お子さんが黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群と診断され、聞き慣れない病名に戸惑っているご家族の方へ向けて、この記事を書きました。
生まれたばかりの赤ちゃんや幼いお子さんに難病の診断が出ると、大きなショックと不安を抱えるものです。この病気は一般的なクルーゾン症候群よりもさらに患者数が少なく、日本語での詳しい情報は限られています。
クルーゾン症候群には複数のタイプがあります。骨の症状が中心の古典的なタイプはFGFR2遺伝子の変異が原因です。一方、本記事で解説する黒色表皮腫合併タイプはFGFR3遺伝子の変異が原因で、まったく別の疾患単位です。古典的なタイプについて知りたい方は、姉妹記事のクルーゾン症候群(FGFR2遺伝子変異型)の解説記事をご覧ください。
私たちがこれまでご相談を受けてきた中でも、この病名だけを聞いて混乱してしまうご家族は少なくありません。まずは病気の全体像を、落ち着いて整理していきましょう。
この記事でわかること
- 黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群と、古典的クルーゾン症候群の違い
- 原因となるFGFR3遺伝子の変異と、代表的な症状の関係
- 診断に必要な検査の流れと、治療の全体像
- NIPT(新型出生前診断)の対象になるかどうか
概要:どのような病気か
黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群は、骨の早期癒合と皮膚の変化が同時に現れる先天性疾患です。まずは病気の全体像を押さえましょう。
生まれつきの遺伝子変化によって、骨の成長と皮膚の状態に特徴が現れます。略してCAN(キャン)と呼ばれることもあります。
古典的なクルーゾン症候群(指定難病181号としての解説(難病情報センター))全体のうち、この黒色表皮腫合併タイプが占める割合は約5%程度とされています。数は少ないものの、古典型とは別の疾患単位として扱われます。
病気の核となる二つの要素を見ていきます。
- クルーゾン症候群の特徴
頭蓋骨はいくつかのプレート状の骨が組み合わさってできています。赤ちゃんの頃は骨と骨のつなぎ目(縫合線)が開いていて、脳の成長に合わせて頭が大きくなれます。
しかしこの病気では、つなぎ目が通常よりも早く閉じてしまいます。これを頭蓋縫合早期癒合症といいます。
骨が閉じた方向には頭が大きくなれないため、頭の形がいびつになったり、脳への圧力が高まったりします。顔の骨の成長もゆっくりになり、目が大きく見えたり、噛み合わせが合わなくなったりします。 - 黒色表皮腫の特徴
皮膚の症状です。首の周りや脇の下、足の付け根の皮膚が、ベルベットのように少し厚くなり、黒っぽく色素沈着を起こします。
通常のクルーゾン症候群にはこの皮膚症状はありません。ここが最大の違いです。
この病気はFGFR3遺伝子の変異によって起こります。古典的なクルーゾン症候群の原因であるFGFR2遺伝子とは別の遺伝子であり、両者を混同しないことが重要です。
知的な発達は正常であることも多いですが、脳への圧力が長く続いたり、水頭症を合併したりすると影響が出ることもあります。適切な時期の治療が、お子さんの可能性を守ります。
主な症状
症状は頭や顔の形、皮膚の状態、その他の身体的特徴に分けられます。代表的なものを見ていきましょう。
1. 頭蓋骨と顔面の特徴
多くのお子さんは、生後数ヶ月のうちに頭や顔の形の特徴に気づかれます。
頭の形の変化
頭の骨のつなぎ目が早く閉じるため、閉じた場所によって頭の形が変わります。頭のてっぺんが尖ったり、前後が短く横幅が広くなったり、おでこが前に出っ張ったりします。クローバー葉頭蓋と呼ばれる特徴的な形になることもあります。
顔の中央部の形成不全
顔の中央(上あごや鼻の周辺)の骨の成長が、頭の後ろや下あごに比べてゆっくりです。顔の中央がへこんだように見えたり、下あごが相対的に前に出ている受け口になったりします。
眼球突出
目の周りの骨(眼窩)が浅くなり、眼球が前に出っ張って見えます。目がクリッとして大きく見える一方、まぶたが完全に閉じにくくなることがあります。両目の間隔が離れる(眼間開離)こともあります。
呼吸の問題
