「40代での妊娠は難しい」
「35歳を過ぎるとリスクが跳ね上がる」
晩婚化が進む現代、妊活に取り組む女性やカップルにとって、年齢の壁は避けては通れない大きな課題です。しかし、ニュースなどで「50代での出産」という話題を目にすることもあり、「本当はどうなの?」と希望と不安の間で揺れ動いている方も多いのではないでしょうか。
今回は、NIPT(新型出生前診断)の専門医であり、多くの妊婦さんのデータと向き合ってきたヒロクリニックの岡医師の解説を元に、40代・50代の「超高齢出産」のリアルな実情、そして生物学的な限界を突破するために現代医療がたどり着いた新技術について、感情論ではなく「データ」に基づいて徹底解説します。
まず、「超高齢出産」とは何を指すのでしょうか。医学的に明確な定義はありませんが、一般的には40代から50代での妊娠・出産を指すことが多いようです。
では、実際にどれくらいの人がこの年齢層で出産しているのでしょうか。岡医師が提示した2022年の厚生労働省のデータを見てみましょう。
2022年の全出生数のうち、40歳以上の出産が占める割合は約6.23%です。20人に1人以上は40代での出産であり、現代において決して珍しいことではなくなりつつあります。
しかし、これが「50歳以上」になると、その数は劇的に減少します。
その数、年間でわずか58人。
割合にすると0.01%、つまり妊婦さん1万人に1人という極めて稀なケースです。メディアで取り上げられる「50代での出産」は、統計的に見れば「奇跡に近い数字」であることがわかります。それでも、ゼロではありません。50歳を超えても新たな命を授かる可能性は確かに存在するのです。
年齢と妊娠の関係を語る上で、最も残酷かつ重要なデータが「流産率」と「妊娠率」のクロスオーバー(逆転現象)です。
日本産科婦人科学会のデータによると、女性の年齢が上がるにつれて「妊娠率(青い線)」は右肩下がりに低下し、「流産率(赤い線)」は右肩上がりに上昇していきます。
この2つの線が交差するのが、大体42歳〜43歳頃です。
42歳時点でのデータを見ると、妊娠率は約23%まで低下する一方で、流産率は40%近くまで跳ね上がります。さらに年齢を重ねると、流産率は妊娠率を大きく上回り、「妊娠しにくく、流産しやすい」という厳しい現実が立ちはだかります。
40代後半になると、妊娠率は数パーセント、流産率は50%を超えていきます。これが、生殖医療の現場で「42歳の壁」として意識される生物学的な限界点なのです。
なぜ、これほどまでに年齢が影響するのでしょうか。その原因は、男女の生殖細胞の作られ方の根本的な違いにあります。
女性の卵子は、お母さんが生まれた瞬間に一生分の数が決まっています。新しく作られることはなく、在庫が減っていく一方です。つまり、お母さんが35歳なら卵子も35歳、40歳なら卵子も40歳ということです。
長期間体内で保存された卵子は、どうしても質の低下(老化)を免れません。具体的には、細胞分裂の際の「染色体の分配ミス」が起こりやすくなります。
岡医師が示したデータによる卵子の染色体異常率は衝撃的です。
40歳になると、排卵される卵子のうち8割に何らかの染色体異常が含まれている可能性があります。これが、受精しても着床しなかったり、流産してしまったり、あるいはダウン症候群(21トリソミー)などの染色体疾患を持って生まれたりする最大の原因です。40代での妊娠が難しいと言われる背景には、この「卵子の染色体異常率の急上昇」があるのです。
一方、男性の精子は毎日新しく作られます。「常にフレッシュだから老化しない」と思われがちですが、ここにも大きな落とし穴があります。
精子は細胞分裂を繰り返して作られるため、年齢を重ねるごとにDNAの複製ミス(突然変異)が蓄積されていくのです。
精子のDNA異常率は、25歳で約1〜2%だったものが、40歳でも5〜8%程度の上昇に留まります。卵子ほどの劇的な数値変化はありません。
しかし、男性の加齢(特に40代、50代)は、子供の**「精神疾患のリスク」**に関与していることが近年の研究でわかってきました。
データによると、高齢の父親から生まれた子供は、若い父親の子供に比べて、自閉スペクトラム症や統合失調症などのリスクが2倍〜4倍程度高くなるとされています。卵子の老化が「染色体の数(ダウン症など)」に影響するのに対し、精子の老化は「遺伝子の質(配列)」に影響を与え、メンタルヘルスや発達に関わるリスクを高める傾向があるのです。
「40歳で卵子の8割に異常があるなら、もう諦めるしかないのか?」
そう絶望する必要はありません。現代医療には、この高いリスクを回避し、妊娠の確率を飛躍的に高める技術が存在します。
その代表格が**「PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)」**です。
これは、体外受精や顕微授精によってできた受精卵(胚)を、お母さんの子宮に戻す前に調べる検査です。
受精卵が細胞分裂し、ある程度育った段階(胚盤胞)で、将来胎盤になる部分の細胞を数個採取し、染色体の数をチェックします。
