この記事のまとめ
発達性およびてんかん性脳症17型(DEE17)は、GNAO1遺伝子の変異によって乳児期からのてんかん発作と重度の発達の遅れが生じる、世界的にも報告数の少ない希少疾患です。ほとんどが両親由来ではない突然変異(de novo変異)で発症し、ご両親の妊娠中の生活が原因になることはありません。本記事では症状・原因・診断・治療の最新知見に加え、同じGNAO1遺伝子から生じる不随意運動優位型(GNAO1関連障害/NEDIM)との違い、次のお子様への影響、妊娠中のNIPTとの関係までを、学術文献にもとづいて整理します。
この記事でわかること
- DEE17(GNAO1関連てんかん性脳症)の症状と、てんかん発作・不随意運動それぞれの特徴
- 原因遺伝子GNAO1の働きと、なぜてんかん型と運動障害型に分かれるのか
- 「自分のせいではないか」という不安への答えと、次のお子様への遺伝の可能性
- 診断・治療(脳深部刺激療法DBSなど)の現状と、妊娠中のNIPTとの関係
医師からDevelopmental and epileptic encephalopathy 17という非常に長く、難解な診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
まだ小さなお子様に、日本語の定まった呼び方もまだ浸透していないような難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、てんかんや遺伝、神経内科の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない、比較的新しい疾患概念です。
この長い診断名を日本語に訳すと、発達性およびてんかん性脳症17型となります。医療現場では、頭文字をとってDEE17(ディー・イー・イー・ジュウナナ)と呼ばれることが一般的です。
また、原因となる遺伝子の名前をとってGNAO1関連神経発達障害やGNAO1関連てんかん性脳症と呼ばれることも増えています。
この病気は、乳児期にてんかん発作が始まり、それとともに全体的な発達の遅れや、自分の意思とは関係なく体が動いてしまう不随意運動が見られるという特徴があります。その原因として、GNAO1という特定の遺伝子に変化が起きていることが分かっています。
脳症という言葉や17型という数字に圧倒されてしまうかもしれませんが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、重症度を表す数字ではありません。
また、原因が遺伝子にあることが分かったということは、これから起こりうることへの対策が立てやすくなり、お子さんに合った療育やケアのプランを考えるための地図を手に入れたということでもあります。私自身、NIPTのご相談の中で「原因がわかって、かえって落ち着いた」という声を伺うことがあります。あまり恐れすぎず、一つひとつ整理していきましょう。
1. 概要:どのような病気か
DEE17は、GNAO1遺伝子の変異により脳の神経伝達に異常が生じ、てんかん発作と発達の遅れが同時に進行する先天性の疾患です。まず、この病名グループの意味を理解することから始めましょう。
発達性とは、生まれ持った遺伝子の変化そのものが、脳の発達や成長に影響を与えていることを意味します。つまり、てんかん発作があるから発達が遅れるだけでなく、発作がなくても発達に課題が生じる体質であることを示しています。
てんかん性とは、頻繁なてんかん発作や、脳波の激しい乱れが、脳の機能や発達にさらなる悪影響を与えている状態を指します。脳症とは、脳全体の働きに広範な影響が出ている状態を指す医学用語です。
つまり、DEE17は遺伝子の影響による発達の遅れと、てんかん発作による脳への負担の二つの要素が合わさって、発達や神経の症状が現れる病気です。
この17型は、GNAO1(ジー・エヌ・エー・オー・ワン)という遺伝子の変異によって引き起こされることが2013年の研究で明らかになりました。国内では横浜市立大学の研究グループが、治療薬の効きにくい難治性てんかんの原因遺伝子としてGNAO1変異を世界に先駆けて報告した経緯があります。比較的新しい疾患概念でありながら、日本の研究が診断確立の土台を築いてきた領域といえます。
