ソトス症候群 1

医者

お子様が「ソトス症候群(Sotos syndrome)」、あるいは「ソトス症候群 1」という診断を受けたとき、聞き慣れない病名に戸惑い、インターネットで検索しては不安を募らせているかもしれません。

かつては「脳性巨人症」という少し驚くような名前で呼ばれていたこともありますが、現在はこの名称はあまり使われず、発見者であるフアン・ソトス博士の名前にちなんでソトス症候群と呼ばれています。

この病気は、生まれた時から体が大きかったり、成長のスピードがとても速かったりすることが最大の特徴です。しかし、成長するにつれてそのスピードは落ち着き、多くのお子様がそれぞれのペースで発達し、社会生活を送っています。

明るく人懐っこい性格のお子様が多いことでも知られています。

概要:どのような病気か

ソトス症候群は、生まれつきの遺伝子の変化によって引き起こされる先天性の疾患です。

主な特徴は、以下の3つが挙げられます(これを三徴候と呼びます)。

  1. 身体の過成長(身長や頭囲が大きい)
  2. 特徴的なお顔立ち
  3. 知的発達の遅れ

日本での頻度は、約1万〜2万人に1人と言われており、遺伝性疾患の中では比較的頻度の高いものの一つです。国の指定難病(難病番号194)および、小児慢性特定疾病に指定されており、医療費の助成などのサポートを受けることができる疾患です。

なぜ「1」がつくのか

ソトス症候群には、原因となる遺伝子の違いによっていくつかのタイプが考えられていますが、典型的なソトス症候群のほとんど(90%以上)は「NSD1」という遺伝子の変化によるもので、これを「ソトス症候群 1」と分類します。

他にも似た症状を示す別の遺伝子変異(NFIX遺伝子など)が見つかっており、それらと区別するために番号がついていますが、一般的に「ソトス症候群」と言えば、この「1型」を指すことがほとんどです。

主な症状

ソトス症候群の症状は多岐にわたりますが、すべてのお子様にすべての症状が出るわけではありません。ここでは代表的な症状について解説します。

1. 身体の過成長(大きくなること)

最も特徴的な症状です。

出生時からの大きさ

生まれた時の身長や体重、そして頭囲(頭の大きさ)が、平均よりも大きい傾向があります。

乳幼児期の急速な成長

特に生後1歳〜4歳くらいまでの間、身長と頭囲がぐんぐん伸びます。母子手帳の成長曲線の枠を飛び出してしまうことも珍しくありません。

骨年齢の促進

手のレントゲンを撮ると、実際の年齢よりも骨の成熟が進んでいる(骨年齢が実年齢より高い)ことがよく見られます。

成長の落ち着き

思春期頃までは背が高いことが多いですが、その後は成長のスピードが緩やかになり、最終的な大人の身長は平均よりやや高い程度か、平均の範囲内に収まることが多いです。「巨人症」という昔の名前から、際限なく大きくなり続けるようなイメージを持たれることがありますが、そうではありません。

2. 特徴的なお顔立ち

ソトス症候群のお子様には、共通した愛らしいお顔立ちが見られます。成長とともに特徴がはっきりしてくることが多いです。

おでこ

広く、前に出ている(突出している)おでこが特徴です。また、髪の生え際が後退しているように見えることがあります。

目尻が少し下がっている(タレ目気味)傾向があり、目の間隔が離れている(眼間開離)ことがあります。

あご

あご先が尖っていて、前に出ていることがあります。顔全体の形としては、逆三角形に近い面長な印象になります。

頬と顔色

頬が赤ら顔であることが多く、とても健康的に見えることがあります。

3. 発達と神経系の特徴

ご家族が育児の中で気づきやすいポイントです。

筋緊張低下(ハイポトニア)

赤ちゃんの頃、体が柔らかく、抱っこした時にふにゃっとしている(フロッピーインファント)ことがあります。筋肉の張りが弱いため、首のすわり、お座り、歩行などの運動発達がゆっくりになります。

運動の不器用さ

体が急速に大きくなることに神経の発達が追いつかず、体の使い方が少し不器用になることがあります。よく転んだり、手先の細かい作業が苦手だったりすることがあります。

言葉の遅れ

言葉が出始めるのが遅い傾向があります。しかし、こちらの言っていることは理解している(受信する力は育っている)ことが多いです。

知的障害

軽度から重度まで個人差が大きいですが、多くのお子様に知的発達の遅れが見られます。

てんかん・熱性けいれん

乳幼児期に、熱が出た時のけいれん(熱性けいれん)を起こしやすい傾向があります。また、熱がなくてもてんかん発作を起こすことがあり、脳波検査や投薬が必要になることがあります。

4. その他の合併症

内臓や骨格にも特徴が出ることがあります。

脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)

背骨が左右に曲がってしまうことがあります。定期的なチェックが必要です。

心臓や腎臓の異常

生まれつき心臓に穴が開いている(心室中隔欠損症など)ことや、腎臓の形や位置の異常が見られることがあります。多くは経過観察で済みますが、手術が必要になることもあります。