これまでは、顕微鏡で見て「形が綺麗な受精卵」を子宮に戻しても、なかなか着床しなかったり、流産を繰り返したりするケースが多くありました。その原因の多くは、見た目ではわからない染色体の数の異常でした。
PGT-Aを行うことで、「染色体の数が正常な受精卵」を選んで子宮に戻すことが可能になります。
これにより、40代の方であっても、1回の移植あたりの妊娠率は格段に向上し、流産のリスクを大幅に下げることができます。
「流産は女性の心身ともに大きなダメージを与えます。PGT-Aによって、妊娠に至らない、あるいは流産してしまう可能性が高い受精卵を事前に見極めることは、時間の限られた高齢出産において、精神的・身体的・時間的な負担を減らす非常に有効な選択肢です」(岡医師)
かつては何度も移植を繰り返してようやく妊娠に至っていたケースが、PGT-Aによって少ない回数でゴールにたどり着けるようになった――これは生殖医療における革命と言えるでしょう。
PGT-Aで正常胚を選別して戻し、無事に妊娠判定が出た。心拍も確認できた。
「じゃあ、もう安心?」と思われるかもしれませんが、岡医師は**「妊娠後のNIPTも併用すべき」**と提言します。
なぜなら、PGT-Aにも限界があるからです。
PGT-Aは主に「染色体の本数(1本多い、少ない)」といった大きな変化を調べる検査であり、より微細な遺伝子の変化までは見つけられないことがあります。また、検査するのはあくまで「胎盤になる細胞」の一部であり、赤ちゃんになる細胞そのものではないため、稀に結果が一致しないこともあります。
そこで役立つのが、妊娠10週頃から受けられる**NIPT(新型出生前診断)です。
お母さんの血液を採取するだけで、お腹の赤ちゃんの染色体異常を調べることができる検査ですが、ヒロクリニックで行っているような最新のNIPTでは、従来の「13, 18, 21トリソミー」だけでなく、さらに細かい「微小欠失(びしょうけっしつ)」**まで調べることが可能です。
染色体の一部がごくわずかに欠けたり、増えたりする現象です。
これらは染色体の本数は「46本」で変わらないため、PGT-Aの基本的な検査では「正常」と判定されてしまうことがあります。また、生命維持には影響しないことが多いため、流産せずに生まれてきます。
しかし、生まれてから精神発達の遅れや知的障害、先天的な心疾患などの原因になることが知られています(例:22q11.2欠失症候群など)。
これらはPGT-Aでは見逃される可能性があるレベルの細かな変化ですが、最新のNIPT(全染色体検査+微小欠失検査)であれば検知可能です。
「せっかくPGT-Aまでして授かった命だからこそ、より詳しくリスクを知っておきたい」
そう考える40代・50代のカップルにとって、NIPTは生まれる前の「最後の砦」とも言える検査なのです。
高齢出産というと、どうしても女性側の年齢ばかりが注目されがちですが、不妊の原因の約50%は男性側にあります。
特に40歳以上の男性がパートナーの場合、前述した通り精子のDNA損傷リスクや、子供の発達障害リスクが高まっています。
「自分は射精できているから大丈夫」
「若い頃は元気だったから」
そんな思い込みは禁物です。見た目の量や運動率だけでなく、**「精子の遺伝子が傷ついていないか(DNA断片化率)」**まで調べることができる検査も今は存在します。
岡医師は、「40代からの妊活は夫婦の総力戦」だと語ります。
女性だけでなく、男性も泌尿器科などで精液検査を受け、自分自身の「種」の質を客観的に把握すること。それが、不必要な回り道をせずに赤ちゃんを授かるための近道となります。
2022年のデータで50歳以上の出産者が58人いたという事実は、医療技術の進歩と、女性たちの「産みたい」という強い意志が結実した結果と言えるでしょう。
もちろん、高齢出産にはリスクが伴います。流産、染色体異常、母体への負担……。しかし、それらのリスクをただ「怖い」と遠ざけるのではなく、**「どこまでがリスクで、どこからがコントロール可能なのか」**を正しく知ることが重要です。
これらの「武器」を正しく使えば、40代、あるいは50代での出産も、決して無謀な夢ではなくなります。
そして忘れてはならないのが、出産はゴールではないということです。
50歳で出産した場合、子供が成人式を迎える頃には親は70歳になります。そこまで見据えた体力づくりやライフプランが必要になります。
「70歳で成人式。なかなかの高齢ですが、あと少しで3桁(100歳)出産なんて時代が来るかもしれません」と岡医師は笑顔で語ります。
「未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にするために」
正しい情報を知り、パートナーと話し合い、納得のいく選択をすること。それが、新しい命を迎えるための第一歩です。年齢という壁に立ち向かう全てのカップルに、科学の光が届くことを願っています。
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