MED13L症候群(Impaired intellectual development and distinctive facial features with or without cardiac defects)

医者

医師から「Impaired intellectual development and distinctive facial features with or without cardiac defects」という非常に長い英語の診断名、あるいは「MED13L症候群」という名前を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

聞き慣れない病名や、アルファベットが並ぶ診断書を前にして、戸惑いや大きな不安を感じていらっしゃるかもしれません。特に、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報が少なく、専門的な医学論文ばかりが出てきてしまい、具体的にどんな病気なのかイメージしづらいという状況にあるのではないでしょうか。

この病気は、遺伝子の変化によって引き起こされる生まれつきの体質であり、知的な発達のゆっくりさや、愛らしい特徴的なお顔立ち、そして心臓の病気などを伴うことがある疾患です。かつては原因が特定されておらず、個別の症状で診断されていましたが、近年の遺伝子解析技術の進歩により、MED13Lという遺伝子の変化が共通の原因であることがわかってきました。

概要:どのような病気か

まず、この長い診断名について整理しましょう。

英語の「Impaired intellectual development and distinctive facial features with or without cardiac defects」を日本語に訳すと、「心疾患を伴う、または伴わない、知的発達障害および特徴的な顔貌」という意味になります。

医学的な分類では、頭文字をとってMRFACDと呼ばれることもありますが、一般的には原因となる遺伝子の名前をとってMED13L症候群、あるいはMED13Lハプロ不全症候群と呼ばれることが増えています。この記事でも、より呼びやすい「MED13L症候群」という名称を使って解説を進めます。

MED13L症候群は、第12番染色体にあるMED13L遺伝子の働きが生まれつき弱まっていることによって起こります。この遺伝子は、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で成長する初期段階において、脳や心臓、顔の形などが正しく作られるように指令を出す、非常に重要な役割を担っています。

この指令がうまく伝わらないことで、言葉や運動の発達に遅れが出たり、心臓の形に変化が生じたりします。世界的に見ても患者数は少なく、希少疾患(レアディジーズ)の一つに数えられます。正確な頻度はまだ調査段階ですが、数万人に一人から十万人に一人程度の割合で生まれるのではないかと推定されています。

近年、遺伝子検査(特に全エクソーム解析など)が普及したことで、これまで原因不明の発達遅滞とされていたお子さんの中に、この症候群の方が多く含まれていることがわかってきました。診断される患者さんの数は徐々に増えており、同じ悩みを持つ家族同士がつながれる機会も少しずつ増えてきています。

主な症状

MED13L症候群の症状は、お子さんによって一人ひとり全く異なります。「心疾患を伴う、または伴わない」という病名が示している通り、重い心臓病を持つ子もいれば、心臓には全く問題がない子もいます。ここでは、多くの患者さんに見られる代表的な特徴について詳しく解説します。

1. 知的な発達と神経の特徴

ほぼすべての患者さんに見られるのが、発達のペースがゆっくりであることです。

運動発達の遅れ

赤ちゃんの頃は、体の筋肉の張りが弱い筋緊張低下が見られることが多くあります。抱っこをした時に体がふにゃふにゃと柔らかく感じたり、手足の動きが少し弱かったりすることがあります。

そのため、首がすわる、お座りをする、ハイハイをする、一人で歩くといった運動のマイルストーンに到達する時期が、平均的な月齢よりも遅くなる傾向があります。多くの患者さんは、成長とともに一人で歩けるようになりますが、数歳になってから歩き始めるお子さんも少なくありません。歩き始めてからも、体幹が弱いために転びやすかったり、独特の歩き方をしたりすることがあります。

言葉とコミュニケーション

言葉の発達に関しても、ゆっくりであることが特徴です。

こちらの言っていることは理解していても、それを言葉にして話すこと(表出言語)が特に苦手な傾向があります。意味のある単語が出るのが遅かったり、お話しできる語彙の数が少なかったりします。

しかし、言葉が出にくいからといってコミュニケーションが取れないわけではありません。身振り手振りや表情、あるいは絵カードなどを使って、自分の気持ちを伝えようとする意欲を持っているお子さんはたくさんいます。

知的な発達障害

軽度から重度まで幅がありますが、多くの場合、中等度の知的障害が見られます。学習や複雑な課題の理解にはサポートが必要ですが、一人ひとりのペースで学び、成長していきます。

2. 特徴的なお顔立ち(顔貌)

MED13L症候群のお子さんには、いくつかの共通したお顔の特徴が見られることがあります。これらは「特異的顔貌」と呼ばれますが、病気特有のものというよりは、その子自身の個性として愛らしく感じられる特徴です。