鼻の奥や気道が狭くなり、鼻づまりやいびき、睡眠時無呼吸が見られることがあります。重度の場合は、鼻の奥が骨でふさがる後鼻孔閉鎖を伴うこともあります。
2. 皮膚の症状(黒色表皮腫)
この病気を特定するうえで最も重要なサインです。首や脇の下から見ていきます。
首の周り、脇の下、肘の内側、膝の裏、お腹のしわ、まぶた、口の周りの皮膚に変化が現れます。厚くざらざらとしたベルベット状になり、色が黒ずんで見えます。
この症状は生まれた時には目立たず、幼少期から学童期にかけて徐々に現れることが多いです。実際のご相談でも、生まれたときには皮膚に変化がなく、数年後にはじめて気づかれたというケースを多く伺います。
単なる汚れや日焼けと間違われやすく、「洗っても落ちない」と相談に来られることもあります。
3. その他の症状
頭蓋や皮膚以外にも、注意しておきたい症状があります。
水頭症
脳の中にある脳室という部屋に脳脊髄液という液体が過剰にたまってしまう状態です。脳が圧迫され、頭痛や発達への影響につながることがあります。
歯並びの問題
上あごが小さいため歯が生えるスペースが足りず、歯が重なり合って生える叢生(そうせい)や噛み合わせの異常が見られることがあります。
キアリ奇形
小脳の一部が脊髄の方へ落ち込んでしまう状態で、頭痛やめまいの原因になることがあります。
脊椎の異常
背骨の形に変化が見られることも報告されています。
なお、アペール症候群など他の頭蓋縫合早期癒合症で見られる、手足の指がくっつく合指症は、この病気では基本的に見られません。手足の骨格は正常であることが多いです。
原因
骨が早く癒合し皮膚が黒くなる原因は、細胞の成長を指令する仕組みの誤作動にあります。
FGFR3遺伝子の変異
原因遺伝子は、頭蓋骨のクルーゾン症候群でよく知られるFGFR2ではなく、FGFR3です。
黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群の原因は、第4番染色体にあるFGFR3遺伝子の変異です。具体的には、遺伝子の膜貫通領域(transmembrane領域)にある特定の一箇所、Ala391Glu(A391E)変異がほとんどを占めます。
この遺伝子は、線維芽細胞増殖因子受容体3というタンパク質の設計図です。細胞の表面にあって、成長や分化の命令を受け取るアンテナのような役割を担います。骨の成長や皮膚細胞の増殖の調節に重要な受容体です。
変異による影響
変異があると、このアンテナ役の受容体が命令なしに働き続けてしまいます。骨と皮膚、それぞれへの影響を見ていきます。
骨への影響
頭蓋骨の継ぎ目にある細胞に、本来よりも早く「骨になりなさい」という指令が出続けます。まだ成長が必要な時期に継ぎ目が骨に変わり、早期癒合が起こります。
皮膚への影響
皮膚の角化細胞(ケラチノサイト)が過剰に増殖するよう指令が出ます。過剰な増殖の結果として皮膚が厚くなり、色素沈着を起こして黒色表皮腫となります。
遺伝について
常染色体顕性遺伝(顕性遺伝)という形式をとりますが、実際には新生突然変異によるケースも多く見られます。
両親のどちらかがこの病気である場合、50パーセントの確率でお子さんに遺伝します。一方で、ご両親は健康で遺伝子にも異常がなく、お子さんの代ではじめて変化が起きた新生突然変異(de novo変異)によるケースも多く見られます。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。妊娠中のお母さんの食事やお薬、ストレス、環境が原因で起きるものでもありません。誰にでも起こりうる、偶然の現象です。
診断と検査
診断は、特徴的な見た目の症状、画像検査、遺伝子検査を組み合わせて行います。
1. 身体所見の確認
医師が、頭の形、顔立ち、皮膚の状態を詳しく観察するところから始まります。
クルーゾン症候群のような顔立ちに加えて、皮膚の黒ずみ(黒色表皮腫)があるかどうかがポイントです。ただし乳児期には皮膚症状が出ていないこともあり、注意深い経過観察が必要です。
2. 画像検査
レントゲン、CT、MRIの3種類を、目的に応じて使い分けます。
レントゲン検査
頭蓋骨の縫合線が閉じているか、指圧痕(脳圧が高いために頭蓋骨の内側にできる跡)があるかを確認します。
CT検査(3D-CT)
頭蓋骨や顔面の骨の形を立体的に調べます。どの縫合線が閉じているか、眼窩の形はどうか、手術計画に不可欠な検査です。
