染色体21q22欠失症候群について

はじめに

お子様が「染色体21q22欠失(21q22 deletion)」という診断を受け、聞きなれない医学用語の羅列に、驚きや戸惑い、そして深い不安を感じていらっしゃるかもしれません。「なぜうちの子が?」「これからどうなってしまうの?」という問いが頭を離れないことでしょう。

この病気は、染色体疾患の中でも非常に稀なタイプに分類されます。そのため、インターネットで検索しても日本語の情報が少なく、余計に不安が募ってしまうこともあります。

この記事は、診断書にある「21q22 deletion」という文字が何を意味するのか、お子様の体にどのようなことが起きているのか、そしてこれからどのように成長を支えていけばよいのかを、できるだけ分かりやすく解説するために作成されました。

医学的な事実だけでなく、生活上のヒントやご家族へのメッセージも盛り込んでいます。一度にすべてを理解しようとせず、必要な部分から少しずつ読み進めてください。

1. 概要:どのような病気か

染色体の「住所」の一部が失われる病気

私たちの体は、約37兆個の細胞でできています。その一つひとつの細胞の核の中に、遺伝情報の設計図である「染色体」が入っています。人間には通常、46本(23対)の染色体があります。

「21q22欠失」とは、以下のような状態を指します。

  • 21: 21番目の染色体に起きた変化です。(ダウン症候群で知られる染色体ですが、変化の種類が異なります)
  • q: 染色体には「短腕(p)」と「長腕(q)」という部分があります。今回は「長腕(q)」の方に変化があります。
  • 22: 長腕の中の「バンド22」と呼ばれる特定の住所(領域)を示しています。
  • 欠失(Deletion): その部分の遺伝子が抜け落ちて(欠けて)しまっている状態です。

つまり、**「21番染色体の長腕の22という領域にある遺伝子が、生まれつき失われている状態」**です。これを医学的には「21番染色体部分モノソミー」と呼ぶこともあります。

ダウン症候群との違い

21番染色体といえば「ダウン症候群(21トリソミー)」が有名ですが、これは染色体が「1本多い(3本ある)」病気です。 一方、21q22欠失は染色体の一部が「足りない」病気です。同じ21番染色体の問題であっても、メカニズムや現れる症状は異なります。

症状の個人差

この病気の最大の特徴は、「欠失している範囲の大きさによって、症状の重さや種類が一人ひとり全く違う」ということです。 ごく小さな欠失であれば症状が軽いこともありますし、範囲が広い場合は複数の合併症が見られることもあります。そのため、「この病気なら必ずこうなる」という断定的な予測は難しく、お子様自身の成長を見守ることが重要になります。

2. 主な症状

21q22領域には、体の発育や血液の成分に関わる重要な遺伝子が含まれています。そのため、全身に様々な特徴が現れる可能性があります。

※注意: これら全ての症状が必ず現れるわけではありません。

① 身体的な発育の特徴

  • 子宮内発育不全: お母さんのお腹の中にいる時から、体が小さめであることが多いです。
  • 低身長: 生まれた後も、身長や体重の伸びが緩やかになる傾向があります。
  • 小頭症: 頭囲(頭の周りの長さ)が平均より小さめになることがあります。

② 発達の遅れと知的発達症

多くのケースで、発達のペースがゆっくりになります。

  • 運動発達: 首すわり、お座り、歩き始めなどの時期が平均より遅れることがあります。これは、筋肉の張り(緊張)が弱い「筋緊張低下」や、逆に強すぎる「筋緊張亢進」が関係していることがあります。
  • 言葉の遅れ: 言葉が出始めるのが遅かったり、発音が不明瞭だったりすることがあります。
  • 知的発達症(知的障害): 軽度から重度まで幅広いです。理解力はあるけれど言葉にするのが苦手、というタイプのお子様もいます。