鼻の特徴

鼻の付け根(鼻根部)が少し低く平らで、鼻先が丸くふっくらとしている(球状の鼻尖)傾向があります。また、小鼻が少し横に広がっていることもあります。

口元の特徴

口をポカンと開けていることが多く見られます。これは、口の周りの筋肉が弱いことや、舌が相対的に大きく見えること(巨舌傾向)などが関係しています。

また、上唇の形に特徴があり、人中(鼻の下の溝)がはっきりしていたり、上唇の山なりになっている部分(キューピッドの弓)がくっきりしていたりすることがあります。

目の特徴

眉毛が真っ直ぐでしっかりしていたり、目と目の間が少し離れていたりすることがあります。

これらの顔つきの特徴は、幼少期には比較的はっきりしていますが、成長して骨格がしっかりしてくるにつれて、徐々に目立たなくなっていくこともあります。

3. 心臓の症状

診断名の重要な要素となっているのが、先天性心疾患(生まれつきの心臓の病気)です。報告によると、およそ半数から7割程度の患者さんに何らかの心臓の異常が見つかります。

心室中隔欠損症や心房中隔欠損症などのように、心臓の部屋を隔てる壁に穴が開いているタイプが多く見られます。

また、動脈管開存症や肺動脈狭窄症、さらにはファロー四徴症や大血管転位症といった、より複雑な心臓の構造異常(チアノーゼ性心疾患)を合併することもあります。これらは生後すぐに手術が必要になることもありますが、日本の小児心臓外科の技術は非常に高く、適切な治療を受けることで元気に生活できるようになるケースがほとんどです。

一方で、心臓には全く異常がない、あるいはごく軽微で治療の必要がないという患者さんもいます。

4. 行動面の特徴

行動や性格にもいくつかの傾向が知られています。

明るく人懐っこい性格のお子さんがいる一方で、自閉スペクトラム症に似た行動特性を持つお子さんもいます。

例えば、特定のものに強いこだわりを示したり、手をひらひらさせるような反復動作(常同行動)が見られたり、視線を合わせるのが苦手だったりすることがあります。

また、聴覚過敏や触覚過敏などの感覚過敏を持っていることもあり、大きな音が苦手だったり、特定の服の肌触りを嫌がったりすることがあります。

5. その他の身体症状

てんかん発作

一部の患者さんでは、けいれん発作を起こすてんかんを合併することがあります。多くの場合、お薬でコントロール可能です。

眼科的な問題

斜視(視線がずれる)や、遠視、近視などの屈折異常が見られることがあります。

聴力

難聴が見られることもあるため、聴力のチェックは重要です。

手指の特徴

指が少し短かったり、先細りしていたりすることがあります。

原因

なぜ、このように全身のさまざまな場所に症状が現れるのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きを詳しく見ることで理解できます。

MED13L遺伝子の役割

私たちの体は、約37兆個もの細胞でできており、その一つひとつの細胞の中に、生命の設計図であるDNAが入っています。DNAの中にはたくさんの遺伝子が含まれていますが、そのうちの一つが「MED13L」という遺伝子です。

MED13L遺伝子は、第12番染色体の上に存在しています。この遺伝子は、「メディエーター複合体」という大きなタンパク質グループの一部を作る役割を持っています。

メディエーター複合体は、他のたくさんの遺伝子に対して、「今動いてください」「今は休んでいてください」というスイッチの切り替え(転写の制御)を行う、いわば指揮者のような役割をしています。

特にMED13Lは、赤ちゃんがお腹の中で形作られる時期に、心臓や脳、神経などが正しく発達するように、多くの遺伝子たちに指令を出すために不可欠な存在です。

遺伝子の変化(変異)

MED13L症候群の患者さんでは、このMED13L遺伝子の一部が欠けていたり、配列の文字が書き換わっていたりします。

人間は通常、両親から一つずつ、合計2つのMED13L遺伝子を受け継ぎます。この病気は、2つのうち片方の遺伝子がうまく働かなくなることで発症します。これをハプロ不全と呼びます。

片方の遺伝子は正常に働いているのですが、それだけでは必要なタンパク質の量が足りず、指揮者の力が弱くなってしまうため、全身の発達に影響が出るのです。

親からの遺伝なのか?

