この記事のまとめ
シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群(SGS)は、体の土台となる結合組織にかかわる希少な疾患で、頭蓋骨縫合早期癒合症・マルファン様体型・知的障害という3つの特徴が組み合わさって現れます。1982年にシュプリンツェン(Shprintzen)とゴールドバーグ(Goldberg)が報告した病気で、細胞のTGF-β(ティージーエフ・ベータ)という信号の伝達にかかわる遺伝子(主にSKI遺伝子)の変化で起こります。マルファン症候群やロイス・ディーツ症候群と近い仲間の病気です。この記事では、概要と3つの主な特徴、心臓血管の合併症、似た名前の病気との違い、診断と出生前検査での位置づけ、そしてこれからの管理までを、当事者やご家族の目線でやさしく整理しました。
この記事でわかること
お子様が「シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群」、略して「SGS」という診断を受けたとき、長く複雑な病名に戸惑いを感じられたことでしょう。「マルファン症候群と何が違うの」「心臓の血管が太くなるってどういうこと」。そんな疑問が次々にわいてくるものです。
この病気は非常に希少で、検索しても難しい専門用語ばかりが並び、生活のイメージがつかみにくいのが実情です。私も日々の相談のなかで、情報が少なくて不安になったという声をよく耳にします。この記事では、既存の医学的な事実をふまえながら、できるだけやさしい言葉でお伝えします。
シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群(SGS)とは
シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群(SGS)とは、生まれつきの遺伝子の変化によって全身の結合組織に特徴が現れる、希少な疾患(指定難病相当)です。1982年にシュプリンツェンとゴールドバーグが報告しました。まずは、その成り立ちから見ていきます。
結合組織の病気とは
私たちの体は、細胞と細胞のあいだを埋める物質や、骨、軟骨、腱、血管の壁などで形づくられています。これらをまとめて結合組織と呼びます。建物でいえば、鉄筋やコンクリートのような役割。体の土台そのものです。
SGSでは、この結合組織の調節にかかわるしくみにトラブルがあります。そのため、骨が伸びすぎたり、血管の壁が弱くなったり、皮膚が薄くなったりといった特徴が、全身に少しずつ現れてきます。
原因となる遺伝子が特定されたことで、何に気をつければよいか、どのような管理が必要かが見えてきました。とくに心臓と血管の管理を続けることで、重い事態を避けながら、穏やかな生活を送っていけます。
SGSの3つの主な特徴(3主徴)
SGSは、頭蓋骨縫合早期癒合症・マルファン様体型・知的障害という3つの特徴が組み合わさって現れる病気です。この3つの柱を知っておくと、複雑に見える症状の全体像がつかみやすくなります。まずは図で確認します。
頭蓋骨縫合早期癒合症
赤ちゃんの頭の骨は、脳の成長に合わせて広がるよう、いくつかのパーツに分かれています。そのつなぎ目(縫合)が、脳の成長の途中で早く閉じてしまう状態が頭蓋骨縫合早期癒合症(ずがいこつほうごうそうきゆごうしょう)です。SGSでは、おでこが縦に長く伸びるなど、頭の形や顔立ちに特徴が出ます。
マルファン様体型
骨の成長にかかわる信号が強く働くため、骨が過剰に伸びる傾向があります。背が高く、腕や足がひょろりと長く、指がクモの足のように細長い。こうしたマルファン症候群に似た骨格を、マルファン様体型と呼びます。背骨が左右に曲がる側弯(そくわん)を伴うこともあります。
知的障害・発達の遅れ
軽度から中等度の知的障害や、運動や言葉の発達がゆっくりになる傾向が見られます。この発達の特徴こそ、よく似たマルファン症候群との大きな違いです。一方で、多くのお子さんは人懐っこく、周囲と豊かにコミュニケーションを取っています。この点は、日々の相談のなかで私がいつも感じるところです。
全身に現れる主な症状
SGSの症状は頭から足の先まで全身に現れ、なかでも心臓血管の合併症がもっとも注意を要します。程度には個人差がありますが、代表的なものを部位ごとに整理します。
顔と頭の特徴