GNAO1遺伝子の変異は、症状の出方によって大きく二つのタイプに分けられることが多いです。一つはてんかんが主症状のタイプ、もう一つは激しい不随意運動が主症状のタイプです。DEE17は、この中でもてんかん発作を伴い、発達の遅れが見られるタイプを指しますが、成長とともに不随意運動が現れることも多く、両方の特徴を併せ持つお子さんも少なくありません。
2. 主な症状
DEE17の症状は、てんかん発作、発達の遅れ、そして特徴的な不随意運動の三つに大きく分けられます。お子さんによって症状の重さや出方は異なりますが、これまでに報告されている代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。
てんかん発作
多くの患者さんにおいて、生後数ヶ月以内の乳児期早期にてんかん発作が始まります。中には、生後数日以内の新生児期から発作が見られることもあります。発作の形は様々ですが、以下のようなタイプが報告されています。
| 発作のタイプ | 特徴 |
|---|---|
| てんかん性スパズム | 両手を広げてお辞儀をするような動作を、数秒おきに繰り返す発作。シリーズ形成が特徴で、大田原症候群やウエスト症候群の診断基準を満たすこともある |
| 焦点発作 | 体の一部がピクピク動いたり、視線が偏ったりする発作 |
| 強直発作 | 手足が突っ張って硬くなる発作 |
DEE17のてんかん発作は、一般的な抗てんかん薬が効きにくい難治性であることが多いです。複数の薬を組み合わせても発作を完全に止めることが難しい場合があり、発作の回数を減らし、生活に支障が出ないようにコントロールしていくことが目標になります。成長とともに発作の頻度が減ったり、消失したりすることもあります。
運動障害(不随意運動)
これはDEE17、およびGNAO1遺伝子変異を持つお子さんにとって、非常に重要かつ注意が必要な症状です。てんかん発作とは別に、自分の意思とは関係なく体が勝手に動いてしまう症状が現れることがあります。
ジスキネジア・コレアは、手足や顔、口などがくねくねと踊るように動いたり、激しくバタバタと動いたりする症状です。ジストニアは、筋肉が勝手に収縮して、体がねじれたり、手足が突っ張って変な姿勢で固まってしまったりする症状を指します。
特に注意が必要なのが、感染症による発熱やストレスなどをきっかけに、この不随意運動が激しくなり止まらなくなってしまうジスキネジア重積・ジストニア重積と呼ばれる状態です。体が激しく動き続けるため、体力を激しく消耗し、筋肉が壊れてしまう横紋筋融解症や、脱水、高熱などを引き起こし、命に関わることもあります。てんかん発作と見分けがつきにくいことがありますが、意識があることが多いのが特徴です。このような状態になった場合は、集中治療室での緊急治療が必要になります。
発達と神経の症状
発作と並んで、重度の発達の遅れが見られます。首がすわる、目でものを追う、お座りをする、ハイハイをするといった運動面の発達と、あやすと笑う、言葉を理解するといった精神面の発達の両方が、一般的なペースよりもかなりゆっくりになります。
多くの場合、重度の知的障害を伴います。言葉によるコミュニケーションが難しい場合もありますが、ジェスチャーや表情で感情を伝えたり、こちらの言っていることを理解していたりするお子さんもいます。
赤ちゃんの頃に、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることが非常に多いです。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりします。この筋緊張低下によって、運動発達がさらにゆっくりになる傾向があります。
その他の症状
おっぱいやミルクを飲む力が弱い哺乳障害や、食べ物を飲み込むのが苦手な嚥下障害が見られることがあります。また、視線を合わせにくいといった視覚的な反応の乏しさや、睡眠障害が見られることもあります。
3. 原因:GNAO1遺伝子の働き
DEE17の原因は、細胞の中で情報を伝えるメッセンジャーの役割をするタンパク質、GNAO1の異常です。なぜ、てんかんが起きたり、体が勝手に動いたりするのかを見ていきましょう。
GNAO1遺伝子の役割
DEE17の原因は、第16番染色体にあるGNAO1(ジー・エヌ・エー・オー・ワン)という遺伝子の変異です。この遺伝子は、Gタンパク質アルファサブユニット(Gαo)というタンパク質を作るための設計図です。
