医師から「Developmental and epileptic encephalopathy 94」という非常に長く、聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
まだ小さなお子様に、日本語の定まった呼び方もまだ浸透していないような難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても報告数がまだ少なく、希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、てんかんや遺伝の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない、比較的新しい疾患概念です。
この長い診断名を日本語に訳すと、「発達性およびてんかん性脳症94型」となります。医療現場では、頭文字をとってDEE94(ディー・イー・イー・キュウジュウヨン)と呼ばれることが一般的です。また、原因となる遺伝子の名前をとって「CHD2関連神経発達障害」や「CHD2関連てんかん」と呼ばれることも増えています。
この病気は、幼児期にてんかん発作が始まり、それとともに発達の遅れや自閉スペクトラム症(ASD)の傾向が見られるという特徴があります。特に、「光に対して敏感であること(光感受性)」や、カクンと力が抜けるような発作が特徴的です。
「脳症」という言葉や「94型」という数字に圧倒されてしまうかもしれませんが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、重症度を表す数字ではありません。
また、原因が遺伝子にあることが分かったということは、これから起こりうることへの対策が立てやすくなり、お子さんに合った療育やケアのプランを考えるための地図を手に入れたということでもあります。
概要:どのような病気か
発達性およびてんかん性脳症94型(DEE94)は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳の神経細胞の働きに影響が出る疾患です。
まず、この「発達性およびてんかん性脳症」という病名グループの意味を理解することが大切です。
発達性とは、生まれ持った遺伝子の変化そのものが、脳の発達や成長に影響を与えていることを意味します。つまり、てんかん発作があるから発達が遅れるだけでなく、発作がなくても発達に課題が生じる体質であることを示しています。
てんかん性とは、頻繁なてんかん発作や、脳波の乱れが、脳の機能や発達にさらなる悪影響を与えている状態を指します。
脳症とは、脳全体の働きに広範な影響が出ている状態を指す医学用語です。
つまり、DEE94は「遺伝子の影響による発達の遅れ」と「てんかん発作による脳への負担」の二つの要素が合わさって、発達や神経の症状が現れる病気です。
この94型は、CHD2(シー・エイチ・ディー・ツー)という遺伝子の変異によって引き起こされることが近年の研究で明らかになりました。以前は原因不明の「小児期発症てんかん脳症」とされていたお子さんの中に、この遺伝子変異を持つ方が一定数いることがわかってきています。
発症時期は、多くの場合生後6ヶ月から4歳の間です。それまでは普通に発達していたのに、てんかん発作が始まると同時に発達が停滞したり、少し後戻りしたりする(退行)ことがあります。
主な症状
DEE94の症状は、特徴的なてんかん発作、発達や行動の特徴、そして身体的な特徴に分けられます。お子さんによって症状の重さは異なりますが、これまでに報告されている代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。
1. てんかん発作
DEE94の最も大きな特徴は、多彩なてんかん発作です。特に以下の特徴がよく見られます。
- 発症時期
多くのお子さんが、1歳から3歳頃に初めての発作を経験します。発熱がきっかけになることもあります。 - 光感受性(ひかりかんじゅせい)
DEE94の大きな特徴の一つが、光に対する敏感さです。
テレビの点滅、木漏れ日、しましま模様などを見ると発作が誘発されることがあります。
また、お子さん自身が目の前で手をひらひらさせたり、まばたきを繰り返したりして、自分で光の刺激を作って発作を起こしてしまう「自己誘発発作」が見られることもあります。 - 発作のタイプ
- ミオクロニー発作:手足や体が一瞬ビクッとする発作。
- 脱力発作(ドロップアタック):急に全身の力が抜けて、カクンと倒れ込んでしまう発作。怪我をしやすいため注意が必要です。
- 欠神発作:意識が数秒間途切れ、動作が止まる発作。
- 強直間代発作:全身が硬直してガクガク震える、いわゆる大発作。
これらが組み合わさって起こることもあります。
- 難治性
一般的な抗てんかん薬で完全に発作を止めるのが難しい場合があり、複数の薬を調整しながらコントロールを目指します。
2. 発達と行動の症状
発作が始まる前は、発達が正常か、あるいは軽度の遅れで済んでいることが多いですが、発作の発症とともに発達のペースがゆっくりになったり、言葉が出にくくなったりすることがあります。
- 知的障害
軽度から重度まで幅広いですが、多くのお子さんに知的な発達の遅れが見られます。 - 自閉スペクトラム症(ASD)の傾向
DEE94のお子さんには、自閉的な行動特徴が見られることがよくあります。- 視線を合わせにくい。
- こだわりが強い。
- 同じ動作を繰り返す(常同行動)。
- 人とのコミュニケーションが苦手。
これらの特徴に対しては、早期からの療育的アプローチが有効です。
- 退行(たいこう)
発作が頻発する時期に、それまで出来ていた言葉や運動ができなくなる「退行」が見られることがありますが、発作が落ち着くと再び成長が見られることもあります。
3. その他の特徴
- 睡眠障害:寝付きが悪かったり、夜中に何度も起きたりすることがあります。
- 身体的特徴:特段目立つ奇形などはありませんが、お顔立ちが似ている(ごく軽微な特徴)という報告もあります。また、痩せ型のお子さんが多い傾向があります。

原因
なぜ、光に敏感になったり、てんかんが起きたりするのでしょうか。その原因は、遺伝子の「読み取り調整役」の不具合にあります。
CHD2遺伝子の役割
DEE94の原因は、第15番染色体にあるCHD2(シー・エイチ・ディー・ツー)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、「クロマチンリモデリング因子」というタンパク質を作るための設計図です。
