ディアス・ローガン症候群(Dias-Logan Syndrome)

赤ちゃん

医師からディアス・ローガン症候群、あるいはBCL11A関連知的障害という非常に稀な診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。

お子様の発達の遅れや、言葉が出にくいといった症状が気になり、長い検査の末にようやくたどり着いた診断かもしれません。初めて聞く病名に戸惑い、これからどのような成長をたどるのか、どう支えていけばいいのかという大きな不安の中にいらっしゃることと思います。

特に、この病気は2016年に疾患単位として確立された比較的新しいものであり、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。そのため、具体的にどうすればよいのか分からず、社会から取り残されたような孤独を感じてしまっている方もいるかもしれません。

ディアス・ローガン症候群は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳の発達や血液の成分に特徴が現れる体質です。

この病気は、BCL11Aという遺伝子に変化があることが原因で起こります。そのため、医学的にはBCL11A関連知的障害と呼ばれることも多くなっています。

この病気の興味深い特徴の一つに、赤ちゃんの頃の血液成分が大人になっても残っている胎児ヘモグロビン高値持続症というものがあります。これは通常、健康上の問題を引き起こすものではありませんが、診断を確定するための非常に重要な手がかりとなります。

概要:どのような病気か

ディアス・ローガン症候群は、英語でDias-Logan Syndromeと表記されます。

この病名は、この病気の遺伝的な原因や特徴を詳しく報告した研究者であるディアス医師とローガン医師の名前をとって名付けられました。

しかし、最近の遺伝医学の分野では、原因となる遺伝子の名前を使ってBCL11A関連知的障害、あるいは単にBCL11A症候群と呼ぶことが一般的になりつつあります。診断書にはこちらの名前が書かれていることも多いでしょう。

この病気は、染色体の中にあるBCL11Aという遺伝子の働きが弱まることで発症します。この遺伝子は、脳の神経細胞が正しく発達するために必要な指令を出す役割と、血液の中にある赤血球の成分を大人用に切り替える役割という、二つの大きな仕事を持っています。

そのため、この遺伝子に変化が起きると、知的な発達に遅れが出たり、血液検査で特徴的な数値が出たりします。

世界的に見ても患者数は少なく、希少疾患の一つに数えられます。正確な頻度はまだ分かっていませんが、遺伝子検査技術の進歩(特に全エクソーム解析など)が普及したことで、原因不明の発達遅滞とされていたお子さんの中に、この症候群の方が一定数含まれていることがわかってきており、診断される患者さんの数は増えてきています。

主な症状

ディアス・ローガン症候群の症状は、脳や神経に関わるものと、身体的な特徴、そして血液の特徴に分けられます。お子さんによって症状の出方や重さは異なりますが、代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。

1. 発達と神経の特徴

ご家族が最初に気づくことが多いのが、発達のゆっくりさです。

全般的な発達遅滞

首がすわる、お座りをする、歩き始めるといった運動面の発達と、言葉を話し始める言語面の発達の両方が、一般的なペースよりもゆっくりになります。

歩き始めが2歳から3歳頃になることも珍しくありません。

知的障害

軽度から重度まで幅広いですが、多くのお子さんに知的な発達の遅れが見られます。新しいことを覚えるのに時間がかかったり、複雑な指示を理解するのが難しかったりすることがあります。

言葉の遅れ

言葉の理解は比較的良いことが多いですが、自分から話すこと(表出言語)が苦手な傾向があります。言葉が出るまでに時間がかかることがありますが、ジェスチャーや絵カードなどを使ってコミュニケーションを取ることは可能です。

筋緊張低下

赤ちゃんの頃に、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることがよくあります。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりすることがあります。これが運動発達の遅れの一因ともなります。

行動面の特徴

自閉スペクトラム症(ASD)に似た特徴を持つことがあります。例えば、視線を合わせにくかったり、こだわりが強かったり、特定の手の動きを繰り返したりすることがあります。また、人懐っこく明るい性格のお子さんもいれば、恥ずかしがり屋のお子さんもいます。