私たちの体の中では、細胞の外からの刺激や情報を細胞の中に伝えるために、様々なシグナル伝達という仕組みが働いています。Gタンパク質は、この情報の受け渡しを行う非常に重要なメッセンジャーです。特にGNAO1が作るタンパク質は、脳の神経細胞に非常に多く存在し、神経細胞の興奮を抑えたり、運動をコントロールしたりする信号を伝えるのに中心的な役割を果たしています。
てんかん型と運動障害型を分ける仕組み
GNAO1遺伝子に変異が起きると、このメッセンジャーであるタンパク質の形が変わってしまったり、うまく働かなくなったりします。海外の研究チームによる機能解析では、変異のタイプと症状の出方に一定の対応関係があることが示されています。
| 変異のタイプ | タンパク質の変化 | 現れやすい症状 |
|---|---|---|
| 機能喪失型(Loss of Function) | メッセンジャーが働かず、信号が伝わらない | てんかん発作が中心。DEE17ではこのタイプが多い傾向 |
| 機能獲得型(Gain of Function) | メッセンジャーが過剰に働く、または誤った信号を伝え続ける | 激しい不随意運動が中心(GNAO1関連障害/NEDIM) |
実際には、これらの機能の変化は複雑で、一つの変異がてんかんと不随意運動の両方を引き起こすこともあります。脳の中の信号伝達がうまくいかないことで、神経回路の形成や機能に支障が出て、てんかん、運動障害、発達の遅れという三つの大きな症状が現れるのです。
この対応関係については、後述する不随意運動優位型(GNAO1関連障害)の記事とあわせて読むと、GNAO1関連疾患全体の見取り図がつかみやすくなります。
遺伝について:ご自身を責めないでください
多くのご家族が、親から遺伝したのか、妊娠中の生活に問題があったのかとご自身を責めてしまわれます。しかし、重症型であるDEE17のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。
これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にGNAO1遺伝子に変化が起きたことを意味します。つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。

4. 次のお子様への影響:遺伝形式と再発リスク
DEE17は常染色体顕性遺伝の形式をとりますが、実際の患者さんのほとんどは孤発例(家族内で一人だけ)です。「次の子にも同じことが起こるのか」というご心配は、ご家族が最も知りたい点の一つでしょう。
海外の症例データベースをまとめた報告では、DEE17をはじめとする重症型のGNAO1関連障害はほとんどがde novo変異による孤発例とされています。ただし、両親のどちらにも変異が見られないケースでも、ごくまれに生殖細胞モザイク(親の精子や卵子の一部にだけ変異が生じている状態)により、きょうだいに再発した例が報告されています。両親の血液検査で変異が検出されない場合でも、この可能性がある分だけ、一般集団よりわずかにリスクが高くなるとされています。
お子さんのGNAO1変異が特定されていれば、次の妊娠では、絨毛検査や羊水検査でその特定の変異の有無を直接調べる確定的な出生前診断や、体外受精を行う場合は着床前遺伝学的検査(PGT)が選択肢になります。次のお子様への影響がどの程度かは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで個別に確認してください。
5. 診断と検査
診断は、症状の観察、脳波検査、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。DEE17は症状だけでは他の発達障害やてんかん症候群と区別がつかないことが多いため、最終的には遺伝学的検査が確定診断の決め手になります。
脳波検査
てんかん発作の診断や、脳の活動状態を調べるために不可欠な検査です。DEE17のお子さんの脳波では、サプレッション・バーストと呼ばれる特徴的なパターンが見られることがあります。これは、脳波が平坦になる時期と激しい波が出る時期を交互に繰り返すもので、大田原症候群などの重篤なてんかん性脳症で見られる所見です。また、成長とともにヒプスアリスミアと呼ばれる点頭てんかんに特徴的な乱れた波形や、多焦点性スパイクといって脳のあちこちからてんかん波が出ている状態が見られることもあります。
画像検査(MRI)
