お子様やご自身が「結節性硬化症(けっせつせい・こうかしょう)」、あるいはその中でも「2型(TSC2)」という診断を受けたとき、聞き慣れない病名と、全身に及ぶ可能性のある症状の説明に、大きな衝撃と不安を感じられたことでしょう。
「全身に腫瘍ができるってどういうこと?」
「2型というのは重いタイプなの?」
「てんかんは治るの?」
インターネットで検索すると、難しい医学用語や古い情報が混在しており、余計に混乱してしまうこともあるかもしれません。
しかし、結節性硬化症(TSC)は、この数十年で最も治療が進歩した難病の一つと言われています。原因が分子レベルで解明され、その原因を直接抑えるお薬(mTOR阻害薬)が登場したことで、患者さんの生活の質は大きく向上しています。
概要:どのような病気か
結節性硬化症(Tuberous Sclerosis Complex: TSC)は、全身の様々な臓器に良性の腫瘍(過誤腫:かごしゅ)ができたり、組織の形成異常が起きたりする、生まれつきの遺伝性疾患です。
「2型(TSC2)」とは?
結節性硬化症には、原因となる遺伝子の場所によって2つのタイプがあります。
- 1型(TSC1): 9番染色体にあるTSC1遺伝子の変異が原因。
- 2型(TSC2): 16番染色体にあるTSC2遺伝子の変異が原因。
今回解説するのは、この「2型(TSC2)」です。
実は、結節性硬化症の患者さん全体で見ると、この2型の方が多く(約70〜80%)、1型よりも症状が少し出やすい(多様な症状が現れやすい)傾向があると言われています。
体の中で何が起きているのか?
私たちの体には、細胞が増えすぎないようにブレーキをかける「mTOR(エムトール)」というシステムがあります。
TSC1遺伝子とTSC2遺伝子は、協力してこのブレーキペダルを踏む役割をしています。
- 健康な状態: ブレーキが効いており、細胞の成長は適切にコントロールされています。
- 結節性硬化症: 遺伝子の変異によりブレーキが壊れている状態です。そのため、細胞が勝手に増殖してしまい、体のあちこちに「コブ(良性腫瘍)」を作ってしまいます。
このメカニズムが分かったおかげで、壊れたブレーキの代わりにブレーキをかける薬(mTOR阻害薬)が開発されました。これが現在の治療の柱となっています。
原因:遺伝と突然変異
ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。
1. TSC2遺伝子の変異
2型の場合、16番染色体にあるTSC2遺伝子(別名:tuberin)の機能が失われることで発症します。
2. 遺伝と突然変異
ここが非常に重要なポイントです。
結節性硬化症は「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとりますが、実際には患者さんの約3人に2人は、両親からの遺伝ではなく「突然変異(de novo変異)」で発症しています。
- 突然変異: ご両親の遺伝子には全く異常がなく、受精卵ができる過程で偶然TSC2遺伝子に変化が起きたケースです。誰のせいでもなく、自然の確率で起こります。
- 家族性: ご両親のどちらかがTSCを持っていた場合に遺伝したケースです。
3. TSC2特有の「隣接遺伝子症候群」
TSC2遺伝子のすぐ隣には、多発性嚢胞腎(PKD1)の原因遺伝子があります。
まれに、TSC2遺伝子と一緒にPKD1遺伝子まで欠失してしまうことがあり、その場合は重い腎臓の症状(嚢胞腎)を合併することがあります。これはTSC1型には見られない、TSC2型特有のリスクです。
主な症状:年齢とともに変化する
結節性硬化症は「年齢によって出やすい症状が変わる(年齢依存性)」のが大きな特徴です。
2型(TSC2)は1型に比べて、てんかんの発症が早かったり、知的発達への影響が強かったりする傾向がありますが、個人差が非常に大きいため、必ずしも重症になるわけではありません。
以下、主な症状を部位ごとに解説します。
1. 神経・脳の症状(最重要)
生活の質に最も影響するのが、脳の症状です。
- てんかん:
患者さんの約80〜90%に見られます。特に乳児期(生後3ヶ月〜1歳頃)に、手足をカクンとさせる「点頭てんかん(ウエスト症候群)」を発症することが多く、早期の治療が発達のカギを握ります。 - 皮質結節(ひしつけっせつ):
脳の表面にできる硬い組織です。てんかんの原因になることがあります。 - 上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA:セガ):
脳室(脳の中の水の通り道)の近くにできる腫瘍です。大きくなると水頭症を起こすリスクがあるため、定期的なMRI検査で監視します。現在はmTOR阻害薬で小さくすることが可能です。 - TAND(タンド):精神・神経症状
近年、最も注目されている概念です。
2. 皮膚の症状
見た目に関わるため、ご本人やご家族の悩みになりやすい症状です。
- 白斑(はくはん): 生まれた時からある、木の葉の形をした白いあざです(3つ以上あるとTSCを疑います)。
- 顔面血管線維腫: 幼児期後半から学童期にかけて、鼻や頬にできる赤っぽいブツブツです。ニキビと間違われやすいですが、TSCの特徴的な症状です。
- シャグリン斑: 背中や腰に見られる、サメ肌のような少し盛り上がった皮膚です。