2. 身体的な特徴

お顔立ちの特徴

ディアス・ローガン症候群のお子さんには、いくつか共通したお顔の特徴が見られることがあります。

唇、特に上唇が薄い、まつ毛が長い、眉毛がしっかりしている、耳の形や位置に特徴があるなどが報告されています。

また、頭の大きさが平均よりも小さい小頭症が見られることもあります。

ただし、これらは非常にマイルドな特徴であることが多く、パッと見ただけでは分からないこともよくあります。ご両親に似た可愛らしいお顔をしているお子さんがほとんどです。

その他の身体症状

関節が柔らかすぎる関節過伸展や、扁平足が見られることがあります。

また、斜視などの目の問題(視覚障害)を伴うこともあります。

てんかん発作を起こすお子さんも一部いますが、多くはありません。

3. 血液の特徴(胎児ヘモグロビン高値持続)

これは、この病気を診断する上で非常に重要な、ユニークな特徴です。

私たちの血液の中にある赤血球は、酸素を運ぶ役割をしています。この酸素を運ぶタンパク質をヘモグロビンといいます。

実は、お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんと、生まれた後の人間では、使っているヘモグロビンの種類が違います。

お腹の中では胎児ヘモグロビン(HbF)という、酸素を捕まえる力がとても強いタイプを使っています。そして、生まれて肺で呼吸をするようになると、徐々に成人型ヘモグロビン(HbA)というタイプに切り替わっていきます。通常、生後半年から1年もすれば、胎児ヘモグロビンはほとんどなくなります。

しかし、ディアス・ローガン症候群の患者さんは、原因遺伝子であるBCL11Aがこの切り替えスイッチの役割をしているため、スイッチがうまく入らず、大人になっても胎児ヘモグロビンが高いまま残っています。

これを胎児ヘモグロビン高値持続症といいます。

重要なのは、これが残っていても貧血になったり体調が悪くなったりすることはなく、健康上の害は基本的にないということです。むしろ、血液検査をするだけで診断の手がかりが得られるという点で、重要なサインとなります。

原因

なぜ、発達が遅れたり、胎児の血液成分が残ったりするのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きを詳しく見ることで理解できます。

BCL11A遺伝子の役割

この病気の原因は、第2番染色体にあるBCL11A(ビー・シー・エル・イレブン・エー)という遺伝子の変異です。

人間の体は、たくさんの遺伝子という設計図をもとに作られています。BCL11A遺伝子は、その中でも転写因子と呼ばれる、他の遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする司令塔のような役割を果たしています。

この司令塔は、主に二つの場所で重要な指令を出しています。

脳の中での役割

脳の神経細胞が正しい場所に移動したり、神経同士がつながってネットワークを作ったりするのを助けています。特に、神経細胞の軸索という突起が伸びるのを調整しています。

遺伝子の変異によってこの指令がうまく伝わらないと、脳のネットワーク作りがスムーズにいかず、発達の遅れや知的障害につながります。

血液の中での役割

先ほど説明したように、赤血球の中で胎児ヘモグロビンの製造をストップさせ、成人型ヘモグロビンを作るように指令を出します(正確には、胎児ヘモグロビンの遺伝子を抑制する役割です)。

遺伝子の変異によってこの「ストップ」の指令が出せないため、いつまでも胎児ヘモグロビンが作られ続けてしまうのです。

遺伝子の変化(変異)について

ディアス・ローガン症候群の患者さんでは、BCL11A遺伝子の片方に変化が起きており、正常なタンパク質が半分しか作られない、あるいは機能しない状態になっています。これをハプロ不全といいます。半分の量では司令塔としての仕事が追いつかないため、症状が現れます。

遺伝のしくみ

この病気は常染色体顕性遺伝(以前の優性遺伝)という形式をとります。

これは、理論上は親から子へ50パーセントの確率で伝わる形式です。

しかし、ディアス・ローガン症候群の患者さんのほとんどは、ご両親は健康で遺伝子にも異常がなく、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起きた新生突然変異(de novo変異)によるものです。