ご家族が最初に気づく特徴かもしれません。左右の目が離れている(眼間開離)、目が少し前に出ている(眼球突出)、口の中の天井が高い、あごが小さい、耳の位置が低い、といった顔立ちの特徴があります。次の表に、部位ごとの代表的な特徴をまとめました。
| 部位 | 代表的な特徴 |
|---|---|
| 顔・頭 | 眼間開離、眼球突出、高口蓋または口蓋裂、小顎、耳の位置が低い |
| 骨格 | クモ状指、四肢長大、側弯、漏斗胸・鳩胸、関節のやわらかさや拘縮 |
| 皮膚 | 皮膚が薄く血管が透けやすい、傷が治りにくい |
| おなか | 臍ヘルニア(おへそ)、鼠径ヘルニア(足の付け根)を合併しやすい |
| 眼 | 近視や乱視が多い(水晶体のずれはまれ) |
心臓血管の症状(最も注意したい合併症)
結合組織が弱いと、血管の壁が圧力に耐えきれず伸びてしまうことがあります。心臓から全身へ血液を送る太い血管(大動脈)の根元がふくらむ状態を、大動脈基部拡張(だいどうみゃくきぶかくちょう)と呼びます。進むと血管がこぶ状になる大動脈瘤や、壁が裂ける大動脈解離につながるおそれがあります。
SGSでは、マルファン症候群やロイス・ディーツ症候群と比べると、進行はやや緩やかな傾向があるとされています。だからといって安心はできません。大動脈の太さをミリ単位で追う定期的な心エコー(心臓超音波)が欠かせません。心臓の弁の閉まりが悪くなる僧帽弁逸脱を伴うこともあります。

神経・発達とそのほかの症状
赤ちゃんの頃は体がやわらかく、筋肉の張りが弱い筋緊張低下が見られることがあります。首のすわりや歩行、言葉の発達はゆっくり進む傾向。皮膚が薄い、ヘルニアが出やすいといった特徴もあわせて現れます。発達や知的障害の面が気になる方は、妊娠と知的障害のリスクの解説もあわせてご覧ください。
なぜ起こるのか(SKI遺伝子とTGF-βシグナル)
SGSの主な原因は、TGF-βシグナルの伝達にかかわる遺伝子(主にSKI遺伝子)の変化で、その多くは偶然起こる突然変異です。ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではありません。ここは、私がとくに強くお伝えしたい点です。
SKI(スキー)遺伝子は、細胞のなかのTGF-β(ティージーエフ・ベータ)シグナルという情報の通り道を調節しています。TGF-βシグナルは、骨の成長や血管の形成に指令を出すしくみ。SKIタンパク質は、その信号が強くなりすぎないよう抑える「ブレーキ」の役目を担っています。
SKI遺伝子に変化があると、このブレーキが効きにくくなります。その結果、TGF-βの信号が過剰に伝わり続け、骨が伸びすぎたり、血管の壁が変化したりするのです。原因のしくみがわかったことは、管理の見通しを立てるうえでの大きな手がかりになります。
SGSは常染色体顕性遺伝(顕性遺伝)という形式をとりますが、患者さんの多くは「デ・ノボ」と呼ばれる突然変異で発症します。精子や卵子ができる過程、あるいは受精後ごく早い時期に、偶然SKI遺伝子に変化が起きたもの。ご両親の遺伝子に異常がないケースがほとんどで、誰にでも起こりうる自然の確率的な現象です。ごく稀に、症状の軽い親御さんから受け継がれることもあります。
似ている病気との違い
SGSはマルファン症候群やロイス・ディーツ症候群と近い仲間ですが、知的障害と頭蓋骨縫合早期癒合症の頻度が高い点が独自の特徴です。また、名前のよく似た「シュプリンツェン症候群」とはまったく別の病気。混同しやすいので、ここで整理します。
マルファン症候群・ロイス・ディーツ症候群との関係
SGS、マルファン症候群、ロイス・ディーツ症候群は、いずれもTGF-βシグナルにかかわる遺伝子の変化で起こる、兄弟のような関係の病気です。血管が太くなりやすい点は共通しています。ただしSGSには、知的障害と頭蓋骨縫合早期癒合症の頻度が高いという独自性。ここが見分けの手がかりになります。
名前の似た「シュプリンツェン症候群」とは別の病気
混同しやすいのが、22q11.2欠失症候群(別名シュプリンツェン症候群、口蓋心臓顔面症候群)です。名前は似ていますが、原因も特徴も異なるまったく別の病気です。情報を集めるときは、どちらの病気の話なのかを必ず確かめてください。頭蓋骨の縫合の病気について幅広く知りたい方は、頭蓋骨縫合早期癒合症(セートレ・チョッツェン症候群)の解説も参考になります。
診断と、出生前検査での位置づけ
