致死性骨異形成症1型(TD1)

親子

お子様が「致死性骨異形成症(ちしせい・こついけいせいしょう)」、あるいはその中でも「1型(Type I)」という診断を受けたとき、その病名に含まれる「致死性」という言葉に、ご家族は言葉にできないほどの衝撃と深い悲しみを感じられたことでしょう。

「生まれてこられないということ?」「すぐに亡くなってしまうの?」と、絶望的な気持ちになられているかもしれません。

まず最初にお伝えしたいのは、この「致死性(Thanatophoric)」という言葉は、ギリシャ語の「死を運ぶ」という言葉に由来する古い医学用語であり、現代の医療状況を完全に反映したものではないということです。

確かに、非常に重篤な疾患であり、生命に関わる厳しい症状を伴います。しかし、現代の高度な新生児医療と呼吸管理によって、NICU(新生児集中治療室)を卒業し、自宅でご家族と一緒に暮らし、成長しているお子様たちが少なからず存在します。

概要:どのような病気か

致死性骨異形成症(Thanatophoric Dysplasia: TD)は、生まれつき骨の成長に著しい障害が起こる「骨系統疾患(こつけいとうしっかん)」の一つです。

骨系統疾患の中でも、軟骨無形成症などと同じグループ(FGFR3異常症)に属しますが、その中で最も症状が重いタイプとされています。

主な特徴は、手足が非常に短いこと(短肢)、胸が狭いこと(胸郭低形成)、そして頭が大きいことです。

この病気が重篤である最大の理由は、肋骨が極端に短いために胸が広がらず、肺が十分に膨らまないことで「呼吸不全」を起こす点にあります。

1型と2型の違い

致死性骨異形成症には、骨の特徴によって「1型」と「2型」の2つのタイプがあります。今回解説するのは「1型」です。

1型(Type I)

最も多く見られるタイプです。

最大の特徴は、太ももの骨(大腿骨)が曲がっていることです。これを医学的には「受話器変形(電話の受話器のように曲がっている)」と呼びます。

頭の形は比較的保たれているか、おでこが出ている程度であることが多いです(稀にクローバー葉頭蓋が見られることもありますが、軽度です)。

2型(Type II)

太ももの骨はまっすぐです(直状大腿骨)。

最大の特徴は、頭蓋骨の縫合が早期に癒合することで、頭が三つ葉のクローバーのような形になる「クローバー葉頭蓋」が非常に顕著に見られることです。

頻度について

非常に希少な疾患で、約2万〜5万出生に1人の割合で生まれると言われています。性別による差はなく、男の子にも女の子にも見られます。

主な症状

致死性骨異形成症1型の症状は、全身の骨、呼吸器、神経系に現れます。

1. 骨格の特徴(四肢・胸郭)

著しい四肢短縮

腕や足が体の中心に近い部分(上腕や太もも)から非常に短くなっています(近位短縮)。

また、皮膚が余ってしまい、手足に深いしわ(皮膚のひだ)がたくさん見られます。

受話器様変形(じゅわきようへんけい)

1型の特徴です。レントゲンを撮ると、太ももの骨が弓なりに曲がっているのが分かります。

狭い胸郭(釣鐘状胸郭)

肋骨が非常に短いため、胸囲が小さく、お腹がぽっこりと出た「釣鐘(つりがね)」のような形になります。

これが生命予後(寿命)に最も大きく関わる症状です。胸が狭いために肺が成長できず(肺低形成)、生まれた直後から自力での呼吸が困難になります。

2. 頭部と顔貌の特徴

大頭症

体に比べて頭が大きく見えます。

前額部突出

おでこが前に出ています。

鼻根部陥凹(びこんぶかんおう)

鼻の付け根が低く、鼻が低いお顔立ちになります。

大泉門の開大

赤ちゃんの頭のてっぺんにある柔らかい部分(大泉門)が大きく開いています。

3. 神経系の症状

中枢神経(脳や脊髄)にも影響が出ることがあります。

筋緊張低下

全身の筋肉の張りが弱く、体が柔らかい状態です。

大後頭孔狭窄(だいこうとうこうきょうさく)

これは非常に重要な合併症です。

頭蓋骨の底にある、脳と脊髄をつなぐ穴(大後頭孔)が狭くなっています。ここには呼吸をコントロールする「延髄」という大切な神経が通っています。ここが圧迫されると、呼吸が止まったり(中枢性無呼吸)、手足の麻痺が出たりすることがあります。

水頭症

脳の中の水分(髄液)が溜まりすぎて、頭が大きくなることがあります。

発達の遅れ

重度の呼吸障害や脳の合併症により、運動や知能の発達には遅れが見られることが一般的です。しかし、長期生存しているお子様の中には、表情豊かにコミュニケーションを取る子もいます。

赤ちゃん

原因:なぜ起きたのか

ご家族が「なぜ?」と悩み、時にご自身を責めてしまうのが「原因」についてです。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、ご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。

FGFR3遺伝子の変異

致死性骨異形成症1型の原因は、4番染色体にある「FGFR3(エフ・ジー・エフ・アール・スリー)」という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、「線維芽細胞増殖因子受容体3」というタンパク質の設計図です。

