「NIPTは35歳以上でないと受けられない」と聞いて、若い自分は対象外なのかと不安になった妊婦さんは少なくありません。実際、日本でNIPTが始まった当初は年齢の目安がありました。ところが近年、日本医学会の認証制度と指針の見直しが進み、年齢だけで一律に線を引く運用は改められつつあります。
この記事では、なぜ従来「35歳以上」という年齢要件が置かれていたのか、その統計的な背景から丁寧にひも解きます。あわせて、年齢制限が実質的に緩和されたことの利点と注意点、そして受検を考えるときに知っておきたい検査の限界まで、統括院長の視点でお伝えします。NIPTは対象疾患に限られた非確定的な検査です。数字だけを追わず、意味を理解して選ぶための材料にしてください。
💡 この記事でわかること
- NIPTは13・18・21トリソミーなど対象疾患に限られる非確定的検査だという位置づけ
- 従来「35歳以上」という要件があったのは陽性的中率(PPV)が年齢に依存するためだという背景
- 日本医学会の認証制度と指針見直しで年齢で一律に制限しない流れになった経緯
- 年齢制限が実質撤廃されるメリットと、若年ではPPVが下がりうるという注意点
- 受診の流れと費用の目安、遺伝カウンセリングの活かし方

NIPTとは?対象疾患に限られる非確定的な検査
NIPTは、母体の血液から胎児由来のDNA断片を調べる非確定的(スクリーニング)検査です。妊婦さんの採血だけで実施でき、お腹に針を刺さないため母体への負担が小さい点が特徴です。ただし、あくまで「可能性を評価する」検査であり、診断を確定させるものではありません。
対象となるのは、主に21トリソミー(ダウン症)、18トリソミー、13トリソミーといった染色体の数の変化です。すべての病気や体質がわかるわけではなく、調べられる範囲は限られています。ここを取り違えると、「陰性だから何も心配ない」と受け取ってしまいがちですが、そうではありません。
私が外来でいつもお伝えしているのは、NIPTは「入口の検査」だという点です。気になる結果が出たときは、羊水検査などの確定検査で確かめる二段構えになっています。この流れを最初に知っておくと、結果を落ち着いて受け止めやすくなります。NIPTそのものについてはNIPTとは何かを解説した記事もあわせてご覧ください。
NIPTでわかること・施設で異なる検査範囲
NIPTでわかるのは、特定の染色体の数の変化に関する可能性であり、その範囲は施設によって変わります。基本的な項目は13・18・21トリソミーですが、施設によっては性染色体や微小な欠失・重複まで広げているところもあります。
ここで押さえておきたいのが、認証施設と非認証施設で調べる範囲や体制が異なるという点です。日本医学会の認証を受けた施設は、基本のトリソミーを中心に、遺伝カウンセリングと確定検査への連携を前提に運用しています。範囲を広げている非認証施設もありますが、項目が多いほど良いとは限りません。項目ごとに検査の意味や的中の度合いが違うためです。
21トリソミー、つまりダウン症について詳しく知りたい方は、ダウン症について解説した記事を先に読んでおくと、結果の意味を理解しやすくなります。「何を調べているのか」を先に知ることが、納得のいく受検につながります。
陰性でもすべての異常を除外できるわけではない
結論からお伝えすると、陰性は「対象疾患の可能性が低い」というサインであって、あらゆる病気がないという保証ではありません。NIPTが調べていない染色体や、形態的な異常は対象外です。だからこそ、陰性でも妊婦健診や超音波検査は続けてください。
この「限界の理解」が、後述する年齢の話にも深く関わってきます。検査は万能ではありません。得られる情報の輪郭を知ったうえで受けることが、安心につながります。
なぜ従来「35歳以上」という年齢要件があったのか
従来「35歳以上」という目安が置かれていた最大の理由は、陽性的中率(PPV)が有病率=年齢に依存するという統計的な事情にあります。同じ検査精度でも、対象集団によって「陽性が当たる確率」が変わるのです。ここは少し数字の話になりますが、年齢制限を理解する核心なので丁寧に説明します。
染色体の数の変化が起こる頻度は、母体年齢とともにゆるやかに上がっていくと報告されています。つまり、集団の中で実際に対象疾患を持つ割合(有病率)は、年齢が高いほど大きくなります。この「もともとの確率」が、陽性結果の意味を左右します。
導入初期にはもう一つの事情もありました。遺伝カウンセリングや確定検査の受け皿を丁寧に整えるため、対象をある程度絞って慎重に始める必要があった、という運用上の背景です。日本産科婦人科学会などの指針のもと、認証施設で限定的に始まった経緯があります。詳しい学会の見解は日本産科婦人科学会の公式サイトで確認できます。
陽性的中率(PPV)が年齢で変わる仕組み
陽性的中率とは、陽性と出た人のうち、実際に対象疾患を持つ人の割合を指します。検査の感度が同じでも、有病率が低い集団では偽陽性(実際は異常がないのに陽性と出ること)の影響が相対的に大きくなり、PPVは下がります。
具体的に言えば、有病率の高い高年齢の集団では、陽性が出たときに実際に当たっている割合が高くなります。一方、有病率の低い若年層では、同じ陽性でも「実際には異常がなかった」ケースの比率が上がります。だから若年ではPPVが下がりうる、というわけです。これは検査の質が悪いのではなく、確率の性質によるものです。
この考え方は文献により幅がありますが、共通しているのは「同じ結果でも背景の確率で意味が変わる」という点です。年齢要件は、この統計的な性質を運用に反映したものだったといえます。
年齢で一律に制限しない流れになった背景
