お子様が「シンツェル・ギーディオン症候群(Schinzel-Giedion syndrome)」、略して「SGS」という診断を受けたとき、ご家族は聞いたことのない病名に戸惑い、インターネットで検索しても日本語の情報が極端に少ないことに不安を募らせているかもしれません。
「重度の障害」「予後が厳しい」といった言葉を目にして、目の前が真っ暗になるような思いをされた方もいらっしゃるでしょう。
この病気は、世界でも報告数が数百例程度という非常に希少な疾患(指定難病)です。そのため、一般の小児科医でも詳しく知っている医師は少なく、診断までに時間がかかることもあります。
しかし、近年遺伝子解析技術の進歩により、原因が特定され、世界中で研究が進み始めています。
医療的ケアが必要な場面は多いですが、お子様たちはそれぞれのペースで日々を生き、ご家族に多くの笑顔と気づきを与えてくれる存在です。
概要:どのような病気か
シンツェル・ギーディオン症候群(以下、SGS)は、1978年にスイスのシンツェル博士とギーディオン博士によって初めて報告された、生まれつきの遺伝性疾患です。
この病気は、体の多くの部分に影響を及ぼす「多発奇形症候群」の一つとして分類されます。
主な特徴として、独特なお顔立ち、骨格の異常、腎臓や尿路の異常、そして重度の精神運動発達遅滞(寝たきりの状態が続くことが多い)が挙げられます。
「神経変性疾患」としての側面
SGSの重要な特徴の一つに、生まれた後の経過において、神経の働きが徐々に影響を受ける(神経変性)という点があります。
これにより、難治性のてんかん発作が起きたり、一度できたことができなくなったり(退行)することがあります。
そのため、単なる体の形の病気ではなく、脳や神経のケアが生涯にわたって重要になる病気です。
希少性とSETBP1遺伝子
この病気は非常に稀で、正確な頻度は不明ですが、数万〜数十万人に1人程度と考えられています。
原因となるのは「SETBP1」という遺伝子の変異です。この遺伝子が特定されたのは2010年と比較的最近のことであり、現在進行形で新しいことが分かってきている段階の疾患です。
主な症状
SGSの症状は、全身の至るところに現れます。生まれた直後から分かる特徴もあれば、成長とともに明らかになる特徴もあります。
1. 特徴的なお顔立ち(顔貌)
SGSの診断の手がかりとなる最も重要な特徴です。多くのお子様に共通した、印象的なお顔立ちが見られます。
中顔面低形成(ちゅうがんめん・ていけいせい)
顔の中央部分(鼻のあたり)の骨の成長が弱く、顔全体が平坦で、引っ込んだように見えます。
前頭部突出と大きな大泉門
おでこが広く、前に出ています。また、頭のてっぺんにある柔らかい部分(大泉門)が非常に大きく、閉じるのが遅いです。
眼の特徴
目が深く窪んでいる(眼球陥凹)ように見えたり、目が離れていたり(眼間開離)します。
多毛
おでこ、背中、腕などに、産毛が濃く生えていること(多毛症)がよく見られます。
その他の特徴
鼻が短い、耳の位置が低い、舌が大きい(巨舌)などの特徴が見られることもあります。これらのお顔立ちは、成長とともに変化していくこともあります。
2. 神経・発達の症状
ご家族が最も心配される部分であり、生活のケアの中心となる症状です。
重度の精神運動発達遅滞
首のすわり、お座り、歩行などの運動発達や、言葉の発達が非常にゆっくり、あるいは獲得が難しい場合が多いです。
多くのお子様は、自力での移動や会話が難しく、全介助(寝たきりの状態)での生活となります。しかし、聴覚や触覚を通じて、ご家族の愛情を感じ取ることはできます。
難治性てんかん
乳児期早期から、けいれん発作(てんかん)を起こすことが多いです。
特に「点頭てんかん(ウエスト症候群)」のような、体を一瞬折り曲げる発作や、体の一部がピクつく発作が見られます。
