自閉症と大頭症を伴う知的発達障害(CHD8関連神経発達障害)

ハート

遺伝子検査の結果報告書に記された「Intellectual developmental disorder with autism and macrocephaly」という長い英語の診断名、あるいは「CHD8遺伝子の変異」という結果を見て、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「頭が大きくなる傾向があります」や「自閉症の特性を持っています」といった話をされて、聞き慣れない病名に戸惑い、将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。

特に、我が子の頭が少し大きいかもしれないと気になっていた方にとっては、それが病気の特徴の一つであると知り、驚かれているかもしれません。また、便秘や睡眠の問題など、日頃の育児での困り事が、まさか遺伝子と関係しているとは思わなかったという方も多いでしょう。

まず最初に、言葉の整理をさせてください。

この「自閉症と大頭症を伴う知的発達障害」は、近年では原因となる遺伝子の名前をとってCHD8関連神経発達障害(CHD8-related neurodevelopmental disorder)という名前で呼ばれることが一般的になってきています。

これは、第14番染色体にあるCHD8(シーエイチディーエイト)という遺伝子の変化によって引き起こされる先天性の疾患です。

全体的な発達の遅れや、自閉スペクトラム症(ASD)の特性、そして大頭症すなわち頭のサイズが大きいこと、さらに頑固な便秘や睡眠障害などを主な特徴とします。

非常に希少な疾患ですが、近年の遺伝子解析技術、特に全エクソーム解析などの進歩により、これまで原因不明の自閉症や発達遅滞とされていた方の中に、この病気の方が多く含まれていることがわかってきました。特に、自閉症スペクトラム症と診断された方の中で、このCHD8遺伝子の変異が見つかる頻度は比較的高いとされており、自閉症研究の分野でも非常に注目されている疾患の一つです。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病名の意味と背景

この疾患の正式名称に含まれる3つのキーワードが、そのままこの病気の主要な特徴を表しています。

Intellectual developmental disorder(知的発達障害)

知的な発達の遅れがあること。

Autism(自閉症

対人関係の難しさやこだわりといった自閉スペクトラム症の特性があること。

Macrocephaly(大頭症)

頭囲、つまり頭の周りの長さが平均よりも大きいこと。

これら3つの特徴がセットで見られる場合に、この疾患が疑われます。

特に、自閉症スペクトラム症と診断されているお子さんの中で、頭が大きめである場合、このCHD8遺伝子の変異が原因である可能性が考えられます。

CHD8関連障害としての理解

原因となる遺伝子はCHD8です。

この遺伝子は、他の多くの遺伝子の働きを調節する司令塔のような役割を持っています。

特に、脳神経系の発達において重要な役割を果たしており、この遺伝子がうまく働かないことで、脳の成長や神経回路の形成に変化が生じ、特徴的な症状が現れます。

また、脳だけでなく、消化管(胃や腸)の神経系にも影響を与えるため、便秘などの消化器症状が出やすいこともわかっています。

似ている病気との区別(PTENなど)

頭が大きくて自閉症や発達の遅れがある病気は、他にもいくつか知られています。

有名なものとして、PTEN(ピーテン)遺伝子の変異によるPTEN過誤腫症候群があります。

PTEN変異の場合も大頭症と自閉症が見られますが、甲状腺の問題や腫瘍ができやすいといった別の特徴を伴うことが多いです。

これらは症状が似ているため、正確な診断のためには遺伝子検査が不可欠となります。

主な症状

CHD8関連障害の症状は、身体的な特徴、発達・行動面の特徴、そしてその他の身体症状(特に消化器系)の3つに大きく分けられます。

すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。

1. 身体的な特徴(大頭症と顔貌)

ご家族や医師が最初に気づくきっかけとなることが多いのが、頭の大きさです。

大頭症(マクロセファリー)

患者さんの約8割に見られる非常に顕著な特徴です。

頭囲が同年代の平均に比べて大きく、標準偏差でプラス2SD以上(上位2パーセントに入る大きさ)であることが多いです。

生まれた時から大きい場合もあれば、乳児期に急激に頭囲が大きくなる場合もあります。

おでこが広く、張り出しているような特徴的な頭の形(前頭部突出)が見られることもあります。

頭が大きいこと自体は、脳の容量が大きいことなどが原因ですが、水頭症のように脳脊髄液がたまって圧迫しているわけではないため、通常はシャント手術などの外科的な治療は必要ありません。

