遺伝子の不思議!メンデルの法則からミトコンドリア遺伝子まで徹底解説【YouTube動画解説】

1. 遺伝の基本構造

遺伝とは?

遺伝とは、親の持つ形質(特徴)が子孫に伝えられる現象のことです。例えば、「髪の色」「目の色」「身長」といった身体的な特徴だけでなく、「特定の病気にかかりやすいかどうか」といった体質的な特徴も遺伝します。

私たちの体は、非常に多くの細胞からできており、それぞれの細胞の核の中には「染色体」と呼ばれるものが存在します。この染色体の中には、親から子へと受け継がれる「遺伝子」が含まれています。遺伝子は、私たちの体を構成したり、機能を制御したりするための「設計図」のような情報を持っています。

「遺伝学の父」と呼ばれるオーストリアの修道士、グレゴール・メンデルは、19世紀半ばにエンドウ豆を使った交配実験を繰り返し行い、遺伝の規則性(法則)を発見しました。これがメンデルの法則として知られる、遺伝学の基礎を築いた画期的な発見です。

メンデルは、エンドウ豆の「種子の形(丸いかシワがあるか)」「種子の色(黄色いか緑色か)」「花のつき方」など、明確な対立形質を持つものに着目して実験を進めました。そして、子孫の形質がどのような割合で現れるかを統計的に分析し、以下の3つの法則を導き出しました。

1. 優性の法則(顕性の法則)

  • 内容: ある形質に対して、2つの異なる遺伝子(対立遺伝子)が存在する場合、片方の遺伝子(優性遺伝子)がもう片方の遺伝子(劣性遺伝子)の形質を覆い隠して、優性形質だけが子孫に現れるという法則です。
  • 具体例(エンドウ豆の種子の形):
    • 丸い種子を作る純粋なエンドウ豆(優性形質)としわのある種子を作る純粋なエンドウ豆(劣性形質)を交配させると、その子(雑種第一代、F1)はすべて丸い種子になります。これは、丸い形質がしわのある形質に対して優性であるためです。
  • ポイント: 「優性」とは「優れている」という意味ではなく、「表現型に現れやすい」という意味です。「劣性」も「劣っている」という意味ではありません。

2. 分離の法則

  • 内容: 親が持っている2つの対立遺伝子(例えば、丸い種子の遺伝子としわのある種子の遺伝子)は、生殖細胞(卵細胞や精細胞)が作られるときに、それぞれが分離して別々の生殖細胞に入るという法則です。そして、子が作られるときに、これらの分離した生殖細胞がランダムに結合します。
  • 具体例(エンドウ豆の種子の形):
    • 優性の法則でできた丸い種子(F1)の個体は、丸い遺伝子としわのある遺伝子を両方持っています。
    • F1同士をさらに交配させると、次の世代(雑種第二代、F2)には、丸い種子としわのある種子が約3:1の割合で現れます。
    • これは、F1の親が作った生殖細胞には、丸い遺伝子を持つものとしわのある遺伝子を持つものがそれぞれ半々ずつ入っており、それらがランダムに結合した結果、丸い形質が3つ、しわのある形質が1つの割合で現れるためです。

3. 独立の法則

  • 内容: 複数の異なる形質(例えば、種子の形と種子の色)を支配する遺伝子がある場合、それらの遺伝子はお互いに影響を与えずに、それぞれが独立して次の世代に伝えられるという法則です。
  • 具体例(エンドウ豆の種子の形と色):
    • 「丸くて黄色い種子を作る純粋なエンドウ豆」と「しわがあって緑色の種子を作る純粋なエンドウ豆」を交配させると、F1はすべて「丸くて黄色い種子」になります(優性の法則)。
    • このF1同士をさらに交配させると、F2では「丸くて黄色」「丸くて緑色」「しわがあって黄色」「しわがあって緑色」の4種類の種子が、約9:3:3:1の割合で現れます。
    • これは、種子の形を支配する遺伝子と種子の色を支配する遺伝子がそれぞれ独立して分離し、組み合わさった結果です。
  • ポイント: この法則は、異なる形質を支配する遺伝子が「別の染色体上にある場合」に成り立ちます。もし同じ染色体上に存在する遺伝子であれば、「連鎖」という現象が起こり、独立の法則通りにはなりません。

 

4. 母親から遺伝するもの

ミトコンドリア遺伝子

ミトコンドリアは「細胞の発電所」とも呼ばれ、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー通貨を生成する重要な役割を担っています。そして、そのミトコンドリアが持つ独自のDNA(ミトコンドリアDNA、mtDNA)は、母親から子へ受け継がれるという特徴があります。

しかし、ミトコンドリアのATP生成能力やその他の特性が、母親と「そのまま同じになるか」というと、それは単純にイエスとは言えません。いくつかの要因が影響するためです。

ミトコンドリアの機能は核DNAとmtDNAの両方に依存する

ミトコンドリアは独自のDNAを持っていますが、ミトコンドリアのすべての機能(ATP生成を含む)がmtDNAだけでコントロールされているわけではありません。

  • mtDNA: ミトコンドリア内の呼吸鎖複合体の一部を構成するタンパク質など、限られた数の遺伝子(ヒトでは37遺伝子)をコードしています。これらの遺伝子はATP生成に直接関わる重要なものです。
  • 核DNA (nDNA): 細胞核内のDNAにも、ミトコンドリアの機能に必要な遺伝子(1500個以上とも言われる)が多数存在します。これらの遺伝子は、ミトコンドリアの構造タンパク質、DNA複製や修復に関わる酵素、呼吸鎖複合体の残りの成分などをコードしています。

つまり、ミトコンドリアのATP生成能力は、母親から受け継いだmtDNAと、両親から受け継いだ核DNAの、両方の遺伝情報が組み合わさって決定されます。もし、核DNA側の遺伝子に変異があれば、mtDNAに問題がなくてもミトコンドリアの機能が低下する可能性があります。