この記事のまとめ
ADHD(注意欠如・多動症)は遺伝的な要因の影響が大きい発達特性ですが、ひとつの遺伝子で決まる単一遺伝子病ではなく、多くの遺伝子と環境が重なって現れる「多因子性」です。双生児研究では遺伝率が約74〜76%と報告される一方、同じ遺伝的背景でも現れ方は一人ひとり違います。親がADHDでも必ず遺伝するわけではなく、現れない世代もあります。そして、NIPTなどの出生前検査でADHDを調べることはできません。この記事では、ADHDの遺伝のしくみ・遺伝率・環境との関わり・検査でわかることとわからないこと・症状と支援までを、当事者やご家族への配慮を大切にしながらまとめました。
この記事でわかること
- ADHDが遺伝するのか、その影響はどのくらい大きいのか(双生児研究の遺伝率)
- ADHDの遺伝のしくみ=多因子・ポリジェニックで、顕性・潜性がはっきり分かれる病気ではないこと
- 親がADHDのとき子どもにどう関わるか、環境要因はどこまで影響するか
- NIPT・出生前検査ではADHDはわからないこと、症状・診断・支援の全体像
ADHDは遺伝するのか|結論と全体像
ADHDは遺伝的な要因の影響が大きい発達特性ですが、単一の遺伝子で決まる病気ではなく、多くの遺伝子と環境が重なって現れる多因子性の特性です。まず、この全体像から確認します。
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、神経発達症のひとつです。「注意の持続がむずかしい」「じっとしていられない」「思いついたらすぐ動く」という3つの特徴を中心に説明されます。アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5では、不注意優勢型・多動衝動優勢型・混合型の3タイプに分けられています。
かつては「落ち着きがない子」「不真面目」と誤解されることもありました。いまは脳の働き方の違いとして理解が進んでいます。とはいえ、診断されないまま困り感を抱える方や、偏見にさらされてきた方も少なくありません。
私は妊婦さんやご家族の相談を聞いていて、「ADHDは親から子へそのまま遺伝するのか」という問いをよく受けます。答えは単純ではありません。遺伝の影響は確かに大きい、けれど遺伝だけで決まるわけではない。ここがADHDの遺伝を理解する出発点です。実在の投稿でも、@6Xv48さんが、祖母から母、そして自分へと世代をたどりながら「発現しない世代をはさんでも次の世代で現れることがある」「両親に特性があっても現れない子もいる」と、ご自身の家系の観察を書いていました。私も、遺伝は「必ず」でも「無関係」でもなく、その間にあると感じています。
ADHDの遺伝率はどのくらい?双生児研究からわかること
双生児研究では、ADHDの遺伝率は約74〜76%と報告され、身長などと並んで遺伝の影響が大きい特性とされています。ただし、この数字の意味には注意が必要です。
遺伝率とは、「ある集団の中で見られる特性のばらつきのうち、どのくらいが遺伝の違いで説明できるか」を示す指標です。個人の運命を決める数字ではありません。遺伝率が高いからといって、「親がADHDなら子どもも必ずADHDになる」という意味にはなりません。ここを取り違えると、不安だけが大きくなってしまいます。
一卵性双生児と二卵性双生児を比べる研究から、ADHDでは遺伝の関与が大きいことが繰り返し確かめられてきました。国際的なレビュー(Faraone & Larsson, 2019)でも、双生児研究にもとづく遺伝率はおよそ74%と整理されています。血縁が近いほど、特性を共有しやすい傾向も知られています。
| 指標・関係 | 目安 | 読み取り方 |
|---|---|---|
| 双生児研究の遺伝率 | 約74〜76% | 集団のばらつきに占める遺伝の割合。個人の確定ではない |
| 一卵性双生児 | 二卵性より一致しやすい | 遺伝の影響が大きいことの根拠 |
| きょうだい・親子 | 一般より高まる傾向 | 家族内で特性が集まりやすい |
| 環境要因 | 残りの一部を説明 | 遺伝と重なって現れ方に関わる |
大切なのは、遺伝率76%が「76%の確率で発症する」ではないという点です。遺伝の影響が大きいことは事実。それでも、現れるかどうか、どう現れるかは、遺伝と環境の組み合わせで一人ひとり変わっていきます。
ADHDの遺伝の仕組み|多因子・ポリジェニックとは
ADHDは多数の遺伝子がそれぞれ小さく影響し合う「ポリジェニック(多因子性)」の特性で、顕性・潜性がはっきり分かれる単一遺伝子の病気ではありません。この仕組みを知ると、家系の現れ方のばらつきも納得しやすくなります。
「遺伝性の病気」と聞くと、ひとつの遺伝子の変化が親から子へ受け継がれ、顕性(あらわれやすい形)か潜性(隠れて受け継がれる形)で伝わる、というイメージを持つ方が多いかもしれません。ADHDは、そのタイプの病気ではありません。原因となる決定的な一つの遺伝子があるわけではないのです。
実際には、たくさんの遺伝子がそれぞれ少しずつ影響を及ぼし、その積み重ねと環境が合わさって特性が現れると考えられています。これがポリジェニック(多因子性)という考え方です。ゲノム全体を調べる研究(Demontis ら, 2019)では、ADHDに関連する複数の領域が初めて明確に示されました。ひとつの「ADHD遺伝子」ではなく、多くの小さな影響の集まりだと理解してください。
脳の中では、ドパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の働きの違いが、注意や行動の調整に関わると考えられています。前頭前野や線条体などの活動の特徴も、脳画像研究で示唆されてきました。こうした違いの背景に、多くの遺伝子が関わっているのです。
この「多くの遺伝子が関わる」という性質は、家系の見え方にもつながります。実在の投稿でも、@mikasan_adhdさんが、発達特性は遺伝要因が絡むため親自身も気づかないまま過ごしていることがある、と書いていました。私も、親子で少しずつ特性の色合いが違うのは、ひとつの遺伝子で説明できない多因子性の表れだと感じています。ASDの遺伝のしくみと共通する点も多く、詳しくは自閉スペクトラム症(ASD)と遺伝のしくみの記事もあわせてご覧ください。
親がADHDだと子どもはどうなる?
