頭蓋前頭鼻異形成症(Craniofrontonasal dysplasia)

医師から頭蓋前頭鼻異形成症という非常に長く、聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。

生まれたばかりの赤ちゃん、あるいは幼少期のお子様に、このような難しい病名が告げられ、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても非常に希少な疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、頭蓋顔面形成の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない疾患概念です。

この長い診断名を分解して日本語に訳すと、頭蓋(ずがい)・前頭(ぜんとう)・鼻(び)・異形成症(いけいせいしょう)となります。つまり、頭の骨、おでこ、そして鼻の形が作られる過程で、生まれつきの特徴が現れる病気であることを示しています。英語の頭文字をとってCFND(シー・エフ・エヌ・ディー)と呼ばれることもあります。

この病気の最大の特徴は、一般的な遺伝の法則とは異なり、女性の方が男性よりも症状が重くなることが多いという点です。両目の間隔が離れていたり、頭の形に特徴があったり、爪が割れやすかったりといった症状が見られます。

見た目に関わる症状が多いため、親御さんとしては「将来いじめられないだろうか」「手術は怖い」と心を痛めることが多いでしょう。しかし、決して絶望的な病気ではありません。現在は、形成外科や脳神経外科を中心としたチーム医療によって、機能や見た目を改善する治療法が確立されています。適切な時期に治療を受けることで、多くのお子さんが元気に学校生活を送り、社会で活躍されています。

概要:どのような病気か

頭蓋前頭鼻異形成症(CFND)は、生まれつきの遺伝子の変化によって、骨や軟部組織の成長に影響が出る先天性の疾患です。

医学的には頭蓋縫合早期癒合症というグループに関連する病気の一つとして扱われますが、CFNDはそれに加えて顔面や皮膚、爪などにも特徴が現れる症候群です。

この病気の際立った特徴として、遺伝の逆説と呼ばれる現象があります。

通常、X染色体という性染色体に関連する病気は、X染色体を1本しか持たない男性の方が重症になりやすく、2本持っている女性は軽症か無症状になることが一般的です。

しかし、CFNDはその逆で、女性の方が重篤な症状を呈し、男性は軽微な症状(少し目が離れている程度など)で済むことが多いのです。なぜこのようなことが起きるのかについては、原因の項目で詳しく解説しますが、細胞同士の相性の問題が関係しています。

発症頻度は非常に稀で、12万人に1人程度とも言われていますが、症状が軽い男性などは診断されていない可能性もあり、正確な数字は分かっていません。

主な症状

CFNDの症状は、頭、顔、そして体の一部(爪や髪など)に現れます。特に女性の患者さんでは症状がはっきりと出ることが多いですが、個人差も大きいです。

1. 頭蓋骨の特徴

頭蓋骨縫合早期癒合症

赤ちゃんの頭の骨は、いくつかのプレートに分かれていて、そのつなぎ目(縫合線)が開いていることで脳の成長に合わせて大きくなります。

CFNDでは、おでこの骨と頭頂部の骨をつなぐ冠状縫合というつなぎ目が、片側または両側で早く閉じてしまうことがあります。

片側が閉じると、おでこが非対称になり、閉じた側が平らになります(斜頭)。両側が閉じると、頭の前後が短くなり、横幅が広くなります(短頭)。

2. 顔立ちの特徴

両眼開離(りょうがんかいり)

CFNDの最も特徴的な症状の一つです。両目の間隔が通常よりも広く離れています。これは、顔の骨格を作る際に、中心部分の骨が横に広がりすぎたり、目の周りの骨が外側に移動したりするために起こります。

