お子様の頭の形や手足の特徴について、「セーレ・シェーゼン症候群(Saethre-Chotzen Syndrome)」という診断を受けたとき、ご家族は聞き慣れない病名に戸惑い、大きな不安を感じられたことと思います。
「頭の手術が必要なの?」「まぶたが下がっているのは治るの?」「遺伝子の病気ってどういうこと?」
小さな赤ちゃんの頭の骨や遺伝子に関わる問題は、親として受け止めるのに時間がかかるものです。
まず最初にお伝えしたいのは、セーレ・シェーゼン症候群は、頭蓋骨縫合早期癒合症というグループの中では比較的頻度が高く(アペール症候群やクルーゾン症候群と並んで)、治療法が確立されている疾患だということです。
また、この症候群のお子様は、適切な治療を受けることで、多くの場合、通常の学校に通い、社会生活を送ることができます。症状の程度には個人差がありますが、非常に軽度で大人になるまで気づかれない方もいるほどです。
概要:どのような病気か
セーレ・シェーゼン症候群は、生まれつき頭の骨や顔、手足の形成に特徴が現れる遺伝性の疾患です。
1931年にセーレ(Saethre)医師が、1932年にシェーゼン(Chotzen)医師がそれぞれ独立して報告したことから、二人の名前をとって名付けられました。
読み方としては、「セーレ・ショッツェン」「ゼーツレ・チョツェン」と呼ばれることもありますが、同じ病気を指しています。
頭蓋骨縫合早期癒合症とは
この病気を理解するための基本となる知識です。
赤ちゃんの頭の骨は、生まれた時は1つのボールのようになっているわけではありません。脳が急速に大きくなるのに合わせて広がれるように、いくつかの骨のパーツ(前頭骨、頭頂骨など)に分かれています。
この骨と骨のつなぎ目を「縫合(ほうごう)」と呼びます。縫合部分は、生まれたばかりの頃はまだ骨になっておらず、柔らかい組織でつながっています。
通常であれば、脳の成長が落ち着く頃になってから、この縫合が閉じて硬い頭蓋骨になります。
しかし、この病気では、脳がまだぐんぐん成長している途中で、特定の縫合が早く閉じて(骨になってくっついて)しまいます。これを「頭蓋骨縫合早期癒合症(ずがいこつほうごうそうきゆごうしょう)」と呼びます。
骨が広がることができず、頭の形がいびつになったり、脳が窮屈になって圧力がかかってしまったりします。
セーレ・シェーゼン症候群の特徴
この症候群では、主に以下の3つの特徴が見られます。
- 頭蓋骨縫合早期癒合症(特に冠状縫合の癒合)
- 顔貌の特徴(まぶたが下がる、顔の左右非対称など)
- 手足の特徴(指の水かき部分が広いなど)
類似の疾患であるクルーゾン症候群やファイファー症候群と似ていますが、「まぶたの特徴(眼瞼下垂)」や「耳の形の特徴」があることが、この症候群を見分けるポイントになります。
主な症状
セーレ・シェーゼン症候群の症状は、患者さん一人ひとりによって程度が大きく異なります。同じ家族内でも、手術が必要なほど症状がはっきりしている人もいれば、ほとんど症状がない人もいます。
1. 頭の形の特徴
最も治療の対象となりやすい症状です。
冠状縫合の早期癒合
頭のてっぺんを、耳から耳へと横切る「冠状縫合(かんじょうほうごう)」というつなぎ目が早く閉じてしまうことが多いです。
短頭(たんとう)・斜頭(しゃとう)
両側の冠状縫合が閉じると、おでこが前に出られず、頭が前後に短く、横に広い形(短頭)になります。おでこが平らになり、頭のてっぺんが高く伸びることもあります(塔状頭)。
片側だけが閉じると、閉じた側のおでこが平らになり、反対側が出っ張るため、顔や頭が左右非対称(斜頭)になります。
大泉門の遅延閉鎖
頭のてっぺんにある柔らかい部分(大泉門)が、逆に閉じるのが遅かったり、大きかったりすることがあります。
2. 顔貌の特徴
お顔立ちにも、いくつかの共通した特徴が見られます。
顔の非対称
片側の縫合癒合がある場合、鼻が曲がっていたり、眉毛の高さが違ったりして、お顔全体が歪んで見えることがあります。
低い前髪の生え際
髪の生え際がおでこの低い位置にあり、M字型になっていることがあります。
眼瞼下垂(がんけんかすい)
まぶたを持ち上げる筋肉の力が弱く、まぶたが下がって黒目にかかっている状態です。これはセーレ・シェーゼン症候群に非常に特徴的な症状であり、他の症候群との区別に役立ちます。
耳の特徴
耳の軟骨の形に特徴が出ることがあります。特に「対耳輪(耳の内側の出っ張り)」が目立たない、あるいは「クルス脚」と呼ばれる部分が隆起しているといった細かい特徴があります。また、耳の位置が低いこともあります。