親がADHDの場合、子どもに特性が現れる可能性はやや高まりますが、必ず遺伝するわけではなく、現れない世代もあります。「必ず」ではない、という点をまず押さえてください。
家族の中で特性が集まりやすいことは、多くの研究で確かめられています。とはいえ、多因子性の特性なので、受け継がれ方は「あるかないか」ではなく、濃淡のあるグラデーションです。親に特性があっても現れない子もいれば、しばらく現れなかった家系で再び現れることもあります。
もし、あなた自身にADHDの特性があって、お子さんのことが気がかりなら、それは決して珍しい悩みではありません。特性を早くに知ることは、その子に合った関わり方につながる入り口になります。「遺伝させてしまった」と自分を責める必要はありません。特性は、その子らしさの一部でもあります。
環境要因はADHDにどう関わる?
妊娠中の喫煙・飲酒や低出生体重などはリスク要因とされますが、単独でADHDの原因になるわけではなく、遺伝的な背景と重なって現れ方に関わります。環境要因は「原因」ではなく「関わる要素」と考えるのが正確です。
これまでの研究では、妊娠中の喫煙や飲酒、低出生体重、鉛などの重金属への曝露などが、ADHDのリスクと関連する可能性が指摘されてきました。ただし、これらはあくまでリスク因子の候補です。どれか一つがあれば発症する、という単純な関係ではありません。
遺伝の影響が大きいからこそ、環境要因だけで「なってしまった」「防げたはず」と考えるのは正確ではありません。妊娠中の生活を過度に責める必要もありません。大切なのは、遺伝と環境が重なって現れるという多因子性の見方を持っておくことです。この考え方が、余計な自責から気持ちを守ってくれます。
NIPT・出生前検査でADHDはわかる?【重要】
NIPTなどの出生前検査で、ADHDを調べることはできません。ここは誤解が生まれやすいところなので、はっきりお伝えします。
NIPT(新型出生前診断)は、妊婦さんの血液を使って、胎児の「染色体の数の変化」を調べる非確定的検査です。主に調べるのは、21トリソミー(ダウン症)・18トリソミー・13トリソミーといった、染色体の数に関わる変化です。採血だけで受けられ、お腹の赤ちゃんに負担をかけません。
一方、ADHDはここまで見てきたとおり、多くの遺伝子と環境が重なって現れる多因子性の特性です。ひとつの染色体の数の変化で決まるものではありません。だからこそ、染色体の数を見るNIPTでは、ADHDのような発達特性を胎児の段階で判定できないのです。微小欠失検査を追加しても、調べられるのは特定の染色体領域に限られ、ADHD全体がわかるわけではありません。
「検査を受ければ赤ちゃんのことが全部わかる」と受け止めている方に、私は何度も出会ってきました。実際に調べているのは染色体の数という一部分です。ADHDや自閉スペクトラム症、知能や性格は、NIPTでわかるものではありません。この線引きを知っておくと、結果の受け止め方が落ち着きます。NIPTと発達障害の関係はNIPTで発達障害・自閉症はわかる?の記事、検査範囲と限界はNIPTで知的障害は分かる?の記事で詳しくまとめています。
ADHDの症状と診断
ADHDの症状は「不注意」「多動性」「衝動性」に分けられ、複数の場面で6か月以上続き、生活に支障がある場合に、専門医が総合的に診断します。症状の現れ方は、発達段階によって変わります。
【不注意】
- 課題に集中し続けるのがむずかしい
- 忘れ物やうっかりミスが多い
- 指示を最後まで聞けず、順序立てて動くのが苦手
不注意の特徴は、静かに困りごととして積み重なりやすいものです。とくに女性では不注意型が目立ちやすく、見過ごされて診断が遅れることもあります。
【多動性・衝動性】
- 座っていられず、手足を動かし続ける
- 順番を待てず、他人の話に割り込んでしまう
- 思いついたことをすぐ口に出し、危険を考えずに動く
幼児期には多動が目立ち、学齢期や思春期には不注意が中心になり、成人期には時間管理や人間関係の困難として現れることがあります。同じ人でも、年齢とともに現れ方が変わっていくのが特徴です。
診断は、問診や行動観察、標準化された評価ツールを組み合わせて行われます。症状が少なくとも6か月以上続き、家庭と学校など2つ以上の場面で見られ、日常生活に支障をきたしていることが目安です。不安障害・うつ病・ASD・学習障害・睡眠の問題などとの見分けも欠かせません。診断は専門医が総合的に判断します。
ADHDの治療・支援と生活の工夫
ADHDは「治す」ものというより、薬物療法・心理社会的な支援・環境調整を組み合わせて、特性とうまく付き合っていくのが基本です。本人に合った工夫が、暮らしを大きく助けます。
