知的発達症および橋小脳形成不全を伴う小頭症(MICPCH)

医者

お子さんが「知的発達症および橋小脳形成不全を伴う小頭症」という聞き慣れない、そしてとても長い名前の診断を受け、不安や戸惑いの中にいらっしゃるかもしれません。

この病気は、英語名の頭文字をとってMICPCH(ミックピーシーエイチ)症候群や、原因となる遺伝子の名前からCASK(カスク)異常症と呼ばれることもあります。

医学的な情報は複雑に見えますが、一つひとつ整理していくことで、お子さんの状態をより深く理解する手助けになれば幸いです。

どのような病気か:概要

この病気は、生まれつき脳の一部である橋(きょう)と小脳(しょうのう)が通常よりも小さく形成されること、頭の大きさが小さいこと、すなわち小頭症であること、そして知的な発達の遅れが見られることを主な特徴とする先天性の疾患です。

非常に稀な病気であり、男女比でいうと圧倒的に女性に多く見られます。これは、原因となる遺伝子がX染色体上にあることに関係しています。

病名に含まれる単語を一つずつ紐解いてみましょう。

知的発達症

言葉の理解や発語、身の回りのことを自分でする能力など、知的な面での成長がゆっくりであることを指します。医学的には知的障害と同義で使われることが多い言葉です。

小頭症

年齢や性別の平均に比べて、頭囲、つまり頭の周りの長さが小さい状態です。脳の成長がゆっくりであるために、頭蓋骨の拡大も緩やかになり、結果として頭が小さくなります。

橋小脳形成不全

脳の奥にある橋と小脳という部分の発達が不十分な状態です。

橋とは、大脳と小脳、脊髄をつなぐ神経の交差点のような場所で、呼吸や睡眠のリズムなど生命維持にも関わります。

小脳とは、体のバランスを取ったり、スムーズな運動を調整したりする役割を持つ部分です。

これらが組み合わさることで、運動機能や知的な発達、そして日常生活の様々な場面に影響が出るのが、この病気の全体像です。

主な症状と特徴

症状の現れ方や重さは、お子さん一人ひとりによって異なります。すべての症状が全員に当てはまるわけではありませんが、多くの患者さんに見られる一般的な特徴を解説します。

身体的な特徴

頭の大きさと形

生まれた時は標準的な大きさであることが多いですが、生後数ヶ月から数年にかけて頭の成長が緩やかになり、同年代のお子さんと比べて相対的に小さく見えるようになります。これを後天的小頭症と呼びます。

顔立ちの特徴

成長とともに、少し特徴的なお顔立ちになることがあります。具体的には、顔の中心部分が比較的平坦であったり、鼻が短めであったり、耳が大きめであったりといった特徴が挙げられます。また、あごが小さめであることもあります。これらは医学的な特徴として挙げられますが、多くのご家族にとっては、その子らしい愛嬌のある顔立ちとして捉えられています。

運動機能の発達

筋肉の緊張低下

赤ちゃんの頃は体がふにゃふにゃとして柔らかい、いわゆるフロッピーインファントの状態が見られることがあります。抱っこをした時に体が滑り落ちそうな感覚があるかもしれません。これは低緊張と呼ばれ、体幹を支える力が弱いことによるものです。

運動発達の遅れ

首のすわり、お座り、ハイハイ、歩行といった運動のマイルストーン、つまり発達の節目に到達するのに時間がかかります。

症状が軽度であれば、支えなしで歩けるようになるお子さんもいれば、つかまり立ちや伝い歩きまでのお子さん、あるいは車椅子やバギーでの移動を主とするお子さんもいます。それぞれのペースで運動機能は獲得されていきます。

筋肉の硬さと不随意運動

成長に伴い、あるいは赤ちゃんの頃から、手足の筋肉がこわばって突っ張るような状態が出てくることがあります。これを痙縮と呼びます。また、自分の意思とは関係なく体が動いてしまう不随意運動が見られることもあります。

神経・発達面の特徴

知的発達の遅れ

重度の知的障害を伴うことが多く、言葉によるコミュニケーションが難しい場合があります。発語が見られない、あるいは単語のみの発話であるケースも少なくありません。

しかし、言葉は話せなくても、こちらの言っていることは理解している場合が多くあります。表情や視線、身振り、あるいは独特の発声で感情を豊かに伝えるお子さんもたくさんいます。

てんかん発作

約半数以上のお子さんに、てんかん発作が見られます。

発作のタイプは様々です。一点を見つめてぼーっとする発作や、体の一部がピクつく発作、全身が強直する発作などがあります。乳児期に点頭てんかん、別名ウェスト症候群を発症する場合もあります。てんかんは脳波の異常によって起こり、適切な治療が必要となります。

