医師からDevelopmental and epileptic encephalopathy 5という非常に長く、聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
生まれたばかりの赤ちゃん、あるいは生後数ヶ月のお子様に、日本語の定まった呼び方もまだ浸透していないような難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても報告数がまだ少なく、希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、てんかんや遺伝の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない、比較的新しい疾患概念です。
この長い診断名を日本語に訳すと、発達性およびてんかん性脳症5型となります。医療現場では、頭文字をとってDEE5(ディー・イー・イー・ファイブ)と呼ばれることが一般的です。また、かつては早期乳児てんかん性脳症14型(EIEE14)と呼ばれていたこともあります。
さらに、原因となる遺伝子の名前をとってSPTAN1関連脳症やSPTAN1関連てんかんと呼ばれることも増えています。
この病気は、生後間もない時期にてんかん発作が始まり、それとともに全体的な発達の遅れや、脳の構造的な特徴が見られるという傾向があります。その原因として、SPTAN1という特定の遺伝子に変化が起きていることが分かっています。
脳症という言葉や5型という数字に圧倒されてしまうかもしれませんが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、単に重症度を表す数字ではありません。
また、原因が遺伝子にあることが分かったということは、これから起こりうることへの対策が立てやすくなり、お子さんに合った療育やケアのプランを考えるための地図を手に入れたということでもあります。
概要:どのような病気か
発達性およびてんかん性脳症5型(DEE5)は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳の形成や神経細胞の働きに影響が出る疾患です。
まず、この発達性およびてんかん性脳症という病名グループの意味を理解することが大切です。
発達性とは、生まれ持った遺伝子の変化そのものが、脳の発達や成長に影響を与えていることを意味します。つまり、てんかん発作があるから発達が遅れるだけでなく、発作がなくても発達に課題が生じる体質であることを示しています。
てんかん性とは、頻繁なてんかん発作や、脳波の激しい乱れが、脳の機能や発達にさらなる悪影響を与えている状態を指します。
脳症とは、脳全体の働きに広範な影響が出ている状態を指す医学用語です。
つまり、DEE5は遺伝子の影響による発達の遅れと、てんかん発作による脳への負担の二つの要素が合わさって、発達や神経の症状が現れる病気です。
この5型は、SPTAN1(スペクターン・ワン、あるいはエス・ピー・ティー・エー・エヌ・ワン)という遺伝子の変異によって引き起こされることが2000年代後半以降の研究で明らかになりました。以前は原因不明の大田原症候群やウエスト症候群(点頭てんかん)と診断されていたお子さんの中に、この遺伝子変異を持つ方が一定数いることがわかってきています。
この病気の大きな特徴として、てんかん発作だけでなく、脳の形、特に小脳や脳梁といった部分の形成に影響が出やすいという点があります。これは原因遺伝子が、脳の構造を作る骨組みに関係しているためです。
主な症状
DEE5の症状は、てんかん発作、発達の遅れ、そして特徴的な脳や身体の所見の三つに大きく分けられます。お子さんによって症状の重さや出方は異なりますが、これまでに報告されている代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。
1. てんかん発作
多くの患者さんにおいて、生後数週間から3ヶ月頃までの乳児期早期にてんかん発作が始まります。中には生まれた直後から発作が見られることもあります。
発作のタイプ
発作の形は様々ですが、以下のようなタイプが報告されています。
- てんかん性スパズム:両手を広げてお辞儀をするような動作を、数秒おきに繰り返す発作です。シリーズ形成といって、一度始まると何度も繰り返すのが特徴で、ウエスト症候群とも呼ばれます。
- 強直発作:手足が突っ張って硬くなり、顔色が赤くなったり青くなったりする発作です。
- 焦点発作:体の一部がピクピク動いたり、視線が偏ったりする発作です。
難治性
DEE5のてんかん発作は、一般的な抗てんかん薬が効きにくい難治性であることが多いです。複数の薬を組み合わせても発作を完全に止めることが難しい場合があり、発作の頻度を減らし、お子さんの苦痛を和らげることを目標に治療が進められます。
2. 発達と神経の症状
発作と並んで、重度の発達の遅れが見られます。
重度の発達遅滞
首がすわる、目でものを追う、お座りをする、といった運動面の発達と、あやすと笑う、言葉を理解するといった精神面の発達の両方が、一般的なペースよりもかなりゆっくりになります。