SGSの診断は、特徴的な症状の組み合わせと、SKI遺伝子を調べる専門的な遺伝学的検査によって行われます。単一の遺伝子による疾患のため、染色体の数を調べる一般的なNIPTでは分かりません。まず診断の流れから見ていきます。
臨床診断と遺伝学的検査
医師はまず、頭の形や顔立ち、クモ状指や側弯といった骨格、心臓の血管の状態、発達の様子を詳しく診察します。ただしマルファン症候群やロイス・ディーツ症候群との見分けは、専門医でも難しいことがあります。そこで血液から遺伝情報(DNA)を調べ、SKI遺伝子の変化を確認して確定します。とくにロイス・ディーツ症候群とは血管管理の考え方が異なる場合があるため、正確な診断が管理の質を左右します。
あわせて、合併症を確かめる画像検査も行われます。心臓超音波・CT・MRIで大動脈や弁を、頭部のCT・MRIで頭蓋骨の縫合や脳の構造を、レントゲンで背骨や首の骨の状態を確認します。これらは定期検査の出発点にもなります。指定難病や療育について公的な情報を確かめたい方は、難病情報センターや国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センターもご覧ください。
一般的なNIPTとの関係
ここで多くの方が気になるのが、出生前検査でSGSが分かるのかという点です。SGSは単一の遺伝子による疾患のため、21・18・13トリソミーなどを対象とする一般的なNIPT(新型出生前診断)では調べられません。NIPTはあくまで対象の染色体を調べる非確定的な検査で、確定診断には羊水検査や絨毛検査が必要になります。
NIPTで分かること・分からないことの範囲は、事前に理解しておくと安心につながります。検査結果の見方はNIPTの検査結果の見方、対象になる疾患はダウン症候群と妊娠中のリスク検査でくわしく紹介しています。知的障害や発達の面をNIPTでどこまで見られるのかは、NIPTと知的障害・発達障害の限界もあわせて確認してください。専門機関の情報は日本医学会 出生前検査認証制度等運営委員会で確かめられます。
検査とどう向き合うか
検査を受けるかどうかは、正解が一つに決まるものではありません。私が相談を受けるなかでも、それぞれのご夫婦が、時間をかけて自分たちの答えを選んでいく姿にいつも励まされます。Xでも@kiimama45さんが、初期の胎児ドックでNT(首のうしろのむくみ)の厚さがやや気になり、一度相談して決めましょうということでNIPTのカウンセリングを予約した、と体験を綴っていました。気になる所見をきっかけに、専門家と話す一歩を踏み出す。自然な流れだと感じます。
もちろん、検査そのものを選ばないという判断もあります。@tmgchan53さんは、NIPTを受けた方・受けなかった方それぞれの思いを聞いたうえで、夫婦で予定を合わせにくい事情もあり、初期の胎児ドックを受けることにしたと綴っていました。どちらの選び方にも、その人なりの理由があります。迷ったときは、費用や検査の中身を落ち着いて比べてみてください。出生前検査の費用の記事が判断の助けになります。
治療と管理・これからの生活
SGSの遺伝子そのものを治す薬は今のところありませんが、症状に応じた管理と対症療法で、重い合併症を防ぎ生活の質を保てます。「治療法がない」は「何もできない」ではありません。柱ごとに見ていきます。
心臓血管の管理
もっとも大切なのが、大動脈の管理です。半年から1年に1回は心臓エコーやCT・MRIで、大動脈の太さをミリ単位で計測します。血管への負担を抑えるため血圧を上げないよう気をつけ、ロサルタンに代表される降圧薬(血圧を下げる薬)を予防的に使うことが多いです。これらの薬はTGF-βの信号を抑える働きも期待されています。大動脈が一定以上に太くなったり拡大が速いときは、人工血管に置き換える手術を検討します。
整形外科・脳神経外科的な管理
頭の形や脳の圧に問題があるときは、頭蓋骨を広げて整える頭蓋形成術を行います。背骨の曲がりが進むなら、コルセットや手術で矯正します。首の骨(第1・第2頸椎)がぐらつくことがあるため、レントゲンで確認し、必要に応じて運動を制限したり固定したりします。次の表に、主な管理の柱を整理しました。
| 管理の柱 | 主な内容 |
|---|---|
| 心臓血管 | 定期的な心エコー・CT・MRI、血圧コントロール、必要時は手術 |
| 整形・脳神経外科 | 頭蓋形成術、側弯への装具や手術、頸椎の安定性の確認 |
