医師から「Developmental and epileptic encephalopathy 99」という非常に長く、聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
まだ小さなお子様に、日本語の定訳もまだ浸透していないような難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても報告数がまだ少なく、希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、てんかんや遺伝の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない新しい疾患概念です。
この長い診断名を日本語に訳すと、「発達性およびてんかん性脳症99型」となります。医療現場では、頭文字をとってDEE99(ディー・イー・イー・キュウジュウキュウ)と呼ばれることが一般的です。
この病気は、乳児期早期にてんかん発作が始まり、それとともに全体的な発達の遅れが見られるという特徴があります。その原因として、ATP6V0A1という特定の遺伝子に変化が起きていることが分かっています。
「脳症」という言葉や「99型」という数字に圧倒されてしまうかもしれませんが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、重症度を表す数字ではありません。
また、原因が遺伝子にあることが分かったということは、これから起こりうることへの対策が立てやすくなり、お子さんに合った療育やケアのプランを考えるための地図を手に入れたということでもあります。
概要:どのような病気か
発達性およびてんかん性脳症99型(DEE99)は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳の神経細胞の働きに影響が出る疾患です。
まず、この「発達性およびてんかん性脳症」という病名グループの意味を理解することが大切です。
発達性とは、生まれ持った遺伝子の変化そのものが、脳の発達や成長に影響を与えていることを意味します。つまり、てんかん発作があるから発達が遅れるだけでなく、発作がなくても発達に課題が生じる体質であることを示しています。
てんかん性とは、頻繁なてんかん発作や、脳波の激しい乱れが、脳の機能や発達にさらなる悪影響を与えている状態を指します。
脳症とは、脳全体の働きに広範な影響が出ている状態を指す医学用語です。
つまり、DEE99は「遺伝子の影響による発達の遅れ」と「てんかん発作による脳への負担」の二つの要素が合わさって、発達や神経の症状が現れる病気です。
この99型は、ATP6V0A1という遺伝子の変異によって引き起こされることが2010年代後半から2020年代にかけて明らかになりました。非常に新しい疾患単位であり、現在も世界中で研究が進められています。
患者数は極めて少なく、正確な頻度は分かっていませんが、10万人に1人よりもさらに稀な超希少疾患と考えられています。
主な症状
DEE99の症状は、てんかん発作、発達の遅れ、そして身体的な特徴の三つに大きく分けられます。お子さんによって症状の重さや出方は異なりますが、これまでに報告されている代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。
1. てんかん発作
多くの患者さんにおいて、生後数ヶ月以内の早い時期に最初てんかん発作が現れます。中には新生児期(生後1ヶ月以内)に発症することもあります。
発作のタイプ
発作の形は様々ですが、以下のようなタイプが報告されています。
- ミオクロニー発作:手足や体が一瞬ビクッとする発作です。
- 強直発作:手足が突っ張って硬くなる発作です。
- 欠神発作:意識が数秒間途切れ、動作が止まる発作です。
- てんかん性スパズム:両手を広げてお辞儀をするような動作を繰り返す発作です。
難治性
DEE99のてんかん発作は、一般的な抗てんかん薬が効きにくい難治性であることが多いです。複数の薬を組み合わせても発作を完全に止めることが難しい場合があり、発作とうまく付き合っていく視点が必要になることもあります。
2. 発達と神経の症状
発作と並んで、あるいは発作が始まる前から、発達のゆっくりさが目立つようになります。
全般的な発達遅滞
首がすわる、目でものを追う、お座りをする、ハイハイをするといった運動面の発達と、あやすと笑う、言葉を理解するといった精神面の発達の両方が、一般的なペースよりもかなりゆっくりになります。
重度の知的障害を伴うことが多く、言葉によるコミュニケーションが難しい場合もありますが、表情や身振りで感情を伝えることができるお子さんもいます。
筋緊張低下
赤ちゃんの頃に、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることがよくあります。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりします。これにより、運動発達がさらにゆっくりになる傾向があります。
一方で、成長とともに手足の筋肉が突っ張って硬くなる痙縮(けいしゅく)や、筋肉が勝手に動いてしまうジストニアといった症状が現れることもあります。
視覚障害
目そのものの構造には問題がなくても、脳が映像を処理することが苦手なために目が見えにくい皮質視覚障害(CVI)が見られることがあります。おもちゃを目で追わなかったり、視線が合いにくかったりすることがあります。
3. 身体的な特徴
DEE99のお子さんには、いくつかの身体的な特徴が見られることがあります。
小頭症
生まれた時の頭の大きさは正常範囲内であることが多いですが、成長とともに頭囲(頭の大きさ)の増え方が緩やかになり、相対的に頭が小さくなる小頭症が見られることがあります。これは脳の成長がゆっくりであることを反映しています。
顔つきの特徴
おでこが狭い、耳の位置が低い、上唇が薄いなどのお顔立ちの特徴が報告されていますが、これらは非常にマイルドなものであり、パッと見ただけでは分からないことも多いです。ご両親に似た可愛らしいお顔をしているお子さんがほとんどです。
その他の症状
おっぱいやミルクを飲む力が弱い哺乳障害や、食べ物を飲み込むのが苦手な嚥下障害が見られることがあります。また、歯茎が厚くなる歯肉増殖が見られることもあります。

原因
なぜ、てんかんが起きたり発達が遅れたりするのでしょうか。その原因は、細胞の中にある微細なポンプの故障にあります。
ATP6V0A1遺伝子の役割