薬物療法では、中枢神経刺激薬(メチルフェニデートなど)や非刺激薬(アトモキセチン、グアンファシンなど)が使われます。注意力や多動・衝動性の軽減に役立つとされますが、効果や副作用には個人差があります。医師と続けて相談しながら進めてください。
薬だけに頼らず、認知行動療法やペアレントトレーニング、学校や職場での配慮といった心理社会的な支援を組み合わせることが大切です。生活の工夫としては、タイマーで時間を見える化する、手順をチェックリストにする、刺激の少ない環境を整える、といった方法があります。「25分作業+5分休憩」のように区切るのも一つの手です。

成人期には、就労・家庭・人間関係・金銭管理など、多くの場面で「見えにくい困り感」が積み重なりやすくなります。大人になって初めて診断され、「なぜ今まで苦しかったのか」がようやく理解できたという方も少なくありません。就労支援センターや精神科・心療内科、カウンセリング、福祉サービスなど、頼れる先を知っておくと毎日が少し軽くなります。特性を「個性」として活かしていく道は、いくつもあります。発達の気づきについてはクレーン現象など発達サインの記事、妊娠と知的障害というテーマは知的障害のある子を授かる可能性の記事も参考になります。
よくある質問
ADHDの遺伝と検査について、よく寄せられる疑問をまとめました。参考にしてください。
Q. ADHDは遺伝しますか?
遺伝的な要因の影響は大きいと考えられています。双生児研究では遺伝率が約74〜76%と報告されています。ただし、多くの遺伝子と環境が重なって現れる多因子性の特性なので、親から子へ必ずそのまま遺伝するわけではありません。現れない世代もあります。
Q. ADHDの遺伝率はどのくらいですか?
双生児研究にもとづくと、およそ74〜76%とされています。これは集団の中でのばらつきに占める遺伝の割合であり、個人が発症する確率そのものではありません。遺伝率が高いことと、必ず発症することは別の話だと理解してください。
Q. ADHDはひとつの遺伝子で決まりますか?
いいえ。ADHDは、たくさんの遺伝子が少しずつ影響し合うポリジェニック(多因子性)の特性です。顕性・潜性がはっきり分かれる単一遺伝子の病気ではありません。決定的な「ADHD遺伝子」が一つあるわけではない、と考えてください。
Q. 親がADHDだと子どもも必ずADHDになりますか?
必ずではありません。親に特性があると、子どもに現れる可能性はやや高まりますが、現れない子もいます。多因子性の特性なので、受け継がれ方は濃淡のあるグラデーションです。気がかりなときは、専門機関に相談してみてください。
Q. NIPTや出生前検査でADHDはわかりますか?
わかりません。NIPTは胎児の染色体の数の変化を調べる非確定的検査で、ADHDのような多因子性の発達特性は対象の外です。微小欠失検査を追加しても、調べられるのは特定の染色体領域に限られ、ADHD全体はわかりません。検査の性質を理解したうえで受けてください。
Q. ADHDは治りますか?
ADHDは完全に「治す」ものというより、付き合っていく特性です。薬物療法・心理社会的な支援・環境調整を組み合わせることで、困りごとをやわらげ、特性を活かして安定した生活を送ることができます。ライフステージに応じた柔軟なサポートが役立ちます。
参考文献
- 国立精神・神経医療研究センター「ADHD(注意欠如・多動症)」https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease06.html
- 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター https://www.rehab.go.jp/ddis/
- 発達障害ナビポータル(こども家庭庁・国立障害者リハビリテーションセンター)https://hattatsu.go.jp/
- Faraone, S. V., & Larsson, H. (2019). “Genetics of attention deficit hyperactivity disorder.” Molecular Psychiatry. https://doi.org/10.1038/s41380-018-0070-0
- Demontis, D., et al. (2019). “Discovery of the first genome-wide significant risk loci for attention deficit/hyperactivity disorder.” Nature Genetics. https://doi.org/10.1038/s41588-018-0269-7
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
