黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(Crouzon syndrome with acanthosis nigricans)

医師から黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群という非常に長く、聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。

生まれたばかりの赤ちゃん、あるいは幼少期のお子様に、難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は一般的なクルーゾン症候群よりもさらに患者数が少なく、希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。

この病名は、大きく二つの特徴を組み合わせたものです。一つは頭の骨や顔の骨の成長に関わるクルーゾン症候群の特徴、もう一つは皮膚が黒っぽく厚くなる黒色表皮腫という特徴です。これらが合併していることから、この名前がついています。

医学的には、頭蓋縫合早期癒合症というグループに含まれる病気の一つです。

名前だけを聞くと非常に怖い病気のように感じるかもしれませんが、原因が特定の遺伝子にあることが分かっており、形成外科や脳神経外科を中心としたチーム医療によって、機能や見た目を改善する治療法が確立されています。

概要:どのような病気か

黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群は、生まれつきの遺伝子の変化によって、骨の成長と皮膚の状態に特徴が現れる先天性の疾患です。略してCAN(キャン)と呼ばれることもあります。

まず、病気の核となる二つの要素について説明します。

  1. クルーゾン症候群の特徴
    私たちの頭蓋骨は、いくつかのプレート状の骨が組み合わさってできています。赤ちゃんの頃は、この骨と骨のつなぎ目(縫合線)が開いていて、脳の急激な成長に合わせて頭が大きくなれるようになっています。
    しかし、この病気では、そのつなぎ目が通常よりも早い時期に閉じてくっついてしまいます。これを頭蓋縫合早期癒合症といいます。
    骨がくっついてしまうと、その方向には頭が大きくなれないため、頭の形がいびつになったり、脳への圧力が高まったりすることがあります。また、顔の骨の成長もゆっくりになるため、目が大きく見えたり、噛み合わせが合わなくなったりします。
  2. 黒色表皮腫の特徴
    これは皮膚の症状です。首の周りや脇の下、足の付け根などの皮膚が、ベルベットのように少し厚くなり、黒っぽく色素沈着を起こす状態を指します。
    通常のクルーゾン症候群にはこの皮膚症状はありません。ここが最大の違いです。

この病気は、FGFR3という特定の遺伝子の変異によって引き起こされます。通常のクルーゾン症候群はFGFR2という遺伝子が原因であることが多いので、原因遺伝子も異なります。

知的な発達については、正常であることも多いですが、脳への圧力が長く続いたり、水頭症などを合併したりした場合には影響が出ることもあります。適切な時期に治療を行うことが、お子さんの可能性を守ることにつながります。

主な症状

この病気の症状は、頭や顔の形、皮膚の状態、そしてその他の身体的な特徴に分けられます。お子さんによって症状の重さや出る時期は異なりますが、代表的なものを見ていきましょう。

1. 頭蓋骨と顔面の特徴

多くの患者さんにおいて、生まれた時、あるいは生後数ヶ月のうちに頭や顔の形の特徴に気づかれます。

頭の形の変化

頭の骨のつなぎ目が早く閉じてしまうため、閉じた場所によって頭の形が変わります。

例えば、頭のてっぺんが尖ったようになったり、前後が短く横幅が広くなったり、おでこが前に出っ張ったりします。クローバー葉頭蓋と呼ばれる、特徴的な形になることもあります。

顔の中央部の形成不全

顔の真ん中あたり(上あごや鼻の周辺)の骨の成長が、頭の後ろや下あごに比べてゆっくりです。そのため、顔の中央が少しへこんだように見えたり、下あごが相対的に前に出ている受け口になったりすることがあります。

眼球突出

目の周りの骨(眼窩)が浅くなるため、眼球が前に出っ張っているように見えます。目がクリッとして大きく見えるのが特徴ですが、まぶたが完全に閉じにくくなることがあります。また、両目の間隔が離れている(眼間開離)こともあります。

呼吸の問題

鼻の奥の通り道や、空気の通り道である気道が狭くなることがあり、鼻づまりやいびき、睡眠時無呼吸が見られることがあります。重度の場合は、鼻の奥が骨でふさがっている後鼻孔閉鎖を伴うこともあります。