特徴的なお顔立ち

CHD8関連障害には、いくつか共通するお顔立ちの特徴が報告されています。

おでこが広くて高い。

両目の間隔が少し離れている(眼間開離)。

まぶたが少し重い、あるいは下がっている(眼瞼下垂)。

鼻の先が下を向いている、あるいは平坦である。

あごが尖っている。

これらは非常にマイルドな特徴であり、ご家族に似ている部分も大きいため、個性の範囲内と捉えられることも多いです。成長とともに顔立ちは変化していきます。

2. 神経発達と行動面の特徴

ご家族が日常生活で最もサポートを必要とする部分です。

自閉スペクトラム症(ASD)

患者さんの大多数(約8割から9割)に、自閉スペクトラム症の診断基準を満たす特性が見られます。

視線が合いにくい。

名前を呼んでも反応が薄い。

特定の遊びやおもちゃに強いこだわりを持つ。

くるくる回るものを見つめる、手をひらひらさせるなどの常同行動がある。

変化を嫌い、いつもと同じ手順や道順にこだわる。

感覚過敏(音や光、触覚に敏感)がある。

一方で、非常に人懐っこく、誰とでも関わろうとする社交的なタイプのお子さんもいます。

知的発達障害

軽度から重度まで、幅広い程度の知的障害が見られます。

言葉の遅れが目立つことが多く、発語が出始めるのが2歳や3歳以降になることもあります。

しかし、時間をかけて学習することで、読み書きや計算などのスキルを習得できるお子さんもたくさんいます。

睡眠障害

寝付きが悪い(入眠困難)、夜中に何度も起きる(中途覚醒)、朝早く起きてしまう(早朝覚醒)といった睡眠の問題を抱える患者さんが非常に多いです。

これはご家族の生活リズムや健康にも影響するため、早めの対処が必要です。

注意欠如・多動症(ADHD)の傾向

じっとしているのが苦手で動き回ってしまったり、集中力が続かなかったりすることがあります。

3. 消化器症状(非常に重要)

CHD8関連障害のもう一つの大きな特徴として、お腹のトラブルがあります。

頑固な便秘

患者さんの多くが、乳幼児期から非常に頑固な便秘に悩まされています。

数日間出ないのは当たり前で、浣腸や下剤を使わないと排便できないというケースも珍しくありません。

また、便秘と下痢を繰り返す場合もあります。

これは、CHD8遺伝子が腸の神経系の発達にも関わっており、腸の動き(蠕動運動)が弱いためと考えられています。

便秘による腹痛や不快感は、かんしゃくやパニックの原因になることもあるため、適切に管理することが生活の質を高める上で非常に重要です。

4. その他の特徴

低身長や痩せ型:一部の患者さんでは、身長の伸びが緩やかだったり、食が細くて痩せていたりすることがあります。

てんかん:患者さんの一部にてんかん発作が見られることがありますが、頻度はそれほど高くありません。

背骨の曲がり(側弯症):成長期に見られることがあります。

医者

原因

なぜ、頭が大きくなったり、自閉症になったりするのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きを調節する「司令塔」の不具合にあります。

CHD8遺伝子の役割

この病気の原因は、第14番染色体にあるCHD8(Chromodomain Helicase DNA binding protein 8)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、クロマチンリモデリング因子と呼ばれるタンパク質を作る設計図です。

遺伝子の本棚を整理する役割

私たちの体には約2万個の遺伝子がありますが、それらは細胞の核の中で、ヒストンという糸巻きに巻き付いてコンパクトに収納されています(これをクロマチン構造といいます)。

遺伝子が働くためには、この糸巻きを緩めて、設計図を読み取れる状態にする必要があります。

CHD8タンパク質は、この糸巻きの具合を調節して、他の遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする役割を持っています。

特に、脳の発達や神経細胞の増殖に関わるたくさんの遺伝子(Wntシグナル関連遺伝子など)を一括して管理している、いわば「遺伝子の本棚を整理する図書館司書」のような存在です。

何が起きているのか(ハプロ不全)

この疾患では、2つあるCHD8遺伝子のうちの片方が変異して機能しなくなることで、作られるタンパク質の量が半分になってしまいます。これをハプロ不全と呼びます。

本棚を整理する司書さんが半分しかいないため、必要な時に必要な遺伝子のスイッチを入れることができなくなります。

その結果、脳を作るための神経細胞が増えすぎてしまったり(大頭症の原因)、神経回路のつながり方が変わってしまったり(自閉症の原因)すると考えられています。

遺伝について(顕性遺伝と突然変異)