多くの場合、重度の知的障害を伴います。言葉によるコミュニケーションが難しい場合もありますが、声のトーンや表情、全身の動きで快・不快などの感情を伝えることができるお子さんもいます。
筋緊張の異常
赤ちゃんの頃は、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることが多いです。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりします。
成長とともに、逆に手足の筋肉が突っ張って硬くなる痙縮(けいしゅく)が見られるようになり、手足の自由が利きにくくなることがあります。
視覚的な反応の乏しさ
目そのものの構造には問題がなくても、脳が映像を処理することが苦手なために、おもちゃを目で追わなかったり、視線が合いにくかったりすることがあります。
3. 身体的および脳の構造的な特徴
DEE5のお子さんには、MRI検査などで分かる脳の特徴や、身体的な特徴が見られることがあります。
小頭症
生まれた時の頭の大きさは正常範囲内でも、成長とともに頭囲(頭の大きさ)の増え方が緩やかになり、相対的に頭が小さくなる小頭症が見られることがあります。これは脳の成長がゆっくりであることを反映しています。
脳の構造異常
これがDEE5の非常に重要な特徴です。
MRI検査をすると、小脳や脳幹と呼ばれる脳の土台部分が小さかったり(低形成や萎縮)、右脳と左脳をつなぐ神経の束である脳梁が薄かったりする所見が見られることがよくあります。
また、大脳全体のしわが少ない、あるいは髄鞘化(神経の伝達速度を上げるための被覆)が遅れているといった所見も見られます。これらの特徴は、原因遺伝子が脳の骨組み作りに関わっていることを示唆しています。
顔つきの特徴
おでこが傾斜している、あごが小さいなどのお顔立ちの特徴が報告されることもありますが、これらは非常に個人差があり、ご両親に似た可愛らしいお顔をしているお子さんがほとんどです。
その他の症状
おっぱいやミルクを飲む力が弱い哺乳障害や、食べ物を飲み込むのが苦手な嚥下障害が見られることがあります。また、呼吸が不安定になることもあります。
原因
なぜ、てんかんが起きたり、脳の構造に変化が出たりするのでしょうか。その原因は、細胞の形を保つ骨組みのトラブルにあります。
SPTAN1遺伝子の役割
DEE5の原因は、第9番染色体にあるSPTAN1(スペクターン・ワン)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、アルファ・スペクトリンというタンパク質を作るための設計図です。
私たちの体を作っている細胞の中には、細胞骨格と呼ばれる微細な骨組みがあります。これは、細胞の形を保ったり、細胞の中で物質を運んだり、細胞自体が動いたりするために非常に重要な役割を果たしています。
スペクトリンは、この細胞骨格の主要な成分の一つです。特に脳の神経細胞においては、神経細胞の長い突起(軸索)の形を維持したり、神経細胞同士がつながる場所(シナプス)の構造を安定させたり、神経細胞が正しい場所に移動するのを助けたりしています。
遺伝子の変化による影響
SPTAN1遺伝子に変異が起きると、このスペクトリンタンパク質がうまく作られなかったり、形がおかしくなったりします。
すると、神経細胞の中でしっかりとした骨組みが作れなくなります。
家で例えるなら、柱や梁が弱くなってしまった状態です。そのため、脳という複雑な建物を作るときに、小脳や脳梁といった構造が十分に大きくならなかったり(萎縮や低形成)、神経細胞同士の配線がうまくいかなかったりします。
さらに、スペクトリンは神経細胞の興奮を調整するイオンチャネルなどを正しい場所に固定する役割も担っています。骨組みが崩れることで、これらの調整役が本来あるべき場所に配置されず、神経細胞が過剰に興奮しやすくなり、激しいてんかん発作が引き起こされると考えられています。
遺伝について
多くのご家族が、親から遺伝したのか、妊娠中の生活に問題があったのかとご自身を責めてしまわれます。
しかし、DEE5のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。
これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にSPTAN1遺伝子に変化が起きたことを意味します。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。

診断と検査
診断は、症状の観察、脳波検査、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 画像検査(MRI)
脳の形や構造を詳しく調べるためにMRI検査が行われます。
DEE5を疑う上で、MRI検査は非常に重要です。先ほど述べたような、小脳や脳幹の萎縮、脳梁の低形成、大脳の萎縮や髄鞘化の遅れといった所見が見つかると、診断の手がかりになります。特に、てんかん発症早期からこのような脳の構造変化が見られる場合、SPTAN1遺伝子の関与が疑われます。
2. 脳波検査