SGSのてんかんは、薬が効きにくい(難治性)傾向があり、複数の抗てんかん薬を使ったり、食事療法を検討したりするなど、コントロールに工夫が必要です。
刺激への過敏性
音や光、触られることに対して敏感で、驚きやすかったり、泣き止まなかったりすることがあります(易刺激性)。
3. 腎臓・泌尿器の症状
身体的な合併症の中で、最も頻度が高く注意が必要なものです。
水腎症(すいじんしょう)
尿の通り道が狭かったり、逆流したりすることで、腎臓の中に尿がたまり、腎臓が腫れてしまう状態です。SGSの患者さんの約90%に見られると言われています。
重症化すると腎不全になるリスクがあるため、定期的なエコー検査や、場合によっては手術が必要になります。
4. 骨格の症状
手足の短縮
腕や足が短いことがあります。
肋骨の異常
肋骨が幅広で、胸が広い形状をしていることがあります。
内反足(ないはんそく)
足の裏が内側を向いている状態が見られることがあります。
頭蓋骨の硬化
レントゲンを撮ると、頭の底の骨(頭蓋底)が分厚く硬くなっている特徴的な所見が見られます。
5. 腫瘍のリスク
SGS特有の注意点として、特定の腫瘍ができやすいというリスクがあります。
仙尾部奇形腫(せんびぶ・きけいしゅ)
お尻のあたり(仙骨・尾骨)にできる腫瘍です。
神経上皮性腫瘍
脳や神経にできる腫瘍です。
これらは良性の場合も悪性の場合もありますが、早期発見のために定期的な検査(血液検査や画像検査)が推奨されます。
6. 摂食・呼吸の問題
哺乳障害
吸う力や飲み込む力が弱く、ミルクをうまく飲めないことがあります。誤嚥(気管に入ってしまうこと)のリスクも高いです。
呼吸障害
舌が大きいことや、喉の構造の問題、あるいは中枢神経の問題により、呼吸が浅かったり、止まりやすかったりすることがあります。
原因:なぜ起きたのか
ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。
SETBP1遺伝子の変異
SGSの原因は、18番染色体にある「SETBP1(セット・ビー・ピー・ワン)」という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、DNAの情報を読み取るスイッチのような役割をするタンパク質(DNA結合タンパク質)の設計図です。
機能獲得型変異(Gain of function)
SGSで起こる変異は、遺伝子の働きが失われるのではなく、「働きすぎてしまう(機能が強くなりすぎる)」タイプです。
SETBP1タンパク質が分解されにくくなり、細胞の中に過剰に溜まってしまうことで、脳や腎臓、骨の形成に悪影響を及ぼすと考えられています。
突然変異(de novo変異)
SGSの患者さんのほぼ全員が、「de novo(デ・ノボ)」と呼ばれる突然変異で発症します。
これは、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精後の細胞分裂の非常に早い段階で、偶然SETBP1遺伝子に変化が起きたものです。
ご両親の遺伝子には異常がないケースがほとんどです。つまり、誰にでも起こりうる、自然の確率的な現象であり、防ぐことは現代の医学では不可能です。

診断と検査
診断は、特徴的な見た目や症状の組み合わせから疑われ、最終的には遺伝学的検査で確定します。
1. 臨床診断
医師は、以下のような特徴の組み合わせがあるかを確認します。
中顔面低形成などのお顔立ち
重度の発達遅滞
水腎症
骨格の特徴
これらが揃っている場合、SGSが強く疑われます。
2. 画像検査
レントゲン
頭蓋底の骨硬化や、肋骨の幅広さなど、SGSに特徴的な骨の所見を確認します。
超音波(エコー)・MRI
腎臓の水腎症の有無や、脳の構造(脳室拡大や脳梁欠損など)を確認します。腫瘍のスクリーニングも行います。