鼻の特徴

鼻の先端が真ん中で割れていて、少しへこんでいることがあります(鼻尖二分)。また、鼻筋が太く平らになっていることもあります。

おでこの特徴

おでこが前に突き出していたり、広かったりすることがあります。

非対称な顔立ち

頭の骨の癒合が片側だけの場合、顔全体が左右非対称になることがあります。

3. 目・口の特徴

眼球の動き

目が離れている影響で、外斜視(目が外側を向く)などの斜視が見られることがあります。また、眼振といって黒目が小刻みに揺れる症状が出ることもあります。

口蓋裂など

稀ですが、口の中の天井部分が割れている口蓋裂や、上あごのアーチが高い(高口蓋)ことがあります。

4. 皮膚・髪・爪の特徴

これらはCFNDを診断する上で非常に重要な手がかりになります。

髪の毛

髪質が縮れていたり、硬かったりする縮毛・剛毛が見られることがあります。また、おでこの生え際がM字型に深くなっている(Widow’s peak)のも特徴です。

爪の変化

手足の爪が薄く、脆くなっていることがあります。特徴的なのは、爪に縦に線が入っていたり、スプーンのように反り返っていたり、縦に割れやすかったりすることです。

その他の骨格

首や肩の骨に特徴が出ることがあります。首が短く見えたり、肩甲骨の位置が高かったり(スプレンゲル変形)、鎖骨に変化があったりすることがあります。

5. 知的な発達

多くの患者さんにおいて、知的な発達は正常範囲内です。普通学級に通い、進学し、就職されている方がほとんどです。

ただし、脳梁(右脳と左脳をつなぐ部分)の発達に特徴があったり、学習障害や注意欠如・多動症(ADHD)のような特性を持っていたりする場合もありますので、個別のサポートが必要になることもあります。

原因

なぜ、女性の方が重症になりやすいのでしょうか。その原因は、細胞同士の「反発」にあります。

EFNB1遺伝子の変異

頭蓋前頭鼻異形成症(CFND)の原因は、X染色体にあるEFNB1(エフリン・ビー・ワン)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、エフリンB1というタンパク質を作る設計図です。このタンパク質は、細胞の表面にあって、隣り合う細胞同士がくっつくべきか、離れるべきかという情報をやり取りする、いわば交通整理の役割を担っています。特に、顔や頭の骨が作られる時に、組織と組織の境界線をきれいに作るために重要です。

細胞間の干渉(Cellular Interference)

これがCFNDの特異な点を説明する鍵です。

男性の場合(XY)

男性はX染色体を1本しか持っていません。もしそのX染色体のEFNB1遺伝子に変異があれば、体中のすべての細胞が変異したエフリンB1タンパク質を作ります。

すべての細胞が同じ状態(変異型)なので、細胞同士のコミュニケーションに混乱は起きにくく、結果として症状は軽くなる傾向があります。

女性の場合(XX)

女性はX染色体を2本持っています。1本に変異があっても、もう1本は正常です。

体の中では、細胞ごとにどちらのX染色体を使うかがランダムに決まります(X染色体不活性化)。そのため、女性の体の中には正常なエフリンB1を作る細胞と、変異したエフリンB1を作る細胞がモザイク状に混在することになります。

正常な細胞と変異した細胞が隣り合うと、お互いのコミュニケーションがうまくいかず、反発し合ったり、本来あるべき場所に移動できなくなったりします。これを細胞間の干渉といいます。

この細胞レベルでの混乱が、組織の境界線を乱し、骨の形成や目の配置に大きな影響を与え、女性の方により重篤な症状を引き起こすと考えられています。

遺伝について

この病気はX連鎖性という遺伝形式をとりますが、前述の通り通常のX連鎖性疾患とは症状の出方が異なります。

母親が患者である場合、50パーセントの確率で子供(男女問わず)に遺伝します。

父親が患者である場合、娘には100パーセント遺伝しますが(娘には必ずX染色体を渡すため)、息子には遺伝しません(息子にはY染色体を渡すため)。

ただし、ご両親は全くこの遺伝子変異を持っておらず、お子さんの代で初めて変化が起きた突然変異(新生変異)であるケースも多くあります。

ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。妊娠中の生活習慣などが原因で起きるものでもありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。