てんかん発作の診断や、脳の活動状態を調べるために不可欠な検査です。
DEE5のお子さんの脳波では、ヒプスアリスミアと呼ばれる点頭てんかんに特徴的な乱れた波形や、サプレッション・バーストと呼ばれる、脳波が平坦になる時期と激しい波が出る時期を繰り返す重篤なパターンが見られることがあります。これらは脳の機能が強く影響を受けていることを示すサインです。
3. 遺伝学的検査
確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。
近年急速に普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた全エクソーム解析(WES)や、てんかん関連遺伝子パネル検査が行われることが一般的です。
これは、遺伝子のうちタンパク質を作る重要な部分を網羅的にすべて解読する検査です。DEE5は症状やMRI所見だけでは他の先天性疾患と区別がつかないこともあるため、この網羅的な遺伝子検査を行って初めてSPTAN1遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースがほとんどです。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。
1. てんかんの治療
てんかん発作を減らすために、抗てんかん薬による治療を行います。
SPTAN1変異に対する特効薬というものはまだ確立されていませんが、発作のタイプに合わせて様々なお薬が試されます。
バルプロ酸、レベチラセタム、クロバザム、トピラマート、ゾニサミド、フェノバルビタールなどが使われることが多いです。
点頭てんかん(ウエスト症候群)のパターンを示す場合は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法という注射の治療や、ビガバトリンなどの特殊な薬剤が検討されることもあります。
また、お薬でコントロールが難しい場合は、ケトン食療法(脂肪分を多く、糖質を極端に少なくした食事療法)が選択肢に入ることもあります。
2. 発達支援と療育(リハビリテーション)
早期からの療育が、お子さんの成長と生活の安定にとって非常に重要です。
理学療法(PT)
体の柔らかさ(筋緊張低下)や、逆に筋肉の突っ張り(痙縮)に対してアプローチします。
関節が硬くならないようなマッサージやストレッチを行ったり、楽な姿勢が取れるようにクッションを調整したりします。
座位保持装置(座るための椅子)や車椅子、バギー、足底板(インソール)など、お子さんの体に合った福祉用具を作る際にも専門的なアドバイスを受けます。適切な姿勢を保つことは、呼吸や食事をスムーズにするためにも大切です。
作業療法(OT)
手先の感覚を養ったり、光や音などの刺激を使った遊びを通じて外界への興味を引き出したりします。また、入浴や着替えの介助方法など、日常生活をスムーズにするための工夫を学びます。
言語聴覚療法(ST)
言葉の理解を促すだけでなく、コミュニケーションの方法(スイッチやおもちゃなど)を探ります。また、食べる機能(摂食嚥下)の訓練も行います。飲み込みが難しい場合は、食事の形態(とろみの調整など)や介助の姿勢について指導を受けます。
3. 栄養と呼吸の管理
摂食・嚥下管理
飲み込む力が弱く、口から十分に栄養が摂れない場合は、鼻からチューブを入れたり、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる胃ろうを作ったりして、十分な栄養を確保します。胃ろうは、誤嚥のリスクを減らし、お子さんとご家族の食事時間のストレスを軽減するための有効な手段です。また、胃食道逆流症(ミルクが戻ってきてしまう症状)がある場合は、お薬や注入方法の工夫で対応します。
呼吸管理
呼吸が弱い場合や、痰が出しにくい場合は、吸引器を使用したり、吸入を行ったりします。夜間の呼吸状態を見守るためにモニターを使用することもあります。在宅酸素療法が必要になる場合もあります。
4. 感染症対策
筋緊張が弱く、呼吸の力が弱いお子さんは、風邪をこじらせて肺炎になりやすい傾向があります。
手洗いなどの基本的な感染対策に加え、流行期には人混みを避ける、シナジス(RSウイルス予防薬)の適応があれば接種する、インフルエンザなどの予防接種を計画的に受けるなどの対策が大切です。
まとめ
発達性およびてんかん性脳症5型(DEE5)についての重要なポイントを振り返ります。
病気の本質
SPTAN1遺伝子の変異により、細胞の骨組みを作るスペクトリンに異常が生じ、脳の構造形成や神経の働きに影響が出る先天性の疾患です。
主な特徴
乳児期早期からの難治性てんかん、重度の発達遅滞、小頭症、小脳や脳梁などの脳構造異常が特徴です。
てんかん
難治性であることが多いですが、ACTH療法や様々なお薬の調整でコントロールを目指します。
原因
多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
ケアの要点
発作のコントロールだけでなく、リハビリ、栄養管理、呼吸管理、感染症予防など、全身をトータルでケアすることが大切です。