鼻中隔弯曲(びちゅうかくわんきょく)
鼻の真ん中の壁が曲がっていることがあります。
3. 手足の特徴
手足の指にも軽い変化が見られることがあります。
合指症(ごうししょう)
指と指の間の皮膚がつながって、水かきのようになっている状態です(軟部合指症)。
特に人差し指と中指の間(第2・3指間)によく見られます。アペール症候群のように骨までガッチリくっついていることは稀で、皮膚だけの癒合であることが多いです。
親指の特徴
親指の幅が広かったり、少し曲がっていたりすることがあります。
4. 脳への影響(頭蓋内圧亢進)
頭の骨が広がらないことで、成長しようとする脳が圧迫され、頭の中の圧力(頭蓋内圧)が高くなることがあります。
頭痛や嘔吐、不機嫌などの原因になります。長期間放置すると、視神経への影響や発達への影響が出る可能性があるため、定期的なチェックが必要です。
5. 発達と知能について
ご家族にとって最も心配な点かと思います。
セーレ・シェーゼン症候群のお子様の多くは、知能は正常範囲内です。
ただし、軽度の発達の遅れや学習障害が見られることもあります。これらが「脳の圧迫によるもの」なのか、「遺伝子の影響そのもの」なのかは完全には分かっていませんが、早期に頭蓋内圧をコントロールすることで、発達にとって良い環境を作ることができると考えられています。
原因:なぜ起きたのか
ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。
寝かせ方が悪かったから頭が変形したわけではありません。
TWIST1遺伝子の変異
セーレ・シェーゼン症候群の原因は、7番染色体にある「TWIST1(ツイスト・ワン)」という遺伝子の変異(変化)です。
この遺伝子は、赤ちゃんがお腹の中で成長する時に、骨や筋肉などの組織が正しく作られるように指令を出す「司令塔」のような役割をしています。
特に、頭の骨の継ぎ目(縫合)が適切な時期まで開いているように保つ指令を出しています。
この遺伝子に変化が起きる(一部が欠けたり、文字が変わったりする)と、指令がうまく伝わらず、本来まだ開いていなければならない骨の継ぎ目が、早く閉じてしまうのです。
遺伝の仕組み(常染色体顕性遺伝)
この病気は「顕性遺伝(以前は優性遺伝と呼ばれました)」という形式をとります。
- 親からの遺伝
ご両親のどちらかが同じ病気を持っており、その遺伝子が50%の確率でお子様に受け継がれたケース。
セーレ・シェーゼン症候群は症状の個人差が大きいため、親御さんの症状が非常に軽く(少しおでこが平ら、まぶたが少し重い程度)、お子様が診断されて初めて「実は親もそうだった」と判明することがよくあります。 - 突然変異(de novo変異)
ご両親の遺伝子には全く異常がなく、受精卵ができる過程で偶然TWIST1遺伝子に変化が起きたケース。
この場合、誰のせいでもありません。自然の確率的な現象です。
診断と検査
診断は、見た目の特徴、画像検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
1. 身体診察
医師が頭の形、まぶたの下がり具合、耳の形、手足の指などを詳しく観察します。特に眼瞼下垂や耳の特徴は、診断の手がかりになります。
2. 頭部3D-CT(最も重要な検査)
頭の骨を3次元的に撮影できるCT検査を行います。
骨の状態が手に取るように分かります。冠状縫合などの縫合が閉じてしまっているか、頭蓋骨の内側に脳による圧迫の跡(指圧痕:しあつこん)があるかを確認します。
手術の計画を立てるためにも必須の検査です。
3. 頭部MRI
脳の形や構造に異常がないかを確認します。また、水頭症(脳室拡大)の有無などをチェックします。
4. 眼科検査
視力検査だけでなく、眼底検査を行って「うっ血乳頭」がないかを確認します。うっ血乳頭は、脳の圧力が長く高い状態にあるサインです。これがある場合は、手術の必要性が高まります。
5. 遺伝学的検査
血液検査でDNAを調べ、TWIST1遺伝子に変異があるかを確認します。
これにより、クルーゾン症候群(FGFR2遺伝子)やミュンケ症候群(FGFR3遺伝子)など、症状が似ている他の病気と区別することができます。

治療と管理:手術について
セーレ・シェーゼン症候群に対する治療の柱は、外科手術です。
