先天性脊椎骨端異形成症(SEDC)

赤ちゃん

お子様が「先天性脊椎骨端異形成症(せんてんせい・せきつい・こったん・いけいせいしょう)」、英語で「SED Congenita(エスイーディー・コンジェニタ)」という診断を受けたとき、あまりにも長く複雑な漢字の羅列に、戸惑いと不安を感じられたことでしょう。

「背骨の病気なの?」「歩けるようになるの?」「将来どうなるの?」

インターネットで検索しても、専門的な難しい言葉ばかりが出てきて、具体的な生活のイメージが湧きにくいのが現状です。

この病気は、骨の成長に必要な「コラーゲン」というタンパク質の作り方に、生まれつきの変化があるために起こります。

身長が伸びにくかったり、関節に痛みが出やすかったりする特徴はありますが、知的な発達は通常正常です。

適切な医療管理(特に首と目のケア)を行うことで、学業に励み、仕事を持ち、充実した人生を送っている先輩患者さんがたくさんいます。

概要:どのような病気か

先天性脊椎骨端異形成症(以下、SEDC)は、全身の骨、特に「背骨(脊椎)」と「骨の端っこ(骨端)」の成長に影響が出る、骨系統疾患(こつけいとうしっかん)の一つです。

病名の意味を解きほぐす

この長い病名には、病気の特徴がすべて詰め込まれています。一つずつ分解してみましょう。

脊椎(Spondylo:スポンディロ)

背骨のことです。背骨の形が平らになったり、成長が悪かったりするため、胴体が短くなる(短躯:たんく)特徴があります。

骨端(Epiphyseal:エピフィシール)

骨の「端っこ」のことです。ここには軟骨があり、骨が伸びるための工場のような役割をしています。この工場の働きが弱いため、手足の骨の伸びがゆっくりになります。

異形成(Dysplasia:ディスプラジア)

形や構造が通常とは異なって作られることです。

先天性(Congenita:コンジェニタ)

生まれた時から症状(骨の特徴など)が見られる、という意味です。

(※似た名前に「晩発性脊椎骨端異形成症(SEDT)」というものがありますが、こちらは学童期以降に症状が出る別のタイプです)

2型コラーゲン異常症

SEDCは、医学的には「2型コラーゲン異常症」というグループに含まれます。

私たちの体を作るコラーゲンには色々な種類がありますが、「2型」は主に「軟骨」と「眼の硝子体(ゼリー状の部分)」に多く含まれています。

そのため、SEDCでは骨だけでなく、眼にも症状が出やすいのが大きな特徴です。

主な症状

SEDCの症状は、骨格、眼、耳、口など全身に現れます。症状の程度には個人差があります。

1. 骨格・身体的特徴

低身長(不均衡性低身長)

生まれた時の身長は平均より少し短い程度か、正常範囲内のこともありますが、成長とともに身長の伸びが緩やかになります。

特に「胴体」が短いため、手足が相対的に長く見えることがありますが、全体的には小柄になります。最終的な身長は個人差が大きいですが、成人で100cm〜140cm程度になることが多いとされています。

首の骨の不安定性(環軸椎亜脱臼)

これは命に関わる最も重要な症状です。

首の骨の1番目(環椎)と2番目(軸椎)のつなぎ目がグラグラして不安定になることがあります。

首の骨の中には、呼吸などを司る大切な神経(脊髄)が通っています。ここが圧迫されると、手足の麻痺や呼吸のトラブルが起きる可能性があります。

脊柱の後側弯(背骨の曲がり)

背骨が左右に曲がったり(側弯)、後ろに曲がったり(後弯)することがあります。

また、腰の骨が前に反りすぎる(腰椎前弯)こともよく見られ、お尻を突き出したような姿勢になることがあります。

股関節の異常(内反股)

大腿骨(太ももの骨)の付け根の角度が浅く、股関節にかかる負担が大きくなる「内反股(ないはんこ)」が見られることがあります。

これにより、歩き方が「アヒル歩き(よちよち歩き)」のようになったり、将来的に股関節の痛みが出やすくなったりします。

内反足(ないはんそく)

生まれた時に、足の裏が内側を向いていることがあります。

2. 顔貌・口の特徴

平坦な顔貌

お顔の中央部が平らで、目が離れているような印象を受けることがあります。

口蓋裂(こうがいれつ)

口の中の天井(口蓋)が割れていることがあります。

また、あごが小さく(小顎症)、舌が喉の奥に落ち込む「ピエール・ロバン連鎖」を合併することがあり、新生児期に呼吸や哺乳が難しくなることがあります。

3. 眼の症状(非常に重要)

SEDCは「眼の病気」と言っても過言ではないほど、眼の管理が重要です。

強度近視

幼少期から強い近視が見られることがあります。

網膜剥離(もうまくはくり)のリスク

眼の奥にあるフィルム(網膜)が剥がれやすい状態にあります。

コラーゲン異常により、眼の中のゼリー(硝子体)が液体化しやすく、網膜を引っ張ってしまうためです。網膜剥離は放置すると失明につながるため、定期的なチェックが欠かせません。

4. 聴覚の症状

感音難聴(神経の難聴)や、中耳炎を繰り返すことによる伝音難聴が見られることがあります。

5. 運動能力

筋力が少し弱かったり(筋緊張低下)、関節の痛みがあったりするため、歩き始めが遅くなることがあります。

しかし、時間をかけて獲得していき、自力で歩行できるようになることがほとんどです。疲れやすさはあるかもしれません。

原因:なぜ起きたのか

ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。

COL2A1遺伝子の変異

SEDCの原因は、12番染色体にある「COL2A1(シーオーエル・ツー・エー・ワン)」という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、「2型コラーゲン」を作るための設計図です。