診断と検査

診断は、特徴的な見た目の症状、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。

1. 身体所見の確認

医師は、両眼開離の程度、鼻の形、髪の生え際、そして爪の状態を詳しく観察します。特に、お母さんに軽い症状(爪の異常や軽い両眼開離など)がないかを確認することが、診断の手がかりになることがあります。

2. 画像検査

レントゲン検査・3D-CT検査

頭蓋骨や顔面の骨の形を立体的に映し出す検査です。

冠状縫合などの早期癒合があるか、両目の間の骨の距離がどれくらい開いているか、鼻の骨の形はどうなっているかなどを詳細に確認します。手術計画を立てるために必須の検査です。

MRI検査

脳梁の形成状態や、水頭症の有無など、脳そのものの状態を調べるために行われることがあります。

3. 遺伝学的検査

確定診断のために、血液を採取してDNAを調べる検査が行われます。EFNB1遺伝子に変異があるかどうかを確認します。

特に症状が軽く診断が難しい場合や、次の妊娠を考えている場合などには有用な検査です。

治療と管理

治療は、形成外科、脳神経外科、眼科、矯正歯科などが連携するチーム医療で行われます。

一度の手術で終わりではなく、お子さんの成長に合わせて、長期的な計画で治療を進めていきます。

1. 頭蓋骨の手術(乳幼児期)

頭蓋骨縫合早期癒合症がある場合、脳が成長するためのスペースを確保し、頭の形を整える手術を行います。

生後6ヶ月から1歳頃に行われることが多いです。

前頭蓋形成術

おでこの骨を前に出して形を整える手術です。CFNDの場合、おでこの形だけでなく、目の上の骨のバランスも調整する必要があります。

2. 顔面の手術(顔面二分割術・ボックス骨切り術)

これがCFNDの治療において最も大きな山場となる手術です。

離れている両目を中央に寄せ、顔全体のバランスを整えることを目的とします。

一般的には、骨がある程度しっかりしてくる5歳から10歳頃、小学校入学前後や中学年くらいに行われることが多いですが、重症度や本人の心理的な負担を考慮して時期が決められます。

顔面二分割術(フェイシャル・バイパーティション)

顔の骨を中央で縦に切り、左右の骨を回転させるようにして中央に寄せます。これにより、離れていた目が近づくと同時に、V字型になっていた上あごのラインが平らになり、顔全体のバランスが劇的に改善します。

ボックス骨切り術

目の周りの骨を四角く切り取り、中央に寄せる手術です。

これらの手術は非常に高度な技術を要しますが、見た目を大きく改善し、ご本人の自信を取り戻すために非常に有効な手段です。

3. 鼻の手術

鼻の先が割れている場合や、鼻筋が平らな場合、軟骨を移植したり形を整えたりする手術を行います。顔面の手術と同時に行うこともあれば、成長を待ってから行うこともあります。

4. 眼科的ケア

斜視がある場合は、目の位置を治す手術を行ったり、眼鏡による矯正を行ったりします。両眼視機能(立体的にものを見る力)の発達を守るために重要です。

5. 矯正歯科治療

上あごの形が狭かったり、歯並びが悪かったりすることが多いため、長期的な矯正治療が必要です。顔面の手術と連携して、噛み合わせを作っていきます。

まとめ

頭蓋前頭鼻異形成症(CFND)についての重要なポイントを振り返ります。

病気の本質

EFNB1遺伝子の変異により、細胞同士の交通整理がうまくいかず、頭や顔の骨の形成に影響が出る病気です。

特徴的な遺伝

女性の方が男性よりも症状が重くなるという、珍しい特徴を持っています。

主な症状

両眼開離、鼻尖二分、頭蓋縫合早期癒合症、縮毛、爪の異常などが特徴です。

治療の鍵

脳神経外科や形成外科による手術が中心です。特に顔の骨を動かして目を寄せる手術(顔面二分割術など)が、見た目の改善に大きな効果を発揮します。

予後

知的な発達は良好なことが多く、適切な治療を受けることで社会生活を問題なく送ることができます。

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