MRI検査
脳の形や水頭症の有無、キアリ奇形の有無を調べます。骨ではなく脳そのものの状態を見るための検査です。
3. 遺伝学的検査
確定診断には、血液からDNAを調べる遺伝子検査が欠かせません。
FGFR3遺伝子の特定の変異(A391E)があるかどうかを確認します。通常のクルーゾン症候群(FGFR2変異)と区別するためにも、この検査で見分けます。診断が確定すると、将来の見通しや合併症の予測がしやすくなります。
なお、出生前の胎児に対してこの遺伝子変異の有無を調べる場合は、羊水検査や絨毛検査による遺伝子解析が必要になります。この点は次の章で詳しく説明します。

NIPT(新型出生前診断)との関係
黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群は、通常のNIPTでは検出できません。単一遺伝子の疾患だからです。
NIPTは、母体血液中の胎児由来DNAを解析し、13番・18番・21番染色体などの数的異常を調べる非確定的な検査です。黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群はFGFR3遺伝子という単一遺伝子の変異が原因であり、染色体の数的異常ではありません。そのためNIPTの標準的なスクリーニング対象にはなりません。
お子さんにこの病気の可能性がある場合、確定には羊水検査や絨毛検査による遺伝子解析が必要です。NIPTの結果だけで否定も肯定もできない点に注意してください。出生前診断の実施については、日本産科婦人科学会の見解に沿って行われることが一般的です。
出生前診断を受けるかどうかで悩まれるご家族の声は、SNS上でもよく見かけます。何も検査をしないという選択に至るまでの葛藤を投稿されている方もいます。実際に@mmy338さんも、胎児ドックの予約が取れずに悩んだ末、結局NIPTを受けずに出産へ臨んだ経験を投稿していました。
検査機関選びに迷う声も多く見られます。当院でも、認証施設であるかどうかを基準に選ばれる方が多い印象です。@itsumonemui888さんは、費用やスピード、認証機関かどうかを比較しながら検査先を検討する様子を投稿していました。
妊娠中に他の疾患も気になる場合は、まず調べられる範囲を確認しておくと安心です。ただし黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群のような単一遺伝子疾患は、当院のプレミアムプランを含め、NIPTの対象外です。検査でわかる範囲はプレミアムプランを選ぶ理由のページでご確認ください。当院で案内している検査プランの一覧はNIPT検査プラン一覧からご覧いただけます。
治療と管理
治療は複数の診療科によるチーム医療で進めます。長期的な視点で計画を立てることが大切です。
形成外科、脳神経外科、矯正歯科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、小児科などが連携します。一度の手術で終わりではなく、お子さんの成長に合わせた長期計画で進めていきます。
1. 頭蓋骨と脳の手術
脳の成長スペースを確保し、頭蓋内圧を下げ、頭の形を整えることが目的です。
頭蓋形成術(縫合開離術・骨延長術)
生後数ヶ月から1歳頃に行われることが多い手術です。癒合してしまった骨のつなぎ目を切り離し、骨を広げて固定したり、延長器を使って徐々に広げたり(骨延長法)します。
最近では、吸収性プレートや延長器を使い、体への負担を減らしながら頭蓋骨を広げる方法(頭蓋骨延長法)が選ばれることが増えています。
2. 顔面の手術
顔の中央部を前に出し、噛み合わせの改善、気道の確保、眼球の保護を目指します。
ル・フォーIII型骨切り術・顔面骨延長術
学童期から思春期にかけて行われることが多い手術です。顔の骨を上下に切り離し、ハロー装置という頭につける枠を使って、数週間かけてゆっくりと顔の骨を前に引き出します。へこんでいた顔の中央部が前に出て、立体的な顔立ちになり、呼吸もしやすくなります。
モン・ブロック骨切り術
おでこの骨と顔の骨を一体として前に出す手術です。状況に応じて選択されます。
3. 眼科的ケア
眼球突出があると、角膜が乾燥して傷つきやすくなります。日々の保湿ケアが基本です。
