医師から「夜間前頭葉てんかん」、あるいはさらに詳しく「5型」という診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
夜中にお子様が突然叫び出したり、激しく手足をばたつかせたりする姿を見て、ただの寝ぼけや夜泣きではないような気がする、と不安な夜を過ごされてきたかもしれません。あるいは、てんかんという言葉を聞いて、これからどのような生活になるのかと戸惑っていらっしゃるかもしれません。
夜間前頭葉てんかんは、その名の通り、夜寝ている間に前頭葉という脳の部分から発作が始まる病気です。その中でも「5型」は、特定の遺伝子の変化によって引き起こされるタイプを指します。最近の医学では、この病気をより正確に表すために「睡眠関連過運動てんかん(SHE)」という新しい名前で呼ぶことも増えてきています。
この病気の特徴は、睡眠中に突然起きる激しい運動を伴う発作ですが、日中は全く症状がなく、知的な発達や運動能力には問題がないケースも多くあります。また、5型に関しては原因となる遺伝子が特定されており、そのメカニズムに基づいた新しい治療法の可能性も拓かれつつあります。
概要:どのような病気か
この病気の正式名称は、英語でEpilepsy, nocturnal frontal lobe, 5と言い、頭文字をとってENFL5、あるいは日本語で常染色体優性夜間前頭葉てんかん5型と呼ばれます。
少し長い病名ですので、言葉を分解して解説します。
常染色体優性
遺伝の形式の一つです。性別に関係なく現れ、親から子へ伝わる可能性がありますが、親は健康で子に突然変異として現れることも多くあります。
夜間
主に夜、寝ている間に症状が出ます。
前頭葉
脳の前の方にある部分で、手足を動かす指令を出したり、思考や感情をコントロールしたりする場所です。ここが発作の震源地になります。
てんかん
脳の神経細胞が一時的に過剰に興奮することで、発作を繰り返す病気です。
5型
原因となる遺伝子の違いによって番号が振られており、5型はKCNT1という遺伝子に変化があるタイプを指します。
近年、この病気の発作は必ずしも前頭葉だけに限らないことや、激しい動き(過運動)が特徴であることから、国際的には睡眠関連過運動てんかん(Sleep-related Hypermotor Epilepsy: SHE)という名称に変更されつつあります。診断書にはこちらの名前が書かれることもありますが、指している病気は同じグループのものです。
5型(KCNT1遺伝子関連)は、他の型に比べて発作の症状が少し強かったり、従来のお薬が効きにくかったりする傾向がある一方で、特定の不整脈のお薬が効果を示す場合があるなど、遺伝子に基づいた治療戦略が重要になるタイプです。
主な症状
夜間前頭葉てんかん5型の最大の特徴は、睡眠中に突然起こる、一見するとてんかん発作とは思えないような激しい動きです。
1. 睡眠中の運動発作(過運動発作)
最も典型的な症状です。寝入ってから少したった頃や、明け方などの浅い眠りの時に突然起こります。
手足を激しくバタバタさせる、自転車をこぐように足を動かす、起き上がってベッドの上を這い回る、腰を激しく振るなどの動作が見られます。
これらの動きは、まるで何かに怯えて暴れているように見えることもあれば、体操をしているように見えることもあります。
2. 発声や叫び声
発作に伴って、突然「うー」「あー」とうなり声を上げたり、「きゃー!」「怖い!」と叫び声を上げたりすることがあります。
このため、悪夢を見ている、あるいは夜驚症(やきょうしょう)という睡眠障害と間違われることが非常によくあります。夜驚症との違いは、てんかん発作の場合は一晩に何度も繰り返すことがある点や、同じようなパターンの動きを繰り返す点です。
3. 発作の長さと頻度
一つの発作は非常に短く、数秒から1分程度で終わることがほとんどです。
しかし、一晩のうちに数回から、多い時には数十回も繰り返す(群発する)ことがあります。
発作が終わると、何事もなかったかのようにすぐにまた眠りにつくことが多いのも特徴です。
4. 前兆(アウラ)
発作が起きる直前に、本人にしか分からない感覚が起きることがあります。これを前兆と呼びます。
言葉で表現できる年齢のお子さんや大人の患者さんは、頭の中に電気が走るような感じ、背筋がゾクッとする感じ、高いところから落ちるような怖い感覚、音が聞こえるなどの体験を語ることがあります。
この不快な感覚のせいで、夜寝るのを怖がったり、不眠になったりすることもあります。
5. 重症度について
5型(KCNT1変異)の場合、発症年齢が乳幼児期と早い傾向があります。
また、一部の患者さんでは、知的な発達の遅れや、精神的な症状(多動や衝動性など)を伴うことがあります。これを「てんかん性脳症」と呼ぶこともありますが、全ての5型の患者さんがそうなるわけではありません。知的には全く問題なく、社会生活を送っている方もたくさんいます。
原因
なぜ、夜寝ている時に脳が興奮してしまうのでしょうか。その原因は、脳の神経細胞にある小さな部品の設計図ミスにあります。
KCNT1遺伝子の変異
夜間前頭葉てんかん5型の原因は、第9番染色体にあるKCNT1(ケー・シー・エヌ・ティー・ワン)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、ナトリウム活性化カリウムチャネルという、神経細胞の興奮を調節する「ブレーキ」や「リセットボタン」のような役割を持つタンパク質を作っています。
脳の神経は、電気信号をやり取りして情報を伝えています。興奮した神経を一度落ち着かせて、次の信号に備えるために、カリウムという物質を細胞の外に出す仕組みがあります。
