眼瞼異常を伴う、または伴わないセーレ・シェーゼン症候群

赤ちゃん

お子様やご自身が「眼瞼異常を伴う、または伴わないセーレ・シェーゼン症候群(Saethre-Chotzen syndrome with or without eyelid anomalies)」という診断を受けたとき、その長く複雑な病名に、戸惑いを感じられたことでしょう。

単に「セーレ・シェーゼン症候群」と呼ばれることもあれば、このように長い名前で説明されることもあります。また、似たような特徴を持つ「ロビノウ・ソラウフ症候群(Robinow-Sorauf syndrome)」という名前を聞いたことがある方もいるかもしれません。

この病名は、この病気が持つ「多様性(人によって症状の出方が全然違うこと)」を非常によく表しています。

ある患者さんには、特徴的なまぶたの下がり(眼瞼下垂)がはっきりと見られます。

しかし、別の患者さん(時には同じ家族の中であっても)には、まぶたの症状が全くなく、頭の形の特徴だけが見られることもあります。

このように症状の幅が広いため、診断されるまでに時間がかかったり、「本当にこの病気なのだろうか?」と不安になったりすることも少なくありません。

しかし、原因となる遺伝子は特定されており、治療や管理の方法もしっかりと確立されています。

概要:どのような病気か

この疾患は、生まれつき頭の骨や顔、手足の形成に特徴が現れる遺伝性の疾患です。

医学的には、「頭蓋骨縫合早期癒合症(ずがいこつほうごうそうきゆごうしょう)」を伴う症候群の一つとして分類されます。

病名の意味を解きほぐす

まず、この長い病名を分解して理解しましょう。

セーレ・シェーゼン症候群

1930年代にこの病気を報告した二人の医師の名前です。頭の形の特徴、顔の非対称、指の特徴などが見られる病気のグループです。

眼瞼異常を伴う(with eyelid anomalies)

この症候群の最も代表的な特徴の一つが、「眼瞼下垂(がんけんかすい)」と呼ばれる、まぶたが下がっている状態です。多くの患者さんに見られます。

または伴わない(or without eyelid anomalies)

ここが重要なポイントです。遺伝子検査の結果、確かに同じ原因(TWIST1遺伝子の変異)を持っているにもかかわらず、まぶたには全く異常がない患者さんも存在します。かつては別の病気と考えられていたこともありましたが、現在は「同じ遺伝子の変化による、症状のバリエーションの一つ」として理解されています。

TWIST1関連疾患という考え方

現在、医学の世界では、これらの症状をまとめて「TWIST1(ツイスト・ワン)関連頭蓋骨縫合早期癒合症」と呼ぶことが増えています。

TWIST1という遺伝子に変化があることで、頭の骨や顔の形成に影響が出るのですが、その影響の出方は「スペクトラム(連続体)」であり、重い人もいれば軽い人もいる、まぶたに症状が出る人もいれば出ない人もいる、ということです。

ロビノウ・ソラウフ症候群との関係

もし医師から「ロビノウ・ソラウフ症候群」という名前を聞いたことがあるなら、それもこのグループに含まれる病気です。

ロビノウ・ソラウフ症候群は、セーレ・シェーゼン症候群と非常によく似ていますが、手足の親指が幅広いことが特徴とされてきました。しかし、遺伝子を調べると同じTWIST1遺伝子の変化であることが分かり、現在では実質的に同じ病気(あるいはその軽症型)として扱われることが多くなっています。

主な症状

この症候群の症状は、患者さん一人ひとりによって程度が驚くほど異なります。

ここでは、代表的な症状と、人によって出たり出なかったりする症状について詳しく解説します。

1. 頭の形の特徴(頭蓋骨縫合早期癒合症)

最も治療の対象となりやすい、この病気の中核となる症状です。

頭蓋骨縫合早期癒合症とは

赤ちゃんの頭の骨は、脳の成長に合わせて広がるように、いくつかのパーツに分かれています。そのつなぎ目を「縫合」と言います。

この病気では、特定の縫合が、脳が成長している途中で早く閉じて(くっついて)しまいます。

冠状縫合の癒合

頭のてっぺんを、耳から耳へと横切る「冠状縫合(かんじょうほうごう)」が早く閉じることが多いです。

両側が閉じると:おでこが平らになり、頭が前後に短く、上に高い形(短頭・塔状頭)になります。

片側だけ閉じると:閉じた側のおでこが平らになり、反対側が出っ張るため、顔や頭が左右非対称(斜頭)になります。

大泉門の異常

頭のてっぺんにある柔らかい部分(大泉門)が、逆に閉じるのが遅かったり、大きかったりすることがあります。

2. 眼とまぶたの症状(眼瞼異常)

病名にもある通り、この症状がある場合とない場合があります。

眼瞼下垂(がんけんかすい)

上まぶたを持ち上げる筋肉の働きが弱く、まぶたが下がって黒目の一部、あるいは瞳孔(瞳の中心)にかかっている状態です。

片側だけの場合もあれば、両側の場合もあります。

重度の場合は、視界が遮られるため、あごを上げて物を見るような仕草をすることがあります。

涙管狭窄(るいかんきょうさく)