ただし、すべてのお子様に手術が必要なわけではありません。脳への圧迫がなく、見た目の変形も軽度であれば、経過観察となることもあります。
1. 頭蓋形成手術
目的
- 脳を守る:閉じてしまった骨を広げて、脳が成長できるスペース(容積)を確保し、頭蓋内圧を下げます。
- 見た目を整える:おでこの形をきれいに整え、顔の左右差を改善します。
時期
一般的には生後6ヶ月〜1歳半頃に行われることが多いです。骨が柔らかく、脳が急速に成長する時期に行うことで高い効果が得られます。
方法
大きく分けて2つの方法があります。どちらを選ぶかは、お子様の年齢や変形の程度、病院の方針によって決まります。
- 頭蓋形成術(一期的手術)
頭皮を切開し、おでこの骨を一度取り外します。骨に切り込みを入れたり組み替えたりして形を整え、プレートなどで固定して戻します。一度の手術で形が完成します。 - 骨延長法(こつえんちょうほう)
骨に切れ目を入れ、特殊な延長器(ディストラクター)を取り付けます。手術後、毎日少しずつネジを回して骨の間を広げていきます。皮膚にゆとりがない場合などに有効ですが、延長器を抜くための小手術が後日必要になります。
2. 顔面・眼の手術
眼瞼下垂の手術
まぶたが下がっていて見えにくい場合や、視力の発達を妨げる(弱視になる)リスクがある場合は、まぶたを引き上げる手術を行います。見た目の改善のためにも行われます。
中顔面の手術
稀ですが、顔の中央部(上あご周辺)の発達が悪く、噛み合わせや呼吸に問題がある場合は、成長してから骨を前に出す手術(ルフォー骨切り術など)を行うことがあります。
3. 手足の手術
合指症の手術
指の癒合があり、指の動きを制限している場合は、1歳以降に指を分離する手術を行います。軽度であれば手術をしないこともあります。
4. 発達・療育サポート
言葉の遅れや体の使い方の不器用さがある場合は、療育(ハビリテーション)を受けます。
言語聴覚療法(ST)や作業療法(OT)などを通じて、お子様の成長をサポートします。
5. 定期的な経過観察
手術が終わった後も、成長終了(成人)まで定期的な通院が必要です。
脳圧の再上昇がないか、噛み合わせに問題が出ていないか、視力や聴力に変化がないかなどを、年1回程度チェックします。
予後と生活について
セーレ・シェーゼン症候群の予後は、一般的に良好です。
適切な時期に手術を受けることで、頭の形や顔立ちは改善し、脳の成長環境も守られます。
多くのお子様が、地元の学校に通い、友達を作り、勉強やスポーツを楽しんでいます。
日常生活での制限
基本的には制限はありません。ただし、頭の手術を受けた直後は、転倒などに注意が必要です。
水泳や体育の授業なども、医師の許可があれば問題なく参加できます。
眼鏡の使用
乱視や斜視がある場合、眼鏡を使用することがあります。
心理的なサポート
成長するにつれて、自分の顔立ちや手術の傷跡について気にすることがあるかもしれません。ご家族が「その子らしさ」を肯定し、必要に応じてカウンセラーなどのサポートを受けることも大切です。
よくある質問(FAQ)
Q. 知能への影響はありますか?
A. セーレ・シェーゼン症候群の多くの方は、知能は正常範囲です。ただし、学習障害や軽度の発達遅滞を伴う場合もあります。個々の特性に合わせた教育的サポートがあれば、社会的な自立は十分に可能です。
Q. 手術の傷跡は目立ちますか?
A. 頭の手術の傷跡は、通常、左右の耳を結ぶように頭のてっぺんを通る線になります(冠状切開)。髪の毛の中に隠れるように切開するため、髪が生え揃えばほとんど目立たなくなります。男の子で短髪にする場合でも、傷跡は白い線状に残る程度です。
Q. 次の子に遺伝しますか?
A. お子様が「突然変異」で発症した場合、ご両親に遺伝子変異はないため、次のお子様への影響はほとんどありません。
親御さんのどちらかが同じ遺伝子変異を持っている場合は、50%の確率で遺伝します。詳しくは臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。
まとめ
ここまでの重要ポイントを振り返ります。
- セーレ・シェーゼン症候群は、TWIST1遺伝子の変化による頭蓋骨縫合早期癒合症です。
- 主な特徴は、頭の形(短頭・斜頭)、まぶたの下がり(眼瞼下垂)、指の特徴などです。
- 多くの患者さんは知能が正常で、社会生活を送ることができます。
- 治療の基本は、脳を守り見た目を整えるための外科手術です。
- 予後は比較的良好で、手術によりQOL(生活の質)の向上が期待できます。