- 爪囲線維腫(そういせんいしゅ): 思春期以降、手足の爪の周りにできるイボのようなものです。
3. 腎臓の症状
- 腎血管筋脂肪腫(AML):
腎臓にできる良性の腫瘍です。血管、筋肉、脂肪が混ざったもので、大きくなると破裂して出血するリスクがあります。TSC2型では若いうちから大きくなりやすい傾向があります。 - 腎嚢胞(のうほう): 腎臓に水の袋ができます。
4. 心臓の症状
- 心横紋筋腫(しんおうもんきんしゅ):
胎児期や新生児期に見つかる心臓の良性腫瘍です。これが見つかってTSCの診断に至ることが多いです。
【重要】 心横紋筋腫の多くは、成長とともに自然に小さくなったり消えたりします。 そのため、重篤な不整脈などがなければ、手術をせずに経過観察することが一般的です。
5. 肺の症状(主に女性)
- リンパ脈管筋腫症(LAM:ラム):
主に20歳以降の女性患者さんに見られる肺の病気です。肺に小さな穴が開き、息切れや気胸(肺がパンクする)を起こしやすくなります。
6. 眼の症状
- 網膜過誤腫: 眼の底にできる良性の腫瘍ですが、視力に影響することは稀です。
診断と検査
診断は、特徴的な症状の組み合わせ(臨床診断基準)と、遺伝子検査によって行われます。
1. 臨床診断(症状による診断)
「大症状(特徴的な症状)」と「小症状」の組み合わせで判定します。
- 大症状: 白斑(3個以上)、顔面血管線維腫、心横紋筋腫、SEGA、皮質結節など。
- 確定診断: 大症状が2つ、または大症状1つ+小症状2つ以上。
2. 遺伝子検査
血液を採取して、TSC1またはTSC2遺伝子に変異があるかを調べます。
- 確定診断の補助になります。
- TSC2変異が見つかれば、症状が揃っていなくても「結節性硬化症」と診断されます。
- ただし、10〜15%の患者さんでは、従来の検査法では変異が見つからないこともあります(臨床的にTSCであっても、遺伝子検査陰性となることがあります)。
3. 定期的な画像検査
診断後は、全身の状態を把握するために以下の検査を行います。
- 頭部MRI/CT: 脳の結節、SEGAの有無。
- 脳波検査: てんかんの有無。
- 腹部エコー/MRI/CT: 腎臓の腫瘍(AML)や嚢胞の有無。
- 心臓エコー: 横紋筋腫の有無。
- 眼底検査: 網膜の確認。
治療と管理:mTOR阻害薬という光
結節性硬化症は、以前は「対症療法(症状が出たら抑える)」しかありませんでした。
しかし現在は、病気の原因メカニズムに作用する「mTOR阻害薬(エムトールそがいやく)」が登場し、治療方針が大きく変わりました。
1. 薬物療法(mTOR阻害薬)
壊れたブレーキの代わりをするお薬です。
- 内服薬(成分名:エベロリムス / 商品名:アフィニトール):
脳の腫瘍(SEGA)、腎臓の腫瘍(AML)、肺の病気(LAM)、そして難治性てんかんに対して保険適用されています。腫瘍を小さくし、てんかん発作を減らす効果があります。 - 外用薬(成分名:シロリムス / 商品名:ラパリムスゲル):
顔のブツブツ(血管線維腫)に塗るお薬です。赤みが引き、ブツブツが平らになる効果が高く、患者さんの見た目の悩み(QOL)を劇的に改善しました。
2. てんかんの治療
脳の発達を守るために、発作を止めることが最優先です。
- ビガバトリン(サブリル): 点頭てんかん(ウエスト症候群)に対して非常によく効くお薬で、第一選択薬として使われます。
- その他、様々な抗てんかん薬や、mTOR阻害薬を組み合わせてコントロールします。
- 難治性の場合は、外科手術やケトン食療法も検討されます。
3. 腫瘍の外科的治療・塞栓術
- SEGA: 薬で小さくならない場合や、水頭症を起こした場合は手術で取り除きます。
- 腎AML: 大きくなって出血リスクがある場合、カテーテルで血管を詰める治療(塞栓術)を行います。
4. 療育・TANDへの対応
- 発達支援: 早期から療育センターなどと連携し、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を受けます。
- 行動面のケア: 自閉傾向や多動に対しては、環境調整や、必要に応じてお薬を使って生活しやすくします。
- 家族支援: 親御さんのメンタルケアも非常に重要です。

ライフステージごとの管理ポイント
結節性硬化症は生涯付き合っていく病気です。時期によって注意点が異なります。
- 乳幼児期:「てんかんのコントロール」が全てです。点頭てんかんを早期に抑えることが、その後の知的発達を守ります。また、心臓の腫瘍(自然消退することが多い)の経過を見ます。
- 学童期: 「TAND(学習・行動)」と「皮膚」のケアが中心になります。学校生活での困り感へのサポートや、顔のブツブツへの塗り薬治療を行います。
- 思春期〜成人期: 「腎臓」と「肺(女性)」の管理が重要です。自覚症状がなくても、定期的な画像検査で腫瘍が大きくなっていないかチェックし続けます。
まとめ
ここまでの重要ポイントを振り返ります。
- 結節性硬化症2型(TSC2)は、16番染色体のTSC2遺伝子の変異による全身性疾患です。
- 原因の多くは突然変異であり、親の責任ではありません。
- 症状は年齢によって変化し、てんかん、皮膚症状、腎臓腫瘍などが代表的です。
- 治療は、原因に直接作用するmTOR阻害薬(飲み薬・塗り薬)が中心となり、予後が大きく改善しています。
管理には、生涯にわたる定期検診が不可欠です。