少し難しい言葉ですが、簡単に説明します。
私たちの体にあるDNAは、非常に長い糸のようなもので、普段は小さく折りたたまれて収納されています。必要な遺伝子を使う(読み取る)ためには、この折りたたまれたDNAをほどいて、読み取りやすい形にする必要があります。
CHD2遺伝子が作るタンパク質は、この「DNAの形を整えて、必要な遺伝子のスイッチを入れる」という、非常に重要な調整役(リフォーム業者のような役割)を担っています。
特に、脳の神経細胞が作られたり、神経回路が正しくつながったりする時期に、このCHD2が重要な働きをしています。
遺伝子の変化による影響
CHD2遺伝子に変異が起きると、この調整役のタンパク質がうまく作られなかったり、機能しなくなったりします(機能喪失)。
すると、脳の発達に必要な他のたくさんの遺伝子のスイッチが適切なタイミングで入らなくなり、神経細胞の働きやネットワークの形成に乱れが生じます。
その結果、脳が過剰に興奮しやすくなっててんかん発作が起きたり、発達に遅れが生じたりすると考えられています。光感受性が強くなる詳しいメカニズムはまだ研究中ですが、視覚情報を処理する脳の回路が過敏になっている可能性があります。
遺伝について
多くのご家族が「親から遺伝したのか?」「妊娠中の生活に問題があったのか?」とご自身を責めてしまわれます。
しかし、DEE94のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。
これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にCHD2遺伝子に変化が起きたことを意味します。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。
診断と検査
診断は、症状の観察、脳波検査、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 脳波検査
てんかん発作の診断のために不可欠な検査です。
DEE94のお子さんの脳波では、脳全体に広がる「多棘徐波(たきょくじょは)」という特徴的な乱れが見られることが多いです。また、光刺激(目の前で光を点滅させる検査)を行うと、脳波に乱れが生じる「光突発反応」が確認されることがよくあります。
2. 画像検査(MRI)
脳の形や構造を詳しく調べるためにMRI検査が行われます。
DEE94の初期には、脳の形に明らかな異常は見られない(正常所見)ことが多いです。しかし、発作が長く続いた後などには、脳が少し萎縮(小さくなる)している様子が見られることもあります。これは他の病気を除外するためにも重要な検査です。
3. 遺伝学的検査
確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。
DEE94は症状だけでは他のてんかん症候群(ドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群など)と区別がつきにくいため、遺伝子検査が非常に重要です。
近年普及してきた全エクソーム解析(WES)や、てんかん関連遺伝子パネル検査などを行うことで、CHD2遺伝子の変異が見つかり、診断が確定します。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。
1. てんかんの治療
てんかん発作を減らすために、抗てんかん薬による治療を行います。
DEE94(CHD2関連てんかん)に対して特効薬といえるものはまだ確立されていませんが、以下のようなお薬が効果を示すという報告があります。
- バルプロ酸:幅広い発作に効果が期待される基本薬です。
- レベチラセタム:ミオクロニー発作などに効果が期待されます。
- クロバザム:補助的に使われることが多いです。
- ラモトリギン:効果があったという報告があります。
- エトスクシミド:欠神発作が目立つ場合に使われることがあります。
一方で、カルバマゼピンやフェニトインなどは、発作を悪化させる可能性があるため注意が必要とされています。主治医はお子さんの発作タイプを見極めて、慎重に薬を選んでいきます。
薬以外にも、ケトン食療法(脂肪分を多く、糖質を極端に減らす食事療法)が有効な場合があります。
2. 生活環境の調整(光対策)
光感受性が強い場合、日常生活での光のコントロールが発作予防に役立ちます。
- サングラスの着用:外出時やテレビを見る際に、特定の波長をカットする遮光眼鏡(サングラス)をかけることが有効です。特に青色光をカットするレンズが良いとされることがあります。
- 画面の調整:テレビやタブレットの画面を暗めに設定する、部屋を明るくして画面との明暗差を減らすなどの工夫をします。
- 点滅刺激を避ける:木漏れ日のある並木道や、点滅する光のおもちゃなどを避けます。
3. 安全対策
脱力発作(ドロップアタック)がある場合は、急に倒れて頭を打つ危険があります。
活動時は保護帽(ヘッドギア)を着用することで、怪我を防ぎ、安心して遊ばせることができます。
4. 発達支援と療育
発達の遅れや自閉傾向に対しては、早期からの療育が非常に重要です。
- 作業療法(OT)・理学療法(PT):体の使い方や手先の動きを練習します。
- 言語聴覚療法(ST):言葉の理解やコミュニケーション方法を練習します。言葉が出にくい場合でも、絵カードなどを使って意思疎通を図る方法を学びます。
- ソーシャルスキルトレーニング:人との関わり方や、集団生活のルールを少しずつ学びます。
まとめ
発達性およびてんかん性脳症94型(DEE94)についての重要なポイントを振り返ります。
- 病気の本質:CHD2遺伝子の変異により、遺伝子のスイッチ調整がうまくいかず、脳の過剰興奮や発達への影響が出る先天性の疾患です。
- 主な特徴:幼児期発症のてんかん、発達の遅れ、自閉スペクトラム症の傾向が見られます。
- てんかんの特徴:光に敏感(光感受性)、自己誘発発作、ミオクロニー発作、脱力発作などが特徴的です。
- 原因:多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
- ケアの要点:発作のコントロール、遮光眼鏡などの光対策、保護帽による安全確保、そしてそれぞれの特性に合わせた療育が大切です。