| 発達・療育 | 理学療法・作業療法・言語聴覚療法、個別の学習支援 |
| 日常生活 | 激しい接触運動やいきむ運動は避け、有酸素運動は主治医と相談 |
発達・療育のサポートと日常の工夫
発達の遅れには、早くから始める療育がとても役立ちます。体の使い方を育てる理学療法、手先の動きや生活動作を練習する作業療法、言葉やコミュニケーションを支える言語聴覚療法。口蓋裂があれば発音の練習も加わります。教育面では、発達の程度に合わせて特別支援学校や支援学級を選び、個別の学習支援を受けていきます。
日常では、大動脈や首の骨への負担を避けるため、ラグビーや柔道のような激しい接触プレー、重量挙げのように強くいきむ運動は控えてください。ウォーキングや軽い水泳などの有酸素運動は、主治医と相談のうえで取り入れられます。おなかに力がかかるとヘルニアが出やすいので、便秘を防ぐなど腹圧の管理も心がけてください。
予後とこれからの生活
SGSの見通しは、主に大動脈瘤など心臓血管の状態に左右されます。早めに診断を受け、定期検査と血圧管理を続け、必要なタイミングで手術を受ければ、生命の予後は大きく改善します。知的障害はあっても、多くの方は明るく社交的で、周囲とよい関係を築いています。作業所で働いたり、グループホームで暮らしたり。それぞれの形で社会に参加している方がたくさんいます。
よくある質問
シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群について、ご家族からよく寄せられる疑問をまとめました。参考にしてください。
Q. シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群(SGS)とはどんな病気ですか?
全身の結合組織にかかわる希少な疾患で、1982年にシュプリンツェンとゴールドバーグが報告しました。頭蓋骨縫合早期癒合症・マルファン様体型・知的障害という3つの特徴が組み合わさって現れます。主にSKI遺伝子の変化で起こり、TGF-βシグナルの調節がうまくいかなくなることが背景にあります。
Q. マルファン症候群とはどう違いますか?
どちらもTGF-βシグナルにかかわる仲間の病気で、体つきはよく似ています。大きな違いは、SGSでは知的障害や発達の遅れ、頭蓋骨縫合早期癒合症の頻度が高い点です。見分けが難しいこともあるため、SKI遺伝子を調べる遺伝学的検査で確定します。
Q. 名前の似た「シュプリンツェン症候群」と同じですか?
いいえ、別の病気です。22q11.2欠失症候群(シュプリンツェン症候群、口蓋心臓顔面症候群)は名前が似ているだけで、原因も特徴も異なります。情報を調べるときは、どちらの病気の話なのかを必ず確認してください。
Q. 一般的なNIPTでSGSは分かりますか?
分かりません。SGSは単一の遺伝子による疾患のため、21・18・13トリソミーなどを対象とする一般的なNIPTの対象外です。NIPTは対象の染色体を調べる非確定的な検査で、確定診断には羊水検査や絨毛検査が必要です。SGSの診断は臨床所見と専門的な遺伝学的検査によります。
Q. 発症は親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ですか?
いいえ、原因ではありません。SGSの多くは、精子や卵子ができる過程などで偶然起こる「デ・ノボ」の突然変異で発症します。ご両親の遺伝子に異常がないケースがほとんどで、誰にでも起こりうる自然の現象です。ご自身を責める必要はありません。
Q. 生活のなかでいちばん気をつけることは何ですか?
大動脈の状態を定期的に確認することです。半年から1年に1回の心エコーやCT・MRIで太さを追い、血圧を上げないよう管理します。激しい接触運動や強くいきむ運動は避け、運動の内容は主治医と相談してください。早めの管理を続けることで、穏やかな生活につながります。
著者・監修
監修:岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本小児科学会 小児科専門医/日本小児科学会認定 出生前コンサルト小児科医/小児科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本小児科学会 小児科専門医/日本アレルギー学会 所属/小児科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