2型コラーゲンの役割

2型コラーゲンは、軟骨の主成分です。

赤ちゃんの骨は、まず「軟骨」で形が作られ、それが徐々に硬い「骨」に置き換わっていくことで成長します(軟骨内骨化)。

SEDCでは、設計図(COL2A1)の書き間違いにより、正常な2型コラーゲンがうまく作れません。

すると、軟骨の質が悪くなったり、量が足りなくなったりします。その結果、骨がうまく伸びず、形も変わってしまうのです。

また、眼の硝子体も2型コラーゲンでできているため、眼にも影響が出ます。

ほとんどが「突然変異」

この病気は「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとりますが、患者さんの多くは「de novo(デ・ノボ)」と呼ばれる突然変異で発症します。

これは、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精後の細胞分裂の非常に早い段階で、偶然COL2A1遺伝子に変化が起きたものです。

ご両親の遺伝子には全く異常がないケースがほとんどです。つまり、誰にでも起こりうる、自然の確率的な現象であり、防ぐことはできません。

(※ご両親のどちらかがSEDCである場合は、50%の確率で遺伝します)

医者

診断と検査

診断は、特徴的なレントゲン所見と、眼の所見、そして遺伝子検査によって行われます。

1. レントゲン検査(骨格サーベイ)

全身の骨を撮影します。SEDCに特徴的なサインを探します。

脊椎:椎体(背骨のブロック)が平ら(扁平椎)で、洋梨のような形をしている。

骨盤:腸骨の形が四角く見える。

大腿骨頭:骨になるのが遅れている(骨化遅延)。

恥骨:骨化していない、など。

2. 眼科検査

強度近視や、眼底検査で硝子体の異常がないかを確認します。骨の病気だと思っていても、眼の所見が診断の決め手になることがあります。

3. 遺伝学的検査(確定診断)

血液検査でDNAを調べ、COL2A1遺伝子に変異があるかを確認します。

これにより、他の骨系統疾患(モルキオ病やKniest骨異形成症など)と明確に区別することができます。

治療と管理:これからのロードマップ

残念ながら、コラーゲンの異常そのものを治して骨を伸ばすような根本治療薬は、現時点では確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対する「対症療法」と「予防的な管理」を行うことで、重篤な合併症を防ぎ、生活の質(QOL)を維持することができます。

1. 首の管理(最重要)

SEDCのお子様にとって、首を守ることは命を守ることです。

定期的なチェック

レントゲン(動態撮影)やMRIで、首の骨のぐらつき(環軸椎亜脱臼)がないか、神経が圧迫されていないかを定期的に確認します。

手術

もし不安定性が強く、脊髄麻痺のリスクがあると判断された場合は、首の骨を固定する手術(脊椎固定術)が必要になります。これはタイミングが重要ですので、小児の脊椎専門医とよく相談します。

日常生活

首に強い負担がかかる運動(でんぐり返し、飛び込み、ラグビーなど)は避ける必要があります。

2. 背骨と股関節の管理

側弯症

背骨の曲がりが進行する場合は、コルセット(装具)を使ったり、手術で矯正したりします。

股関節

内反股(股関節の角度の異常)が強く、痛みや歩行障害が出る場合は、骨を切って角度を治す手術(骨切り術)を行うことがあります。

3. 眼科的管理(視力を守る)

定期検診

半年に1回〜年に1回は必ず眼底検査を受けます。網膜の端っこに薄い部分や穴(裂孔)が見つかった場合は、レーザー治療で焼き固めて、網膜剥離を予防します。

眼鏡

近視がある場合は、適切な眼鏡をかけて視力の発達を助けます。

緊急時の対応

「急に視界に黒い点が増えた(飛蚊症)」「カーテンがかかったように見えにくい」といった症状が出たら、すぐに眼科を受診する必要があります。お子様にも、このような症状があったらすぐに言うように教えておきましょう。

4. 耳鼻科・歯科の管理

中耳炎

滲出性中耳炎になりやすいため、聞こえが悪くなっていないか注意します。必要なら鼓膜チューブを入れます。

口蓋裂

口蓋裂がある場合は、形成外科で閉じる手術を行います。

歯科

あごが小さいため、歯並びが悪くなりやすいです。矯正治療が必要になることがあります。

5. 学校生活・日常生活

SEDCのお子様は、知的能力は正常ですので、通常の学級に進むことが多いです。

ただし、体育の授業(マット運動や激しい接触プレー)には配慮が必要です。

また、机や椅子の高さが合わないと姿勢が悪くなり、腰痛の原因になります。足台を置く、椅子を調整するなどの環境調整を学校にお願いしましょう。

「身長が低い」こと以外は、他のお子様と変わりません。

予後と生活について

適切な管理を行えば、生命予後(寿命)は良好です。

成人して、仕事を持ち、結婚し、家庭を築いている方もたくさんいます。

ただ、年齢とともに変形性関節症(関節の痛み)が出やすくなるため、体重管理(太りすぎないこと)や、関節に負担の少ない運動(水泳など)を続けることが、長く元気に歩くための秘訣です。

まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  1. 先天性脊椎骨端異形成症(SEDC)は、COL2A1遺伝子の変異によるコラーゲンの病気です。
  2. 低身長、背骨や股関節の異常が主な特徴ですが、知能は正常です。
  3. 最も注意すべきは「首の骨の不安定性」と「網膜剥離」のリスクです。
  4. 定期的な整形外科と眼科の受診が、将来の健康を守る鍵となります。
  5. 原因は突然変異であり、誰のせいでもありません。

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