脳の形や構造を詳しく調べるためにMRI検査が行われます。発症初期には、脳の形に明らかな異常は見られないことが多いです。しかし、発作が長く続いた後や、年齢が進んでくると、脳全体が少し萎縮して小さくなっている様子や、髄鞘化(神経の伝達速度を上げるための被覆)が遅れている様子が見られることがあります。
遺伝学的検査
確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。近年急速に普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた全エクソーム解析(WES)や、てんかん関連遺伝子パネル検査が行われることが一般的です。これは、遺伝子のうちタンパク質を作る重要な部分を網羅的にすべて解読する検査です。この網羅的な遺伝子検査を行って初めてGNAO1遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースがほとんどです。
国内でも、発達の遅れや筋緊張低下を主訴に、初期の脳MRIや脳波検査では原因がわからなかったお子さんが、全エクソームシーケンス(WES)によってGNAO1の新規変異が同定され、確定診断に至った症例が学会誌に報告されています。未診断疾患の解明を目的とした研究事業(IRUD)への登録が、診断確定の後押しになったケースもあります。診断がつくまでに複数の医療機関を回った、というご家族の経験は珍しくありません。
6. 治療と管理
遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法は、現時点ではまだ確立されていません。しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。
てんかんの治療
てんかん発作を減らすために、抗てんかん薬による治療を行います。GNAO1変異に対する特効薬というものはまだ確立されていませんが、発作のタイプに合わせて様々なお薬が試されます。フェノバルビタール、レベチラセタム、バルプロ酸、クロバザム、トピラマートなどが使われることが多く、海外の報告では平均して3剤前後を組み合わせて発作のコントロールを試みるケースが目立ちます。
点頭てんかん(ウエスト症候群)のパターンを示す場合は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法という注射の治療が検討されることもあります。また、お薬でコントロールが難しい場合は、ケトン食療法(脂肪分を多く、糖質を極端に少なくした食事療法)が選択肢に入ることがあり、GNAO1関連疾患のてんかんに対してケトン食療法が有効だったとする症例報告もあります。
運動障害(不随意運動)の治療と管理
ここがGNAO1関連疾患のケアにおいて非常に重要なポイントです。ジスキネジアやジストニアなどの不随意運動に対しては、抗てんかん薬とは異なるお薬を使います。テトラベナジンなどのドパミンを調節するお薬や、トリヘキシフェニジル、クロニジン、筋緊張を和らげるバクロフェンなどが試されます。
不随意運動が止まらなくなる重積発作が起きた場合は、入院して点滴で鎮静剤を入れるなどの集中治療が必要です。薬物療法でもコントロールが難しい重度の不随意運動に対しては、脳深部刺激療法(DBS)という外科的な治療が行われることがあります。脳の特定の場所(淡蒼球内節)に電極を埋め込み、電気刺激を送ることで異常な動きを抑える治療法で、GNAO1関連の運動障害に対して大きな症状改善を示すケースが世界各地から報告されています。
発達支援と療育(リハビリテーション)
早期からの療育が、お子さんの成長と生活の安定にとって非常に重要です。理学療法(PT)では、体の柔らかさ(筋緊張低下)や不随意運動に対してアプローチします。姿勢を保つための練習や、関節が硬くならないようなストレッチを行います。不随意運動がある場合、手足がベッドの柵などに当たって怪我をしないように、クッションで保護するなどの環境調整も欠かせません。
座位保持装置(座るための椅子)や車椅子、バギーなどを作る際も、不随意運動があっても安全に乗れるような工夫を専門家と相談します。作業療法(OT)では、手先の感覚を養ったり、遊びを通じて外界への興味を引き出したりします。食事や着替えの介助方法など、日常生活をスムーズにするための工夫も学びます。