FGFR3の役割

通常、この遺伝子は骨の成長に対して「ブレーキ」をかける役割を持っています。骨が際限なく伸びすぎないように調整しているのです。

変異が起きるとどうなるか

致死性骨異形成症では、この遺伝子に変異が起きることで、ブレーキが「常にかかりっぱなし(機能獲得型変異)」の状態になってしまいます。

常に強力なブレーキがかかっているため、軟骨細胞が増えず、骨が伸びなくなってしまうのです。これが手足の短さや、肋骨の短さの原因です。

ほとんどが「突然変異」

この病気は「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとりますが、実際にはご両親から遺伝することはほぼありません。

患者さんのほぼ100%が、「de novo(デ・ノボ)」と呼ばれる突然変異で発症します。

精子や卵子が作られる過程で、偶然FGFR3遺伝子に変化が起きたものです。

ご両親の遺伝子には異常がないため、次のお子様が同じ病気になる確率は、一般の確率とほぼ変わりません(ごく稀に性腺モザイクという現象があるため、ゼロではありませんが、非常に低いです)。

診断と検査

診断は、出生前診断で見つかることもあれば、出生後のレントゲン検査などで確定することもあります。

1. 出生前診断(胎児エコー・MRI)

妊娠中の超音波検査(エコー)で、以下の特徴が見られた場合に疑われます。

手足が極端に短い(妊娠中期以降に顕著になります)。

胸が狭い。

頭が大きい。

羊水過多(羊水が多い)。

確定診断のためには、羊水検査や、近年ではNIPT(母体血を用いた検査)でFGFR3遺伝子を調べることが可能な場合もあります。

2. 出生後の画像検査(レントゲン)

生まれた後、全身のレントゲンを撮ることで診断はほぼ確実になります。

大腿骨の受話器様変形(1型の特徴)。

椎体(背骨のブロック)が非常に薄い(扁平椎)。

肋骨が短い。

骨盤の形が特徴的(四角く見える)。

3. 遺伝学的検査

血液検査でDNAを調べ、FGFR3遺伝子の特定の部分(R248C変異など)に変化があるかを確認します。これにより1型か2型か、あるいは他の骨系統疾患かどうかが確定します。

治療と管理:これからのロードマップ

残念ながら、FGFR3遺伝子の働きを正常に戻して骨を伸ばすような根本的な治療薬は、現時点では実用化されていません(軟骨無形成症に使われる新薬も、致死性骨異形成症への適応はまだ研究段階です)。

治療の目的は、お子様の苦痛を取り除き、生命を維持し、生活の質を高めることになります。

1. 呼吸管理(最優先事項)

生まれた直後から、呼吸のサポートが必須となります。

人工呼吸器

自力での呼吸が難しいため、気管挿管をして人工呼吸器を使います。

気管切開

長期間の呼吸管理が必要になるため、喉に穴を開けてカニューレを入れる「気管切開」を行うことが一般的です。これにより、安定した呼吸管理が可能になり、在宅医療への移行もスムーズになります。

在宅酸素療法・CPAP

状態によっては、マスクによる呼吸補助などが選ばれることもあります。

2. 大後頭孔狭窄への対応

頭と首のつなぎ目の骨が狭く、脳幹(延髄)を圧迫している場合、命に関わるため手術が必要になることがあります。

大後頭孔減圧術(だいこうとうこう・げんあつじゅつ)

後頭部の骨を一部削って広げ、神経への圧迫を取り除く手術です。これにより呼吸状態が改善したり、麻痺が防げたりすることがあります。

3. 水頭症の治療

脳室拡大が進み、脳を圧迫する場合は、「シャント手術」を行います。脳の中の余分な水を、お腹の中などに流すチューブを入れる手術です。

4. 栄養管理

呼吸が不安定だと、口からミルクを飲むのが難しいことがあります。

経管栄養

鼻からチューブを入れてミルクをあげます。

胃ろう

長期的には、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる「胃ろう」を作ることが、お子様の不快感を減らし、安定した栄養摂取につながります。

5. 緩和ケア・意思決定支援

かつては「積極的な治療を行わない」という選択がされることもありましたが、現在はご家族の意向を尊重し、どこまで治療を行うか(手術をするか、呼吸器をつけるかなど)を医療チームと話し合って決めていきます。

お子様にとって何が一番幸せかを、時間をかけて考えていくプロセスが大切です。

予後と長期生存について

「致死性」という名前がついているものの、近年の医療技術の進歩により、予後は変化してきています。

適切な呼吸管理(気管切開や人工呼吸器)を行い、大後頭孔狭窄の手術などを行うことで、乳児期を乗り越え、幼児期、学童期、さらには成人期まで生存する例も報告されるようになっています。

もちろん、常に医療的ケアが必要な重症児であることに変わりはありません。感染症(肺炎など)にかかりやすく、入退院を繰り返すこともあります。

しかし、ご自宅で家族と過ごし、誕生日を祝い、笑顔を見せ、好きな音楽を楽しむ。そんな「生」を全うしているお子様たちが確かにいます。

知的な発達はゆっくりですが、視線や表情、わずかな動きで意思を伝えることができるようになります。

まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  1. 致死性骨異形成症1型(TD1)は、FGFR3遺伝子の変異による重篤な骨系統疾患です。
  2. 主な特徴は、短い手足、湾曲した大腿骨、狭い胸郭による呼吸障害です。
  3. 原因のほとんどは突然変異であり、親からの遺伝ではありません。
  4. 「致死性」という名前ですが、積極的な呼吸管理によって長期生存が可能になってきています。
  5. 治療の中心は、人工呼吸器による呼吸管理と、大後頭孔減圧術などの外科的治療です。

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