この病気は常染色体顕性遺伝、かつては優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のCHD8遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、この病気の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察だけでは難しく、遺伝学的検査によって確定されます。

1. 臨床診断のきっかけ

医師は、以下のような特徴の組み合わせを見た時に、この疾患を疑います。

自閉スペクトラム症の診断がある、またはその傾向が強い。

頭囲が大きい(大頭症)。

頑固な便秘がある。

特徴的な顔立ちがある。

特に「自閉症+大頭症+便秘」という組み合わせは、CHD8関連障害を疑う強力なサインとなります。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も確実な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してCHD8遺伝子に変異があるかを調べます。

特定の遺伝子を狙って調べる検査もありますが、最近では次世代シーケンサーという技術を使って、自閉症や発達障害に関連する多くの遺伝子を一度に網羅的に調べる全エクソーム解析や遺伝子パネル検査が行われることが増えています。

これにより、偶然CHD8遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースが増えています。

3. 画像検査(脳MRI)

脳の構造を確認するために行われます。

CHD8関連障害では、大頭症に伴って脳の容積が増加していることが確認されますが、脳の形そのものに大きな奇形が見つかることは稀です。

水頭症や腫瘍など、治療が必要な他の病気がないかを除外するためにも重要な検査です。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復してタンパク質の量を元通りにする根本的な治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。

1. 療育(リハビリテーション)

お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。

自閉スペクトラム症のお子さんに対する標準的な療育アプローチが有効です。

応用行動分析(ABA)

お子さんの行動を分析し、「できたこと」を褒めて伸ばし、「困った行動」を減らしていく手法です。

コミュニケーション能力や身辺自立(着替え、トイレなど)のスキルを習得するのに役立ちます。

言語聴覚療法(ST)

言葉の遅れに対して、コミュニケーションの支援を行います。

言葉の理解を深める遊びを取り入れたり、絵カードや写真、タブレット端末などの代替コミュニケーション手段(AAC)を使ったりして、意思表示の方法を広げます。

「伝えたいことが伝わる」という経験を積むことで、かんしゃくが減ることも期待できます。

作業療法(OT)

手先の使い方や、感覚の問題に対応します。

感覚統合療法を取り入れて、音や触覚への過敏さを和らげたり、体の使い方を練習したりします。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)

年齢が上がってきたら、集団の中でのルールの守り方や、お友達との関わり方を学ぶトレーニングを行います。

2. 便秘の管理(生活の質向上の鍵)

お腹の調子を整えることは、お子さんの機嫌や睡眠、学習意欲に直結します。

食事療法:食物繊維や水分を多く摂るように心がけます。

薬物療法:酸化マグネシウムやポリエチレングリコール(モビコールなど)といった便を柔らかくするお薬や、腸の動きを助けるお薬を使用します。浣腸が必要な場合もあります。

「たかが便秘」と思わず、小児科医と相談しながら、毎日気持ちよく排便できるコントロールを目指しましょう。

3. 睡眠障害への対応

生活リズムを整えることが基本ですが、それだけでは改善しない場合も多いです。

日中の活動量を増やしたり、寝る前の環境(光や音)を調整したりします。

それでも難しい場合は、メラトニンやロゼレムといった睡眠のリズムを整えるお薬を使用することで、入眠がスムーズになり、生活が安定することがあります。

4. 教育と生活のサポート

環境調整

自閉的な特性に合わせて、見通しを持たせる工夫が大切です。

一日のスケジュールを絵や写真で示したり、活動の切り替えを予告したりすることで、不安を減らすことができます(構造化)。

学校選び

就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。

個別の指導計画を作成し、少人数の落ち着いた環境で、一人ひとりのペースに合わせた学習支援を行います。

まとめ

自閉症と大頭症を伴う知的発達障害(CHD8関連神経発達障害)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: CHD8遺伝子の変異により、遺伝子の働きを調節する司令塔が不足し、脳の成長制御や神経回路の形成に影響が出る先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 大頭症(頭が大きい)、自閉スペクトラム症の特性、知的発達の遅れ、頑固な便秘、睡眠障害などが特徴です。
  • 原因: 親からの遺伝ではなく、突然変異によるものが大半です。「顕性遺伝」という形式をとります。
  • 治療: 根本治療はありませんが、ABAなどの療育、便秘や睡眠の管理、環境調整によって、生活の質を大きく向上させることができます。
  • 予後: ゆっくりですが確実に成長します。得意なことを見つけて伸ばすことで、社会参加の道が広がります。

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