多くのご家族が最も気にされるのが、「親から遺伝したのか?」「自分のせいでこうなったのか?」という点です。

結論から申し上げますと、MED13L症候群のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。

これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然に遺伝子の変化が起きたことを意味します。

つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中の食べ物や生活習慣、ストレス、お薬などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の神秘における偶然の現象なのです。

ごく稀に、ご両親のどちらかが症状のないまま遺伝子の変化(モザイクなど)を持っていて、それがお子さんに伝わるケースもありますが、これは非常に珍しい例です。次のお子さんへの影響などが心配な場合は、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることで、より個別の詳しい情報を得ることができます。

医療

診断と検査

この病気は症状が多岐にわたるため、外見や症状だけで診断を確定することは非常に困難です。最終的には遺伝子検査が必要になります。

臨床診断の難しさ

カブキ症候群やチャージ症候群、あるいは1p36欠失症候群など、症状が似ている他の疾患がたくさんあります。そのため、医師はまず発達の遅れや特徴的な顔立ち、心臓の検査結果などを総合的に診て、さまざまな可能性を考えます。

遺伝学的検査

確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が行われます。

染色体マイクロアレイ検査(CMA)

染色体の微細な欠失や重複を調べる検査です。MED13L遺伝子を含む領域がごっそりと欠けているタイプの変異であれば、この検査で見つけることができます。

全エクソーム解析(WES)

遺伝子のうち、タンパク質を作る重要な部分(エクソン)を網羅的にすべて解読する検査です。MED13L遺伝子の中のたった1文字の変化(点変異)など、微細な変化も見つけることができます。近年、この検査技術が広まったことで、MED13L症候群と診断されるお子さんが増えてきました。

現在、原因不明の発達遅滞があるお子さんに対して、この検査が保険適用で行われるケース(IRUDなど)も増えています。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、健康で豊かな生活を送ることは十分に可能です。

1. 心疾患の治療

心臓に異常が見つかった場合は、小児循環器科の医師が定期的に経過を観察します。

穴が小さい場合などは、自然に閉じるのを待つこともあります。手術が必要な場合でも、適切な時期に手術を行うことで、心臓の機能を改善し、運動制限なく生活できるようになることがほとんどです。

2. 発達支援と療育(リハビリテーション)

MED13L症候群のお子さんにとって、早期からの療育は非常に大きな意味を持ちます。脳の可塑性(変化し成長する力)が高い幼児期からアプローチすることで、発達を促すことができます。

理学療法(PT)

筋肉の弱さをカバーし、正しい体の使い方を学びます。寝返り、お座り、歩行などの粗大運動の発達をサポートします。また、インソール(靴の中敷き)や装具を使って、足首の安定性を高めることもあります。

作業療法(OT)

手先の細かな動き(微細運動)や、着替えや食事などの日常生活動作を練習します。また、感覚過敏がある場合は、感覚統合療法などを通じて、感覚の受け取り方を調整する練習も行います。

言語聴覚療法(ST)

言葉の理解や表出を促す練習をします。言葉が出にくい場合は、ジェスチャーや絵カード、タブレット端末などの代替コミュニケーション手段(AAC)を活用することで、意思疎通の楽しさを学び、コミュニケーション意欲を高めていきます。また、食べ物を噛んで飲み込む(摂食嚥下)機能のトレーニングを行うこともあります。

3. 合併症のスクリーニングと管理

定期的に全身のチェックを行うことが推奨されます。

眼科検診:斜視や視力の問題を早期に見つけ、眼鏡などで矯正します。

聴力検査:難聴がないかを確認します。

神経内科受診:てんかん発作が疑われる場合は脳波検査を行い、必要に応じてお薬を開始します。

整形外科的チェック:側弯(背骨の曲がり)などが進行していないかチェックします。

4. 教育と生活環境の調整

就学に際しては、お子さんの発達段階や特性に合わせて、地域の小学校の通常学級、通級指導教室、特別支援学級、あるいは特別支援学校など、最も適した学びの場を選択します。

視覚的な情報処理が得意なお子さんが多いため、学校や家庭では、言葉だけでなく絵や写真を使ってスケジュールや手順を示す(視覚支援)と、理解しやすくなることが多いです。

まとめ

MED13L症候群についての重要なポイントを振り返ります。

病気の本質

MED13L遺伝子の働きが不足することで、脳や体の発達の指令がうまく伝わらない生まれつきの体質です。

主な特徴

運動や言葉の発達がゆっくりであること、中等度の知的障害、愛らしい特徴的なお顔立ち、そして約半数に見られる先天性心疾患が主な特徴です。

原因

多くは突然変異によるものであり、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではありません。

見通し

根本治療はありませんが、心臓の手術や、理学療法・作業療法・言語聴覚療法などの療育を受けることで、着実な成長が期待できます。

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