2. 皮膚の症状(黒色表皮腫)

この病気を特定する上で最も重要なサインです。

首の周り、脇の下、肘の内側、膝の裏、お腹のしわ、まぶた、口の周りなどの皮膚に変化が現れます。

皮膚が厚く、ざらざらとしたベルベット状になり、色が黒ずんで見えます。

この症状は、生まれた時には目立たず、幼少期から学童期にかけて徐々に現れてくることが多いです。

単なる汚れや日焼けと間違われやすく、「洗っても落ちない」と相談に来られることもあります。

3. その他の症状

水頭症

脳の中にある脳室という部屋に、脳脊髄液という液体が過剰にたまってしまう状態です。これにより脳が圧迫されることがあります。

歯並びの問題

上あごが小さいため、歯が生えるスペースが足りず、歯が重なり合って生える叢生(そうせい)や、噛み合わせの異常が見られることがあります。

キアリ奇形

小脳の一部が脊髄の方へ落ち込んでしまう状態で、頭痛やめまいの原因になることがあります。

脊椎の異常

背骨の形に変化が見られることも報告されています。

なお、アペール症候群などの他の頭蓋縫合早期癒合症で見られるような、手足の指がくっつく合指症は、この病気では基本的には見られません。手足の骨格は正常であることが多いです。

原因

なぜ、骨が早くくっついたり、皮膚が黒くなったりするのでしょうか。その原因は、細胞の成長をコントロールする指令の誤作動にあります。

FGFR3遺伝子の変異

黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群の原因は、第4番染色体にあるFGFR3(エフ・ジー・エフ・アール・スリー)という遺伝子の変異です。

具体的には、この遺伝子の中の特定の一箇所(Ala391Glu変異)に変化が起きていることがほとんどです。

この遺伝子は、線維芽細胞増殖因子受容体3というタンパク質を作る設計図です。

この受容体は、細胞の表面にあって、外からの「成長しなさい」「分化しなさい」という命令を受け取るアンテナのような役割をしています。特に、骨の成長や皮膚の細胞の増殖を調節するのに重要です。

変異による影響

遺伝子に変異があると、このアンテナが過敏になり、命令が来ていないのに勝手に「スイッチオン」の状態になってしまいます。

骨への影響

頭蓋骨の継ぎ目にある細胞に対して、本来よりも早く「骨になりなさい」という指令が出続けてしまいます。その結果、まだ成長が必要な時期に継ぎ目が骨に変わってしまい、早期癒合が起こります。

皮膚への影響

皮膚の角化細胞(ケラチノサイト)に対して、過剰に増殖するような指令が出ます。これにより、皮膚が厚くなり、色素沈着を起こして黒色表皮腫となります。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。

これは、両親のどちらかがこの病気である場合、50パーセントの確率でお子さんに遺伝することを意味します。

しかし、実際にはご両親は健康で遺伝子にも異常がなく、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起きた新生突然変異(de novo変異)によるケースも多く見られます。

つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。

診断と検査

診断は、特徴的な見た目の症状、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。

1. 身体所見の確認

医師は、頭の形、顔立ち、そして皮膚の状態を詳しく観察します。

特に、クルーゾン症候群のような顔立ちに加えて、皮膚の黒ずみ(黒色表皮腫)があるかどうかが重要なポイントになります。ただし、乳児期には皮膚症状が出ていないこともあるため、注意深い経過観察が必要です。

2. 画像検査

レントゲン検査

頭蓋骨の縫合線が閉じているかどうか、指圧痕(脳圧が高いために頭蓋骨の内側にできる指で押したような跡)があるかなどを確認します。

CT検査(3D-CT)

頭蓋骨や顔面の骨の形を立体的に詳しく調べます。どの縫合線が閉じているか、眼窩の形はどうなっているか、手術の計画を立てるために不可欠な検査です。

MRI検査

脳の形や、水頭症の有無、キアリ奇形の有無などを調べます。骨ではなく脳そのものの状態を見るために行います。

3. 遺伝学的検査

確定診断のために、血液を採取してDNAを調べる検査が行われます。

FGFR3遺伝子の特定の変異(A391E)があるかどうかを確認します。

通常のクルーゾン症候群(FGFR2変異)と区別するためにも、この検査は重要です。診断が確定することで、将来の見通しや合併症の予測がしやすくなります。

治療と管理

この病気の治療は、形成外科、脳神経外科、矯正歯科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、小児科などが連携するチーム医療で行われます。