年齢による一律の線引きが見直された背景には、日本医学会の認証制度と指針の改定があります。体制が整うにつれ、年齢だけで受検の可否を決めるのではなく、妊婦さん本人の希望と理解を尊重する方向へと軸足が移ってきました。
2022年前後の指針見直しにより、35歳未満であっても、遺伝カウンセリングを経て希望する場合などに受検の道が広がりました。年齢という一律の基準から、本人の意思決定と適切な情報提供を軸にする運用へと転換したかたちです。認証施設の制度については出生前検査認証制度等運営委員会のサイトで確認できます。
行政の側でも情報整備が進んでいます。国の考え方や相談先については厚生労働省のNIPT関連ページにまとまっています。「年齢で受けられない」ではなく「理解したうえで選ぶ」へ。これが近年の大きな変化です。

認証施設と非認証施設の違い
両者の一番の違いは、遺伝カウンセリングと確定検査への連携が前提かどうかです。認証施設は日本医学会の基準を満たし、専門職によるカウンセリングと、陽性時の確定検査への橋渡し体制を整えています。
非認証施設は自由診療として提供され、検査項目を広く扱う場合もあります。どちらを選ぶにしても、確認したいのは「陽性が出たあと、どこで誰に相談できるのか」という点です。フォロー体制がはっきりしている施設を選んでください。海外との制度の違いに関心がある方は、海外のNIPT事情を解説した記事も参考になります。
年齢制限が実質撤廃されることのメリットとデメリット
年齢制限の実質的な撤廃には、受検機会の公平化という利点と、若年ではPPVが下がりうるという注意点の両面があります。良い面だけでも悪い面だけでもなく、両方を知って選ぶことが納得につながります。
メリット:若年でも希望に応じて受けられる
最大の利点は、年齢に関わらず希望と状況に応じて受検を選べるようになったことです。若い妊婦さんでも、不安を抱えている場合に検査という選択肢を持てます。
受検の間口が広がったことで、出生前の情報を早めに得て、心の準備や妊娠中の過ごし方を考える余地も生まれます。「知って備える」ための手段として位置づけられるようになった、といえます。もちろん受けない選択も等しく尊重されます。
デメリット:若年ではPPVが下がり、限界の理解が必要
注意したいのは、若年層では陽性的中率が相対的に下がりうる点です。有病率が低いぶん、陽性でも実際には異常がないケースの比率が上がります。陽性という言葉に過度に動揺しないよう、意味を先に知っておいてください。
もう一つは、非確定的な検査であるという限界です。陽性なら確定検査、陰性でも健診の継続、という前提を理解しないまま受けると、結果に振り回されやすくなります。だからこそ、カウンセリングを挟む意味があります。判断を一人で抱えず、医療者と一緒に考えてください。
年齢と受検の判断はどう考えればよいか
年齢は受検を決める材料の一つですが、年齢だけで決める必要はありません。超音波所見や本人の不安、家庭の状況などを合わせて、カウンセリングの中で考えていくものです。
私が外来で感じるのは、「年齢が気になって受検を考え始めた」という方がとても多いことです。あるプレママは、初期の胎児ドックでNT(後頸部の厚み)がやや高めと言われ、相談のうえ翌週にNIPTのカウンセリング予約を入れたと発信していました。「年齢も年齢なので受けようかな」と迷いながら一歩を踏み出す様子を、@kiimama45さんも綴っていました。迷いながら情報を集める姿勢は、とても自然なものだと感じます。
大切なのは、数字に追い立てられて決めるのではなく、意味を理解して選ぶことです。年齢が高めなら有病率の面から検討する価値がありますし、若くても不安が強ければ選択肢になります。どちらの場合も、まずは相談から始めてください。
受診の流れと費用の目安
受診は、相談・カウンセリング → 採血 → 結果通知 → 陽性なら確定検査という流れで進みます。採血は妊娠10週前後から可能で、心拍確認後の早い時期から検討できます。
費用は施設や検査範囲で幅がありますが、カウンセリングを含めて10万〜15万円程度が一つの目安です。基本のトリソミーのみか、範囲を広げるかで金額は変わります。陽性時の確定検査費用が別にかかる場合もあるため、事前の確認が欠かせません。費用の内訳や考え方はNIPTの費用を解説した記事で詳しく整理しています。
結果通知までの日数も施設差があります。国内の検査機関を利用する体制では、比較的早く結果が返る傾向があります。待つ時間の不安を減らす意味でも、報告までの日数は事前に聞いておいてください。
妊婦さんへの影響と受検時の注意点
受検で最も大切なのは、結果の意味と限界を理解したうえで臨むことです。陽性でも確定ではなく、陰性でもすべてを除外できるわけではありません。この前提を共有できていると、結果を落ち着いて受け止めやすくなります。
私がよくお伝えするのは、「陰性でも完全に安心とは言い切れない」という点です。ただ、対象疾患の可能性が低いとわかること自体に、気持ちを整える力があります。認証施設でNIPTを受けて陰性だった方が、「これで完全に安心ではないけれど、3つの染色体の変化がないとわかっただけでも気持ちが落ち着いた、受けてよかった」と@shirokumabanbanさんも綴っていました。検査は万能ではありませんが、心の支えになる場面があるのも事実です。
受検前には、パートナーや家族と、陽性だったときにどう向き合うかを話しておいてください。判断を一人で抱え込まないための備えです。気持ちの揺れを支えるのが遺伝カウンセリングの役割ですので、迷いはそのまま相談してくださって構いません。
NIPTの年齢制限に関するよくある質問(FAQ)
年齢制限やPPVについて、外来で多くいただく質問をまとめました。受検前の疑問解消にお役立てください。
Q1. NIPTの年齢制限は本当に撤廃されたのですか?