言語聴覚療法(ST)では、言葉の理解を促すだけでなく、コミュニケーションの方法(絵カード、ジェスチャー、スイッチなど)を探ります。また、食べる機能(摂食嚥下)の訓練も行います。飲み込みが難しい場合は、食事の形態(とろみの調整など)や介助の姿勢について指導を受けます。
日常生活のケア
飲み込む力が弱かったり、不随意運動で食事が難しかったりする場合は、鼻からチューブを入れたり、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる胃ろうを作ったりして、十分な栄養を確保します。胃ろうは、誤嚥のリスクを減らし、安定した栄養摂取を可能にする有効な手段です。
発熱はてんかん発作や不随意運動の増悪(重積)の引き金になりやすいため、感染症対策は非常に重要です。手洗いなどの基本的な対策に加え、流行期には人混みを避ける、インフルエンザなどの予防接種を計画的に受けるなどの対策を心がけてください。
7. どれくらいの患者さんがいるのか
DEE17を含むGNAO1関連障害は、世界的に見ても報告数が数百人規模にとどまる希少疾患です。正確な患者数はまだわかっていませんが、これまで「原因不明のてんかん性脳症」「原因不明の脳性麻痺様症状」とされてきたお子さんの中に、次世代シーケンサーによる網羅的な遺伝子検査の普及によって、新たにGNAO1関連障害と診断されるケースが世界各地で増えています。
報告数が少ないぶん、長期的な経過に関する大規模なデータはまだ蓄積の途上です。定期的な通院で、その時々の状態に合わせた支援を続けることが大切です。
8. 他の遺伝性てんかん性脳症との関係
発達性およびてんかん性脳症(DEE)は、GNAO1以外にも100種類を超える原因遺伝子が知られている、大きな疾患グループの総称です。「17型」という番号は、あくまで原因遺伝子ごとに割り振られた分類番号にすぎません。
比較的よく知られている原因遺伝子には、乳児期の難治てんかんの原因として頻度の高いSTXBP1や、新生児期からの発作で知られるKCNQ2などがあります。原因遺伝子が異なれば、発作のタイプや発達の経過、有効な薬の傾向も異なります。同じ「てんかん性脳症」という診断名でも、原因遺伝子によって見通しが変わってくる、という点は知っておいていただきたいポイントです。
9. 妊娠中のNIPTとの関係
NIPTで調べる21・18・13トリソミーなどの基本検査は、GNAO1のような単一遺伝子疾患を対象としていません。一方、単一遺伝子疾患まで検査対象を広げたプランでは、GNAO1を含む200種類以上の疾患をスクリーニング対象に組み込んでいる検査もあります。
当院の「NIPTy-MONO(単一遺伝子疾患検査)」も、GNAO1を対象疾患に含む単一遺伝子疾患パネルの一つです。ただし、これはあくまで非確定的なスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。陽性の所見が出た場合は、羊水検査などの確定検査で確認する必要があります。すでにお子さんのGNAO1変異が特定されているご家族が次の妊娠に備える場合は、前章で述べたとおり、その特定の変異を直接調べる絨毛検査・羊水検査による確定検査が基本になります。
今回、この疾患について国内の実体験に基づく投稿をX(旧Twitter)で探しましたが、直近の投稿では見当たりませんでした。世界的にも報告数の少ない希少疾患であるため、一次情報が乏しいのは自然なことです。本記事では代わりに、米国国立医学図書館のGeneReviews・GARD(希少疾患情報センター)、および国内学会誌の症例報告を根拠としています。
10. ご家族へのメッセージ
「脳症」「17型」という言葉の重さに、必要以上に押しつぶされる必要はありません。この番号は重症度を示すものではなく、原因遺伝子を区別するための整理番号にすぎないからです。
長期にわたる療育や通院、時には集中治療が必要になる場面もあり、ご家族の負担が大きくなることもあるでしょう。医療チームや地域のサポート団体、同じ疾患のご家族同士のつながりを頼りながら、無理のない範囲で付き合っていく体制を整えてください。
遺伝カウンセリングの現場では、「両親の検査が正常でも子に伝わることがあるのか」というご相談を数多くお聞きします。生殖細胞モザイクのように、血液検査だけでは分からない事情もあるというのが実感です。ひとりで抱え込まず、専門家に相談してみてください。
まとめ
発達性およびてんかん性脳症17型(DEE17)についての重要なポイントを振り返ります。