DEE99の原因は、第17番染色体にあるATP6V0A1(エー・ティー・ピー・シックス・ブイ・ゼロ・エー・ワン)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、V-ATPase(ブイ・エー・ティー・ペース)という、細胞の中で働く小さなプロトンポンプ(水素イオンポンプ)の一部を作るための設計図です。
このポンプは、細胞の中にあるリソソームというゴミ処理工場や、神経細胞が情報を伝えるために使うシナプス小胞という袋の中を、酸性に保つ役割をしています。
細胞の中の特定の場所を酸性にすることは、不要なタンパク質を分解したり、神経伝達物質を袋の中に詰め込んだりするために、なくてはならない条件です。
遺伝子の変化による影響
ATP6V0A1遺伝子に変異が起きると、このプロトンポンプがうまく作られなかったり、機能が低下したりします。
すると、リソソームの中が十分に酸性にならず、ゴミ処理ができなくなって細胞の中に老廃物がたまったり、神経細胞が情報を伝えるための物質をうまく準備できなくなったりします。
この影響を最も強く受けるのが、活発に活動している脳の神経細胞です。その結果、神経の興奮と抑制のバランスが崩れててんかん発作が起きたり、神経ネットワークの形成がうまくいかずに発達の遅れが生じたりすると考えられています。
遺伝について
多くのご家族が親から遺伝したのか、妊娠中の生活に問題があったのかとご自身を責めてしまわれます。
しかし、DEE99のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。
これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にATP6V0A1遺伝子に変化が起きたことを意味します。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。
診断と検査
診断は、症状の観察、脳波検査、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 脳波検査
てんかん発作の診断や、脳の活動状態を調べるために不可欠な検査です。
DEE99のお子さんの脳波では、てんかん性の突発波(スパイク)が見られるほか、脳全体の電気活動がゆっくりになっている徐波化(背景活動の徐波化)が見られることが特徴的です。これは脳機能の低下を示唆するサインです。
2. 画像検査(MRI)
脳の形や構造を詳しく調べるためにMRI検査が行われます。
DEE99の患者さんでは、脳梁(右脳と左脳をつなぐ神経の束)が薄い脳梁低形成や、脳全体が少し萎縮している様子、あるいは髄鞘化(神経の伝達速度を上げるための被覆)が遅れている髄鞘化遅延などの所見が見られることがよくあります。Shutterstock
これらの所見は、診断の手がかりになるとともに、発達の見通しを立てる上でも重要な情報となります。
3. 遺伝学的検査
確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。
近年急速に普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた全エクソーム解析(WES)が行われることが一般的です。
これは、遺伝子のうちタンパク質を作る重要な部分を網羅的にすべて解読する検査です。DEE99は非常に稀な病気であるため、症状だけでは診断がつかず、この網羅的な遺伝子検査を行って初めてATP6V0A1遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースがほとんどです。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。
1. てんかんの治療
てんかん発作を減らすために、抗てんかん薬による治療を行います。
バルプロ酸、レベチラセタム、クロバザム、トピラマートなど、発作のタイプに合わせて様々なお薬が試されます。
お薬だけで発作が止まらない場合は、ケトン食療法という特殊な食事療法が検討されることもあります。これは脂肪分を多く、糖質を極端に少なくした食事をとることで、脳のエネルギー源を切り替え、発作を抑制しようとする治療法です。
また、迷走神経刺激療法(VNS)という、首の神経を電気で刺激する装置を埋め込む緩和的な手術が選択肢になることもあります。
2. 発達支援と療育(リハビリテーション)
早期からの療育が、お子さんの成長と生活の安定にとって非常に重要です。
理学療法(PT)
体の柔らかさや、逆に筋肉の突っ張りに対して、関節が硬くならないようなストレッチや、姿勢を保つための練習を行います。座位保持装置(座るための椅子)や車椅子、バギーなど、お子さんの体に合った福祉用具を作る際にも専門的なアドバイスを受けます。
作業療法(OT)
手先の感覚を養ったり、遊びを通じて外界への興味を引き出したりします。また、食事や着替えの介助方法など、日常生活をスムーズにするための工夫を学びます。
言語聴覚療法(ST)
言葉の理解を促すだけでなく、食べる機能(摂食嚥下)の訓練も行います。飲み込みが難しい場合は、食事の形態(とろみの調整など)や介助の姿勢について指導を受け、誤嚥性肺炎を防ぎながら楽しく食事ができるようにサポートします。
3. 栄養と呼吸の管理
飲み込む力が弱く、口から十分に栄養が摂れない場合は、鼻からチューブを入れたり、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる胃ろうを作ったりして、十分な栄養を確保します。胃ろうは、誤嚥のリスクを減らし、お子さんとご家族の食事時間のストレスを軽減するための有効な手段です。
また、呼吸が弱い場合や、痰が出しにくい場合は、吸引器を使ったり、在宅酸素療法を行ったりすることもあります。
4. 目のケア
皮質視覚障害がある場合、見えやすいおもちゃ(コントラストの強い色や光るものなど)を使ったり、視覚以外の感覚(聴覚や触覚)を使った遊びを取り入れたりする「視覚支援」を行います。
まとめ
発達性およびてんかん性脳症99型(DEE99)についての重要なポイントを振り返ります。
- 病気の本質: ATP6V0A1遺伝子の変異により、細胞内の環境調整(酸性化)がうまくいかず、脳の発達と機能に影響が出る先天性の疾患です。
- 主な特徴: 乳児期からの難治性てんかん、重度の発達遅滞、筋緊張低下、小頭症などが特徴です。
- てんかん: 薬が効きにくいことが多いですが、食事療法など様々なアプローチがあります。
- 原因: 多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
- ケアの要点: 発作のコントロールだけでなく、リハビリ、栄養管理、感染症予防など、全身をトータルでケアすることが大切です。