③ 特徴的なお顔立ち

ご家族にとっては「パパ似かな?ママ似かな?」と感じる範囲の特徴ですが、医学的にはいくつかの共通点が挙げられます。

  • 目が離れている(眼間開離)。
  • 目が外側に向かって下がっている(眼瞼裂斜下)。※ダウン症(つり目)とは逆の特徴を示すことがあり、以前は「抗モンゴリズム」という古い医学用語で呼ばれることもありましたが、現在は使われません。
  • 耳の位置が低い、耳が大きい。
  • 鼻が大きく目立つ、または鼻筋が高い。
  • 下顎が小さい。

④ 血液・免疫系の異常(重要)

21q22領域には、**RUNX1(ランクスワン)**という、血液を作るために非常に重要な遺伝子が含まれています。この遺伝子が欠失範囲に含まれる場合、以下の症状に注意が必要です。

  • 血小板減少: 血を止める働きをする「血小板」が少なくなり、血が出やすい、青あざができやすいといった症状が出ることがあります。
  • 血液疾患のリスク: まれですが、将来的に白血病などの血液の病気を発症するリスクが一般より高くなる可能性があるため、定期的な血液検査が必要です。

⑤ その他の合併症

  • 心疾患: 生まれつき心臓に穴が開いているなどの構造的な問題がある場合があります。
  • 骨格の異常: 脊椎の変形や、関節の硬さなどが見られることがあります。
  • 幽門狭窄: 胃の出口が狭く、ミルクを吐きやすい症状が出ることがあります。

3. 原因

どうして欠失が起きたのか

最も多い原因は、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精卵が細胞分裂を始めた直後に起こる**「突然変異(de novo:デ・ノボ)」**です。

これは、生命が誕生する複雑なプロセスの中で偶然に生じるコピーミスのようなものです。 非常に大切ことですが、お母様の妊娠中の食事、運動、ストレス、薬の服用、お仕事などが原因で起こったものでは決してありません。 「私のせいで」とご自身を責める必要は全くありません。誰のせいでもない自然現象です。

遺伝の可能性(リング染色体や転座)

  • リング染色体: 21番染色体の両端が欠けて、くるっと輪っか状につながってしまう「環状染色体(リング21)」が原因で、結果として21q22部分が失われているケースがあります。
  • 親御さんの転座: まれに、ご両親のどちらかが「均衡型転座(きんこうがたてんざ)」という、遺伝子の量は正常だけれど配置が入れ替わっている体質を持っている場合があります。その場合、お子様に欠失として伝わることがあります。

次のお子様への遺伝などについて詳しく知りたい場合は、「臨床遺伝専門医」や「認定遺伝カウンセラー」による遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

4. 診断と検査

マイクロアレイ染色体検査(CMA)

現在、確定診断のために最もよく行われている精密検査です。 従来の顕微鏡検査(G分染法)では見逃されてしまうような、微細な欠失を発見することができます。 この検査により、「21番染色体のどの位置からどの位置までが欠失しているか」という詳細な住所(番地)が分かります。これにより、例えば「RUNX1遺伝子が含まれているか」といった重要な情報が得られます。

FISH法(フィッシュ法)

特定の領域が光るように印をつけて調べる検査です。診断の確認のために行われることがあります。

血液検査

診断後も、血小板の数などをチェックするために定期的に行われます。

赤ちゃん

5. 治療と管理

現在の医療では、失われた染色体の一部を復元したり、遺伝子を補充したりする根本的な治療法はまだ確立されていません。 しかし、「何もすることがない」わけではありません。 症状の一つひとつに対して適切な治療やサポート(対症療法・療育)を行うことで、お子様の生活の質(QOL)を大きく向上させ、その子らしい成長を促すことができます。

① 医療的な管理(マネジメント)

まず診断直後に、身体的な合併症がないかを全身くまなくチェックします。

  • 心臓: 超音波検査などで確認し、必要であれば手術や投薬を行います。
  • 血液: 定期的な採血を行い、血小板数などをモニタリングします。もし異常があれば、血液内科医と連携して対応します。
  • 視力・聴力: 発達に大きく影響するため、定期的に検査を行い、必要であれば眼鏡や補聴器を使用します。

② 療育(発達支援)