感覚の問題

聴覚や視覚に器質的な問題、つまり耳や目の構造的な異常がなくても、脳での情報処理がうまくいかないことがあります。

例えば、視覚については、見えているはずなのに認識しづらい、あるいは特定の形や色に強い興味を示すといった様子が見られることがあります。また、視神経の低形成が見られることもあります。

聴覚についても同様で、特定の音に敏感であったり、逆に呼びかけに反応しにくかったりすることがあります。

その他の症状

睡眠障害

寝付きが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早くに起きてしまうなど、睡眠のリズムが整いにくいことがあります。これは脳の睡眠をコントロールする部分の機能に関係していると考えられています。

消化器症状

飲み込みが苦手な嚥下障害があったり、ミルクをよく吐き戻してしまったりすることがあります。また、胃食道逆流症などが見られることもあります。お腹の動きがゆっくりであるため、便秘になりやすい傾向もあります。

行動面の特徴

手をひらひらさせる、体を揺らすといった常同行動や、じっとしているのが苦手な多動傾向が見られることがあります。一方で、人懐っこく、ニコニコと愛想が良い性格のお子さんが多いとも言われています。

医者

原因:CASK遺伝子について

この病気の主な原因は、X染色体にあるCASK(カスク)という遺伝子の変異です。

遺伝子の役割

CASK遺伝子は、カルシウム・カルモジュリン依存性セリンプロテインキナーゼというタンパク質の設計図となる遺伝子です。

このタンパク質は、脳の神経細胞同士が情報をやり取りするつなぎ目であるシナプスの形成や維持、そして脳の発達そのものに非常に重要な役割を果たしています。

この遺伝子に変化が起きることで、正常なCASKタンパク質が作られなくなったり、量が減ったりします。その結果、脳、特に橋と小脳の形成や機能に影響が出ると考えられています。

なぜ女性に多いのか

人間は性染色体を2本持っています。女性はXX、男性はXYです。

女性はX染色体を2本持っているため、片方のX染色体のCASK遺伝子に変異があっても、もう片方の正常なX染色体が機能をある程度補うことができます。

これをX染色体不活性化という現象で説明します。女性の体中の細胞では、2本あるX染色体のうちどちらか1本がランダムに休止状態になります。そのため、正常なCASKを作る細胞と、異常なCASKを作る細胞が混在するモザイクの状態になります。これにより、生命を維持することはできますが、MICPCHのような症状が現れます。

一方、男性はX染色体が1本しかありません。その唯一のX染色体にあるCASK遺伝子に変異が起きると、正常なタンパク質を全く作ることができません。脳の発達に非常に重篤な影響が出るため、重度の脳障害を持って生まれるか、あるいはお腹の中で育つことができず流産となってしまうことが多くあります。

結果として、この病気と診断される患者さんの多くは女性となります。ただし、稀ですが男性の患者さんも報告されており、その場合はモザイク変異など特殊なケースであることが多いです。

遺伝について

非常に重要な点ですが、多くのケースにおいて、この遺伝子の変異は両親から受け継いだものではなく、受精卵ができる過程などで偶然発生した突然変異、医学用語では新生変異によるものです。

つまり、お母さんのせいでも、お父さんのせいでもありません。妊娠中の過ごし方や、食べたもの、薬、ストレスなどが原因で起きるものではないということを、どうか深く理解してください。

稀に、母親が症状のない、あるいは非常に軽い症状の保因者である場合もありますが、多くの場合は偶然の変異です。

診断と検査

診断を確定するためには、主に以下のステップが踏まれます。

1. 問診と身体診察

頭の大きさ、顔つき、筋肉の緊張度合い、発達の様子などを医師が詳しく診察します。

乳幼児健診などで頭囲の伸びが悪いことや、首すわりが遅いことなどをきっかけに専門機関を紹介されるケースが多くあります。

2. 頭部MRI検査

この病気の診断において、MRI画像は非常に決定的な情報を与えてくれます。

画像検査では以下のような特徴的な所見が確認されます。

小脳の低形成

小脳が通常より小さく見えます。特に特徴的なのは、小脳の左右の半球が広がって平らに見え、まるで蝶々が羽を広げたような形、あるいはトンボのような形に見えることです。

橋の低形成

脳幹の一部である橋が薄く、平坦に見えます。お腹側に膨らんでいるはずの部分が薄くなっています。

大脳皮質の変化

大脳のシワが少なかったり、通常とは異なるパターンを示したりすることがあります。

これらの所見、特に橋と小脳の低形成と小頭症の組み合わせが見られた場合、MICPCHが強く疑われます。

3. 遺伝学的検査

最終的な診断の確定には、血液検査による遺伝子解析が行われます。

CASK遺伝子に変異があるかどうか、あるいはX染色体のCASK遺伝子を含む部分に微細な欠失がないかを調べます。

近年では、マイクロアレイ検査やエクソーム解析といった網羅的な遺伝子検査によって、偶然発見されるケースも増えています。

治療と日々の管理

現在、CASK遺伝子の変異そのものを治す根本的な治療法は確立されていません。遺伝子治療の研究は世界中で進められていますが、実用化にはまだ時間がかかります。

そのため、現在の治療の目的は、それぞれの症状を和らげ、合併症を防ぎ、お子さんの持っている能力を最大限に引き出すことにあります。これを対症療法および療育と呼びます。