黄疸・哺乳不良

新生児期に黄疸が強く出たり、おっぱいを吸う力が弱かったりすることがあります。

中耳炎・難聴

耳の構造や免疫の関係で、中耳炎を繰り返しやすいことがあります。

原因:なぜ起きたのか

ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。

NSD1遺伝子の機能不全

ソトス症候群1の主な原因は、5番染色体(5q35)という場所にある「NSD1」という遺伝子の働きが不足することです。

遺伝子は体の設計図ですが、NSD1遺伝子は「他の遺伝子のスイッチを入れたり切ったりする調整役(ヒストンメチル化酵素)」の役割を担っています。

この調整役がうまく働かないため、体の成長のブレーキが効きにくくなったり、脳の発達に必要なスイッチが入るタイミングがずれたりして、ソトス症候群の症状が現れます。

突然変異(de novo変異)

ソトス症候群の患者さんの約95%以上は、「de novo(デ・ノボ)」と呼ばれる突然変異で発症します。

これは、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精後の細胞分裂の非常に早い段階で、偶然NSD1遺伝子に変化が起きたものです。

ご両親の遺伝子には全く異常がないケースがほとんどです。つまり、誰にでも起こりうる、自然の確率的な現象であり、防ぐことは現代の医学では不可能です。

極めて稀に、ご両親のどちらかがソトス症候群であり、お子様に遺伝するケースもありますが、基本的には「遺伝(家系)の病気」ではありません。

医療

診断と検査

診断は、身体の特徴や発達の様子から総合的に判断されますが、最終的には遺伝学的検査で確定することが一般的です。

1. 臨床診断

医師は、以下のような「三徴候」があるかどうかを診察します。

過成長(身長・頭囲が大きい)

特徴的な顔貌

発達の遅れ

これらが揃っている場合、ソトス症候群が強く疑われます。

2. 遺伝学的検査(確定診断)

診断を確実にするために、血液検査でDNAを調べます。

FISH法(フィッシュ法)

日本人のソトス症候群患者さんでは、NSD1遺伝子を含む染色体の一部がごっそり抜けている(欠失している)タイプが多いです。FISH法は、この欠失を目に見える形で確認する検査で、比較的早く結果が出ます。

マイクロアレイ染色体検査

より細かく染色体の量を調べる検査です。

遺伝子シーケンス解析

染色体の欠失ではなく、遺伝子の中の「文字」が書き換わっている(点変異)タイプを見つける検査です。FISH法で異常がなかった場合に行われます。

3. 画像検査

合併症のチェックのために行われます。

手のレントゲン:骨年齢を確認します。

頭部MRI/CT:脳室拡大(脳の中の水のスペースが広い)などの特徴がないか確認します。

心臓・腹部エコー:心臓や腎臓の形を確認します。

治療と管理:これからのロードマップ

NSD1遺伝子の変化そのものを治す治療法(根本治療)は、現代の医療ではまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対する適切な医療的介入(対症療法)と療育(ハビリテーション)を行うことで、お子様の能力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることができます。

1. 定期的な健康管理

合併症を早期に発見し、対応することが大切です。

心臓・腎臓:診断時にエコー検査で確認し、問題があれば専門医がフォローします。

側弯症:整形外科で背骨の曲がりがないか定期的にチェックします。

てんかん:発作が疑われる場合は脳波検査を行い、必要なら抗てんかん薬を服用します。

歯科検診:歯並びの問題や虫歯になりやすいことがあるため、定期的なケアが必要です。

2. 早期療育(ハビリテーション)

脳や体の発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。

理学療法(PT)

筋緊張低下に対して、体幹を鍛えたり、正しい姿勢や歩き方を練習したりします。体が大きくなるスピードに筋肉の発達が追いつくようサポートします。

作業療法(OT)

手先の不器用さを改善し、お箸や鉛筆を持つ、着替えるといった日常生活動作を練習します。

言語聴覚療法(ST)

言葉の遅れに対して、発語の練習や、コミュニケーションの取り方を学びます。口の筋肉の使い方も練習します。

3. 教育と学校生活

就学に際しては、お子様の知的な発達段階や行動特性に合わせて、最適な環境を選びます。

地域の小学校の通常学級に通うお子様もいれば、特別支援学級や特別支援学校で手厚いサポートを受けるお子様もいます。

ソトス症候群のお子様は、身体が大きいので年上に見られがちですが、中身は年齢相応か幼いことがあります。そのギャップによって周囲から誤解されないよう、学校の先生やお友達に特性を理解してもらうことが大切です。

4. 心理・行動面のサポート

明るく人懐っこい性格の一方で、衝動的であったり、かんしゃくを起こしやすかったりすることがあります。

見通しを持たせる、視覚的に伝えるなどの環境調整を行ったり、必要に応じて心理士や医師に相談したりして、お子様が落ち着いて過ごせる工夫をします。

まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  1. ソトス症候群1は、NSD1遺伝子の変化による先天性疾患です。
  2. 主な特徴は、身体の過成長(大きさ)、特徴的なお顔立ち、発達の遅れです。
  3. 原因の多くは突然変異であり、ご両親のせいではありません。
  4. 乳幼児期は体が急速に大きくなりますが、最終的な身長は平均範囲内に落ち着くことが多いです。
  5. 心臓や腎臓、側弯症などの合併症チェックが大切です。
  6. 早期からの療育によって、運動や言葉の発達を促すことができます。

関連記事

  1. 赤ちゃん