指針の見直しにより、年齢だけで一律に受検の可否を決める運用は改められ、35歳未満でも遺伝カウンセリングを経て希望する場合などに受けられるようになりました。年齢という基準から、本人の理解と意思決定を軸にする運用へと変わったかたちです。
Q2. 若いと検査を受ける意味は薄いのですか?
意味が薄いわけではありません。ただ、若年層は有病率が低いぶん陽性的中率が下がりうるため、陽性が出ても実際には異常がないケースの比率が上がります。この性質を理解したうえで、不安の強さや所見を踏まえて相談しながら判断してください。
Q3. 陽性と出たら、必ず染色体の異常があるのですか?
いいえ。NIPTは非確定的なスクリーニング検査であり、陽性は「可能性が高い」というサインにとどまります。診断を確定するには、羊水検査などの確定検査が必要です。陽性の場合は自己判断せず、確定検査とカウンセリングで確かめてください。
Q4. 陰性なら安心してよいのですか?
陰性は対象疾患の可能性が低いことを示しますが、調べていない染色体や形態的な異常までは除外できません。陰性でも妊婦健診や超音波検査は続けてください。検査の範囲を知っておくことが、過信を避けることにつながります。
Q5. 認証施設と非認証施設、どちらを選べばよいですか?
判断の基準は「陽性時に相談できる体制があるか」です。認証施設は遺伝カウンセリングと確定検査への連携が前提です。非認証施設を選ぶ場合も、フォロー体制を必ず確認してください。項目の多さより、支える仕組みの有無で選んでください。
Q6. 費用はどのくらいかかりますか?
カウンセリングを含めて10万〜15万円程度が目安ですが、検査範囲や施設で幅があります。NIPTは自由診療のため公的医療保険は適用されません。陽性時の確定検査費用が別途かかる場合もあるので、事前に総額を確認してください。
まとめ:年齢ではなく、理解して選ぶ時代へ
NIPTは対象疾患に限られる非確定的検査であり、年齢要件は陽性的中率が有病率に依存するという統計的背景から置かれていました。制度と指針の見直しにより、いまは年齢で一律に線を引くのではなく、理解と意思決定を軸に選ぶ流れへと移っています。
若年でも受けられるようになった一方で、若年ではPPVが下がりうること、陽性は確定ではないこと、陰性でもすべてを除外できないことは変わりません。数字だけでなく意味を理解し、遺伝カウンセリングを活かして選んでください。迷いがあるなら、まずは相談から。私たちがそのプロセスを一緒に支えます。
監修:岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を持ち。著書『妊娠したら最初に読んで欲しい本』。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、公的機関・学会・査読論文の情報を参照して作成しています。記載の数値は文献により幅があり、診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。
【参考】出生前検査認証制度等運営委員会 / 厚生労働省 NIPT関連ページ / 日本産科婦人科学会
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
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日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
参考文献
- 日本産科婦人科学会. 母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針. 東京: 日本産科婦人科学会; 2022.
- Rose NC, Kaimal AJ, Dugoff L, Norton ME; American College of Obstetricians and Gynecologists’ Committee on Practice Bulletins—Obstetrics; Committee on Genetics; Society for Maternal-Fetal Medicine. Screening for Fetal Chromosomal Abnormalities: ACOG Practice Bulletin, Number 226. Obstet Gynecol. 2020;136(4):e48-e119. doi: 10.1097/AOG.0000000000004084. *(※年齢に関わらずすべての妊婦への情報提供と検査の提示を推奨した米国産科婦人科学会のガイドライン)*
- Gregg AR, Skotko BG, Benkendorf JL, Monaghan KG, Bajaj K, Best RG, et al. Noninvasive prenatal screening for fetal aneuploidy, 2016 update: a position statement of the American College of Medical Genetics and Genomics. Genet Med. 2016;18(10):1056-1065. doi: 10.1038/gim.2016.97.