3. 遺伝学的検査(確定診断)
血液検査でDNAを調べ、SETBP1遺伝子の特定の部分(ホットスポットと呼ばれる、変異が起きやすい場所)に変化があるかを確認します。
これにより診断が確定します。確定診断は、将来の予後予測や、適切な医療ケアの計画を立てるために非常に重要です。
治療と管理:これからのロードマップ
残念ながら、SETBP1遺伝子の変異そのものを治す治療法(根本治療)は、現時点では確立されていません。
しかし、「治療法がない」=「何もできない」ではありません。
SGSの治療は、それぞれの症状を和らげ、合併症を防ぎ、お子様が快適に過ごせるようにする「対症療法」と「緩和ケア的アプローチ」が中心となります。
1. てんかんの管理
SGSのケアにおいて最も難しい部分の一つです。
抗てんかん薬
発作の種類に合わせて、様々なお薬を調整します。1種類だけでなく、複数を組み合わせることも多いです。
ケトン食療法
薬が効きにくい場合、特殊なミルクなどを使った食事療法が効果を示すことがあります。
2. 呼吸と栄養の管理
お子様の命と成長を支える土台です。
経管栄養・胃ろう
口から安全に十分な量を食べることが難しい場合、鼻からのチューブや、お腹に直接栄養を入れる「胃ろう」の手術を行うことが推奨されることが多いです。
胃ろうは「食べる楽しみを奪う」ものではなく、「安定した栄養を確保し、誤嚥性肺炎を防ぎ、体を楽にする」ための前向きな選択肢です。
呼吸サポート
酸素吸入や、吸引器による痰の除去、場合によっては人工呼吸器の使用など、状態に合わせたサポートを行います。
3. 腎臓・泌尿器の管理
水腎症に対しては、定期的なエコー検査が必要です。尿路感染症(発熱の原因になります)を起こしやすいため、予防的に抗生物質を飲んだり、感染時は早めに治療したりします。尿の流れを良くする手術が必要になることもあります。
4. 腫瘍のスクリーニング
仙尾部奇形腫などの腫瘍ができていないか、定期的に血液検査(腫瘍マーカー)や画像検査を行います。早期に見つければ、手術で取り除くことができます。
5. リハビリテーションと療育
身体的な機能回復だけでなく、感覚統合(感覚遊び)や、コミュニケーションの形成を目指します。
理学療法(PT):関節が固まらないように動かしたり、楽な姿勢(ポジショニング)を整えたりします。
感覚へのアプローチ:音楽、光、触れ合いなど、お子様が心地よいと感じる刺激を探し、反応を引き出します。
予後と生活について
SGSは重篤な疾患であり、以前は「乳幼児期に亡くなることが多い」とされていました。呼吸不全、感染症(肺炎など)、難治性てんかん、腫瘍などが生命予後に影響します。
しかし、近年の医療的ケア(在宅酸素、胃ろう、感染症管理など)の進歩により、学童期やそれ以降まで生存するお子様が増えてきています。
予後には個人差がありますが、ご家族と共に自宅で生活し、訪問看護や訪問診療を利用しながら、穏やかな時間を積み重ねているケースは少なくありません。
日々の生活では、お風呂に入れたり、散歩に出かけたり、兄弟と遊んだりと、普通の子育てと同じような時間の中に、医療的ケアが組み込まれる形になります。
お子様は言葉を話せなくても、表情や体の緊張具合、声の出し方で、快・不快を伝えてくれるようになります。ご家族は、その「小さなサイン」の専門家になっていきます。
まとめ
ここまでの重要ポイントを振り返ります。
- シンツェル・ギーディオン症候群(SGS)は、SETBP1遺伝子の変異による希少疾患です。
- 特徴的なお顔立ち、重度の発達遅滞、水腎症、難治性てんかんが主な症状です。
- 原因は突然変異であり、親の責任ではありません。
- 根本治療はありませんが、胃ろうやてんかん管理などの対症療法でQOL(生活の質)を高めることができます。
- 腫瘍のリスクがあるため、定期的なスクリーニング検査が重要です。