涙の通り道(涙管)が狭く、涙目になりやすかったり、目やにが出やすかったりすることがあります。

斜視(しゃし)

左右の視線が合わないことがあります。頭の骨の非対称性による眼窩(目の入る骨のくぼみ)の変形が原因のこともあれば、目の筋肉の問題のこともあります。

3. 顔貌の特徴

お顔立ちにも、いくつかの共通した特徴が見られることがあります。

顔の非対称

片側の縫合癒合がある場合、鼻が曲がっていたり、眉毛の高さが違ったりして、お顔全体が歪んで見えることがあります。これを「顔面側弯」と呼ぶこともあります。

低い前髪の生え際

髪の生え際がおでこの低い位置にあり、M字型のように見えることがあります。

耳の特徴

耳の位置が低いことがあります。

耳の軟骨の形に特徴が出ることがあり、「クルス脚」と呼ばれる耳の中の隆起が目立つことや、耳の輪郭が少し折れ曲がっていることがあります。

鼻中隔弯曲

鼻の真ん中の壁が曲がっていることがあります。

4. 手足の特徴

手足の指にも軽い変化が見られることがあります。

合指症(ごうししょう)

指と指の間の皮膚がつながって、水かきのようになっている状態(軟部合指症)です。

特に人差し指と中指の間(第2・3指間)によく見られます。アペール症候群のように骨までガッチリくっついていることは稀で、皮膚だけの癒合であることが多いです。

親指の特徴

手足の親指が幅広かったり、少し曲がっていたりすることがあります。

5. 脳への影響と発達

脳圧の問題

頭の骨が広がらないことで、脳への圧力(頭蓋内圧)が高くなることがあります。頭痛、嘔吐、イライラなどの原因になります。

発達と知能

ご家族にとって最も心配な点かと思います。

この症候群のお子様の多くは、知能は正常範囲内です。

ただし、軽度の発達の遅れや学習障害が見られることもあります。これらが「脳の圧迫によるもの」なのか、「遺伝子の影響そのもの」なのかは完全には分かっていませんが、早期に頭蓋内圧をコントロールすることで、発達にとって良い環境を作ることができると考えられています。

原因:なぜ起きたのか

ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。

TWIST1遺伝子の変異

この症候群の主な原因は、7番染色体にある「TWIST1(ツイスト・ワン)」という遺伝子の変異(変化)です。

この遺伝子は、赤ちゃんがお腹の中で成長する時に、骨や筋肉、皮膚などの組織が正しく作られるように指令を出す「司令塔(転写因子)」の役割をしています。

司令塔の役割

特に、頭の骨の継ぎ目(縫合)が適切な時期まで開いているように保つ指令や、まぶたの筋肉を作る指令を出しています。

機能の喪失

多くの患者さんでは、このTWIST1遺伝子の一部が欠けていたり(欠失)、文字が変わっていたり(点変異)することで、司令塔としての機能が半分になってしまっています(ハプロ不全)。

指令が弱いため、本来まだ開いていなければならない骨の継ぎ目が早く閉じたり、まぶたを持ち上げる筋肉が十分に育たなかったりするのです。

なぜ「眼瞼異常」がある人とない人がいるのか?

同じTWIST1遺伝子に変異があっても、症状が違う理由は完全には解明されていませんが、いくつかの可能性が考えられています。

変異の場所の違い

遺伝子の中のどの部分が変わったかによって、症状の出やすさが変わる可能性があります。

個人の体質(遺伝的背景)

他の遺伝子の働きによって、TWIST1の機能不足が補われている人と、そうでない人がいる可能性があります。

偶然の要素

発生の過程での偶然のばらつきも影響します。

遺伝の仕組み(常染色体顕性遺伝)

この病気は「顕性遺伝(以前は優性遺伝と呼ばれました)」という形式をとります。

  1. 親からの遺伝
    ご両親のどちらかが同じ病気を持っており、その遺伝子が50%の確率でお子様に受け継がれたケース。
    この症候群は症状が軽い人も多いため、親御さんが「自分は少しおでこが平らなだけだと思っていた」「片方のまぶたが少し重いだけだと思っていた」というケースがあり、お子様が診断されて初めてご自身の体質に気づくこともよくあります。
  2. 突然変異(de novo変異)
    ご両親の遺伝子には全く異常がなく、受精卵ができる過程で偶然TWIST1遺伝子に変化が起きたケース。
    この場合、誰のせいでもありません。自然の確率的な現象です。
医者

診断と検査

診断は、見た目の特徴、画像検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。

特に「眼瞼異常がない」タイプの場合、診断が難しく、遺伝子検査が決定打になることがあります。

1. 身体診察

頭の形、まぶたの下がり具合、耳の形、手足の指などを詳しく観察します。

2. 頭部3D-CT(最も重要な検査)