一度の手術で終わりではなく、お子さんの成長に合わせて、長期的な計画で治療を進めていきます。

1. 頭蓋骨と脳の手術

脳が成長するためのスペースを確保し、頭蓋内圧(脳圧)を下げること、そして頭の形を整えることが目的です。

頭蓋形成術(縫合開離術・骨延長術)

生後数ヶ月から1歳頃に行われることが多い手術です。

癒合してしまった骨のつなぎ目を切り離し、骨を広げて固定したり、延長器という装置を使って徐々に骨を広げたり(骨延長法)します。

最近では、吸収性プレートを用いたり、延長器を使って体への負担を減らしながら大きく頭蓋骨を広げる方法(頭蓋骨延長法)が選択されることが増えています。

2. 顔面の手術

顔の中央部を前に出すことで、噛み合わせを改善し、気道を広げ、眼球を保護することが目的です。

ル・フォーIII型骨切り術・顔面骨延長術

学童期から思春期にかけて行われることが多い手術です。

顔の骨を上下に切り離し、ハロー装置という頭につける枠を使って、数週間かけてゆっくりと顔の骨を前に引き出します。これにより、へこんでいた顔の中央が前に出て、立体的な顔立ちになり、呼吸もしやすくなります。

モン・ブロック骨切り術

おでこの骨と顔の骨を一体として前に出す手術です。状況に応じて選択されます。

3. 眼科的ケア

眼球突出がある場合、まぶたが閉じにくく、角膜(黒目)が乾燥して傷つきやすくなります。点眼薬や軟膏で保湿ケアを行います。

また、視力や乱視、斜視の問題がある場合は、眼鏡やアイパッチによる治療を行います。

頭蓋内圧が高くなると視神経が圧迫されて視力に影響が出ることがあるため、定期的な眼底検査が非常に重要です。

4. 呼吸の管理

睡眠時無呼吸がある場合は、CPAP(シーパップ)という鼻マスクをつけて寝る治療を行ったり、アデノイドや扁桃腺を切除する手術を行ったりします。

鼻の奥が骨でふさがっている場合(後鼻孔閉鎖)は、骨を開ける手術が必要です。

重度の呼吸障害がある場合は、一時的に気管切開を行うこともあります。

5. 歯科・矯正治療

上あごが小さく歯並びが悪くなりやすいため、矯正歯科での長期的な管理が必要です。

子供の頃は、上あごを広げる装置を使ったり、成長に合わせて歯並びを整えたりします。最終的には、顔面の手術と合わせて噛み合わせを完成させます。

6. 皮膚のケア

黒色表皮腫に対する治療は、主に見た目の改善や不快感の軽減が目的です。

この黒ずみは汚れではないため、強くこすって洗うことは避けてください。かえって皮膚を傷め、症状を悪化させる可能性があります。

保湿剤を使って皮膚を柔らかく保つことが基本です。

皮膚科で、角質を柔らかくする塗り薬(サリチル酸ワセリンや尿素軟膏など)や、ビタミンD3軟膏などが処方されることがあります。

太りすぎると症状が悪化することがあるため、適切な体重管理も大切です。

まとめ

黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)についての重要なポイントを振り返ります。

病気の本質

FGFR3遺伝子の変異により、頭蓋骨の早期癒合と皮膚の黒色表皮腫を合併する先天性疾患です。

主な特徴

頭の形の変化、顔面中央部の形成不全、眼球突出、そして首や脇の下などの皮膚の黒ずみ・肥厚が特徴です。

治療の鍵

脳神経外科や形成外科による頭蓋骨・顔面の手術が中心となります。成長段階に合わせた長期的な治療計画が必要です。

皮膚ケア

黒ずみは汚れではありません。こすらず、保湿や塗り薬でケアします。

チーム医療

多くの専門科が連携して、お子さんの成長をサポートします。

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