL5という遺伝子の変異によって引き起こされます。10万人から数万人に1人程度の頻度で発症すると考えられており、希少疾患の中では比較的よく知られている部類に入ります。X染色体に関連するため、患者さんの多くは女性ですが、男性の患者さんも存在します。
最大の特徴は、生後3ヶ月以内、多くは生後数週間という非常に早い時期にてんかん発作が始まることです。そして、発作だけでなく、運動面や精神面での発達のゆっくりさ、目が見えにくいわけではないのに視線が合いにくいといった視覚的な特徴を伴います。
主な症状
DEE2(CDKL5欠損症)の症状は、年齢や成長の段階によって変化していくことが知られています。てんかん発作、発達の遅れ、視覚的な特徴、そしてその他の身体的な症状について、詳しく見ていきましょう。
1. てんかん発作
この病気の最初のサインとなるのが、新生児期から乳児期早期に始まるてんかん発作です。
超早期の発症
90パーセント以上の患者さんが、生後3ヶ月以内に初めての発作を経験します。多くは生後3週間から6週間頃に始まります。赤ちゃんがまだ産院にいる間や、退院してすぐの時期に気づかれることが多いです。
多形性の発作
発作の形は一つではありません。時期によって変化します。
初期には、手足がピーンと突っ張る強直発作が見られることが多いです。その後、体が一瞬ビクッとするミオクロニー発作や、両手を広げてお辞儀をするようなてんかん性スパズム、体の一部が震える焦点発作など、様々なタイプの発作が組み合わさって現れるようになります。
難治性
DEE2のてんかん発作は、一般的な抗てんかん薬が効きにくい難治性であることが多いです。一時的に薬が効いて発作が減る時期(これをハネムーン期と呼ぶことがあります)があっても、また再発してしまうことがよくあります。ご家族にとっては辛いことですが、発作をゼロにすることだけを目標にするのではなく、発作と付き合いながら生活の質を維持することを目指す視点が必要になります。
発作のステージ変化
多くの患者さんで、発作のパターンが年齢とともに変化する3つのステージがあると言われています。
ステージ1:生後すぐに始まる頻繁な発作。
ステージ2:生後6ヶ月頃から数歳にかけて、てんかん性スパズムやヒプスアリスミアという脳波異常が見られる時期。
ステージ3:幼児期以降、発作の種類が変わり、多焦点性の発作や、睡眠中に強直発作が起きるパターンなどが見られる時期。
2. 発達と神経の症状
発作と並んで、重度の発達の遅れが見られます。これはCDKL5タンパク質が脳の発達そのものに不可欠であるためです。
重度の精神運動発達遅滞
首がすわる、目でものを追う、お座りをする、歩くといった運動面の発達と、言葉を理解する、話すといった精神面の発達の両方が、一般的なペースよりもかなりゆっくりになります。
多くのお子さんで、一人歩きや言葉による会話の獲得が難しい重度の遅れが見られますが、支えがあれば座れるようになったり、つかまり立ちができたり、あるいは歩けるようになるお子さんも一部いらっしゃいます。発達のペースはその子によって異なります。
筋緊張低下
赤ちゃんの頃は、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることが非常に多いです。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりします。体幹(体の中心)が弱いため、姿勢を保つのが難しいことがあります。
3. 皮質視覚障害(CVI)
これはDEE2の非常に特徴的な症状の一つです。
眼球そのものの構造や視神経には大きな問題がないにもかかわらず、脳が目から入ってきた映像情報をうまく処理できないために、ものが見えにくい状態のことを指します。
視線が合いにくい
お母さんやお父さんの顔をじっと見ることが少なかったり、目の前におもちゃを出しても目で追わなかったりすることがあります。
横目使い
正面にあるものを見るよりも、横目を使ってものを見ようとする仕草が見られることがあります。
光への反応
キラキラ光るものや、コントラストの強いものには反応を示すことがあります。
ご家族は「目が悪いのではないか」と心配して眼科を受診されますが、「目そのものはきれいです」と言われることが多いのが特徴です。これは脳の機能の問題だからです。
4. その他の特徴的な症状
睡眠障害
寝付きが悪かったり、夜中に何度も起きたり、夜中に突然笑ったり叫んだりするような睡眠の問題を抱えることがよくあります。
常同行動
レット症候群と似た症状として、手を口に入れたり、手を叩いたり、手を組んでもじもじさせたりするような、同じ動作を繰り返す常同行動が見られることがあります。また、歯ぎしりが強いこともあります。
消化器症状
便秘になりやすい、お腹にガスが溜まりやすい、ミルクを吐き戻しやすい(胃食道逆流症)といったお腹の症状もよく見られます。食事や排便のケアが日常的に必要になることが多いです。
小さい手足
手や足が年齢に比べて小さく、可愛らしい形をしていることがあります。

原因
なぜ、これほど多彩な症状が出るのでしょうか。その原因は、脳の神経細胞をメンテナンスする重要な酵素の不足にあります。
CDKL5遺伝子の役割
DEE2の原因は、X染色体にあるCDKL5(シー・ディー・ケー・エル・ファイブ)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、サイクリン依存性キナーゼ様5という酵素を作るための設計図です。
この酵素は、タンパク質リン酸化酵素と呼ばれるグループに属しており、他のタンパク質にリン酸という目印をつけることで、そのタンパク質の働きをオンにしたりオフにしたりするスイッチのような役割を担っています。
CDKL5タンパク質は、脳の神経細胞の中にたくさん存在し、神経細胞が正しい形に成長したり、シナプスという神経同士のつなぎ目を作ったり、その機能を維持したりするために、他の多くのタンパク質を管理・監督しています。
遺伝子の変化による影響
CDKL5遺伝子に変異が起きると、この重要な管理職である酵素が作られなかったり、機能しなくなったりします。
すると、脳の発達に必要な様々なプロセスがうまく進まなくなります。神経細胞同士のつながりが弱くなったり、興奮と抑制のバランスが崩れたりします。
その結果、脳が過剰に興奮しやすくなっててんかん発作が起き、神経ネットワークの形成不全によって重度の発達遅滞や視覚障害が生じると考えられています。