頭の骨を3次元的に撮影できるCT検査を行います。

骨の状態が手に取るように分かります。冠状縫合などの縫合が閉じてしまっているか、頭蓋骨の内側に脳による圧迫の跡(指圧痕:しあつこん)があるかを確認します。

3. 眼科検査

視力検査だけでなく、眼底検査を行って「うっ血乳頭」がないかを確認します。うっ血乳頭は、脳の圧力が長く高い状態にあるサインです。これがある場合は、手術の必要性が高まります。

4. 遺伝学的検査

血液検査でDNAを調べ、TWIST1遺伝子に変異があるかを確認します。

症状が典型的でない場合(まぶたの異常がない、頭の変形が軽度など)でも、この検査で変異が見つかれば確定診断となります。

また、将来のご家族計画(次の子への遺伝など)を考える上でも重要な情報になります。

治療と管理:これからのロードマップ

遺伝子の変化そのものを治す治療法(根本治療)は、現時点では確立されていません。

しかし、主な症状である「頭蓋骨縫合早期癒合症」や「眼瞼下垂」などに対しては、手術による治療法が確立されています。

適切な時期に治療を行うことで、機能的な問題を解決し、見た目を整えることができます。

1. 頭蓋形成手術(脳外科・形成外科)

最も重要な治療です。目的は2つあります。

脳を守る:閉じてしまった骨を広げて、脳が成長できるスペースを確保し、頭蓋内圧を下げます。

見た目を整える:おでこの形をきれいに整え、顔の左右差を改善します。

時期と方法

一般的には生後6ヶ月〜1歳半頃に行われることが多いです。

骨を一度取り外して組み替える「頭蓋形成術」や、延長器を使って骨を徐々に広げる「骨延長法」などがあります。お子様の状態に合わせて最適な方法が選ばれます。

2. 眼の手術

眼瞼下垂の手術

まぶたが下がっていて見えにくい場合や、視力の発達を妨げる(弱視になる)リスクがある場合は、まぶたを引き上げる手術を行います。

見た目の改善のためにも行われますが、目の閉じにくさ(兎眼)とのバランスを考えて慎重に行います。

涙管の手術

涙目や目やにがひどい場合は、涙管にチューブを通す処置や手術を行うことがあります。

3. 手足の手術

合指症の手術

指の癒合があり、指の動きを制限している場合は、1歳以降に指を分離する手術を行います。軽度で機能に問題がなければ、手術をしないこともあります。

4. 発達・療育サポート

言葉の遅れや体の使い方の不器用さがある場合は、療育(ハビリテーション)を受けます。

言語聴覚療法(ST)や作業療法(OT)などを通じて、お子様の成長をサポートします。

予後と生活について

この症候群の予後は、一般的に良好です。

適切な時期に手術を受けることで、頭の形や顔立ちは改善し、脳の成長環境も守られます。

多くのお子様が、地元の学校に通い、友達を作り、勉強やスポーツを楽しんでいます。

日常生活での制限

基本的には制限はありません。ただし、頭の手術を受けた直後は、転倒などに注意が必要です。

学校生活

知的には正常範囲のお子様が多いですが、もし学習面での苦手さがある場合は、学校と相談してサポートを受けることができます。また、見た目の特徴について、周囲の理解を得ることも大切です。

心理的なサポート

成長するにつれて、自分の顔立ちや手術の傷跡について気にすることがあるかもしれません。ご家族が「その子らしさ」を肯定し、必要に応じてカウンセラーなどのサポートを受けることも大切です。

よくある質問(FAQ)

Q. まぶたの手術はいつすればいいですか?

A. まぶたが黒目を完全に覆っていて、視力の発達を妨げている場合は、早急(乳児期)に手術が必要です。そうでない場合は、ある程度成長して(3歳以降や就学前など)、本人の協力が得られやすくなってから行うこともあります。眼科医や形成外科医と相談して決めます。

Q. 手術の傷跡は目立ちますか?

A. 頭の手術の傷跡は、髪の毛の中に隠れるように切開するため、ほとんど目立ちません。まぶたの手術も、二重のラインに合わせたり眉毛の下を切ったりして、傷跡を目立たなくする工夫がされます。

Q. 次の子に遺伝しますか?

A. お子様が「突然変異」の場合、次のお子様への影響はほとんどありません。

親御さんが同じ遺伝子変異を持っている場合は、50%の確率で遺伝します。ただし、この症候群は症状の幅が広いため、お子様と同じような症状が出るとは限らず、より軽い場合もあれば重い場合もあります。

まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  1. この症候群は、TWIST1遺伝子の変化による頭蓋骨縫合早期癒合症のグループです。
  2. 「眼瞼異常を伴う」場合と「伴わない」場合があり、症状には大きな個人差があります。
  3. ロビノウ・ソラウフ症候群も、現在は同じグループの疾患と考えられています。
  4. 治療の基本は、脳を守り見た目を整えるための外科手術です。
  5. 多くの患者さんは知能が正常で、適切なケアにより社会生活を送ることができます。

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