KCNT1遺伝子に変異があると、このカリウムの通り道(チャネル)の働きが異常に強くなってしまいます(機能獲得型変異といいます)。
一見、ブレーキが強くなるなら興奮しなさそうに思えますが、実際には神経のリセットが早くなりすぎることで、次から次へと過剰に電気信号が発生してしまい、結果としててんかん発作が引き起こされると考えられています。
遺伝のしくみ
この病気は常染色体優性遺伝(顕性遺伝)という形式をとります。
これは、両親のどちらかが同じ病気(または同じ遺伝子変異)を持っている場合、50パーセントの確率でお子さんに遺伝するというものです。
しかし、夜間前頭葉てんかん5型の患者さんの中には、ご両親は全く健康で遺伝子にも異常がなく、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起きた新生突然変異(de novo変異)であるケースも多く報告されています。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではない可能性も十分にあります。また、妊娠中の生活習慣などが原因で起きるものでも決してありません。
診断と検査
診断は、発作の様子の聞き取り、脳波検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 問診と家庭での動画撮影
医師にとって最も重要な情報は、発作がどのようなものかを見ることです。しかし、診察室で寝て発作を起こすことは稀です。
そこで、ご家族がスマートフォンなどで撮影した発作時の動画が、診断の決定的な手がかりになります。暗い部屋での撮影は難しいかもしれませんが、どのような動きをしているか、声を出しているか、呼びかけに反応するかなどが分かると非常に役立ちます。
2. 脳波検査
頭に電極をつけて、脳の電気活動を記録します。
この病気の特徴として、発作が起きていない時の昼間の脳波は、正常であることが多いという点が挙げられます。そのため、短い時間の検査では異常が見つからないことがあります。
診断を確実にするために、一泊入院して夜間の脳波とビデオを同時に記録する長時間ビデオ脳波モニタリングを行うことがあります。発作時の脳波を捉えることができれば、前頭葉にてんかん波が出ていることを確認できます。
3. MRI検査
脳の形に異常がないかを調べます。夜間前頭葉てんかんでは、通常、脳の構造的な異常(腫瘍や奇形など)は見られません。他の病気ではないことを確認するために行われます。
4. 遺伝学的検査
確定診断のために、血液を採取してDNAを調べる検査が行われることが増えています。
KCNT1遺伝子に変異があるかどうかを調べます。
この検査で5型であることが確定すれば、後述する特定の治療薬の選択や、将来の見通しを立てる上で非常に重要な情報となります。

治療と管理
てんかんの治療は、発作を抑えて日常生活を安心して送れるようにすることが目標です。基本的にはお薬による治療が行われます。
1. 抗てんかん薬による治療
夜間前頭葉てんかんの第一選択薬としてよく使われるのは、カルバマゼピン(テグレトール)というお薬です。
多くの患者さんで、この薬を少量飲むだけで劇的に発作が消失したり、回数が減ったりします。
他にも、ラコサミド(ビムパット)、レベチラセタム(イーケプラ)、ラモトリギン(ラミクタール)などが使われることがあります。
2. 難治性の場合の治療(キニジン療法など)
5型(KCNT1変異)の特徴として、通常の抗てんかん薬が効きにくい薬剤抵抗性を示す場合があります。
そのような場合、遺伝子のメカニズムに基づいた治療が検討されることがあります。
具体的には、キニジンというお薬です。これは本来、心臓の不整脈を治療する薬ですが、KCNT1遺伝子が作るカリウムチャネルの働きを抑える作用があることが分かっています。
海外や日本の一部の研究では、このキニジンを投与することで、他の薬では止まらなかった発作が改善したという報告があります。ただし、心臓への副作用のリスクがあるため、専門医のもとで心電図を管理しながら慎重に使用する必要があります。
3. 外科治療
お薬でどうしても発作が止まらず、発作の震源地が明確に特定できる場合には、外科手術でその部分を切除する方法が検討されることもあります。
4. 日常生活の管理と安全対策
睡眠環境の整備
発作中にベッドから落ちたり、家具にぶつかって怪我をしたりしないように対策をします。
ベッドの周りにクッションマットを敷く、ベッドガードをつける(隙間に挟まらないよう注意が必要です)、寝室に危険な物を置かないなどの工夫が大切です。
睡眠不足を避ける
睡眠不足や不規則な生活は、発作の引き金になりやすいです。規則正しい生活リズムを心がけ、十分な睡眠時間を確保するようにしましょう。
ストレスの管理
精神的なストレスも発作の誘因になることがあります。リラックスできる時間を作ることが大切です。
まとめ
常染色体優性夜間前頭葉てんかん5型(ADNFLE5)についての重要なポイントを振り返ります。
病気の本質
睡眠中に前頭葉を中心とした脳の興奮が起こり、激しい体の動きや叫び声を伴う発作を繰り返す病気です。
原因
KCNT1遺伝子の変異により、神経の興奮を調節する機能が強くなりすぎることで発症します。
症状の特徴
一晩に何度も繰り返す短い発作、激しい運動、叫び声などが特徴です。夜驚症と間違われやすいです。
治療
カルバマゼピンなどの抗てんかん薬が基本ですが、5型の場合はキニジンなどの特殊な治療が有効な場合もあります。
生活
発作による怪我を防ぐ寝室の環境作りと、規則正しい生活が重要です。