まぶたが閉じにくい場合は、点眼薬や軟膏で保湿ケアを行います。視力や乱視、斜視の問題があれば、眼鏡やアイパッチで対応します。
頭蓋内圧が高くなると視神経が圧迫され、視力に影響することがあるため、定期的な眼底検査が欠かせません。
4. 呼吸の管理
睡眠時無呼吸の程度に応じて、装置による対応から手術まで選択肢があります。
睡眠時無呼吸がある場合は、CPAP(シーパップ)という鼻マスクをつけて寝る治療や、アデノイド・扁桃腺の切除手術を行います。鼻の奥が骨でふさがっている場合(後鼻孔閉鎖)は、骨を開ける手術が必要です。重度の呼吸障害では、一時的な気管切開を行うこともあります。
5. 歯科・矯正治療
上あごの成長に合わせて、長期的な矯正管理が必要です。
子供の頃は上あごを広げる装置を使い、成長に合わせて歯並びを整えます。最終的には、顔面の手術と合わせて噛み合わせを完成させます。
6. 皮膚のケア
黒ずみは汚れではありません。ケアの基本は保湿です。
強くこすって洗うことは避けてください。かえって皮膚を傷め、症状を悪化させることがあります。保湿剤で皮膚を柔らかく保ってください。
皮膚科では、角質を柔らかくする塗り薬(サリチル酸ワセリンや尿素軟膏など)や、ビタミンD3軟膏などが処方されることがあります。体重が増えすぎると症状が悪化しやすいため、適切な体重管理も大切です。
よくある質問
ご家族からよくいただく質問をまとめました。気になる項目から確認してください。
黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群は、NIPTでわかりますか。
わかりません。単一遺伝子疾患であり、NIPTの標準的なスクリーニング対象ではないためです。確定には羊水検査や絨毛検査による遺伝子解析が必要です。
古典的なクルーゾン症候群とは、何が違うのですか。
原因遺伝子が異なります。古典型はFGFR2遺伝子、本記事のタイプはFGFR3遺伝子の変異が原因です。さらに黒色表皮腫という皮膚症状を合併する点が古典型との違いです。
黒色表皮腫は、いつ頃から現れますか。
生まれた時には目立たないことが多く、幼少期から学童期にかけて徐々に現れます。首や脇の下から気づかれるケースが多いです。
次の子どもにも遺伝しますか。
常染色体顕性遺伝の形式で、親がこの病気であれば約50パーセントの確率で遺伝します。一方で、両親に異常がなくお子さんの代で初めて変化が起きる新生突然変異のケースも多く見られます。
治療はいつから始まりますか。
頭蓋骨の手術は生後数ヶ月から1歳頃に行われることが多いです。顔面の手術は学童期から思春期にかけて行われます。皮膚のケアは症状が現れた時点から並行して進めます。
知的発達に影響はありますか。
多くは正常です。ただし脳への圧力が長く続いたり、水頭症を合併したりすると影響が出ることがあります。定期的な経過観察が安心につながります。
まとめ
黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(CAN)について、重要なポイントを振り返ります。
病気の本質
FGFR3遺伝子の変異により、頭蓋骨の早期癒合と皮膚の黒色表皮腫を合併する先天性疾患です。
主な特徴
頭の形の変化、顔面中央部の形成不全、眼球突出、そして首や脇の下などの皮膚の黒ずみ・肥厚が特徴です。
治療の鍵
脳神経外科や形成外科による頭蓋骨・顔面の手術が中心です。成長段階に合わせた長期的な治療計画が必要になります。
皮膚ケア
黒ずみは汚れではありません。こすらず、保湿や塗り薬でケアしてください。
チーム医療とNIPT
多くの専門科が連携して、お子さんの成長をサポートします。この病気自体はNIPTの対象ではなく、確定には羊水検査や絨毛検査が必要な点も覚えておいてください。
監修: 岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本小児科学会 小児科専門医/日本小児科学会認定 出生前コンサルト小児科医/小児科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本小児科学会 小児科専門医/日本アレルギー学会 所属/小児科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