療育(リハビリテーション)

早期からの療育は、お子さんの発達を促す上で非常に重要です。

理学療法(PT)

座る、立つ、歩くといった粗大運動の発達を促します。

筋肉の緊張が低い場合には体幹を鍛える運動を、逆に突っ張る場合には筋肉をほぐすストレッチやマッサージを行います。

また、足首の形を守り、安定して立つための装具や、座位を保つための椅子の作成なども理学療法士と相談して進めます。

作業療法(OT)

手を使った遊びや、着替え、食事などの日常生活動作の獲得を目指します。

おもちゃを掴む、持ち替えるといった微細運動の練習や、感覚の受け取り方に偏りがある場合には、感覚統合療法という遊びを取り入れた訓練を行うこともあります。

言語聴覚療法(ST)

言葉の理解や発語を促します。言葉によるコミュニケーションが難しい場合でも、ジェスチャーや絵カード、視線入力装置、タブレット端末などを使った代替コミュニケーション手段の練習も行います。

また、食べる機能に問題がある場合は、安全に食べるための飲み込みの訓練や、食事形態のアドバイスもSTの重要な役割です。

医療的ケアと薬物療法

てんかんの治療

てんかん発作がある場合は、その発作タイプに合わせた抗てんかん薬を服用し、発作のコントロールを目指します。

脳波検査を定期的に行い、薬の種類や量を調整します。発作が止まりにくい難治性の場合もありますが、複数の薬を組み合わせるなどして調整を続けます。

栄養管理

飲み込む力が弱い場合や、誤嚥、つまり食べ物が気管に入ってしまうリスクがある場合は、食事にとろみ剤を使用したり、ペースト状にしたりする工夫をします。

十分な栄養や水分が口から摂れない場合は、鼻からのチューブや、お腹に小さな穴を開ける胃ろうによる経管栄養を検討することもあります。

便秘に対しては、整腸剤や下剤を使用し、浣腸などで排便をコントロールします。

睡眠の管理

睡眠障害がある場合は、朝は日光を浴びて夜は暗くするといった生活リズムを整える工夫に加え、睡眠導入剤などの薬を使用することもあります。良質な睡眠は、脳の発達や日中の活動、そしてご家族の休息にとっても重要です。

整形外科的ケア

側弯、すなわち背骨が曲がることや、関節が硬くなる拘縮が見られる場合は、定期的なレントゲン検査や装具の使用、場合によっては手術などが検討されます。

福祉・社会資源の活用

日本には、難病や障害を持つお子さんとその家族を支援する様々な制度があります。これらを活用することで、経済的な負担を減らし、適切なサービスを受けることができます。

小児慢性特定疾病医療費助成制度

CASK異常症は指定難病や小児慢性特定疾病の対象となる場合があります。認定されると、医療費の自己負担分の一部が助成されます。手続きはお住まいの自治体の保健所などで行います。

身体障害者手帳・療育手帳

障害の程度に応じて手帳を取得することで、様々なメリットがあります。

例えば、車椅子や補聴器などの補装具作成費用の助成、税金の控除、公共交通機関やレジャー施設の割引、特別支援学校への就学相談など、幅広い福祉サービスを受けるためのパスポートとなります。

障害児通所支援

地域の療育センターや民間の児童発達支援事業所、放課後等デイサービスなどで、専門的な療育や集団生活の練習を受けることができます。お住まいの自治体の障害福祉課などで受給者証を取得することで利用できます。

まとめ

ここまでの内容を整理します。

MICPCH症候群は、CASK遺伝子の変異により、脳、特に小脳と橋の発達が未熟になる病気です。

主な症状として、小頭症、重度の知的発達の遅れ、運動機能の障害、てんかんなどが挙げられます。

原因の多くは突然変異によるものであり、親の育て方や妊娠中の出来事が原因ではありません。

診断は、MRIでの特徴的な脳の形と、遺伝子検査によって行われます。

根本的な治療法はまだありませんが、PT、OT、STなどの療育や、てんかんなどの症状に対する治療を行うことで、お子さんの生活の質を高め、成長を促すことができます。

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