「療育(りょういく)」とは、医療と教育を組み合わせた支援のことです。早期から開始することが推奨されています。

  • 理学療法(PT): 運動発達のサポート。座る、立つ、歩くための体の使い方を練習します。
  • 作業療法(OT): 手先の器用さを育てたり、感覚の過敏さや鈍感さを調整したりする遊びを取り入れます。
  • 言語聴覚療法(ST): 言葉の発達を促すだけでなく、ジェスチャーや絵カードなどを使ったコミュニケーション手段を見つけます。また、食事(嚥下)の指導も行います。

③ 栄養と成長のサポート

体が小さめであったり、哺乳力が弱かったりする場合、栄養士や医師と相談しながら、高カロリーのミルクを使ったり、離乳食の形態を工夫したりして、体重増加をサポートします。

④ 教育環境の選択

学齢期になったら、お子様の発達段階や特性に合わせて、特別支援学校、特別支援学級、通級指導教室など、最も力が伸ばせる環境を選んでいきます。地域の教育センターなどと早めに相談を始めるとスムーズです。

6. 日常生活で大切にしたいこと

「比較」ではなく「その子のペース」を見る

育児書やインターネットにある「〇ヶ月でこれができる」という目安は、この疾患を持つお子様には当てはまらないことが多いです。 他の子と比べるのではなく、「先月できなかったことが、今月できるようになった」というお子様自身の縦の成長に目を向けてあげてください。

感染症対策

免疫機能が弱い場合があるため、風邪やインフルエンザなどの感染症予防(手洗い、予防接種など)は、主治医と相談しながらしっかり行いましょう。特に「生ワクチン」の接種については、免疫の状態によって調整が必要な場合があります。

家族の時間

通院やリハビリで忙しくなりがちですが、治療のためだけに生きているわけではありません。 抱っこしてスキンシップをとったり、一緒に音楽を聴いたり、お散歩をしたり。「普通の家族の時間」を楽しむことが、お子様の情緒的な発達にとって何よりの栄養になります。

7. まとめ

ここまでの重要ポイントを振り返ります。

  1. 病態: 21番染色体長腕の一部(q22領域)が欠失している稀な疾患です。ダウン症(トリソミー)とは異なります。
  2. 症状: 低身長、発達の遅れ、特徴的な顔立ちなどが一般的ですが、個人差が非常に大きいです。
  3. 注意点: 欠失範囲によっては、血小板減少などの血液疾患のリスクがあるため、定期的な検査が重要です。
  4. 原因: 多くは突然変異であり、ご両親のせいではありません。
  5. 対応: 根本治療はありませんが、療育や対症療法によって、その子らしい豊かな成長を支えることができます。

8. 診断を受けたご家族へのメッセージ

今、診断名という重い荷物を受け取り、暗いトンネルの中にいるようなお気持ちかもしれません。 医師から説明される「リスク」や「できないかもしれないこと」のリストに、心が押しつぶされそうになっているかもしれません。

しかし、診断名はあくまで「医学的な分類」に過ぎません。 お子様のすべてを説明しているわけではありません。

21q22欠失症候群のお子様を持つご家族からは、 「ゆっくりだけど、確実にできることが増えていく喜びがある」 「純粋で、周りの人を笑顔にする不思議な力がある」 といった声も多く聞かれます。

医学的な管理は医師や専門家に任せてください。彼らはあなたのチームメイトです。 ご家族の役割は、目の前にいるお子様を愛し、日々の小さな変化や成長を一緒に喜ぶことです。

この病気は希少疾患(レア・ディジーズ)であるため、同じ病気の人を近所で見つけるのは難しいかもしれません。しかし、今はインターネットを通じて世界中とつながれる時代です。

  • 染色体異常の家族会: 具体的な病名は違っても、「染色体の病気」という共通点を持つ家族のコミュニティ(「染色体起因障害児・者の親の会」など)は日本国内に複数あります。
  • 遺伝カウンセリング: 専門的な不安や次子のことなどは、遺伝診療部でじっくり相談することができます。

焦る必要はありません。 お子様のペースに合わせて、一日一日を大切に積み重ねていってください。 お子様の未来が、笑顔と愛に満ちたものになりますよう、心から応援しています。

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