遺伝について
多くのご家族が、親から遺伝したのか、妊娠中の生活に問題があったのかとご自身を責めてしまわれます。
しかし、DEE2(CDKL5欠損症)のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。
これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にCDKL5遺伝子に変化が起きたことを意味します。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。
診断と検査
診断は、症状の観察、脳波検査、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 臨床診断の難しさ
生後間もない時期のてんかん発作は、DEE2以外にも多くの原因が考えられます。また、初期には脳波やMRIに明らかな特徴が出ないこともあるため、症状だけで診断を確定することは難しい場合があります。
2. 脳波検査
てんかん発作の診断や、脳の活動状態を調べるために不可欠な検査です。
発症初期には、発作がない時の脳波は正常範囲内であることも珍しくありません。しかし、病気が進むにつれて、背景活動の徐波化(脳の活動がゆっくりになること)や、多焦点性スパイク(脳のあちこちからてんかん波が出ること)などの異常が見られるようになります。乳児期にはヒプスアリスミアという特徴的な波形が出ることもあります。
3. 画像検査(MRI)
脳の形や構造を詳しく調べるためにMRI検査が行われます。
発症初期には、脳の形に明らかな異常は見られないことが多いです。しかし、年齢が進んでくると、前頭葉を中心に脳が少し萎縮して小さくなっている様子が見られることがあります。これは他の病気を除外するためにも重要な検査です。
4. 遺伝学的検査
確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。
DEE2は症状や検査所見だけでは診断が難しいため、遺伝子検査が非常に重要です。
近年普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた全エクソーム解析(WES)や、てんかん関連遺伝子パネル検査が行われることが一般的です。これによりCDKL5遺伝子の変異が見つかり、診断が確定します。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。
1. てんかんの治療
てんかん発作を減らすために、抗てんかん薬による治療を行います。
残念ながら特効薬といえるものはまだ確立されていませんが、発作のタイプに合わせて様々なお薬が試されます。
バルプロ酸、クロバザム、レベチラセタム、トピラマート、ゾニサミドなどが使われることが多いです。
点頭てんかんのパターンを示す場合は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法やステロイド療法が検討されることもあります。
また、お薬でコントロールが難しい場合は、ケトン食療法(脂肪分を多く、糖質を極端に少なくした食事療法)が選択肢に入ることがあります。
近年、海外ではガナキソロン(Ganaxolone)など、CDKL5欠損症に対して効果が期待される新しいお薬の治験や承認が進んでおり、日本での導入も期待されています。
2. 発達支援と療育(リハビリテーション)
早期からの療育が、お子さんの成長と生活の安定にとって非常に重要です。
理学療法(PT)
体の柔らかさ(筋緊張低下)や、逆に筋肉の突っ張りに対してアプローチします。
関節が硬くならないようなマッサージやストレッチを行ったり、楽な姿勢が取れるようにクッションを調整したりします。座位保持装置(座るための椅子)や車椅子、バギー、足底板(インソール)など、お子さんの体に合った福祉用具を作る際にも専門的なアドバイスを受けます。
作業療法(OT)
手先の感覚を養ったり、遊びを通じて外界への興味を引き出したりします。特に、皮質視覚障害(CVI)に配慮したアプローチが大切です。
例えば、複雑な背景のおもちゃよりも、黒い背景に赤いボールといったコントラストの強いものを見せたり、光るおもちゃを使ったりすることで、お子さんが「見えた!」と認識できる機会を増やします。
言語聴覚療法(ST)
言葉の理解を促すだけでなく、食べる機能(摂食嚥下)の訓練も行います。飲み込みが難しい場合は、食事の形態(とろみの調整など)や介助の姿勢について指導を受け、誤嚥性肺炎を防ぎながら少しでも口から食べる楽しみを持てるようにサポートします。
3. 日常生活のケア
摂食・嚥下と栄養管理
飲み込む力が弱く、口から十分に栄養が摂れない場合は、鼻からチューブを入れたり、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる胃ろうを作ったりして、十分な栄養を確保します。胃ろうは、誤嚥のリスクを減らし、お子さんとご家族の食事時間のストレスを軽減するための有効な手段です。
排便コントロール
便秘になりやすいため、水分摂取を心がけたり、お腹のマッサージを行ったりします。必要に応じて下剤を使用し、リズムよく排便できるように管理します。
睡眠管理
睡眠障害に対しては、生活リズムを整える工夫に加え、必要に応じてメラトニンなどの睡眠導入剤を使用することもあります。良質な睡眠は、てんかん発作の予防にもつながります。
まとめ
発達性およびてんかん性脳症2型(DEE2/CDKL5欠損症)についての重要なポイントを振り返ります。
病気の本質
CDKL5遺伝子の変異により、脳の神経細胞を管理する酵素が不足し、脳の発達や機能に影響が出る先天性の疾患です。
主な特徴
生後3ヶ月以内の早期に始まる難治性てんかん、重度の精神運動発達遅滞、皮質視覚障害(CVI)、筋緊張低下などが特徴です。
てんかん
難治性であることが多く、発作のタイプは年齢とともに変化します。様々なお薬や治療法を組み合わせて、生活の質を維持することを目指します。
原因
多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
ケアの要点
発作のコントロールだけでなく、CVIに配慮した療育、栄養管理、排便コントロール、睡眠管理など、全身をトータルでケアすることが大切です。