これは、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にBCL11A遺伝子にコピーミスが起きたことを意味します。

つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。

医者

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察、血液検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。

1. 臨床診断と血液検査

医師は、発達の遅れや特徴的なお顔立ちなどの症状から、何らかの遺伝的な要因を疑います。

もし、この時点でディアス・ローガン症候群が疑われる場合、あるいは偶然血液検査を行った場合に、ヘモグロビン分画という詳しい血液検査を行うことがあります。

ここで、年齢にそぐわない高い数値の胎児ヘモグロビン(HbF)が検出されれば、この病気の可能性が極めて高くなります。これは痛みを伴う特別な検査ではなく、通常の採血で調べることができます。

2. 画像検査(MRI)

脳のMRI検査を行うことがあります。

多くの患者さんでは明らかな異常は見られませんが、小脳が少し小さい、あるいは脳梁(右脳と左脳をつなぐ部分)が薄いといった軽微な所見が見られることがあります。これは他の病気を除外するためにも重要な検査です。

3. 遺伝学的検査

確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。

近年では、全エクソーム解析という、一度にたくさんの遺伝子を調べる検査が行われることが増えています。

この検査でBCL11A遺伝子に変異があることが確認されれば、診断は確定します。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、健康で豊かな生活を送ることは十分に可能です。

1. 発達支援と療育(リハビリテーション)

ディアス・ローガン症候群のお子さんにとって、早期からの療育は成長の大きな助けになります。

理学療法(PT)

筋肉の弱さ(筋緊張低下)や関節の柔らかさがあるため、体のバランス感覚を養い、歩行などの運動発達を促します。足首を支えるインソール(中敷き)やハイカットの靴を使用することもあります。

作業療法(OT)

手先の不器用さがある場合、遊びを通じて手と目の協調運動を練習したり、食事や着替えなどの日常生活動作をしやすくする工夫を学んだりします。

言語聴覚療法(ST)

言葉の遅れに対するアプローチです。言葉での表現が難しい場合でも、サイン(ジェスチャー)や絵カード、タブレット端末などの代替コミュニケーション手段(AAC)を活用することで、意思疎通ができるようになります。「伝わる喜び」を知ることは、言葉の発達を促す上でも非常に大切です。

2. 教育的支援

お子さんの理解度や特性に合わせた教育環境を選びます。

地域の学校の特別支援学級や、特別支援学校など、少人数で個別のサポートが受けられる環境が適していることが多いです。

視覚的な情報処理が得意なお子さんが多いため、言葉だけでなく絵や写真を使ってスケジュールを示すなどの視覚支援を行うと、安心して活動できることがあります。

3. 医療的ケア

てんかん

てんかん発作がある場合は、脳波検査を行い、抗てんかん薬による治療を行います。多くの場合、お薬で発作をコントロールすることが可能です。

目のケア

斜視や屈折異常(遠視・乱視など)がある場合は、眼科で定期的にチェックし、必要に応じて眼鏡やアイパッチによる治療を行います。

整形外科的ケア

扁平足や関節の緩みが原因で歩行に影響がある場合は、整形外科医と相談しながら靴や装具を検討します。

4. 胎児ヘモグロビンの管理

前述の通り、胎児ヘモグロビンが高いこと自体には治療の必要はありません。貧血などの症状が出ることもありませんので、特別な食事制限や薬は不要です。健康の証として残っている「赤ちゃんの血液」だと思ってください。

まとめ

ディアス・ローガン症候群(BCL11A関連知的障害)についての重要なポイントを振り返ります。

  • 病気の本質: BCL11A遺伝子の変化により、脳の発達と血液の成分調整に影響が出る先天性の体質です。
  • 主な特徴: 知的障害を伴う発達の遅れ、筋緊張低下、そして胎児ヘモグロビンの持続(血液検査で判明)が特徴です。
  • 健康への影響: 胎児ヘモグロビンが残っていても、身体的な害はありません。
  • 原因: 多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
  • 希望: 根本治療はありませんが、理学療法や言語療法などの療育によって、着実な成長と豊かな生活を送ることができます。

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