病気の本質:GNAO1遺伝子の変異により、神経細胞の信号伝達に異常が生じ、脳の機能や運動制御に影響が出る先天性の疾患です。
主な特徴:乳児期の難治性てんかん、重度の発達遅滞、そしてジスキネジアなどの特徴的な不随意運動が見られます。
治療の鍵:てんかんの治療に加え、不随意運動の管理が非常に重要です。重症の場合は脳深部刺激療法(DBS)などの選択肢もあります。
原因:多くは突然変異(de novo変異)によるもので、親のせいではありません。ごくまれに生殖細胞モザイクによる再発があるため、次のお子様については遺伝カウンセリングで確認してください。
ケアの要点。発作のコントロール、不随意運動への対策、栄養管理、感染症予防など、全身をトータルでケアすることが大切です。
お電話でのご相談も受け付けています。0120-169-629までお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
DEE17とGNAO1関連障害(NEDIM)は同じ病気ですか。
同じGNAO1遺伝子の変異から生じますが、症状の中心が異なります。DEE17は乳児期からのてんかん発作と発達の遅れが主体で、機能喪失型の変異が多い傾向にあります。一方、GNAO1関連障害(NEDIM)は不随意運動が主体で、てんかんが軽いか見られないことが多く、機能獲得型の変異が多い傾向にあります。両方の特徴を併せ持つお子さんもいます。
主な症状は何ですか。
乳児期早期から始まる難治性のてんかん発作、重度の発達の遅れ、そしてジスキネジアやジストニアといった不随意運動が代表的な症状です。筋緊張低下や哺乳障害を伴うこともあります。
親から遺伝するのですか。
DEE17のほとんどは、ご両親のどちらにも原因がない突然変異(de novo変異)によるものです。妊娠中の生活が原因になることはありません。ごくまれに、両親の血液検査で変異が検出されなくても、生殖細胞モザイクによりきょうだいに再発した例が報告されています。次のお子様への影響は遺伝カウンセリングで確認してください。
どのような治療法がありますか。
てんかんには抗てんかん薬やケトン食療法、不随意運動にはテトラベナジンなどの薬物療法を用います。薬でコントロールが難しい重度の不随意運動には、脳深部刺激療法(DBS)という外科的治療が選択肢になることがあります。根本的に遺伝子の変化を治す治療法は、現時点ではまだ確立されていません。
妊娠中のNIPTでこの病気はわかりますか。
21・18・13トリソミーなどの基本検査の対象ではありません。単一遺伝子疾患まで対象を広げたNIPTy-MONOのようなプランでは、GNAO1を含む200種類以上の疾患をスクリーニング対象としていますが、非確定的な検査であり、陽性所見が出た場合は羊水検査などの確定検査が必要です。すでに家族内でGNAO1変異が判明している場合は、その変異を直接調べる絨毛検査・羊水検査が基本になります。
DEE17は指定難病ですか。
2026年現在、DEE17やGNAO1関連障害は、単独の病名として国内の指定難病リストには含まれていません。医療費助成や療育支援の制度については、主治医やお住まいの自治体の窓口に確認してください。
監修:岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有。著書『妊娠したら最初に読んで欲しい本』。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、公的機関・学会・学術論文の情報を参照して作成しています。記載の数値は報告例に基づくものであり、症例数が限られるため今後の知見により変わる可能性があります。診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。
参考情報:GNAO1-Related Disorder|GeneReviews(米国国立医学図書館 NCBI Bookshelf)/Developmental and epileptic encephalopathy 17|GARD 希少疾患情報センター(米国国立衛生研究所)/全エクソームシーケンスにより確定診断に至ったGNAO1異常症の1例|東京女子医科大学雑誌(J-STAGE)/指定難病一覧|厚生労働省
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
